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グッドパッチ土屋尚史氏が語る、プロトタイプが変えるビジネスの未来

投稿日:2024/07/31

昨今、AIやテクノロジーの進化など社会変動は過去に例を見ないほど激しくなっています。この激動の「テクノベート*時代」を、私たちビジネスパーソンはどのように捉え、何を学び行動していく必要があるのでしょうか。

「テクノベートセミナー」では、第一線で活躍し次代を築いているビジネスリーダーをお招きし、テクノベート時代を生き抜くための様々な知見をお伺いします。ビジネスパーソンとして必要なスキルとは何か、テクノロジーを活用し社会にイノベーションを起こすにはどう行動することが望ましいのか。これからの学びやキャリアに関わるヒントをお届けしていきます。

第5回のテクノベートセミナー「デザインの力でビジネスを前進させる」には、土屋尚史氏(株式会社グッドパッチ)をお招きしました。グッドパッチ社が持つ最前線の現場知を伺い、ビジネス領域とデザイン領域の垣根を越えて活躍できる「ビジネス×デザインの越境人材」をどのように輩出していくべきかについて、詳しくお聞きしました。

本記事は当日の書き起こし記事です。動画版はこちらよりご覧ください。

*テクノベート:テクノロジー(Technology)とイノベーション(Innovation)を組み合わせたグロービスの造語。詳しくはこちらをご覧ください。

▼スピーカー

土屋尚史氏
株式会社グッドパッチ代表取締役兼CEO

1983年生まれ、長野県佐久市出身。複数企業で営業やWebディレクターを経験した後、起業を志し2011年3月に渡米。サンフランシスコのデザイン会社でスタートアップ支援に携わる。2011年9月に株式会社グッドパッチを設立。2020年6月、東証マザーズ(現:グロース)上場。「デザインの力を証明する」をミッションに、「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」をビジョンに掲げ、代表取締役兼CEOを務める。2021年12月、株式会社スタジオディテイルズ子会社化。2022年4月、株式会社丸井グループとの合弁会社、株式会社Mutureを設立。2023年6月、株式会社丸井グループ執行役員CDXOに就任。

▼モデレーター

難波美帆
グロービス経営大学院教員

東京大学農学部農業生物学科卒業
北海道大学大学院理学院自然史科学専攻修士課程修了
学位:修士(理学)

大学卒業後、講談社に入社し若者向けエンターテインメント小説の編集者を務める。その後、フリーランスとなり主に科学や医療の書籍や雑誌の編集・記事執筆を行う。2005年より北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット特任准教授、早稲田大学大学院政治学研究科准教授、北海道大学URAステーション特任准教授、同高等教育推進機構大学院教育部特任准教授を経て、2016年よりグロービス経営大学院。この間、日本医療政策機構、国立開発研究法人科学技術振興機構、サイエンス・メディア・センターなど、大学やNPO、研究機関など非営利セクターの新規事業の立ち上げを担当。科学技術コミュニケーション、対話によるイノベーション創発のデザインを研究・実践している。

10年で大きく変化したデザインの重要性

デザインとデザイナーの価値を底上げしたい

土屋尚史氏(以下、敬称略):僕は1983年生まれの長野県佐久市出身です。高校卒業後は関西大学に進みましたが、その後中退してIT系のセールスを2社経験したのち、Webデザイン会社でディレクターを務め、27歳で会社員を辞めて28歳でグッドパッチを創業しました。会社は僕が36歳のとき、2020年に東証グロースで上場しています。

グッドパッチはデザイン会社として日本で初めて株式上場した企業で、「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」というビジョン、「デザインの力を証明する」というミッションを掲げています。ビジネスでデザインの重要性が増す中、デザインとデザイナーの価値を底上げしたいという思いから、こうしたミッションを掲げるに至りました。創業13年目で、現在の売上は40億円ほど。社員およそ240名のうち半分以上がデザイナーという珍しい会社です。

