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米中日のマクロ環境から見るアフターコロナの世界 vol.2ビジネスの新しい「+1体験」

投稿日:2021/01/22

新型コロナウィルス禍で「新常態(ニューノーマル)」になると言われているが、果てして本当か。2020年9月24日、オンラインでデンソー鈴木万治氏によるテクノベート勉強会「米中日のマクロ環境から見るアフターコロナの世界と自動車産業」を開催。前編では、「新型コロナの 2つの効果」「各国への影響」について分析をした。後編では、それを受けビジネスゴールがどう変わるかを紹介する。

中間的なソリューションでは勝てない

さて、国別の概観が分かったところで、では具体的にどうすればいいのかですよね。ポイントは、自動車業界や他業種で、この傾向はゴール設定にどう影響するかです。

分かりやすいのは、よく言われる二極化です。会議は、リアルで会うことが少なくなり、オンラインでのミーティングに切り替わっています。当然ですが、リアルのリッチな体験とオンラインのライトな体験ではギャップがあり過ぎるので、その中間を埋めていこうというソリューションがたくさん出てくるわけです。

例えば、Facebook Reality Labsが開発しているツールの場合、3Dのアバターのモデルを事前に交換しておいて、それらのモデルをリアルタイムで駆動します。これが実用化されればかなりよい感じですね。テーブルのまわりに3人座って、顔を見ながら話をするところぐらいまでできるようになります。但し、今の技術ではゴーグルが必須となることは、避けられませんが。

注意すべきは、中間的なソリューションでは、高い付加価値を提供することは極めて困難だということです。ミーティングでいうと、特別な体験を提供することで、マネタイズできるミーティングは何か……といったことかもしれません。今(2020年9月末時点)、ライブやコンサートができませんよね。そんな時に、例えば、8月にゲーム『FORTNITE(フォートナイト)』が、米津玄師さんのバーチャルイベントを開催しましたが、とてもすばらしい挑戦だと思いました。登場するキャラクターが、本物そっくりの米津玄師さんみたいになるとか、逆にバーチャルなアイドルみたいな軸に振れば、マネタイズができる可能性はあるかもしれません。便宜上、従来比100%以上の価値を提供するものを「+1体験」とここでは定義しました。

下は、「フレームワーク的にこう考えると分かりやすい」という表です。業界のドメインがあり、「ライト体験」「中間体験」「リッチ体験」「軸を変えた(+1)体験」の4つがあります。難しいのは、軸を変えた体験です。

例えば、モビリティをみてみましょう。ライト体験ならカー・シェアリング、リッチ体験は自分で所有する自家用車。カリフォルニアでは最近、少数で共有する、シェア・カーのようなものが出てきました。それはあくまで中間体験なので、「+1体験」としては「拡張居住空間」を提供できると良い。このように考えると、様々な業界や分野、製品に対して、このフレームワークが適用できることがわかります。

都市に関しては、超高齢化と対峙していかねばいけない日本において、その都市に住んでいるだけですごく元気になる、意識せずに元気になれるスマートシティができたら良いと思っています。スマートシティを「手段」で論じるケースも少なくないですが、大事なことは「提供価値」で考えることです。

今回の新型コロナ禍で東京一極集中の問題点が浮き彫りになりました。下の図はブロックチェーンと同じ考え方ですが、都市の構造を自律分散的な構造にして、自給自足が可能なコミュニティ単位のネットワーク構造を実現したり、工夫を凝らした適度な不便さ、つまり「不便益」をうまく設計すればいいと思っています。

目指すべきは、テスラとネットフリックス

今日、モビリティ分野ではConnected、Autonomous、Shared、Electrificationの頭文字を取って「CASE」という言葉を、誰もが使っています。MaaS(Mobility as a Service)も同じですよね。ドイツのボッシュは最近、“Share”ではなく、“Personal Owned”という言葉を使い始めていて、CASEではなくPACEという用語を使う時もあります。もちろん、それらはとても大事なトレンドではありますが、加えて、不便益最適化のゴールとして、テスラやネットフリックスのようなデータ駆動型のビジネスを構築することが重要だと考えています。

