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海外で部下を動かすコミュニケーションの極意とは――3E

投稿日:2021/05/14

今年3月発売の『海外で結果を出す人は「異文化」を言い訳にしない』から「違いを乗り越えて、成果を生み出すリーダーシップ」の一部を紹介します。

海外勤務で外国人の部下を持った際、当然ながら日本人と同じコミュニケーションをしていては、伝えたいことも伝わりませんし、部下の共感を得ることも貢献意欲を高めることも難しくなります。それゆえ、日本人部下に対してコミュニケーションするとき以上に、3つのE――エンゲージメント(同じ土俵に乗り、互いの貢献を認めあう)、説明の徹底、期待値の明確化――を丁寧に行う必要があるのです。特に日本人上司が怠りがちなのは、期待値をしっかり説明することです。日本人同士であれば「このくらいは当然相手も理解しているはず」といったあうんの呼吸が通じることが多いですが、海外でそれは禁物です。特にローコンテキスト(文脈やあうんの呼吸に依存しない)文化の人々、たとえば欧米諸国の人々とコミュニケーションする際には注意が必要です。「あまり細かく言うと相手の気分を害するのではないか」という懸念は不要です。むしろ期待することを細かく伝えるからこそ、後のトラブルも減り、相手も不安なく気持ちよく働けると心得るべきなのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、英治出版のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇    ◇    ◇

コミュニケーションの基本となる3E

本項では、特に海外で、部下とのコミュニケーションで大事な点は何かを説明したい。私がいつも伝えているのは、次の3Eである。

1.エンゲージメント――Engagement
2.説明の徹底――Explanation
3 期待値の明確化――Expectation

1つ目のエングージメント(Engagement)について説明しよう。これは、仕事を進める際に「お互いが同じ土俵に乗り、互いの貢献を認めあう」という意味だ。ここで重要なことは、「同じ土俵」「互いの貢献」といった状況や関係性をどう作るかだ。

そのためには、リーダーが部下に向かって一方的に話をするのではなく、「双方向性」を意識することが重要だ。「あなたはどうしたいのか?」「あなたの意見を聞かせてください」というように、まずは上司が部下に敬意を払い、双方向のコミュニケーションを意識することが「互い」を分かりあうための第一歩だ。

もう一点、エングージメントを高めるうえでの大事な要素は、「透明性」であると言われている。

前に紹介した日立金属タイランドでも、「透明性」と「双方向性」を実践していると言えるだろう。会社の財務情報、幹部クラスの給与情報を開示することで、透明性を高めている。

また、駐在員の適性を現地スタッフから評価してもらうことでも、双方向性を高めている。結果として、離職率が下がって会社への帰属意識が高まるなど、従業員のエンゲージメントが格段に向上したという好例だ。

2つ目の説明の徹底(Explanation)は、まさに文字通りの意味だ。「なぜこのビジネスを行うのか」「なぜこの仕事が大事なのか」といったことを、論理的に丁寧に説明するということだ。一見、当たり前で簡単そうに見えるが、それ相応の準備と知識が必要になる。

自分たちの仕事の意味、仕事の特性、自社の強みや弱み、そのマーケットにおける勝ちのポイントを、きちんと「分析」しよう。その後、必要なアクションを考え、自分自身の言葉で表現して「共有」する必要がある。お気づきかもしれないが、第4章で紹介したスキルがここで役に立つ。

3つ目の期待値の明確化(Expectation)は、仕事の成果や自己成長など、「私はあなたにどんなことを期待しているのか」を明確に伝えることである。そのためには、「相手の理解」と「相手からの期待値への共感」が必要だ。

部下の能力や想いを「理解」したうえで、上司から期待する将来像を示す。その将来像は示して終わりではなく、部下から「共感」を得ることが肝要だ。共感を得るためには、上司が一方的に期待を伝えるだけなく、部下のほうからも「自分はここまでしかできないだろう」「自分はもっとやれると考えている」といったフィードバックをきちんと受けて、すり合わせのステップを組み込むことが鍵となる。

本章の事例でいえば、浜田は、社内の人たちに一所懸命に伝えていると思い込んでいたが、この「共感」を得る形で伝えていなかったのだ。日本から来た情報を形ばかりで共有しても、心に残らない。共感を醸成するために必要なことは、「共体験のプロセス」だ。すなわち、状況を極力イメージしやすいようなストーリーや、そこに関わった人の感情なども、受け手と共有するプロセスを作ることがポイントになる。ここぞというときには、どういう場所で相手に伝えるべきか。たとえば、プロジェクトの現場や工場の生産現場を訪れて、実際に業務の状況を見ながら話をすることも一案だ。

また、どういう形で、どのように伝えるかの具体的な手段も、きめ細かく考えてほしい。たとえば、お客さんの声を録音したものを聞きながら、あるいは、現場の映像などを効果的に流しながら、疑似体験できるようにするのもいいだろう。

3Eのなかでも、この期待値の明確化(Expectation)は見落とされがちだ。特に日本企業は、ハイコンテキストな文化、つまり暗黙の了解のうちに物事が進むことが多いと言われている。一方、海外では、「ここまではやるべき」「このレベルは当然達成されるべき」が組織の常識として共有されていない場合が多い。そのため、きちんとコミュニケーションをしないと、上司と部下のあいだで認識かずれることが頻繁に起こる。さらに、日系企業では、特に欧米などで使われる、職務ごとの仕事内容や期待値を示す「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」が明確になっていない組織も多い。そうした環境では、上司の側に、そもそも改まって期待値を確認する習慣もない場合が多い。そうすると、互いのずれが放置されたままになってしまう。

海外では、仕事の内容や期待値は、上司がしっかり示すべきで、期待値を示さないのは上司として失格だと見なされる傾向が強い。実際、私かベルギーで部下を持った際に、年度末に行った部下との評価面談のなかで、いくつかの改善点を指摘した。それに対して、ベルギー人の部下から最初に出た言葉が「公正ではありません(アンフェアー)」だったことに驚いた。改善点として指摘したことが、当初からの期待であるなら、最初から伝えておいてもらわないと分からない。期待を伝えずして、あとからそれを指摘するのは公正ではない、という主張だった。当時の私には、「あなたぐらいの経験と給与なら、当然この程度のことは言われなくてもやってもらわないと困る」という、ある意味で身勝手な基準があったのだろう。「言わずとも伝わるはずだ」の発想は、捨てなければならない。

 

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