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プロマネで悩める人のために ――『スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術』

投稿日:2015/09/12更新日:2020/01/25

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本書で提示されている「スクラム」というプロジェクト・マネジメント手法は、元々本書の著者であるジェフ・サザーランド氏がソフトウェア開発のために開発した手法である。その後、ソフトウェア開発に限らず、さまざまなプロジェクトで有効なことが確認され、近年流行りのリーン・スタートアップの手法にもこの考え方が取り入れられている。さらに読み解くと、あらゆる職場の生産性を上げる上で有効な考え方が散りばめられていることがわかる。

そのポイントは多岐にわたり、簡単にまとめるのは容易ではないが、私なりにいくつか重要なものを挙げると以下のようになる。

1) プロジェクトはウォーターフォール型(ガントチャート型)で進めてはならない
多くのプロジェクトはウォーターフォール型で最初からギチギチに計画されてしまうことが多いが、それが予定通りに進むことはない。環境がどんどん変わってしまうからだ。計画は最初から四角四面に固めてしまわず、まずはやってみながら、どこまでできるかを考える方が効果的である

2) 個人のパフォーマンスではなく、チームのパフォーマンスに意識を向ける
チームで領域横断的に動く。タコつぼ型はダメ。チームは最大で9人まで。それ以上は非効率になる。主体的に考え、何か問題があったらどんどん皆で前倒しにつぶし、仕事を進める。後工程に問題を積み残さない

3) プロダクトバックログを作り、優先順位をつけ、無駄を避ける
プロダクトバックログという必用な作業をリスト化する。相対的サイズを見極め、優先順位づけを行い、重要なことからつぶす。無駄を避けるためマルチタスクは避ける。働き過ぎは効率を落とすので、長時間労働はしない

4) 「スプリント」という時間の枠を設定する
スプリントを設定した上で、日々のミーティングはアメフトのハドル(フィールド上での作戦会議)のように行い、「チームがスプリントを終了するために、昨日何をしたか」「チームがスプリントを終了するために、今日何をするか」「チームの妨げになっていることは何か」を共有し、速やかにアクションをとる。単なる進捗報告にしてはならない。チーム内のコミュニケーションは重要だが、ミーティングは1日1回15分で十分。スプリントごとにチームのスピード(Velocity)をチェックし、上がっていることを確認する

5) ストーリーを用いる
目的を明らかにし、「流れ」が分かるようなストーリーを準備し、人々のイメージに訴求する

6) 人々は幸福でなくてはならない
幸福でないと生産性は落ちる。幸福感を適宜測定する。あらゆることを可視化して秘密を減らすとともに、従業員の幸福を尊ぶ組織文化を作る

7) スクラムマスターとプロダクトオーナーを置く
1人がすべてを見るのは難しい。2人で役割分担しながらチームの効率を上げていくよう支援を行う

8) PDCAとOODAを回す
最も速い変化についていくために、PDCAはもちろん、O(Observe:観察)O(Orient:情勢判断)D(Decide:意思決定)A(Action:行動)のプロセスを常に改善しながら回していく

9) リリースはβ版からで構わない
最初から完璧なものを出そうとしない。いわゆるMVP(Minimum Viable Product)で十分

詳細は本書に譲るが、こうしたエッセンスを見て、「ウチではできていないなあ」と思われた方も多いのではないだろうか。事実、多くの企業では、チームはタコつぼ型で個人志向だ。また、何かの目的に向かって「爆速」のための仕組みを導入しているところは少ない。せいぜい情報共有の仕方を工夫したり、ボトルネック解消のちょっとした方法論導入にとどまっているのではないだろうか。ましてや、従業員の「幸福」や、そのための長時間労働防止にまで思いを馳せている企業は決して多くはないはずだ。

一方で、お気づきの方も多いかもしれないが、実はスクラムの考え方は日本的マネジメントに由来する部分が大きい。1つはトヨタの大野耐一氏の考え方である。彼が作り上げたトヨタ式リーン生産方式の考え方がスクラムのベースにある。2つ目は、80年代に発表された論文「新製品開発プロセスにおける知識創造と異文化マネジメント」(野中郁次郎・竹内弘高)である。これは世界の優れたチームの特徴をまとめたものだが、その多くが日本企業なのだ。その示唆がそのままスクラムに取り入れられている。そして著者も指摘する「序・破・離」の発想。まずは型から入り、徐々に工夫を加えていくことがスクラムでも重要とされている。

現代の日本では、企業のみならず、官庁や政党、NPOなど、あらゆる組織はリソース不足に陥っており、それゆえ生産性の劇的な向上が望まれている。もともと日本式のマネジメントの要素も多いことから、このスクラムは日本人にもフィットするのではないだろうか。明日から完全導入は難しいとしても、ぜひ多くの方に読んでいただき、生産性改善のヒントを探してほしい1冊だ。

スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術
ジェフ・サザーランド著
1,800円(税込1,944円)

 

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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