自動車業界にみえる方でも、テスラをEVメーカーだと思われている方も多いのですが、会社名を「Tesla Motors」から「Tesla」に改名したことからもわかるように、テスラはバッテリー&エネルギー企業と考えるべきでしょう。クルマはバッテリーで優位に立ち収益を上げるために、そして“イーロン・マスク体験”を売るための媒体として売っていると言っても過言ではなく、所謂クルマを売っているわけではないと考えると、テスラのことを正しく理解できます

所有者にとってのテスラ車の魅力は、イーロン・マスクが「来週からこんな機能を出すよ」とツイートすると、「サンタモード」「Party and Campingモード」「Dogモード」など、それまでにはなかった新しい機能が登場するところにあります。ただ、それらは、いずれも我々のエンジニアがやれば、機能的には数週間でできるような小物が多いです。でも我々はやらないし、お客さまである自動車メーカーからも要請はありません。テスラ所有者が喜ぶと思ったら、当たり前のように、それをやるのがテスラです。大人にとっては、ジョークでしかない「サンタモード」は、子供たちには大ウケです。子供たちに「何でこのクルマにはサンタモードがないの?」と聞かれたら……親としてはテスラ以外は買えませんよね(笑)。

過激なツイートで有名でもあるイーロン・マスクですが、こんなツイートも有名です。「2019年に、追って完全自動運転にアップグレードできないような車を買うのは、1919年において車の代わりに馬を買うようなものだ」……痛烈ですよね。テスラの何がいいのかといえば、まるでスマートフォンのようにアップデートによる機能追加が可能であることです。

製造業の製品は購入した時点の価値、品質が最も高く、機能はずっと変わらない。あなたが2019年モデルのクルマを買ったら、2020年になった途端に価値が下がり機能も劣ってしまいます。それに対して、テスラは買ってからも価値、品質や機能を上げることが可能です。こう考えると、我々はIT業界から、どうしたらクルマでも「Point of Use」で品質を確保できるかを学ぶべきだと感じています。

次に、データ駆動型のビジネスを構築するにはどうしたらいいのかについてお話しします。

ネットフリックスは、多くのデータを収集していますが、例えば、視聴者の性別や年齢、居住地といった属性は取得していません。その代わり、視聴者が何を見て、どこで止めて、次に何を見たかといった行動データは膨大な量持っています。その膨大なデータを、膨大な状態で活用しているのがネットフリックスの強みです。よく言われるように「膨大なデータだと扱えないので絞り込んで……」としてしまうと、もしかしたら大切なデータが、そこで失われてしまっているかもしれません。ネットフリックスは、視聴者一人ひとりに対してカスタマイズしています。例えば、画面に表示される映画タイトルなどのサムネイル画像は、個人個人で違っています。その人が一番クリックしそうなシーンがタイトル画像になっているからです。膨大なデータを膨大なまま扱い、きめ細やかな対応を実現することが鍵となります。

テスラは、自前で充電ステーションを開発、整備しています。何故でしょう?販売しているクルマが充電するたびにデータを吸い上げられるからです。巨額な投資ではありますが、充電インフラを整備することで、手に入るデータの価値を考えれば、お得な投資と言っても間違いないでしょう。「そんな膨大なデータをどうやって扱っているの?」というころが強みですね。そこがデータサイエンティストの腕の見せ所でもあります。膨大なデータを「どう絞り込んで使うか」と言っている人は、その時点でデータの価値についての理解が不足しているのかもしれません。

