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米中日のマクロ環境から見るアフターコロナの世界 vol.1変わる米国、変わらない日本

投稿日:2021/01/21更新日:2021/01/25

新型コロナウィルス禍で「新常態(ニューノーマル)」になると言われているが、果てして本当か。2020年9月24日、オンラインでテクノベート勉強会「米中日のマクロ環境から見るアフターコロナの世界と自動車産業」を開催。デンソーの鈴木万治氏が「新型コロナの 2つの効果」「米中日の今後」について、6カ国の現地在住者へのインタビューなどを基に分析、持論を展開した。本記事では、鈴木氏の講演前編を紹介する。

*本動画の内容は、個人的な見解であり、所属する会社、組織とは全く関係ありません。
*本記事は、2020年10月29日に公開した動画記事を書き起こしたものです。

鈴木万治氏:メディアなどは「COVID-19で“The New Normal”、すなわち新常態が出てくる」と言っているところが多いですよね。しかし、正直なところ私はそうは感じませんでした。それを検証すべく今年(2020年)5月に調査し、今日お話しする内容は6月の時点でまとめたものです。(2020年9月末の講演の時点で)3ヵ月経過しているため、この内容が、どこまで当たっているか、間違っているか、みなさんが判断できるレベルになっていると思います。

このレポートのポイントは、日本、中国(北京、上海、深圳)、ドイツ、イギリス、イタリア、インドそれぞれの国に居住する現地の人にインタビューしていることです。例えば、中国なら中国に住む中国人の方々に話を聞いています。中国に住む日本人ではないことがポイントです。

コロナは世界にどんな影響を与えたか

まず、新型コロナの 2つの効果について解説します。第1の効果は、変革を推進するアクセラレータ。「デジタル化が3年かかると思っていたのが3ヵ月でできた」というのがこれに当たります。

第2の効果は、バランスがとれた最適化への是正です。東京や地方でもコンビニの数を見れば分かるように、人間はやり出すと時に歯止めが効かず止まらない。それに対して、バランスのいいところで抑えようという最適化もあるのではないでしょうか。

世界大恐慌のときは25年かけてNYダウ平均株価が回復しましたが、今回はあっという間に元に戻りましたね。ただ、ご存知のように、今の状況は、株価と実質の市場が乖離していて、株価はあまり当てになりません。

自動車産業への影響も非常に大きかったですが、中国では既に回復し始めていますし、致命的になるような痛手はなく「回復する」と読んでいます。飲食業に関しては「回復するが変化する」。例えば、キッチンを共有して店舗を持たない「ゴーストキッチン」が流行るといったような変化があると考えています。

観光・宿泊業への影響は「回復しない」かもしれません。プライベートな旅行は2、3年たてば確実に回復すると思います。ただし、航空会社が収益をあげているのはビジネスクラスです。ビジネスでの移動は確実に減少し、利用は回復しないと考えられるので、ビジネスクラスに収益を依存しているメジャーな航空会社はこれからかなりきついでしょう。

新型コロナウィルスが発生して約1年弱ですね。来年(2021年)1年ぐらいで元に戻り、その後3~5年は若干影響が出るでしょう。その頃には、これまでにあったものが「価値が創出/増大するもの」「価値が回復/再定義(二極化)されるもの」「価値が消滅するもの」の3つに分かれるでしょう。

では、新型コロナの 2つの効果について詳しく述べます。COVID-19は、例えばハンコの廃止やテレワークの推奨といったことを、アーリーアダプタからアーリーマジョリティまで一気に押し進めた、よく言う「谷間(キャズム)」を乗り越えるアクセラレータになりました。

もう1つは、バランスがとれた最適化への是正です。こちらの効果は、全ての人たちが理解できるものではないと思います。COVID-19は、行きすぎた最適化は駄目と暗に示しています。例えば、これまで「東京やニューヨークのような超巨大都市はあらゆる面で有利だ」、「中国を使った国際分業が一番安い」が常識でしたが、実はそうではなかったということです。

