本記事は、2020年6月14日に開催されたG1ベンチャー2020「withコロナ時代における新たな組織と働き方」の内容を書き起こしたものです(全2回 後編、前編はこちら)
岡島悦子氏(以下、敬称略):それではここからは「ジョブ型」や「メンバーシップ型」といった働き方の話をしたいと思います。エッセンシャルワーカーというのは、どちらかというと「ジョブ型」。たとえばカスタマーサクセス(以下、CS)や物流といった職種・業種に閉じた形ということで、ある意味、オイシックスさん以外のところでもCSをやっていけるということなのだと思います。一方で、「オイシックス・ラ・大地であればどの職種でもいける」という、ジェネラリストのようなポータブルスキルを持っているのは「メンバーシップ型」という風に理解しています。
そうした視点で考えると、丸井グループはかなり職変があるというか、50%以上の方がカンパニーをまたいだりしていますよね。たとえば小売をやっていた方がエポスカードのコールセンターで働くといった話を含めて、メンバーシップ型の社員の方々が多いと理解しています。
他方で、今の世の中の流れとして、今回のコロナを通して「ジョブ型が増えていくのではないか」と言う識者の方もいます。その人たちがプロ化していくことにより、ある意味では有期の契約社員のような形になって流動性が高まるのではないか、と。もちろん、それはメンバーシップ型が偉くてジョブ型がそうじゃないといった話ではないですし、給与についても、髙島さんがお話しした通り、スペシャリティがあれば高くなることもあると思っています。そうしたメンバーシップ型とジョブ型の新しい働き方、あるいはそうした人たちによる新しい組織にあり方について、青井さんはどのように見ていらっしゃいますか?
「人生100年時代」に個人が成長し続けるためには
青井浩氏(以下、敬称略):大方の予測としては、「今回のことをきっかけにジョブ型が増える」と言われていますよね。で、たしかにその通りなんですが、その見方については若干の違和感みたいなものもあります。どういうことか。たとえば、当社には「人の成長=企業の成長」という理念があります。「企業は人が成長するぶんしか成長できない」ということですが、それを原点に考えてみるとどうなるか。人生100年時代と言われているなかでは、一人一人がどれほど成長し続けられるかが大事になるのだと思っています。
たとえば欧米のように労働市場の流動性が高い場合、ジョブ型でいろいろな会社を経験することによってプロフェッショナルとして成長し続けることができます。日本でも、たとえば証券業界等は比較的そういう感じだと思います。しかし、全般的に言えば日本は流動性が低い。それならば、たとえば企業内で成長し続けられるような制度や機会を企業側が提供できないと、人材が陳腐化してしまうというか、人の成長も止まってしまうと思うんですね。
それで、当社は「グループ内のいろいろな職種を経験することで成長し続けられるようにしてはどうか」としています。それが、結果的には外から見ると典型的なメンバーシップ型に見えるのかもしれません。ただ、考え方としては、「メンバーシップ型かジョブ型か」というより、「どうすれば一人一人が人生100年時代も成長し続けることができるのか」。そういうことを、個人の側も、企業というか雇い主の側も、互いに考えることが大事になるのではないかと思っています。
岡島:ある意味、ジョブローテーションを通じて組織のケイパビリティみたいなものも高まるということですよね。非連続の成長をしていくと、今までいた人のケイパビリティがそこに追いつかなくなってしまうといったことはよく言われます。その点では「メンバーシップ型が今後結構難しいのでは?」とも言われていますが、そうではなく、成長しているところに人を張って、そこで成長させていく。それによって、事業ドメインとともに組織のケイパビリティも高めていこう、と。
青井:現在の考え方というのは、歴史が長く、ある程度の規模がある当社のような企業で、なぜイノベーションが起こせないのかという反省から生じています。やはり1つの仕事を長くやっていると変化を受け入れにくくなる傾向が、全般的に認められるわけですね。ただ、若い人や異動してすぐの人ほど変化への順応性は高く、新しい変化を受け止めることもできるし、起こすこともできます。ですから、「それなら社内で意識的に流動性をつくり、新しいことが受け入れられやすい風土をつくっていけば、変化に対応し、新しいイノベーションや価値をつくっていけるのではないか」と。そういう発想でやっています。ですから、withコロナによってその辺が変わるかというと、あまり変わらないのかなという気がしています。
岡島:髙島さんはいかがですか? オイシックス・ラ・大地には、たとえば社会課題の解決といったことをおっしゃるミッションドリブンな方が多いという気がしていますが。
僕は「愛する」ことに決めた
髙島宏平氏(以下、敬称略):確実に起きると思っているのはエッセンシャルワーカーのメンバーシップ化という点です。(コロナ禍のもとでは)危険なんですよ、人の移動が。アマゾンでも、アメリカの食肉工場でも、韓国の物流拠点でも、とにかく不特定多数の人が働く環境はすごくリスクが高い。ですから、たとえば僕らも特定の人しか倉庫のなかに入れないようにしていかなければいけないなと考えているし、それは皆同じだと思います。それで、今まではどこの物流事業者でも「日雇いで良かったよね」というエッセンシャルワーカーの方々の囲い込みや奪い合いが、確実に起きるだろうと思っています。
