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本記事は、「ヒューマンキャピタル 2016」で開催された、日本CHO協会提供のオープンフォーラム、「多様な人材を活かす真のダイバーシティ実現に向けて」の内容を書き起こしたものです。前半はこちらからご覧ください。(全2回)

管理職の上長がまず課題認識をすることが必要

林: 続いて石塚さん。前段のプレゼンでは、社員の方一人ひとりと丁寧に面談を行ったうえで、どんな問題があって、どんな風にそれを解決して欲しいのかを聞いていくといったお話があった。「そんなの当たり前でしょ?」と感じる方は多いかもしれない。ただ、これも徹底的にやるとなると時間も粘りも必要で、いろいろと難しい問題が出てくると感じる。

しかも、三越伊勢丹様の場合はお仕事をなさっているメンバーもすごく幅広いとのお話だった。時給制の方、月給制の方、フルタイムの社員、時短の社員等々、多様な人材が多様な働き方をなさっている。そのなかで一人ひとりきめ細やかに面談していくといったことは、どうすれば実現できるのだろう。ぜひ現場のお話をお聞かせいただきたい。

石塚由紀氏(以下、敬称略): 抵抗勢力というお話に関して言うと、結果的にそうなってしまう環境があった。たとえば「面談することになっているから、お前、面談しとけよ」と現場のマネジャーにいう上長がいるとする。面談するマネージャーのほうは、そこで「面談時間は1人20分だから~」なんて、細かくタイムマネジメントする必要もある。また、昇格の推薦や評価を行うにしても、「子どもができたのですが、どうすればいいでしょうか」等々、多種多様なケースに対応するスキルも必要になる。で、そうしたスキルがある人もいるけれど、多くの場合、部下を持った当初はそれを持ち合わせていないのが実態だと思う。そんな丸投げの状態で面談したり、困って躊躇していると「なんでやらないんだ」と注意されたりしていたわけだ。

そこは、やはり上長が一緒になって仕事を組み立てる必要がある。仕事に優先順位をつけたり、マネージャーとしてスキルを学ぶ機会をつくったりすることが、現場ではすごく大切になるのだと思う。たとえば今年も、まったくの新任で部下を持つこととなるメンバーが結構いた。それで「面談の仕方を1度勉強しましょう」と、希望者を募って2日間、面談の仕方を私のほうからレクチャーしたり、ロールプレイのようなことをやったりしていた。

あと、年間スケジュールを渡したうえで、「他業務とのバランスを取りながら、きちんと時間をつくってください」といった話もしている。いきなり「今週中にこの評価表を書いて」なんていう話にならないよう、人事のスケジュールもきちんとメールして、自身でタイムマネジメントしてもらうといったことも行っていった。

だから、もし抵抗勢力のようなものがいたとすれば、そういうことをしてこなかった上長だと思う。それで、いざ面接すると「え?そんなに時間がかかるの?」と上長に言われても、部下のマネージャーは困ってしまう。「そうなんです」と答えるしかない。やはりその辺の理解が大事だと思う。実際にはいろいろなことが変わっているんだということを人事部が理解していても、いかんせん、現場の上長に理解されない場合があるのかな、と。

林: 「丁寧に面談しよう」と言うのは簡単だけれども、「じゃあ、それを実行するためにどうすればいいのか」といったhowの部分まで具体的にお示しすることが大事というお話だったと思う。そこでスキルを高めてあげるといったことをセットで行わない限り、恐らくこういう取り組みはワークしない、と。制度を入れるだけではダメ。それを現場で運用する際、どんな工夫が必要かを考えて、それをセットで実行していかないと本当の効果は出ないのだと、お話を伺っていて感じた。

女性が戦力化することで本当に業績は上がるのか

林: では、次の質問に移りたい。特に今の日本ではまだまだ女性の活躍推進がダイバーシティ活動の中心なのでこういう話になるのだけれども、そもそもダイバーシティの取り組みは「女の人が可哀想だから云々」といったことで進められているわけではない。それによって会社の業績を向上させ、より強い企業になることが最終目的になる。

