ニューロ・ダイバーシティ 自閉症スペクトラムだけのITコンサル企業「auticon」

Former auticon Head Job Coach Antonia Leeb (left) and IT Consultant Lars Backstrom (right) at one of auticon’s offices | Photo by auticon job coach Adam Goldman

昨今、ダイバーシティは利益をもたらすことが明確になってきています。例えば、ボストン コンサルティング グループが2018年に行った調査では、多様なメンバーで構成されたチームは、均一なチームに比べて19%も多くのイノベーションを起こしたといいます。ダイバーシティの価値は浸透してきましたが、最近では米国の「Black Lives Matter」や女性活躍推進の影響で、ダイバーシティとは人種や女性のことだと思う人も多いかもしれません。ですが、外見からはわからないダイバーシティ、例えばニューロ・ダイバーシティ(脳や神経の多様性)はどうでしょうか?

2011年、ドイツの実業家ディルク・ミュラー・レムス氏は、ITの才能があるにもかかわらず就職に苦労していた自閉症の息子を支援するために、社会的企業を立ち上げようと決意しました。それが、自閉症スペクトラムのメンバーだけでITコンサルティングサービスを提供する企業「auticon」です。

同社のITコンサルタントであるラース・バックストローム氏に、GLOBIS Insights編集部のメルとローラがインタビューしました。ラース氏は、地球物理学と戦争学の学位を取得していますが、長い間自身が自閉症スペクトラムだと気づかず、キャリアを築くのが困難だったといいます。それが「auticon」との出会いでどのように変わったのでしょうか。

自閉症スペクトラムへの道程

メル:自分が自閉症であると気づいたのは、人生やキャリア経験をもう随分積んだ後だったということですが、気づくまでについてお話しいただけますか?

ラース:私は生涯にわたって疎外感や鬱病に苦しんできました。他の人が楽々とやってのけられるようなことが、なぜ自分にとってはこんなに難しいのか、まったく理解できなかったのです。自分で自分の目標の達成を阻んでいるんじゃないかとすら感じていました。

もちろん自閉症のことは知ってはいましたが、自分が自閉症ではないかと疑ったことなど一度もありませんでした。自閉症については、映画『レインマン』的なイメージ(他者とコミュニケーションをとるのは苦手だが、電話帳の番号を全て暗記するなどの天才的な能力を発揮する自閉症の主人公が登場する)しか持っていませんでした。一般的に、自閉症に対して持たれるイメージとは、長い間そんなものだったと思います。

あるとき妻が、私の非協調的で変わった振る舞いが、ストレスによって悪化することに気づいたのです。これは自閉症スペクトラムの典型です。

それから妻が自閉症についての記事を探し、オンラインテストをやらされました。そのテストで私が自閉症スペクトラムであることがはっきりとわかったのです。その後、2014年に正式に自閉症スペクトラムであると診断されました。その時すでに50歳になっていました。

自分が自閉症スペクトラムだと分かって落ち込む人もいると思います。特に若い人にとっては辛いかもしれません。ですが晩年に診断された人にとっては、「なんてこった!やっとわかったぞ!」といった感じなのです。

ローラ:自己診断と専門家による診断の2つがありますが、どちらの方が納得できると感じましたか?

ラース:それはとても面白い質問ですね。自己診断だけで十分だと思っている人がどれだけ多いか見てきました。でも、私にとっては正式な診断の方がよかったです。レッテルを貼られるのは確かですが、確信を持つことができます。自覚が生まれるのです。それに公的な保護も受けられます。これも大事なことです。

私の場合は、人生があまりうまくいっていませんでしたので、診断を受けたことで、自分を元の軌道に戻すことができたと思います。他の人については…… 診断を受けていない友人が何人かいますが、何とかやっていけているようです。みんなそれぞれ独自の道を歩いていますから。

マイノリティをマジョリティにする

メル:auticonを見つけたきっかけは何ですか?実際に、自閉症スペクトラムの人材を中心とした採用に力を入れている会社で働いてみて、いかがですか?

ラース:きっかけは、コールセンターで働いていたことです。コールセンターは自分で見つけられた唯一の仕事だったのですが、いじめにあっていました。残念なことですが、スペクトラムの人が孤立してしまうのはよくあることです。私は、イギリスのNational Autistic Society(自閉症の人のための慈善団体)に連絡して、サポートしてくれないかと聞いてみました。係員の方がとても親切に対応してくれ、状況は無事解決しました。

それから半年くらいたって、その係員の方からメールが届きました。「自分は今auticonで働いているが、応募してみないか」と勧めてくれたのです。最初は本当に迷いました。私のバックグラウンドは地球物理学なので、ITコンサルタントになれるとは思いもしませんでしたから。でも、この方の勧めで応募し、採用試験に呼ばれ、半年後くらいに内定をもらったんです。

私が働き出したのは2018年ですが、auticonの創業は2011年です。自閉症スペクトラムだけのITコンサルタントというコンセプトが大成功していることが実証されています。今ではauticonは世界的な企業です。ドイツ、フランス、イギリス、オーストラリアにオフィスを構えています。さらに、アメリカとカナダの企業2社を買収し、auticonに合うよう細かくビジネスモデルを変えました。

メル:社風について教えてください。auticonのオフィスに足を踏み入れると、どんなところが他と違うのでしょうか?

