インダストリー4.0では、競争しない領域を決める勇気も必要 

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インダストリー4.0 ~第4次産業革命が日本の”ものづくり”を根底から変える~[2]

秋山: ドイツのほうに話を一度戻してみたい。ドイツでは今後20年のロードマップが描かれ、そこに…、適切な日本語訳が見当たらないが、とにかく産学官より大きなフィールドでプラットフォームを生み出そうとしている。日本とドイツで何が違って、日本ではどんなことできるのかということも考えてみたい。

遠藤: ご承知の通りドイツは連邦なので、ドイツ全体の大きな方針と地域ごとの活動が両立している。国が今推進しているのはインダストリー4.0だけれども、それ以外の部分では州ごとに各企業や政府が自分たちの産業政策をつくっている。自動車が得意な地域もあれば電機が得意な地域もあって、すべて違っているので。従って、国としての大きな方向性に加え、各地域をどのようにして強くして産業を育成していくかという話と、セットであるべきなのだと思う。

日本ではそこがなかなか見えてこない。各自でいろいろなことをしているけれども、「じゃあ、この地域は今後どんな産業を伸ばすの?」と。そこでインダストリー4.0のような新しいプラットフォームをどう使うのかも大切だし、個別と全体でバランスを取りながらデザインする必要がある。経産省が大きな絵柄を描く一方、個別では各地域や企業がオープンイノベーションを起こすという両方の絵柄が必要ではないか。


非競争領域を決められるかどうかが肝
 

島田: 私は生産性の問題がすごく気になっている。個々に関しては、どう考えても日本のほうが早い。電車も正確で、何か言ってもすぐやってくれて、メールにもすぐに返信してくれる。ドイツだとなかなか返信も来ないし、なんだかんだで日本より遅い。ところが最終的なアウトプットはそれほど変わらない。しかも、ドイツ人は5時になれば家に帰って家族と楽しく過ごす。人生を謳歌しながらそれをしているわけだ。

一番の違いは、ドイツ企業は自分たちの価値がどこにあるかを考えている点だ。そのうえで、価値のないところは人に預けることができる。はっきり言って、すべて自前はもう無理。でも、日本の経営者の方とお話をさせていただくなかで「御社にしかできないことってなんでしょうかね」と問い掛けると、いつも「いやあ、島田さん、その通りだよね」と(笑)。その先がなかなか聞けない感じになる。一方、ドイツの企業はそこで「当社はもうこれをしません」といったことを明確に言う。

シーメンスも過去10年間で6割の事業ポートフォリオを入れ替えた。そして私のような買収した会社の人間も取り込み、「これからはデジタルだからお前がやれ」と。以前は自動車でナビゲーションシステム等のサプライヤーをしていたこともあるが、今はそれをコンチネンタルに売却した。「SMT(Surface Mount Technology)技術もあるし、続ければいいじゃないか」思うが、「インフラ企業としてやっていくこと考えるとその仕事はコアじゃない」と。また、10%以上の利益率が出ていないものもやらない。逆に言えば10%以上にするならサプライヤーに徹するほどの規模でないとダメ。それで当時は7~8%の利益率でも売却した。そうした差が非常に大きいと感じる。

遠藤: 日本のある電子機器メーカーに行って驚いたことがある。そこは血液分析装置をつくっている会社だ。日本で血液分析装置というと相当に付加価値が高いものだと思われているが、銘板はシーメンスだった。シーメンスが装置をつくっているのではない。製造は日本企業に委託し、彼らはトータルなメディカルシステムを売っている。「装置は装置で得意なところにつくらせて、そこから買えばいい」と。そういう割り切りなんだ。彼らはシステムとトータルソリューションで売っていく。でも、日本企業は相変わらず個々のコンポーネントやパッケージにこだわってしまう。もうそれだけじゃやっていけない時代になってきたのだけれども。

実際、日本企業にシステムの発想ができるかというと、すごく不得意。どうしても個々のコンポーネントから発想してしまう。ただ、それ自体が悪いというわけではないから、そこも強みとして生かしつつ、一方ではシステム化も進めるべきなのだと思う。そうしたソリューション化の流れのなか、日本はどういったビジネスモデルをつくり、何によってメシを食っていくのかを考えることが今は求められていると思う。