モビリティに何が提供できるか

超高齢化社会という意味では、世界的に課題先進国である日本なので、高齢者向けのソリューションをいくつか考えています。これは介護関係者の方から話を聞いて考えたものです。介護関係者の方曰く高齢者がQoL(Quality of Life)を落とすパターンは決まっているそうです。典型的なものは、歩行中に転倒して骨折、入院後に認知症を発症したり、寝たきりになったりというパターンということでした。ただ、これを防ぐ方法は案外簡単で、本人は辛いかもしれませんが、入院させずに、通院するのがいいそうです。通院すれば時間はかかっても確実に元通りに治るそうです。例えば、多少不便でも、本人の通院支援を実現するようなMaaS(Mobility as a Service)を実現すれば、認知症の発症や寝たきりになることを防止できて、ご本人やご家族の人生を、より良いものにできると思います。

実は、私はシリコンバレーから帰国後、地方に住んでいますが、クルマを買っていません。「地方でクルマなしでどうなるか」を自分自身で試しています。従来のクルマは移動のためのデバイスで、主に通勤時間のときだけ価値を提供していて、残りの時間は場所を占有しているだけでした。しかし、例えば、クルマが停車時でも空間としての価値を提供できるようになったとしたらどうなるでしょうか?在宅勤務が浸透した今、自宅での拡張居住空間となるスペースを提供するなど、空間提供のためのデバイスに進化することで、一気に大きな価値が提供できるようになると思います。サービス全体は、例えばグーグルが設計して、ハードウエアは自動車業界が提供する、互いの強みを活かした協業ができればと思います。

ここまでをまとめてみます。すべての業態で、ユーザー体験は、実体験(リッチ)とオンライン体験(ライト)に二極化します。その間にある大きなギャップを埋めるための中間のソリューションがたくさん登場していますし、これからも増加するでしょう。しかし、それはみんなが考えますし、しょせん補完的なものに過ぎないので、それほど高い価値提供が生まれるものではありません。よって、狙うべきは、従来とは全く違う軸の高い価値を提供する「+1体験」の考案と実現だと考えます。中間体験のソリューションは、多くの人が参入するので、レッドオーシャンになりますし、+1体験は見つけることは難しいですが、もし発見できたら、それはブルーオーシャンになるでしょう。

ポストCOVID-19はどうなるか、米中日の今後

さて、今日、2つめのテーマは、ポストCOVID-19はどうなるか、米中日の今後についてです。これを理解することが、戦略構築において、とても重要です。

引用したGDPの予測データには「2029年前後にアメリカと中国は逆転する」とあります。点線で追記したのは、今回の私の予測です。

アメリカは落ち込みの時間が長く、ゆっくり立ち上がっています。本来、この減速から早く立ち直らないといけないのですが、感染拡大の抑制がなかなかできずに苦しんでいます。そんな中、一部、「新常態(The New Normal)」が出てきています。

アメリカでは中国依存度の低減と自国の調達主義が台頭しています。ひとつ覚えておくと良いのは、“Made in America Strikes Back”というキーワードです。要は「アメリカでもう1回ものづくりをしよう」という動きです。アメリカ国内でのものづくりは、これまでは、なかなか成功できませんでした。それは属人性の要素があったからです。今回は人間を最低限として、AIとロボットでやろうとしています。「Touch-less World」「D2C Everything」というキーワードも生まれていて、その意味でアメリカは、日本に比べると「新常態」に関係したビジネスチャンスはかなり多いでしょう。

中国は落ち込みの時間が短く、しかも急速に立ち上がっています。結果として、少ないダメージで、デジタル化とオンライン化が加速しました。今でも海外旅行は無理ですが、中国は国土が広大で人口も多いので、国内旅行がかなり戻っています。アフリカ市場も活況です。加えて、今はデジタル人民元なども開発していますよね。もし、ドルに替わる標準通貨を狙うといったことを始めると、結構ややこしくなります。

最後は日本です。残念ですが、私から見た日本は変化なき低成長で、経済的には日本沈没という印象も否めません。何も良い要素がないように見えてしまいます。これだけの変化要因があるにも関わらず、なぜ変わらないのか、何故変われないのか?これはみなさんのご意見を伺いたいところです。

質疑応答編に続く
(文=荻島央江)

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