宗教の素養は日本人の弱点

今年3月発売の『海外で結果を出す人は「異文化」を言い訳にしない』から「本質を見極めるために、これだけは押さえておきたいビジネススキル」の一部を紹介します。

宗教は多くの日本人にとって難しいテーマです。たとえば先進国であるアメリカも、実はかなりの宗教国家であり、プロテスタント的な考え方が強く根付いています。特に南部などではいまだに聖書と不整合があることを理由に進化論を教えることを避けようとする州があります。またプロテスタントのベースにある予定説に基づき「我々は選ばれた人間である」というやや傲慢に見える考え方をする人も少なくありません。日本人が思っている以上に、海外の人々の価値観は宗教に縛られているのです。イスラム教などはさらにその傾向が強く、またスンニ派とシーア派では、西洋的な文化の許容度なども大きく異なってきます。

私の経験では、特に一神教(例:キリスト教、ユダヤ教、イスラム教)は人々の価値観や行動規範に深く入り込んでいます。こうした人々と付き合っていく際に必要となるのは、まずはそれそのものを受け入れること、そしてその宗教の背景を自分なりに考えてみることです。(このように書くと一神教の方からは怒られるかもしれませんが)宗教には、それが成立してきた理由というものがあります。それに思いを馳せるだけでも、彼らとの付き合い方のヒントを得られることは多いのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、英治出版のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

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宗教への向き合い方

海外でマクロ環境を語るうえで避けて通れないのが「宗教」だ。宗教は、生活習慣や冠婚葬祭などにも影響が大きいので、PESTELのS(社会)の要素として語られることが多い。

しかし実際には、宗教はあらゆる分野で顔を出す。Pの政治体制にも影響が大きいし、Eの経済においても、資本主義への親和性も異なり、たとえば、イスラム金融といった言葉もあるように、大きな影響を与えている。また、Tのテクノロジーへの向き合い方も異なる。したがって、海外で仕事をするうえで、自分にあまり馴染みのない宗教に関しては、基本的な考え方を理解しておくことは必須だ。

日本では、特に第二次世界大戦後、宗教に関する話題が社会的にタブーとされてきた経緯がある。そのため、宗教に関する話題に日常的に触れることはきわめて少ないし、教育でもあまり取り上げられない。しかし、世界のほとんどの国では、歴史・社会制度・経済・法律などと宗教は切っても切れない関係にある。宗教に関する知識がないと話についていけない国も多いので、基本的な考え方や教義は押さえておきたい。

欧米や中東では、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教が、アジアでは、仏教、ヒンズー教、イスラム教の人が多い。また、日本なら仏教と神道があげられるだろう。ここでは、その1つひとつを解説する余裕はないが、平易な解説書が数多く出まわっているので、ぜひ参考にしていただきたい。

書籍や文献をあたって宗教の歴史や経緯を理解すること以外に、私がいつも意識していることがある。それは、「その宗教が、どんな風土で生まれたのか」を考えてみることだ。私たちは宗教というと教義だけに目が行きがちだが、「宗教には、生まれた土地の風土が色濃く影響する」という説がある。初めてイランに赴任したとき、私はこの説をもとに、イスラム教について想像をめぐらしてみた。それによって、イスラム教の考え方や行動が理解でき、受け入れやすくなった経験がある。

あなたも、イスラム教のこんな教えを耳にしたことがあるはずだ。

①豚肉を食べてはいけない
②お酒を飲んではいけない
③アラー(神)に1日5回のお祈りをする
④トラブルを、さらっと水に流すことはできない
⑤目には目を、歯には歯を

これらは、風土とどう関わっているのか。

たとえば、①の「豚肉を食べてはいけない」は、中東のような暑い気候では、腐りやすい豚肉は食中毒などの感染を引き起こすので、食することを避けるための教えだともいわれている。

②の「お酒を飲んではいけない」も同様に、砂漠の真ん中でお酒を飲んでそのまま眠りこけてしまったら、干からびて死んでしまうかもしれない。

③の「アラー(神)に1日5回のお祈りをする」はどうか。イスラム教の祈りでは、立ったり座ったり、頭を床につけたりを繰り返す。しかも、1日5回も。この祈りの動作は、実は柔軟体操を促しているのではないか。中東のような暑いところだと、人々は放っておくと一日中運動しないことになりかねない。これでは、健康上きわめて悪いので、無理やり体操をさせて、体を動かしているともいえる。

④の「さらっと水に流す」ことができないのは、中東では当然だ。山が多い日本の河川は急流が多いので、水に流せばすぐに流れていくので問題ない。しかし、中東のオアシスにゴミや変なものを投げ入れたらどうなるか。たちまち、飲み水がなくなり大問題となる。「そんな奴は、子孫の代まで忘れるな!」となるのだ。

⑤の「目には目を、歯には歯を」。この言葉ほど、イスラムを誤解させている言葉はない。これは、「もしある市民が、他の市民の目をつぶすならば、彼の目をつぶさなければならない」「もしある市民が、彼に対等の市民の歯を打ち折るならば、彼の歯を打ち折らなければならない」といって、やられたら同じことをやりかえす、もしくは同等の代価をもって償わせることが許される法律だ。これが「報復を許すとは、イスラムってなんて恐ろしいんだ!」という誤解を生んでいるが、この法律の本来の趣旨は、あくまで報復の抑制なのである。

やられたら、「同じこと」ならやり返してもいいが、「倍返し」をしてはならないという趣旨だ。倍返しを止めないと、争いがどんどんエスカレートしてしまう。それを避けるために、同じにしておきなさい、痛み分けしなさい、という法律なのだ。かつては資源の乏しかった砂漠の地で、過剰な略奪を抑止しながら、争いを収めるための知恵であったことがうかがえる。

仏教は仏教で、東南アジアの風土があってこそ成り立つことがたくさんある。宗教が、人が生きていくためのマニュアルであるとするなら、大いに納得できる。

海外で宗教に違和感を覚えたときは、まず、それを素直に受け入れることだ。そして、その宗教が生まれた地域の風土に思いを馳せてみてはしい。そうすれば、なるほど、あの環境下ではこうなるのもやむをえないな、という理解が進む。

 

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グロービス経営大学院では、世界で通用するリーダーに必要な「国際的視野」を習得するための「グローバル・パースペクティブ」の授業を行っています。

 

海外で結果を出す人は「異文化」を言い訳にしない
著者:グロービス(著者)、高橋亨(執筆者) 発売日 : 2021/3/22  価格:1,980円 発行元:英治出版

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