ベネッセHDを始め、「繰延税金資産の取崩しによる税金費用負担の増加」という会社の決算発表を最近目にします。金額も多額になることが多く、赤字決算など会社の業績に与えるインパクトの大きさからも繰延税金資産の概要は理解しておきたいところです。
繰延税金資産を正確に理解するには「税効果会計」を理解する必要がありますが、当コラムでは、繰延税金資産のイメージを掴むこと、そして繰延税金資産の取崩しが必要になるのはどういう場合か及び経営上留意すべき点は何かに焦点を絞って説明したいと思います。
飲食店のサービス券を例にとります。1,000円持っている人が、飲食店で700円の食事をして700円を支払います。同時に、次回来店時に使える500円のサービス券をもらいます。この時、手元には300円の現金と500円分のサービス券が残ります。会計ルールでは手元に残った財産は800円(現金300円+サービス券500円)と考えます。簡単に言うと、正味の財産(純資産)800の内、500円が繰延税金資産ということです。また、費用面では、700円を支払ったものの500円はサービス券でキャッシュバックされたのだから、今回使ったおカネは実質的に200円(700円-500円)、つまり(税金)費用は200と考えます。このように考えると、手持ちの1,000円から200円を使って残りが800円となり辻褄が合います。
さて、このサービス券には使用期限があるとします。使用期限は2か月後、2か月を経過すると紙くずとなって500円分の飲食の価値は無くなります。使用期限を経過すると、800円の財産は300円(800円-500円)となります。期限切れとなったサービス券は費用となります。当初のキャッシュバック分が結局無かったことになるようなもので、繰延税金資産の取り崩しがこんなイメージです。繰延税金資産は、ある一定の条件下においては資産ですが、条件を満たさなくなると資産としての価値が消滅し、費用となります。
会社にとっては、赤字が継続して将来の利益(黒字)が見込まれなくなる状況が、繰延税金資産の条件を満たさなくなる状況に当たります。
繰延税金資産の取り崩しは赤字になったからといって即時に要求される訳ではありません。赤字が2年3年と継続し、来年以降も業績が回復するのが難しいと判断される場合に必要になります。つまり、サービス券の2か月の使用期限と同様、一定期間の猶予があるのです。
したがって、経営者は会計上繰延税金資産の取崩しが問題になるような状況が発生しているという事実を把握して、猶予期間に適切な対策を検討して実施する必要があります。