【個人と会社の幸せの両立 #2】チームの満足度を高める「ローカルルール」 マネージャーの「愛」が不可欠

「働き方改革がうまくいっている」という実感は、ビジネスパーソンたちの多くが持てていない。前回紹介したように、我々がグロービス経営大学院の学生を対象に調べた予備調査でも、3割に満たなかった。そんな少数派の「働き方改革」成功者たちのなかでも特に、自社および、所属部署の働き方に対してなんらか行動を起こした数人のミドルマネージャーたちに話を聞いた。

共通して浮き彫りになったのは、「会社からは言われていない」「本業とは異なるが」――といった、比較的十分に与えられた裁量、自由度を背景に、ミドルマネージャーが「自主的」「積極的」に運用する「ローカルルール」の存在だった。

■ローカルルールの事例「3つの解消したい課題」

私たちが上記の調査およびインタビューを経たところ、ローカルルールを作ることで社員の不安や満足度を改善できる要素は大きく3つあるようだ。

1.厳格すぎるルールで生まれる「窮屈な空気」
2.部署や職種が異なることでおきる待遇や制度への不平等感
3.「サボリーマン」の存在

全体の制度では埋められない、この3つの課題を改善するため、もっとも多くのミドルマネージャーが実施していたのが、「ワン・オン・ワン」と呼ばれる1対1のミーティングだ。

大人数でのミーティングよりも、信頼のおける相手とじっくり時間をかけて話す「ワン・オン・ワン」は、「話しにくいこと」「ちょっとした気づき」を言いやすくする場だ。管理という側面においても、1人に対する丁寧な指導や、こまめな「ワン・オン・ワン」でフォローされているという実感を持ち、モチベーションの向上につながるなどで「サボる」状況の改善が期待される。

「勉強会」を積極的に活用する事例も多かった。社員全員を対象に、社長がスピーチ等で会社のビジョンや全体の経営方針を発表しても、すそ野まで伝わりにくい。ミドルマネージャーは現場、少人数で双方向の勉強会を実施、理念の浸透を図っていた。

別のやり方は、「仲間の職場以外の顔を知る」取り組みだ。A社では、チームメンバーの趣味や家族の様子など、仕事と離れたプライベートの横顔を「リレー形式」でオンライン上で紹介しあうなど、互いをよりよく知るしくみを工夫していた。成功につながる「ローカルルール」の共通点は、「心理的な安全」をいかに担保するか、という工夫がされているところだ。しかし、ミドルマネージャーの手間、いいかえるなら「負担」が大きいところは、デメリットといえるかもしれない。

■ローカルルールには絶対的な解は無い--カスタマイズが必要

ローカルルールはどうすれば成功し、使い続けられるだろうか。ローカルルールの難しさを示す事例もある。わかりやすい例が「飲み会」だ。B社は、管理職が誕生日などの記念日に自らホストとなり、部下らに楽しんでもらう自由参加の飲み会を開いていた。この仕組みで工夫しているのは、「強制的な飲み会」と部員が感じないような声かけなどの雰囲気作りだ。

勤怠などのルールも、運用が大切だ。タイムカードなどで厳しく管理する企業は多い。しかし、なんらかの理由でルールを守れなかった際の対応に違いが生まれる。たとえば、子どもが発熱した際など、予想の難しい「欠席」が起きるケースがある。

1つ目のやり方は、ベビーシッターサービスや家族の支援など、いくつかの「リスクヘッジ」を従業員に「ほぼスキなく」備えることを求めるやり方だ。2つ目は、ミドルマネージャーが現場の状況に応じて、発生時に臨機応変な対応を求めるやり方だ。この2つのやり方は、どちらが「正解」ということはない。

形だけ同じ手法をとっても、逆効果になりうる。「メンバーの属性」「目的」「金銭的な事情」など、変数も多い。「ローカルルールの成功」は非常に難度の高いスキルだといえそうだ。飲み会のようなコミュニケーションに関しては「参加したくない」という人も出てくる。

「10人以内でも全員に適用させる」ことが大切になる上で、どう取り組めばいいのか。「始めからやってくれそうで、かつ周りからも信頼されている人を巻き込む相手に選ぶ」B社に勤務するミドルマネージャーはこう語る。さらに、「最初は少人数から始める。やっている人たちを見て、楽しそうだったら、徐々に入ってくる人がいる」とも。

B社でのローカルルールが浸透する仕組みはこうだ。

このように導入した事例のなかには、あるベンチャー企業が作ったコミュニケーションアプリを、マネージャーの裁量で導入した事例もある。企業全体で入れるには時間がかかっても、小さな単位であれば、導入も中止も決断しやすい。このサイクルをうまく回している事例は、まだ数が少ないものの、複数のミドルマネージャーから聞かれた。

■ローカルルール成功の鍵はマネージャーの「愛」

ここまで見てきたなかで、「ローカルルール」には課題も多い。なかでも最大のポイントは、不確実性が高い点である。運営する「ミドルマネージャー」が部員の個性をどこまで理解できるかが、成功のカギとなることだ。理解するには、ときには愛にも等しい「エネルギー」が必要だ。

ある大手メーカーのグループ会社、C社で経営企画室のマネージャーを務めるYさんは、メンバーのモチベーションを開花させた。この企業は、大手メーカーのグループ会社ではあるものの、地元出身者で多く構成された、数百人ほどの地元密着型の企業だ。

実は、経営企画室にはやや課題のある社員、たとえば対面での会話があまり得意でない社員などが何人か在籍していた。Yさんの前任者は、チームメンバーに仕事を振るより自分でやったほうが速いと考え、大半の仕事を自らこなさざるを得ない状況となっていた。しかし、Aさんはチームで仕事をし、やりがいを感じさせたいと、「ローカルルール」を作った。部員に「効率をよくして休みをとる」ためのオンラインカレンダーの導入や、誰もがコミュニケーションを取りやすい空気を創るためのチャットツールの導入といった、経営企画室独自の「ルール」だ。コミュニケーションを誰もが取りやすい空気を作ろうとしたところ、対面が苦手な人はチャットツールでコミュニケーションを取るようになってきた。チームメンバーとの「ワン・オン・ワン」も実施。メンバーのなかに、プログラミングに長じている人材がいることもわかってきた。

ツールを変えながらコミュニケーションを密に取ったことで、メンバーの仕事に対するモチベーションとエンゲージメントが改善されたという。

「ローカルルール」の設定と運用は手間がかかる。しかも、正解はない難しさがある。この仕事の達成に不可欠になってくるものはミドルマネージャーがどこまでメンバー、そして所属企業に愛情を持てるか否かだ。その高い「不確実性」をいかに「確実」なものにあげていくか。しくみとして工夫していくのか。新型コロナウイルスの感染拡大によって在宅勤務、リモートワークが広がり、より分断されたチームでの仕事が求められる今、「ローカルルール」の重要度は高い。

次章以降では、「コロナ禍での在宅勤務におけるローカルルール」について紹介したい。

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