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IPOの全体像と進め方

投稿日:2015/03/05更新日:2019/04/09

Ipo (mindscanner / shutterstock)

GLOBIS知見録をご覧になってらっしゃる皆様の中には、アベノミクスによる株式市場の活性化を受けて、株式上場(IPO : Initial Public Offering、 以下IPOという)をご検討されている方も多いでしょう。IPOは経営者の夢ではありますが、「千三つの世界(1000社のうち、3社しか、実際にはIPO出来ない)」とも言われ、IPOするまでには、非常に大変な上場準備、審査をクリアして行かなくてはなりません。それでも、IPOすれば資金調達能力の多様化、知名度・信用度の向上による売上増加、人材確保がしやすくなるなど、様々なメリットがあります。貴社の今後の更なる成長のために、ぜひこれから一緒にIPOを目指してみませんか?

IPOを目指すことを決めたら行うことは、表1の日程感をイメージし、先ず監査法人の選定、次に主幹事証券会社の選定、そして上場市場の基準の確認です。

表1 3月決算会社の最短のIPOスケジュール

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I 監査法人

1. やはり実績のある監査法人を選ぶのが効率的
上場準備における監査法人の役割は

・財務諸表の監査
・企業内容開示の指導(会計制度の整備・内部牽制組織の確立)
・経営管理組織の整備助言

です。

監査法人の選定に当たっては、会計監査の信頼性に加え、IPOに関する経験・知識がポイントになります。当然、日本会計士協会上場会社監査事務所(日本公認会計士協会の上場会社監査事務所登録制度に基づき準登録事務所名簿に登録されている監査事務所)にお願いすることが前提になります。但し、昨年のIPOの監査法人を記載した表2のように、実際には毎年IPOの監査を行っている監査法人は限られており、上場審査対応、効率性から勘案しても、近年で上場実績のある監査法人とご契約されることが無難でしょう。

表2

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2. 実際の作業は申請期の3年前から
監査法人は上場申請期の直前々期、直前期の2期間の金融商品取引法に準じた監査証明を提出しなければなりません。

また、直前々期の期首の在庫などを確認しておかなければならないため、実際には申請期の3年前から監査法人との接触が始まります。

・先ずは予備監査(ショートレビュー)を行う。
弊社でいくつかの発行体に行くと、上場準備は実際に入っていなくても、ショートレビューだけはやったことがある会社は結構多いようです。

ショートレビューは監査法人が監査契約を締結する前に、会社の現状の課題を共有するため、また監査法人が監査契約締結可能か否かを見極めるために行うものです。

ショートレビューは監査法人が会社担当者へのヒアリングや、会計帳簿、株主総会、取締役会議事録、諸規程、経営管理資料などを調査、分析し50ページから100ページ近くの調査報告書を作成します。

3. どの様な監査法人と契約すればいいのか?
毎年上場実績社数の上位を占める大手監査法人は、大人数で組織化しており、経験も豊富で上場審査対応でも卒なく対応していただけますが、費用面ではそれなりの額がかかると思います。

中堅の監査法人は案件実績も欲しいため、積極的に営業に出てくるでしょうし、ショートレビューの費用含め大手の監査法人よりは便宜を図っていただけると思われます。また管理系の人員が限られているベンチャー企業に対しては、積極的にアドバイス等をやっていただける場合が多いです。

監査内容そのものには大きな違いはないので、費用や公認会計士のコミットの度合い、相性で決めることをお勧めします。

Ⅱ 主幹事証券

1. 主幹事証券はIPOまでの最も重要なパートナー
主幹事証券はIPOまでの最も重要なパートナーになります。特に私が在籍していた公開引受部の人間とは、上場準備の大半の期間を二人三脚で課題を解決していくために、お互いの信頼関係の構築がとても重要になります。

主幹事証券会社の役割はIPOの全体スキームの確立・進捗管理、社内管理体制の整備サポート、資本政策のアドバイス等を行いますが、IPOを受験に例えて言うならば、まさに「塾の講師」であり、会社の上場のためにそのノウハウを最大に伝授する役割となります。

2. 主幹事証券の役割 昨年の上場実績社数は表3のとおりですが、野村、大和、メガバンク系に収斂されていく傾向にあります。一昨年は野村が27社と全体の半分を野村が主幹事でしたが、逆に昨年、野村は26社と1社数字を落としており、一昨年 6社だった大和が21社と3倍以上増やし、野村を猛追した構図となっています。そして一昨年6社だったSBIは昨年も5社と主幹事が出来るネット証券として着実にその存在感を高めています。

