今年3月発売の『海外で結果を出す人は「異文化」を言い訳にしない』から「「異文化だから」で、見落としてしまう4つの壁」の一部を紹介します。
何事もそうですが、何かがうまくいっていないときに、その真の原因を見つけ、それをつぶすのは最も効果的な問題解決方法の1つです。たとえばストレス性の病気であれば、対症療法(例:服薬)で症状を緩和するのではなく、原因となっているストレッサー(ストレスを生じさせるもの)を取り除くことがやはり有効です。ここで難しいのは、問題を生じさせている真の原因を見出すことです。名医であればすぐに気が付くような原因も、新米医師では気が付かないことも多いでしょう。ビジネスも同様です。何かがうまくいっていないときに、真の原因が他にあるにもかかわらず、別のことを最大の原因と錯覚してアクションをとり、問題解決につながらないというケースはよくあることです。海外ビジネスは最初からうまくいかないことが多い典型例ですが、そこで多くのビジネスパーソンは、他に原因があるにもかかわらず、それを異文化のせいにしてしまい、的外れな行動をとってしまうのです。今回は、真の原因となることが多い4つの要素を紹介するとともに、そのうちの1つである「経済やビジネスの『発展段階』の違いによる壁」について詳述します。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、英治出版のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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確かに、文化的に異なる背景を持った人たちといっしょに仕事をするうえで、異文化理解はとても大事なテーマだ。しかし、第1章で見てきたように、「異文化に囚われすぎると、問題の本質を見失ってしまう」という落とし穴がある。
これは「ビジネス上の問題を、異文化の問題に取り違えてしまった」とも言えるだろう。この章では、どのようにして、ビジネス上の問題を異文化の問題に「取り違えた」のかを、具体的な事例を見ながら考えていきたい。「取り違え」のポイントになるのが、日本での仕事と海外での仕事のあいだに立ちはだかる、大きな「壁」だ。
海外で活動するビジネスパーソンは、どんな壁に直面するのか。グロービスでは、さまざまなケースや経験者のインタビューなどをもとに、この壁を次の4つにまとめている。
①経済やビジネスの「発展段階」の違いによる壁
②自身がカバーする「ビジネス領域」の違いによる壁
③「組織での役割」の違いによる壁
④持っている「文化」の違いによる壁
これらは、日本のビジネスパーソンが、「日本の国内事業×日本人組織」という仕事の仕方から抜け出し、「海外事業×ダイバーシティ組織」の仕事ができるようになるために、乗り越えなければならないものだ。この4つの壁をきちんと分けて理解していないと、すべての問題が異文化に起因しているかのように結論づけてしまう。
では、この4つの壁を詳しく見ていこう。
①経済やビジネスの「発展段階」の違いによる壁
これは、国や地域の経済が、どんな発展段階にあるかによって、ビジネスのやり方に違いが出るということである。たとえば日本は、先進国として、伝統的なインフラ系の産業はもとより、国際的にまだまだ競争力のある自動車や電機などの業界であっても、国内では大半が成熟産業となっている。業種によっては、衰退産業化しているものもあるだろう。
それに対して、東南アジア諸国や新興国、新・新興国では、業界自体が、成長期の真っただ中であったり導入期であったりする。そうした国々と日本とでは、マーケティングのやり方、営業のやり方、組織の作り方、リスクの取り方など、かなりの違いが出るのは当然だ(図参照)。
ところが、日本人ビジネスパーソンの多くは、生まれてこのかた、成熟社会の日本で、成熟業界の仕事の経験しかしていない。つまり、肌感覚として、成長期のマーケットにおける仕事の実感がまったくないのだ。そんな状態で、自分の経験だけを頼りに仕事をすれば、どうなるか? ビジネスのやり方やビジネスパーソンの行動の違いが、経済や事業ステージの発展段階の違いに起因するものだと理解できず、文化の違いだと捉えてしまう。この現象が、一つ目の璧である。
グロービス経営大学院では、世界で通用するリーダーに必要な「国際的視野」を習得するための「グローバル・パースペクティブ」の授業を行っています。
『海外で結果を出す人は「異文化」を言い訳にしない』
著者:グロービス(著者)、高橋亨(執筆者) 発売日 : 2021/3/22 価格:1,980円 発行元:英治出版