事業は主に企業のサービス・プロダクト開発や新規事業の支援で、B2C、B2B、エンタープライズと、幅広くお仕事をさせていただいています。「グッドデザイン賞」は10年連続で計13回獲得しました。これまで携わってきた事例をご紹介しますと、まずサントリーさん。「サントリープラス」というサービスについて、ゼロイチで事業アイデアをつくるところからPMF(ProductMarketFit)以降の事業グロースまで、ご一緒させていただいています。

もうひとつ、私は丸井グループのCDXO(最高デジタル変革責任者)も務めていて、丸井さんと合弁で「Muture(ミューチュア)」というジョイントベンチャーも立ち上げました。こちらは丸井さんのDX推進や組織変革を軸に、現在は大企業やソーシャルセクターの変革・課題解決に取り組むデザインファームへと進化しています。

社会を変革するリーダーが持つべき能力

土屋:今日はまず「デザインの重要性の変化」というお話をしたいと思います。ここ5~10年のあいだ、デザインはいくつかのタイミングで盛り上がってきました。デザイン思考、UI/UXデザイン、広義のデザイン、デザイン経営、UXリサーチ・デザインリサーチなどです。

また、グローバル市場ではここ10年でデザインファームの買収が活発化し、FacebookやGoogleなどのテック企業だけでなくコンサルファームや金融機関までデザインファームを買収するようになりました。さらに、デザイナーが共同設立した会社も大きく成長しています。AirbnbやSlackの創業メンバーも元デザイナーですね。日本でも2018年、経産省と特許庁が「デザイン経営宣言」を発表し、経営にデザイナーが参画することの重要性が広く認識されるようになりました。

そして2020年頃にはDXの波も到来し、「ユーザー体験」や「顧客体験価値」がさらに注目されるようになってきました。ユーザーエクスペリエンス(UX)を適切に設計できる人材が求められるようになったのも大きな変化ではないでしょうか。

例えば、デジタル庁のデジタル監、浅沼尚さんはもともとデザイナーです。僕も面識のある方なのですが、デザイナーが行政機関のトップになったのは初めてのことだと思います。また、東京大学が2027年に創設すると発表した文理融合型新課程の仮名称は「CollegeofDesign」。東大の学科名に“Design”が入るのもエポックメイキングなことだと思います。デザインが、「社会変革を推進するリーダーが身に付けるべき重要な能力のひとつ」となっているのです。

かつての国内ビジネスシーンにおけるデザインの役割は、見た目を格好良くするといった表層的なものに限られていました。しかしデザインは本来、ビジネスの戦略フェーズから関わるもの。社会のシステムや感性と論理をつなぐ役割、創造性を育む環境の構築、ユーザーの深層理解などを担うものであると、この10年間で「広義のデザイン」としての価値が再定義されてきました。

その背景として、よく言われるのは「モノからコトへ」という体験価値の視点ですね。デザイントレンドの推移を振り返ると、1990年代には情報通信産業でメインフレームからパーソナルコンピューターへの移行がありました。その中で、モノと人との間にあるインタラクションをデザインする「インタラクションデザイン」という新たな概念が重要視されるようになりました。

その後、インターネットの普及を経て、デザイナーの思考プロセスをビジネスパーソンでも活用できるようにする「デザイン思考」のコンセプトがトレンドになり、そして2010年代にはスマートフォンの爆発的普及に伴って「UXデザイン」という領域が登場したのです。

具体を形作れることがアドバンテージになる

土屋:こうした変化の中で人とソフトウェアとのタッチポイントが飛躍的に増え、普段の生活の中にソフトウェアが組み込まれるようになりました。今は皆さんも意識せずにスマートフォンを操作し、常に誰かとコミュニケーションを取っています。ソフトウェアがユーザーの生活や体験に与える影響が非常に大きくなり、著名なVC投資家であるMarc Andreessenの「Software is eating the world.(ソフトウェアが世界を飲み込む)」という言葉通りになりました。