表3

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私の経験では会社が主幹事証券を決定する場合には、ビューティコンテスト(ビューコン)という、主幹事を決めるための数社の証券会社による会社宛のIPOのプレゼンを行ってもらうことが多いです。

これは会社から一定の資料を主幹事候補先の証券会社に渡し、以下の内容をプレゼンしてもらいます。

・現状の課題
・上場時の企業価値評価(バリュエーション)
・エクイティストーリー(投資家への成長戦略の説明)

そして、会社が一番評価した証券会社に主幹事証券になってもらう仕組みです。概ね直前々期の前半に主幹証券会社の決定を行う場合が多いです。

2. 選定のポイントはエクイティストーリーの構築力と担当者との信頼関係
IPOの作業は上場の形式基準、実質基準含めある意味、「型にはめる作業」であるため、どこの証券会社が主幹事になっても概ね作業そのものは大差ありません。むしろ差がつくのは、上場承認後の機関投資家などにロードショー(上場前に自社の成長力等をプレゼンすること)を行うときの株価(想定発行価格)の納得感を醸成するためのエクイティストーリーの構築力の差であると考えており、そういった意味ではやはりアナリストや、より多くの機関投資家にアプローチ出来る野村、大和、メガバンク系証券は安心感があります。後は上場準備作業で最初から最後まで付き合うことになる公開引受部の人間と如何に信頼関係、相性がいいかということになります。

Ⅲ 上場市場の選定

1. 東京証券取引所と大阪証券取引所の統合について
2013年1月に東京証券取引所と大阪証券取引所が統合され、日本取引所グループが発足しましたが、上場市場そのものは現在もマザーズ、JASDAQが引き続き平行して運営されています。先般一部形式基準改定があり、現状は表4(東京証券取引所のHPより抜粋)のとおりです。

従来、マザーズは高い成長性を有する企業がめざし、概ね3年連続で売上、利益が10%以上増加している企業が対象となるイメージでした。業種としては、結果的にIT、インターネット関連企業が多く見受けられます。

表4

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一方でJASDAQは安定的に売上、利益を計上している企業が上場する場合が多く、業種は小売、サービス業、製造業等が多いです。

昨年の市場別の上場社数は、マザーズが44社と全体の半数以上となっており、最近は時にマザーズ上場の傾向が強くなっています。一方で今年は久しぶりにセントレックスにIPOがありました。 日本PCサービスという発行体で、これは2008年のゲオエステート以来の6年ぶりのIPOとなります。

表5

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2. 実際の上場時の売上・利益の規模感について

形式基準ではマザーズ上場は赤字でもよく、JASDAQは直近年度の経常利益が1億円以上であり、実際に取引所審査でもこの形式基準を超えていれば上場することは可能です。但し、上場出来るということと、投資家が会社の株を買ってくれることは別の次元の話と考えたほうが良いでしょう。

表6、表7は昨年IPOした会社の申請期の売上高、経常利益の分布です。売上高50億円未満が42社と全体の半数以上という状況です。一番売上高が小さいのはデータセクションの 4億円、一番大きいのはリクルートホールディングスの1兆2900億円でした。

表6

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表7

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一方で経常利益ですが、赤字が2社あり、経常利益5億円未満まで43社、全体の半数以上となっています。赤字が一番大きかったのは CYBERDYNEで6億4600万円の赤字、経常利益が一番大きかったのは、やはりリクルートの1260億円でした。これを見るとIPOでは申請期売上高 50億円程度、経常利益5億円未満という発行体のイメージが出来そうですね。

IPOでは特に利益の額が重要であり、どのタイミングで上場するかは、各企業のビジネスモデルによる利益率を勘案し、何年後に3~4億円程度の経常利益できるような企業になるかを逆算した上で、上場準備の計画を立ていただければと思います。

よって、会社の業種や、成長速度を勘案して主幹事証券とご相談しながら決めることをお勧めします。

次回は資本政策について解説します。

(本稿は、2013年から2014年にかけて「経営者通信」に掲載された記事を、筆者が知見録向けに再構成したものです)

◆ジェイ・キャピタル・パートナーズ株式会社について
設立: 2010年4月
事業内容: 未公開株式への投資業務、投資事業組合の運営管理業務、M&Aアドバイザリー業務、IPOコンサルティング業務、経営コンサルティング業務
URL: http://www.j-capitalpartners.com/

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