そうした根底の部分に関してぜひ伺ってみたいことが2つある。1点目は、活躍して欲しいと思われている女性の側は、これまでの取り組みによって本当に戦力化したのかどうかという点。今もいらっしゃるかもしれないが、かつてこういう話をよく聞いた。「女性の活躍推進と言うけれども、女性の側が、がっつり働きたいと思っていないんだよね」と。あるいは、女性にリーダーや管理職をやって欲しいと言っても、断られてしまったりするケースもあった。そうした女性の意識に変化はあっただろうか。「私はそこそこでいいです」といったスタンスで仕事に臨まれる女性が結構多かったことも根深い問題だというお話を聞いたことがある。そこで、「今回ご紹介いただいた取り組みによって、女性は戦力化しましたか?」ということをあえて伺ってみたい。

それともう1つ。今回のようなダイバーシティ推進の取り組みで、本当に業績が上向いて企業が強くなったとお考えだろうか。穿った見方だけれども、たとえば「政府の旗振りでいろいろなことを言われて、かえって手間や面倒が増えてしまった」という話だってあるかもしれない。また、それで本当に会社が良くなったか分からないと感じている方もゼロではないかもしれない。なので、現在の取り組みによって本当に企業が強くなったのかどうかも、御三方にはあえて伺ってみたい。

浜口: まず女性が戦力化したかどうかに関してお話をすると、弊社としては女性にさまざまなチャレンジの機会を与えたり、研修の機会を設けたりしてきた。そのなかで、会社としての期待や本気度を懸命に伝えてきたつもりだ。その過程で、社内における女性の発信力がすごく高まったと感じている。たとえば社内で若手の提案活動というものを行っているが、そこで育児をする女性たちがチームをつくって企画・提案してくれた内容がある。これは保険に育児相談のホットラインサービスを付帯するというものだ。今までは男性中心で商品やサービスを考えていたけれども、今回はそうした形で女性のチームから上がってきたサービスが「いいね」という話になり、実現する運びとなった。その翌年に学資保険が販売されたときにそのサービスが付帯されていたが、それが他社との差別化につながり、初年度の販売に大きく貢献している。

それともう1つ。これまで男性管理職が多かった営業部でも、最近は女性管理職がだいぶ増えてきた。そこで各営業部の目標達成率を少し分析してみたところ、女性が管理職を務める営業部の目標達成率は、男性が管理職を務める営業部のそれを上回っていることが分かった。女性管理職自身が経験したことをベースにしてきめ細かくマネジメントしていることが、好結果につながったんだろうと考えている。会社全体への影響というとまだ微々たるものだけれども、将来に向けたプラス材料は見えてきたと感じている。

松岡: 我々としては、女性に活躍し続けてもらうこと自体が戦力化だと考えている。その意味では、たとえば今は育休終了後に時短で戻ってきてくれる社員も毎年100人ずつ以上増えているので、それ自体が戦力アップしていることだと思っている。特に、弊社はもともと女性が店頭を中心に活躍することによって成り立ってきた会社だ。そこで力のある人が辞めずに残ってくれることは大きな成果だと思う。

また、営業部門についても、メンタリング集合研修を含めて取り組んでいる。それによって、前段プレゼンでご紹介した社員に対する意識調査の結果にも変化が出てきている。たとえば「何年先まで働き続けたいですか?」という質問に対して、以前は中堅となる30~35歳前後の営業職のうち、半分弱の社員が「分からない」と回答していたが、今はその半数ほどに減っている。自分がいつまでに何をしたいかが少しずつ見えてきたのだと思う。もちろん、そうした環境下で皆が活躍できるフィールドを示していくことが我々の課題としては残る。たとえば観光振興によって地域を活性化させる、地域に人を運ぶお手伝いをするための仕掛けを地域と一緒に作っていくというような仕事も増えてきている。この役割を地域に根付いた女性社員がどんどん担って活躍していくことは、今後期待できるかなと思う。

石塚: 女性の戦力化について言うと、まず、私どももジェイティービーさんと同様に女性比率が高い会社だ。そこで、今はたとえば出産や旦那さんの転居で退職したりせずに済む女性を人事部のほうで増やしていただいている。そうした部分が有能な人材に長く働いてもらうことにも寄与していると思う。あと、管理職に関して言うと、これは私が女性だからあえて申しあげるけれども、「では、男性は戦力化されていますか?」と。結局、大事なのは、男女関係なく優秀な人材にきちんと仕事をしていただくということだと考えている。

