ビジネスの現場では、トレードオフとなる課題に直面し、頭を抱えることが多々あります。「短期的な売上を取りにいくのか、中長期的なブランド形成を目指すのか?」「顧客基盤を広げるのか、顧客に深く刺さることを目指すのか?」、はたまた「標準化して効率的にオペレーションを回すのか、柔軟に個別対応していく仕組み作りをしていくのか?」・・・。究極的な場面でぶつかるこれらの問いには、どちらにもメリットとリスクがあります。だからこそ、トレードオフに対して「どちらを選ぶか」という問いは常に私たちを悩ませます。
しかし、グロービス経営大学院の「研究プロジェクト」という場を通じて、約半年かけて優れた企業の戦略立案や実行の局面を分析して見えてきたことは、「どちらか」ではなく、「どちらも」取るという姿勢でした。
対立するメリット・リスクを正しく捉え、「どちらも」を目指すときにぶつかる矛盾による一方への偏りや諦めを克服し、両立させてしまう。そのような難易度の高い戦略を、組織の仕組みや現場ミドルリーダーの行動によって乗り越えてしまうのです。「間を取った落とし所を探る」ということではありません。「矛盾を超えた第三の選択肢」にチャレンジする、と言うべき原理が、戦略の文脈に組み込まれているのです。
「二兎追うものは一兎も得ず」「スタック・イン・ザ・ミドル」「戦略とは捨てることを決めること」というような言葉に代表されるように、「どちらも正しく見えることでも一方を捨て、一方だけを残す」、という二者択一の意思決定こそが善である、ということを大前提に考えていた私たちにとって、この発見は新鮮に映りました。二者択一のジレンマに向き合った際は、その二元論の土俵には乗らず、そしてそこで思考停止せず、その対立軸を超越した新たな選択肢を探る、ということが組織において徹底されているのです。
実を言うと、私たちが当初考えていたテーマは、現在のものとは全く違うものでした。しかし、企業とのインタビューを終えて解釈を重ねていくうちに、突如としてこの「矛盾を超えた選択」というキーワードが共通項として浮きあがってきたのです。そういう意味では、私たち自身もこの過程で多くのことを学び、強い好奇心をかきたてられてきました。
今回、私たちが取り組んだインタビューは、およそ10社、インタビュー対象者は50名ほどになります。偏りなく手広いリサーチができたわけではなく、入念な検証作業ができたわけではないことからすると、現時点ではまだ私たちの仮説の域を出るものではありません。しかし、荒削りではあるものの、インタビューを通じていただいたメッセージは、私たちを含めた多くのビジネスパーソンの背中を押すものであると信じています。ここから導き出されたメッセージが、現場の戦略づくりに頭を抱えているミドルリーダーにとってのヒントになることを願って、これからの連載を開始したいと思います。
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