今日のトップ企業で必要とされるリーダーシップ像が変わりつつある――。 New York Times紙「C.E.O. Evolution Phase 3(CEOの進化 第3期)」は論ずる。企業成長には従来とは異なるリーダーが必要とされる、とのことであるが、実際に、イエール大学などのビジネススクールでは、カリキュラムを見直し、新世代リーダー育成への取り組みを既に始めている。
企業帝国創設者の盛衰
New York Times紙によれば、米国において、企業リーダーシップ像が進化を遂げている。近代経営では「管理者」モデルが一般的であり、CEOは、事業を手塩にかけ大事に育成していた。比較的安定した時代が終焉を迎え、1970年代の激動の時代に突入すると、「管理者」モデルは、もはや通用しなくなり、1980年代・1990年代に入ると、ジャック・ウェルチのように、幾度にわたるM&Aにより企業規模を拡大する「企業帝国創設者」CEOの時代が到来する。しかし、米国のネットバブルが崩壊し、エンロン社・ワールドコム社の不祥事が明るみに出たことで、「企業帝国創設者」タイプの経営者は、しばしば辞職に追いやられるところとなった。
そして今、新たなリーダーシップ像が台頭しつつある。「新世代CEOには、型どおりの大企業経営の能力はもとより、従業員に協働を実感させる能力も必要である」と、南カリフォルニア大学のウォレン・ベニス経営学教授は語っている。この能力を有していれば、抵抗に遭うことなくスムーズに生産の変革をもたらすことができる。いわば、「企業帝国創設者」タイプの「私のやり方が気に入らないならば出て行け」というアプローチの対極に位置するCEO像といえよう。
様々な視点から見る能力
今や、消費者、資本、労働力は益々もって変動的になっており、協働する熱意を持って困難に立ち向かえる、息の長いチームを結成するスキルが重要視されつつある。このようなチームを築き上げるには、リーダーは、様々な視点から課題を提起・解決する能力を兼ね備えている必要がある。
一部のビジネススクールは、いち早く、新世代リーダー創出への第一歩を踏み出している。イエール大学では、新世代リーダー育成に向け、カリキュラムを改編し、より「協調」に重きを置いた講義を行うことで、チーム結成を促進する環境作りを実践している。2006年の Wall Street Journal紙によれば、イエール大学以外でも同様の取り組みが始まっているという。
イエール大学の新カリキュラムでは、学生は、消費者、投資家、社会、従業員といった様々な立場に身をおいて課題を解決する手法を学ぶ。マーケティング、ファイナンス、会計といった従来科目を個別に学ぶことはない。多角的に課題と向き合うことで、経営課題に対しても、特定の視点に固執せず、複数の視点から柔軟性を持って解決を試みる姿勢が生まれる。従来科目の教授にもこれまでとは違った期待が寄せられており、一視点から課題に取り組む一方で、各々のトピックスが独立的ではなく相互関連性があることを示すために、共同で授業を実施することが推奨されている。
協調が成功の鍵
「協調」の時代が成熟期を迎える頃には、「複数の視点から考察を加え、より包括的な課題解決に向け、マーケティングやファイナンスなどの知識を必要に応じて活用できること」が成功者の必須要件となるだろう。従業員教育においても、専門分野の知識のみではなく、幅広く様々な分野の知識を習得できるようにすれば、さらに協調的に業務を遂行し、複数の観点から分析する能力が備わり、ひいては顧客・株主に更に大きな価値をもたらすに違いない。
イエール大学などが着手したビジネススクールのカリキュラム改編によって、複数の観点で考察し、チームワークを円滑に促進する新世代リーダーが誕生し、企業内に協働と柔軟性の風土が醸成されることを願ってやまない。(英文対訳:岩田あさみ)