たとえば以前、弊社部長職の女性たちに、「これから部長を目指す女性たちに何かメッセージをください」とお願いしたことがある。すると皆さん、「働いてきた先に次のチャンスがあるのは当たり前だし、チャンスがあるならチャレンジして働いていくのが当たり前」と、ごく普通の感覚で昇格にチャレンジして現在の活躍に至っていることが分かった。なので、そこに男女の違いがあるのかというと、そういう話でもないのかなと思っている。

出産や結婚についても同じだ。先日も、「結婚して子どもが欲しいから」ということで昇格試験を受けるかどうか迷っている部下の女性がいたけれど、そこで私は「それは合格してから考えればいいのでは?」と言った。試験を受ける前から、しかも妊娠していないのに出産の心配をしても仕方がないので。それで、彼女も結局は試験にチャレンジすることとなった。つまりチャレンジするかどうかは個人の問題であって、いろいろな制約については、そうしたチャレンジの過程のなかでどう乗り越えていくかを考えていけばいいのだと思う。

それと、ダイバーシティが会社におよぼす影響というと、事業環境が大きく変わっていくなか、今後は生活者に近い感覚を持った人が事業に貢献していくようになるのかなという思いがある。そのためにも、企業における人材の多様性が大切になる。とにかく、昨今は従来のやり方で事業に臨む企業が勝ち切れなくなってきた。そこで勝ち続けるためには、今までと異なる知恵や考え方が必要になるのだと強く感じる。私自身、新しい知恵がなかなか出てこないときは、やはり数多くの、しかも自分と違った生活感を持つ方々の知恵が不可欠になる。そのうえで新しい商品やサービスをマーケットに出していくことが、会社の成長につながるのだと確信している。人材の多様性は、そのための基盤として重要になるのではないか。

林: 女性が戦力化していることは間違いないというか、女性が云々というより、そもそも能力があって、本来ならもっと活躍して良かった方々が、ようやく先頭で活躍できる状態になってきたというお話なのかなと感じた。また、松岡さんもおっしゃる通り、優秀な人が辞めず、組織に留まり続けてくれることも重要だと思う。さて、時間も迫ってきたので、最後に先進的な企業の皆さまが「次」に考えるダイバーシティの姿というものを一言ずつお伺いして、パネルを締めたいと思う。

浜口: これまではダイバーシティというと女性の活躍推進という視点が中心だったけれども、今後は全従業員の活躍という部分にしっかり目を向けなければいけない。そこで課題になるのが、やはり長時間労働だ。そこで管理職の意識を変えて、皆で働き方改革を進めないといけない。また、そこで恐らくは介護の問題も出てくるだろう。そこで、どのように介護問題と向き合い、会社として支援していくか。大きくはその2点が、属性を問わず全従業員という視点で考えたとき、課題になってくると思う。今後はそういった部分でも取り組みを進めていきたい。

松岡: 同じようなお話になるが、やはり最終的なゴールは多様性の実現であって、その多様性を事業に活かすこと。そのために、「まずは」ということで今までは女性の活躍推進を進めてきたけれども、やはり誰もがいきいき働けるような職場・会社とするためにワークスタイルを変えていく必要がある。その辺を抜本的に変えていくような方向性でやっていきたい。

石塚: 働き方を変えなければいけないと思うけれども、営業的な目線で申しあげると、そのためには仕事のプロセスを変える必要があるとも思っている。となると、今、仕事のなかで最も大きく変えることができるのはコミュニケーション方法の部分ではないか。メンバーや部下とのコミュニケーション方法や、私どもで言えばお客さまとのコミュニケーション方法。その辺を変えていくことで、時間的にも自由度が増えたり、効率的に働けるようになるのではないかと考えている。そうした仕事のプロセスを変えることでしか、真の働き方改革は実現できないのではないかと思う。

林: 働き方、さらには仕事のプロセス改革といったところが次の大きな問題意識になるとのお話だった。今後、我々が働く環境はますます激しく変化していく。そうした激変のなかでも強い企業であり続けるためには、やはり優秀な人材を獲得し、その人たちに長く活躍し続けてもらうことが不可欠だ。そのためには優秀な人が選んでくれるような職場になる必要があるわけで、今日はそのために必要なことを御三方に学ばせていただいたと感じる。最後に御三方へ大きな拍手をお願い致します(会場拍手)。

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