ラース:一見すると普通のオフィスと変わらないと思います。でもよくよく見ると、サングラスをかけていたり、ノイズキャンセリングのヘッドホンをしている人がいるのがわかるでしょう。照明を落とした特別室もありますし、静かな部屋もあります。

auticonの大きな特徴は、1人ひとりのニーズに個別に対応するようにしていることです。自閉症スペクトラムの人たちは、非常に異なった感受性を持っています。例えば、ホットデスキング(ワークステーションを大勢で共有すること)は当社では実行していません。全員に個別のデスクが与えられます。

意外に思われるかもしれませんが、よくみんなで集まることも社風といえます。自閉症スペクトラムの人たちは、きっちりプランされた活動(天文学のミートアップ、コンピューターゲーム、ボードゲーム、講義など)において、大変社交的になることがあります。こうした集まりは、みんなの意見が反映され企画されます。

会社の核となるのは、「auticonジョブコーチ」です。私たちはただ採用され、自分のことは自分で守るしかないという状況に置かれるわけではありません。ジョブコーチ1人につき、それぞれ8~10人のコンサルタントを抱えています。私たちの様子を見て、話をし、何か必要なものがないかどうかを聞くのが、ジョブコーチの仕事です。

メル:ジョブコーチは、自閉症の方たちと関わるために専門的な訓練を受けた人たちなのですか?

ラース:全員が何らかの形で自閉症関連の経験を持っています。カウンセラーもいますし、自閉症についてのトレーニングを受けた専門家もいますが、現場で学ぶことも多いと思います。色々な方がいます。

ローラ:様々な人に接することはニューロティピカル(定型発達。発達障害ではない状況や人々)にとっても、メリットがあると聞いたことがあります。また、ジョブコーチや、静かな部屋、控えめな照明などがある職場に魅力を感じる人は多いと思います。どんなタイプの脳を持っているかにかかわらず。

ラース:まったく同感です。ニューロ・ダイバーシティへの対応については議論が盛んですが、照明や騒音の好みに個別に対応したり、多様性は許容するがいじめやハラスメントは許容しない環境づくりは、誰にとってもメリットがあります。

ニューロ・ダイバーシティの障害となるもの

メル:auticonには、ニューロ・ダイバーシティのスタッフがたくさんいます。そうした企業ならではの課題というものはありますか?

ラース:課題の1つは、当然のことながら、ITコンサルティングが競争市場であり、その中でいかに勝っていくかということです。ITコンサルティング自体がまだ比較的新しいビジネスモデルなのに加え、ニューロ・ダイバーシティや自閉症の人を契約コンサルタントとして提供するというのですから、これはさらに新しいことです。クライアントの皆様には多少の配慮はお願いしなければなりませんが、極端な配慮は必要はありません。ささやかな配慮でもうまくやっていくことができるんです。

もう1つの課題は、自閉症の中にも非常に多様性があるということです。それゆえに自閉症「スペクトラム(分布)」と呼ばれているのです。コンサルタント1人ひとりがそれぞれ別々の要望やニーズを抱えています。

auticonは、自社に合ったクライアント、理解して仕事を任せていただけるクライアントを見つける必要があります。そしてそこでもジョブコーチが活躍することになります。コンサルタントとクライアントの双方をサポートしてくれるのです。

メル:ビジネスの世界では、数年前からダイバーシティが流行語のようになっています。物事が正しい方向に進んでいるとお考えですか?

ラース:私なりの見解ですが、auticonが成功していることを考えると、全体としては正しい方向に進んでいると見ていいと思います。私が6年前に自閉症について勉強し始めたときと今では、随分変わりました。インテグレーションがより重視されるようになりました。それに「自閉症は病気ではない」という理解が深まりました。治療法はないし、治療の必要もない、と。

ただ、もっと気をつけなければいけないこともまだいくつかあります。役員室やCEOといったトップから、組織に変革をもたらされなければなりません。

名ばかりの「多様な」人材を雇用する企業もあります。そうした企業は、個々に必要な対応策を考慮しません。例えば、車椅子の人を採用した場合は、スロープやエレベーターの用意という対応策が他の車椅子の人にも役立ちます。ですが、1人の自閉症の人のための対応策は別の自閉症の人にも当てはまるとは限らないのです。

メル:そのハードルを越えるためのアドバイスは?

ラース:ダイバーシティは未知のリソースなのだということを忘れない、ということです。自閉症スペクトラムの人の失業率は70~90%にのぼります。私自身、就職先を見つけるのに苦労してきました。ですが、自閉症の人を採用することは、企業にとって利益に繋がります。私たちは弱いところもあるかもしれませんが、仕事には打ち込みますし、貢献できるスキルもあります。サポートは必要ですが、どんな人であれサポートは必要ですよね。成功者の語る「叩き上げ」の神話は、本当に神話に過ぎないと思います。成功した人なら、誰もが何かしらのサポートネットワークを持っているものなのです。

メル:サポートネットワークがどんな企業にとっても素晴らしいものであることは確かですからね。

ラース:その通りです。

*本記事は、GLOBIS Insightsに2020年10月16日に掲載された記事を翻訳・編集して転載したものです。

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