ニューノーマルが出現するのは結局アメリカだけ

まず「新常態」に押し進めるアクセラレータとしての効果は、国によってどれぐらい違うのかから見てみることとします。

いろいろな見方がありますが、ここでは、オランダの社会科学者ヘールト・ホフステッドが開発した、各国の国民性を示す「ホフステッド指数」で見てみます。

ホフステッド指数は、以下の6つの指標で構成されています。

1.Power distance index (PDI) 上下関係の強さ
2.Individualism (IDV) 個人主義傾向の強さ
3.Uncertainty avoidance index (UAI) 不確実性の回避傾向の強さ
4.Masculinity (MAS) 男らしさを求める強さ
5.Long-term orientation (LTO) 長期主義的傾向の強さ
6.Indulgence versus restraint (IVR) 快楽的か禁欲的か

私が今回注目したのは、2、3、5、6。変化しやすさに関係すると考えられる要素に注目しました。それぞれ65カ国ぐらいの順位が出ています。これを基にホフステッド指数から見た「変化しやすさ指標」という独自指標をつくってみました。

例えば「個人主義が強ければ変化しやすい」、「快楽的なほうが変化しやすい」と仮定して、変化しやすいほうが、ポイントが高くなるように計算式をつくりました。すると面白いことにアジアはほとんど変わらず、アメリカとイギリスはとても変わりやすい。EUはさほど変わらないという結果となりました。

ただ、これだけで変化しやすいとは言い切れませんよね。そこで、死亡者数や失業者数、ロックダウンという社会現象を経験したかどうかも要因として加味することにしました。厳密に言えば、同じロックダウンでも、中国のように自宅から一歩も出られないケースもあれば、カリフォルニアのように買い物はOKというケースもあります。そもそも日本はロックダウンをしていませんよね。そういったことは精神面で大きな差が生じると仮定しました。

ホフステッド指数、心理的な要因として死亡者数、失業者数、ロックダウン、それから実際のインタビューで総合的に判断すると、日本、中国、インドは元に戻る、アメリカとイギリスは大きく変わる、ドイツとフランスは部分的に変わる。イタリアとスペインは元に戻るという仮説が得られました。

つまり、私の仮説が正しければ、「新常態(ニューノーマル)」が出てくるのはアメリカぐらいで、他の国々はそうはならないということになります。日本でも「新常態!」と書き立てるメディアや論客も多いですが、これからの動向をみれば、どちらが正しいか、わかると思います。

パンデミックだけでは永続的変化は起こらない

もう少し確信を得るために、過去のパンデミックによる永続的な変化を史実に基づいて検証してみます。

ペスト、コレラ、スペイン風邪、COVID-19は、最初のペストを除けば、残りは概ね100年ごとに起きています。感染経路もほぼ変わりません。実は100年前のスペイン風邪のときすでに「マスクの着用」「ソーシャルディスタンス」の対策としての有効性が明確になっていたのですが、COVID-19が流行し始めた頃は過去の経験を上手に活かすことができず、「過去から何を学んだのか」という感じですよね。

過去のパンデミックによる永続的変化の例をみると、一時的な変化はあるものの、それと永続的な変化は別物であることが分かります。単純にパンデミックによってのみ社会が変化したわけではありません。今でいうと“Black Lives Matter”などの様々な社会活動があって構造変化を加速させることはあっても、社会の構造変化は、パンデミックを耐え抜いた後にご褒美として付いてくるものはないと言われていますし、私もそう考えています。その意味では、もし、日本が耐え忍ぶことで、この苦境を乗り越えようとしたとしたら、日本は何も学ばずに元に戻るのではないかと心配です。

ここまでをまとめると、日本はほとんど元に戻るので、戦略やゴールの変更は不要だと考えています。中国も日本と同じくほぼ元に戻りますが、但し、元の中国に戻るので、日本の戻り先とは違います。また、ご存じのように対米戦略がCOVID-19による影響よりはるかに大きいので、そちらを考慮する必要があります。アメリカは9月時点で既に20万人が亡くなっているし、今なお経済の復興の道筋が見えてきません、つまり、新型コロナウィルス禍後に生じる「新常態」に合わせたゴールの見直しが必須となります。

イギリスは経済規模的にそれほど大きくなく、EUも変革と呼ぶほどの変化まで気にする必要はないと考えています。そして、インドは、日本や中国と同様、ほとんど変わらないでしょう。よって、注意すべきは日本、中国、アメリカということですね。

後編に続く
(文=荻島央江)

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