この20年間、世界のトップスタートアップはビジネスモデルよりもUXを優先してきました。例えば、Amazonが20年ほど利益を出していなかったのは、ジェフ・ベゾスが儲けの多くを顧客体験の改善に投資していたためです。FacebookやInstagramも立ち上げ当初は事業モデルすら確立されていないSNSでしたが、「人が使い続ければビジネスになる」との考え方に基づき、よいユーザー体験の提供に注力してきました。

その結果として、2023年の世界時価総額ランキングTOP10を見ると、そのほとんどがソフトウェア企業となりました。UXはソフトウェアとの親和性が強い領域であり、今やビジネスの根幹を成すという流れが不可逆になっています。ビジネス戦略やマスマーケティング以上に、ユーザーの声が重要とされる時代が来たと考えています。

そうした時代だからこそ、ビジネスパーソンはプロトタイプ、つまり具体を形作れることがアドバンテージになります。今はユーザーを理解し、ユーザーが使い続けたくなるプロダクトをつくることが最も大切。完璧な成果物でなくとも最初のたたき台をビジネスパーソンが作ることにより、空中戦ばかりでなかなか進まなかった議論が具体的な方向に向かいます。さらに、デザイナーやエンジニアとのコミュニケーションが圧倒的にしやすくなるという意味でも、「プロトタイプを作れること」が今後は一層重要になるのではないでしょうか。

ビジネスパーソンが持つべきデザインの力

触れることのできるプロトタイプで議論を進めよう

難波美帆:創業から今までの道のりを振り返ってみて、どんなことをお感じになりますか?

土屋:よい年だったと思えるのは2年ぐらいです。創業5年で社員数100人超という急激な成長を経てグッドパッチは1度クラッシュしてしまい、離職率40%超になった時期があります。それをなんとか乗り越えた年が(よい年だったと思える)2年のうちの1年で、もう1年は上場した年ですね。でも、それ以外は常に苦しい状態でした。起業して成長を志向すると、どこかストレッチしなければいけないので。

難波:グッドパッチさんではデザイナーさんの教育をどのように行っているのでしょうか。

土屋:カリキュラムや育成プログラムはありますが、基本的にはOJTベースになります。むしろ、重要なのは学習意欲の高い人材を採用することだと思っています。

カリキュラムや育成プログラム、OJTを支えるものとして、社内にナレッジを貯めるカルチャーがあります。多くの企業では、社員が社内にナレッジをいかに残すかが課題ですが、グッドパッチは2017年からその課題に取り組んでいます。現在では、社内のイントラにデザイン関連のナレッジが、4万件以上蓄積されました。デザイナーたちが自然に、組織や誰かを助けるためのナレッジを残していて、これは珍しいことだと思います。

難波:今、我々と協業で、グロービス経営大学院の新科目「デジタル・プロトタイピング」を開発していただいています。デジタル・プロトタイピングなどで、ビジネスパーソンはどのようにイノベーションを加速させることができるでしょうか。

土屋:かつてはビジネスパーソンが考えた上流の戦略や企画をユーザーに体験してもらうまで、相当な断絶がありました。でも、ビジネスパーソンが戦略を作り、制作会社に実装を任せるという手法では、ユーザーが求めるものを作れなくなってきた。だから、自分たちが考えた範囲で、ユーザーの反応を得ることができるようなたたき台を作るわけですね。それが必ずしもイノベーションにつながるわけではないですが、ビジネスパーソンがたたき台を作ることの重要性は今後さらに増すと思います。

土屋:冒頭で紹介したサントリーさんとのお仕事もコンペから参加しましたが、我々が勝ち取ることができたのは、提案段階からプロトタイプを作っていたためです。戦略だけ、または紙上の話だけでは意思決定が難しい場合でも、実際に触れることのできるプロトタイプがあれば議論を進めることができます。そうしたプロトタイプ作りのコストも近年は圧倒的に小さくなって、少し勉強すれば自分で動くものが作れるようになりました。

