決算書は、会社が継続する前提で作成されています。いきなり難しそうな話に聞こえるかもしれませんが、例えば、減価償却は固定資産の取得価額を使用に応じて各年度に配分する手続きとも言えます。その結果、固定資産の帳簿金額は必ずしもその時点の固定資産の「価値」を表してはいません。会計ルールはこのような「継続企業の前提」で設定されています。
しかし、会社が継続しないことを前提にすると、固定資産を売却したらいくらになるか、資産や負債の現在の「価値」(時価)を表すことが会計の目的になります。したがって、会社が近い将来に倒産するリスクが高いと考えられる場合には、「継続企業の前提」に基づいて決算書を作成して良いかどうかが問題になり、倒産のリスクが高いと認められる会社の決算書が、継続企業を前提として作成されている場合には、事業継続が不確実である影響を決算書に反映していないという情報を注記し、読者に注意喚起する必要性が生じます。これを「継続企業の前提に関する注記」、通称、「GC(ゴーイングコンサーン)注記」と言います。
「GC注記」が必要となる場合は、具体的には次のようなケースです。売上高の著しい減少、営業利益又は営業キャッシュ・フローの継続的な赤字、債務超過、借入金の返済条項の不履行(履行困難含)、新たな資金調達の困難性、債務免除の要請、重要な市場又は得意先の喪失、事業活動に不可欠な人材の流出、ブランド・イメージの著しい悪化等々。
これらはあくまで例示ですが、いずれも会社の事業継続を疑わせるような事象であることが理解できると思います。もっとも、これらの事業の発生が即「GC注記」とはならず、そのような事象の継続期間や会社の対応施策の進捗状況等を含めて「GC注記」の必要性が判断されます。
さて、2016年3月決算の上場会社(2447社)で「GC注記」が付された会社は24社(前期は27社)となり、リーマンショック後最低の水準となりました(リーマンショック直後は145社)。マイナス金利の影響もあり、資金調達の環境が好転したことが一因なのでしょう。資金繰りに目途が立てば直ぐに倒産にはならないため、一時的な資金繰りの改善により「GC注記」が不要と判断したのかもしれません。しかし、GC注記の根本的な原因は本業の不振であることが多く、「GC注記」が外れたといってもあくまで“危険”な状況を脱しただけで、本業の回復を待たずして会社の事業継続に問題が無いという意味にはならないため注意が必要です。