菅原: スピード感の問題だと思う。自前主義のスピード感とそうでないときのスピード感。経産省では企業の研究所を訪問する機会も多く、そこでコンフィデンシャルな研究もずいぶん目にする。それで分かるのだけれども、たとえばパワー半導体ならパワー半導体で、電機機器メーカーや素材メーカーが同じ研究をしている。完成までに10年かかるような難しい研究を、恐らく20社ほど、それぞれに断絶しながら研究しているわけだ。でも、たとえばどこかの大学をコアにしてその研究を共同で行えば10年が5年になったり、同じ10年でも性能を何十倍にすることができたりする。

でも、エネルギーなら10年間待ってくれるかもしれないが、IoTに根差したようなビジネスモデルの変革はそこまで待ってくれない。「それなら何を差し出すのか」と。けれども、「パワー半導体は協調でいい。ただし、そのなかでもこの部分だけはブラックボックスにしたい」という風に、競争領域と非競争領域を分けるのが日本企業は苦手だ。なぜか。特にメーカーの方はお分かりだと思うが、「会社の目標は市場シェアが云々」と言いつつ、ほとんどの場合、「競合他社に負けない」という隠れた目標がある。それだと世の中が大きく変化する環境ではなかなか戦っていけない。非競争領域を認識してそこを開放する勇気を持つことに、恐らくこの問題は帰着すると思う。

私はそれでいろいろな方とこの問題を議論してきたけれども、ここはやはりトップが決めることだ。「自分たちはここで生きていく。そして、こっちはオープンにして誰かに委ねる」という判断は経営層にしかできない。大事なのはインダストリー4.0のような流れを明確に認識して、判断する勇気をトップが持てるか否か。その勇気を持てないのなら、国がある程度はサジェスチョンをすることになるのかなと考えている。

島田: 今のお話に感銘を受けた。パワー半導体は、今は日本が絶対的優位な立場にある。技術的に大変優れていてドイツからも注目されている。ただ、今のままではまずいことになると思う。これ、ロボットでも同じことが言える。私としては今のお話にあったようなコンソリデーションを儲かっているときにやらなければダメだと思う。儲からなくなって追い込まれてから判断しても悲惨な状況になる。

秋山: パワー半導体メーカーは私どものお客様でもあるけれども、やはりそこでも日本企業とドイツ企業の違いというか、日本企業の分かりやすいメンタリティをひとつ感じる。以前、私どもで新型のエックス線の検査装置を開発した際、いち早く買ってくださったのはインフィニオンさんだった。「自分たちが考えるソリューションはこれでしか実現しない」というのがその理由だ。で、日本のお客様はどうかというと、「インフィニオンさんが購入したから」ということで買ってくださる(笑)。今のお話はこの辺にも如実に出ていると感じる。


インダストリー4.0をどう乗り越えていけばよいのか?

さて、ここまでのお話で課題は明確に見えてきて、そのソリューションというか、どういったアクションでそれを乗り越えるべきかについての示唆もあった。ただ、今はそれを実行へ移す段階であると皆が頭で分かっていながら、現実にはそれができていない状況だと思う。遠藤さんはそこでどんな処方箋があるとお考えだろう。

遠藤: インダストリー4.0に限った話ではないが、考えたり分析したり検討したりしてからはじめるのはもう時代遅れだ。「とにかくやってみよう」と。可能性があるなら実験でもいいし、なんでもいいからまずやってみる。アクション第一だと思う。日本の大企業はそこが相変わらずで、「まず社内に持ち帰ります」となる。で、情報を収集して、いろいろ検討して社内で根回しをして、それから持ってくる。そうした従来の経営プロセスやモデルはもう時代に合わない。GoogleやUberはやってから考えるわけだ。「分かんないんだから、まずやってみよう。それで良かったら続ければいい」と。

インダストリー4.0ではそんな行動が求められるし、日本企業もそうした方向に変わらないといけない。そのためには経営者と本社が変わること。日本には強い現場があるのにそれを生かせないのは、経営層と本社が旧態依然とした経営のやり方を守っているから。そこをぶっ壊さないとインダストリー4.0も生かせない。自律分散型の組織に変えて、本社が中央集権的に物事を決めるのではなく各個でスピード感を持ってやらせてみる。本社にいちいち判断を仰がせず、「どんどんやんなさい」と。Googleでさえアルファベットをつくって分社化した。経営者がそれを率先してやらないと本社は壊れない。そこから手をつけるのが現実的だと思う。