デザインを理解することで、キャリアの幅が広がる

難波:グロービスの「デジタル・プロトタイピング」では3ヶ月ほどで触れるものを作ります。ビジネスパーソンでもそうした短期間でデザインの領域に入っていけるものでしょうか。

土屋:すっと入っていけないケースもあるかもしれませんが、何かを作ろうとしたとき、その「作る」という過程を理解しようとすることが重要ですね。今まで何気なく使っていたソフトウェアのUIも理由があって設計されています。その設計意図を読み取る思考ができるだけでも相当な前進です。プロトタイプ作りを通じて得られる視点や気付きが増えるだけでも成功と言えると思います。

今需要が高まっているPdM(Product Manager)の役割も、ここ数年でUXデザイナーが担うことが増えました。PdMにはソフトウェアやエンジニアリングの理解が必須。あらゆるアプリの裏でプログラムが動いていて、使いやすくするための意図が働いています。その理解が人材の価値向上にもつながるわけですね。ビジネス側の人材がデジタルプロダクト作りの領域も分かるというだけで、キャリアの幅は大きく広がると感じます。

難波:前段でお話しされた「ソフトウェアに飲み込まれる」という点は、「人の行動をソフトウェアが支配すること」でもあるのかと、怖く感じることもあります。

土屋:ソフトウェアの負の側面みたいなものを高等教育機関などで伝えなければいけないというのはありますね。デザインに関する学会やイベントでもそうした倫理観がテーマになることはあります。

難波:私たちがグッドパッチさんから学ぶことは非常に多いのですが、グッドパッチのデザイナーさんがグロービスとの協業で何か吸収できそうなことはありますか?

土屋:たくさんあると思いますね。これからのデザイナーはもっとビジネスを理解しなければなりません。弊社は「Good design equals good business.」というバリューを掲げていますが、ビジネス理解の解像度は社内でも結構な差があります。今はDXひとつとっても、デザインだけでなく幅広い領域でビジネスを理解した上で、より成果に結び付くアウトカムを提供しないと、継続投資が得られなくなってきました。そのためのビジネス理解も今後ますます重要になると感じています。

リアルを含めた全体のUXデザインへ

定性的な指標も定量化して、価値を証明する

会場:クライアントにはデザインの定量的な価値をどのように説明していますか?

土屋:全プロジェクトで完璧にできているとは言えませんが、我々のアウトカムがどのKPIに効くかといった仮説を立てた上でプロジェクトを開始するようにしています。例えばサブスクリプションなら、継続率、チャーンレート、MRR(Monthly Recurring Revenue)、売上成長率とか。そこで、継続率向上に効く機能について仮説を立て、実装したときに前後比較をしたりします。

その意味では、きちんとKPIを取れるようにしないといけません。どんなプロジェクトでも考え方次第で定性を定量にすることができます。例えば、社員へのビジョン浸透というのは定量化しづらいものですが、開始段階でその浸透度をアンケートなどで事前に取っておく。で、そのあと施策を重ねて3ヶ月後に同じサーベイをすれば前後比較はできます。定量で取れないと決めつけるのでなく、取る努力をすることが重要になります。

会場:今後、UXにはどのような変革が起きると予想していますか?

土屋:UX自体は顧客体験という意味で普遍ですが、そのデザインに関しては、10年ほどメインだったアプリやWebサイトから、ここ数年で少し範囲を広げています。アプリもリアルを含めた体験の一部になり、全体でUXをデザインするという議論に変わってきました。ですから、デジタルを加味せずともサービスとUXをきちんと分解して設計できる人材が求められています。あとは、UXの繰り返しがブランド価値に響くので、ブランド体験として一貫性を持たせ、そのイメージを向上させるという点も今後より強く意識すべきポイントかと思います。

会場:Webでもプロダクトでも通用するデザインのフレームワークはありますか?

土屋:機能要件を整理して説明する際、「当たり前品質」や「魅力品質」といったプロダクトの品質が顧客満足に与える影響を示すフレームワークとして「狩野モデル」を使うことはあります。ただ、それもビジネスの種類とフェーズごとに、ある程度の再現性を持つという程度であり、「このフレームワークを使えば全てOK」というものはないと思います。僕自身が起業家タイプということもあり、あまりフレームに頼らず、なるべくゼロベースで考えていますね。

会場:戦略よりUXを優先するのはなぜでしょうか。長期目線では戦略も必要と感じます。

土屋:戦略が不要なわけでなく、戦略だけ作っても使われなくなってきたということです。かつてユーザーは企業とマスメディアが流した情報を見て生活していました。でも、インターネットの登場で情報の非対称性がなくなり、個人が発信できるようになると、いちユーザーのSNS発言が企業の業績をひっくり返すほどのバズを起こしたりするようにもなりました。そうしたユーザー優位の時代になったことで、ユーザーの満足度を高めたりユーザーにとって価値あるものを届けたりしないと、結局は企業が儲からない時代になったと言えます。

昔は、「この市場でこういう製品を出せば流行るはずだ」といった戦略から製品を投入することが多かったと思います。今もそのプロセスは存在しますが、例えばメルカリの圧倒的成長は大企業が戦略的に考えてできるものだったでしょうか。メルカリの前にYahoo!は同じ領域でヤフオク!というプロダクトを持っていましたが、それをスタートアップがよいUXを作って逆転し、大きな成功を収めたのです。

UI/UXが重要になっていくタイミングで起業を決断

会場:土屋さんはなぜデザインで起業し、初年度から大きく成長する会社にできたのでしょうか。

土屋:僕自身はWebデザイン会社でディレクターとしてデザインをやっていましたし、デザイナーと一緒に働いてもいました。ただ、自分がデザインの領域で起業するなんてまったく考えていませんでした。「デザインのビジネスなんてやりたくない。あり得ない」と思っていたくらいです。

起業することだけは決めていた2011年、サンフランシスコに行き、デザイン会社で働かせてもらっていた時期があります。UberもInstagramも10人程度の会社だったときですね。当時のサンフランシスコにはそういうスタートアップが数多くあり、毎日のようにスタートアップ関連のイベントが開催されていました。プロダクトも日本で作られるサービスのUIとはレベルが違っていて、明らかに日本でもUI/UXの領域が重要になると感じたんです。当時はUI/UXが重要だと考える人が日本にまだ少なかったし、過去にWebデザイン会社でデザイナーの冷遇も見ていたこともあり、「これは必ずチャンスが来る」と考えました。

起業当初から成長できたのは、市場が変わるタイミングだったからというのもあります。スマートフォンの登場でソフトウェアの重要性が高まり、そこに紐づくスマホアプリのUI/UX設計に対する需要も絶対に高まるという仮説があって、「まずそこに張ろう」と。普通のデザイン会社はWebサイトもアプリも名刺も広告も何でもやるケースが多いんです。でも僕はそれらをやらず、「ソフトウェアプロダクトのデザインを、きちんと上流から入って、ユーザーが使い続けられるよう設計します」と、UIデザインにフォーカスしました。

あと、起業当初は成長性を感じるスタートアップと一緒に仕事をしました。最初に仕事をしたのは東大の大学院生3人が作ったグノシーです。当時まだ法人化もしていなかったグノシーに無料でデザインを提供して、「広告塔にさせてください」と。その次に、こちらも安価で手がけたのがマネーフォワードです。初期に張ったマーケットと顧客企業がよかったことで、以降、大企業からも次々仕事が来て成長していったという感じです。

“正しい”を疑う素養が育んだ起業家精神

デザインを学び、経営の一翼を担って欲しい

難波:日本では経営層に入るデザイナーが海外に比べて少ないと聞きます。この辺についてはどんな課題があるとお考えですか?