秋山: 現実的な方法論として大変ドラスティックな示唆をいただいた(笑)。逆に言えば今はテクノロジードリブンで変化が起きていて、そうした現実に直面しているのだと思う。「そこで本社が変わらなければいけない」と。これは他セッションでも議論になったガバナンスの問題にもつながる大きなテーマだ。菅原さんも今のご認識に恐らくご異論はないかなと思うが、そこで民間はどうすべきだとお考えだろうか。

菅原: 経営者の問題に関しては、分かっている経営者の方はいらっしゃるものの、分かってらっしゃらない方もいる。で、経営者の方々とお話をしていると、本来なら分かっているべき人がまったく分かっていないケースが多いと感じる。消費者に近いところでビジネスをしていて、本来ならすごく敏感に「明日会社が倒れるかもしれない」といった危機感を持ってしかるべき方々に、そうした意識がまったくない。

たとえば、アパレルメーカーに糸や布を納めている日本の優秀な素材メーカー。今までは最終メーカーに言われた通りの製品をつくっていて、それでなかなか伸びてこなかった。でも、ひとたびIoTの世界になって、消費者が何を求めているかをアパレルメーカー経由でなく自分たちで予測できたらどうだろう。また、日本のアパレルでなく海外メーカーに直接糸や布を出したらどうかといった発想をすればビジネスだって広がる。でも、そうした企業の方々とお話をしても、「経産省は何をやっているんだ。ものづくりの良さを忘れたのか」なんて話ばかりになって、いつも私は怒られる。

最も敏感であるべき素材系の企業がそんな風に一番遅れている。それだと今後、下手をするとプラットフォーマーに大変低い単価で納入するだけの、ある意味では下請け会社になることを運命づけられる可能性がある。そこで危機感を持ってもらうためにもIoT推進コンソーシアムをつくった。そのなかで、霞ヶ関で続いてきた経産省と旧郵政省の自前主義をなんとか融合させるべく、今は傘をかけている状態だ。そこへ経営者の方々にも入ってきていただいて、「世の中が本当に変わり得るんだ」と実感してもらうことがひとつの目的になる。

あと、国はビジネスにあまり口を出せないけれども、社会的課題については口を出せる。たとえば、「介護現場でこの技術が使えませんか?」「環境問題を解決するためにどうしますか?」といった話はできる。また、テーラーメード医療のための医療情報活用、自動走行、あるいは建設業におけるドローン活用について規制改革やルールづくりを行って、「あとは自由にやってください」と。国が率先して標準化に近いルールづくりをすることも考えている。この場合、「いつまでにこういうルールをつくります」と宣言したのち、あとは自由だ。電波についても、「この周波数帯をこういう風に解放すると決めました。あとはドローンや自動走行で使うなり、自由に活用してください」ということを徹底的にやれば変わり得ると思う。

最後にひとつ。毎月5日、そうした問題意識を企業経営者の方々のなかでも活性化してもらうための仕掛けとして、総理も出席する官民対話というものを先月からはじめた。明後日11月5日はそのIoTセッションだ。そこで今申しあげたようなルールづくりのプログラムというか、いつまでに何をするかを総理に決断していただくべく調整していきたい。国が本気でこの問題に取り組んで、少しずつ、企業の方々が可能な限り活用できるようなスケジュールのルールづくりおよび標準化を明示したい。

秋山: 経産省もトップが変われば新しい風が含んだなあと、感銘を受けながら今のお話を伺っていた。さて、本セッションはものづくりを出発点にしており、フロアには製造業の方が数多くいらしている。また、そもそもG1経営者会議には大企業の役員または代表以上の方々がお集まりだ。つまり、皆さまは何か自社でアクションを取ることのできる権限をお持ちの方々でもある。だからこそ、ここで何かインスパイアされて、「こういうことをやってみよう」と考える方が10人でも1~2人でも出たら、本セッションは大変有意義なものになると思う。

→インダストリー4.0 ~第4次産業革命が日本の"ものづくり"を根底から変える~[3]は12/12公開予定

※2015年11月3日開催

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