土屋:絶対的なデザイナー人口の少なさに加えて、経営やビジネスに興味を持つデザイナーの割合も海外に比べて少ないのではないかな、と。マネジメント層へのモチベーションを持たないプレイヤー志向というか、ものづくり自体にアイデンティティを置いている方が多いように感じます。キャリアの志向性が違うというか、ポジションを高めるインセンティブが海外に比べて効きにくい背景もあるように思いますね。ここ10年でデザインに理解のある経営層は増えた一方、「経営層に上げたい」と思えるようなデザイナーはまだ少ない状況かなと感じています。

難波:グロービスは2025年にテクノベートMBAを開講します。テクノロジーを学ぶMBA人材にどんな期待をお持ちになりますか?

土屋:技術やデザインを学ぶビジネスパーソンの皆さまには、それをビジネスの現場で実践したうえで、CTO、CIO、CDO、CCOといった経営の一翼を担う立場を目指していただきたいと思います。

会場:土屋さんご自身は、どのようにして起業家精神を身に付けられたのでしょうか。

土屋:21歳で生きるか死ぬかの病気を罹ったことが大きなターニングポイントになりました。当時はカラオケ屋のバイトリーダーで、そのままカラオケ屋の社員になるつもりでしたが、生死や人生を強く意識したことで「これ、カラオケ屋じゃないな」と(笑)。それで大学に復学し、そのときたまたま受けたのが「ベンチャー企業論」というアントレプレナーシップの授業だったんです。そこで、孫正義さん、三木谷浩史さん、堀江貴文さん、あるいは『社長失格』(日経BP)という本を書いた板倉雄一郎さんといった方々の起業ストーリーを学びました。孫さんも20代で病気と戦っているし、三木谷さんも震災をきっかけに起業していますよね。皆さん、生死に触れた経験があったことに共感し、僕も起業家を志すに至ったのです。

それに加えて、世の中で正しいとされるものを疑う素養が子どもの頃からあったと感じます。祖父母が教師で、両親も大企業の社員と公務員。「新聞を読め」「漫画を読むな」といった保守的な家庭で育ち、それに対する反発から、全てを疑ってかかっていました。上からの押し付けや決まりを疑う習性を持っていたことは、起業家として重要な素養だったと思います。

ゼロからイチを生み出すような起業家は、デザイナーとの共通項もたくさんあります。デザイナー的素養を持つ人々が起業家になり、世の中になかったものを生み出したりするのではないかな、と。クリエイティブなことがしたいというのは、ほかとは違う方法で何かを証明したいということ。そうした思考がデザイナー的素養であり、それを起業家も持っているように思います。

新たな学びを通し、ビジネスとデザインをつなぐ人材へ

難波:(ご病気等の)強烈な原体験を持つ方はむしろ少ないようにも感じます。

土屋:たしかに、強烈な原体験があるから起業家精神を持つというのも違うと思います。ただ、孫さんも三木谷さんも僕も、人生で何か普通と違うことが起きたときに行動しているんですよね。多くの人が何かしら普通とは違う経験をしていると思います。ただ、原体験というのは後付けで、そのとき即行動に移した人たちが起業し、大きなことに挑戦するようになったのではないかな、と。

その意味でも、まずは「起業したい」「経営層の一部になりたい」といった動機づけが生まれるような状況に持っていく必要があると感じます。あとは、周囲にそういう人たちをたくさん作ること。原体験がなくとも、例えば昔からの友人が起業して成功したといった話を聞いて、「え?あいつができるなら俺もできるんじゃない?」と。そんなふうにしてスタートしている人も多いです。そうしたきっかけも全然ありだし、すごく重要だと思っています。

難波:最後に皆さまへメッセージをいただければと思います。

土屋:足元のマーケットは生成AIの話題が多いですが、デザインやUXが大切という考え方は普遍的なもの。プロトタイプを自分で作ることができることの重要性も、今後はAIによってさらに高まると考えています。そこまで含めて、全体のUX設計、またはそれをビジネスに生かす設計を学ぶことが重要になるのではないでしょうか。ぜひ、グロービスの新科目も受講いただいて、ビジネスとデザインをつなぐヒントを感じ取っていただけたらと思います。

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