一方、今までオフィスで働いていて、現在家で働くことになった人たちはどうか。「リモートで大丈夫だった」と言っている人たちのうち、一部の人たちはすごく高いパフォーマンスを見せているのでジョブ化できると思います。ただ、「リモートでもまったく問題ないじゃん」と言っている人の大半は、リモートではその人の6掛けぐらいのバリューしか出なくなっている。でも、そもそも普段から余計なことや役に立たないことをしていたので、6掛けでも誰も気づかなかった、と。そういう人たちは結構多いと思うんです。
おそらく、そこで経営者が問われているのは、「リモートで全然できた」と言っているそのポジションを、ジョブ化するのか、メンバーとして抱えるのか。これは、もう好みだと思うんですよ。合理的な判断で、ジョブ化したほうが変動費化できてコストが低く収まるという考え方もあります。でも、そうではなくて、そういう人たちも含めて、まあ、愛するかどうかという話もある、と。その点、僕は愛することに決めたので、そういう人たちと一緒にやっていくと決めています。そういう意味で、世の中のごく一部のジョブ化という流れはあると思いますが、大半は、やはり組織に帰属する、さまざまな無駄も包含したチームとしてやっていくというやり方もあるのかなと思っています。
岡島:青井さんはそのあたり、どのようにお考えですか。
オープンイノベーションは「メンバーシップ型」の方が良い
青井:なにかこう、染みました(笑)。「愛すると決めた」というのが、すごくいいなあ、と。組織のお話については、機能的な部分ともう1つ、組織文化の話があって、僕はそこがすごく大事だと思っています。メンバーシップ型というのはあまり分が良くないですけれども、1つ良いことがあるとしたら企業文化を培いやすい点だと思うんですね。僕たちはこれから小売およびフィンテックという既存事業に加えて、いろいろなベンチャー企業さんと「共創投資」ということで、オープンイノベーションで価値をつくっていきたいと考えています。で、「それならオープンイノベーションができる企業風土をつくっていこう」ということで、これまでの上意下達、指示命令徹底型という組織のあり方から、「自立分散型へ移行しよう」と。それで、社内では「手を挙げて参加する」という風に言っていますが、いろいろな場を通して自律的な組織を培ってきています。
ただ、そこではメンバーシップ型のような、いい意味での安心感が必要になると考えています。心理的安全性のようなものが提供できないと、「こんなことをやっていて大丈夫なのかな」と(笑)。心配になってオープンイノベーションのようなこともなかなかできなくなってしまうように思います。ですから、僕たちもその辺を大事にしたいと考えていますし、リモートワークがこれほどできると分かった今も、そのための場や機会は一層大事になっていくと感じています。
岡島:いろいろな会社でリモートワークについてお話をしていて、4つほどの大切な要素があるかなと思うようになりました。1つ目は、今のお話に出てきたような企業文化のお話ですね。で、2つ目は業務の特性。これは、たとえばハンコのように、技術的に解決できる部分があるかもしれません。それから3つ目は、「個人の価値観というものが顕在化してきた」という点ですね。「私はやっぱり飲み会が嫌だった」とか「通勤電車が嫌だった」とか。そして4つ目が生活環境に関わる部分です。うちにも小さい子どもがいますけれども、コロナで休校していた学校や保育園が再開したりすると、また少し変わってくる可能性があります。ただ、こちらも技術で担保できることは、ある程度あるのではないかなと考えていました。
このなかで、特にいろいろな企業さんが考えているのは経営者の意思と企業文化のところなのかなと思っています。サイバーエージェントさんは週4日勤務にして月曜日はお休みになるそうですが、そのようにした背景には企業文化があるといったことをおっしゃっていました。やはり新しい組織のあり方については企業文化が大きく関係してくるように思いますが、髙島さんはそのあたり、どのようにお考えでしょうか。
「働きやすさ」と「働きがい」、どちらで人を惹きつけるか
髙島:サイバーエージェントさんやヤフーさんのそうしたお話については、気をつけておかないと、なんというか、雑音的にたくさん入ってくるというか。「この会社、こんなに働きやすそう」「あの会社、あんなに働きやすそう」なんて惑ったりすると思うんです。
岡島:「こういう制度が出てきました」みたいな話には惑わされやすいですよね。
髙島:そういうの、危険だなと思っています。そもそも働き方について考えると、働きやすさの話と働きがいの話があるわけで、では何で人を惹きつけるのか。そこで、「そもそもうちの会社、なんだっけ?」ということをきちんと考えなければいけないと思っています。そこでよく考えてみると、僕らは普段からそれほど働きやすい会社ではなかったわけですね。働きやすさによって人を惹きつけているわけではなく、働きがいですとか大義ですとか、社会を変えることにコミットしている感覚があって、それが人に選ばれているポイントだったんですね。僕らの場合はそうです。
これ、「組織が先か企業が先か」という話でもありますし、これからのし上がっていこうという多くのベンチャー企業とすれば、事業環境が変わらなければ働き方を変えるというのもあると思います。ただ、僕らの場合は、事業環境がどんどん変わっていくwithコロナおよびafterコロナの時代にあっても、社会から必要とされる、働きがいのある会社・事業・社員であり続けることのほうが大事だと考えているわけですね。ですから、たとえば制度的にはいろいろな企業さんが「すごいな」と思えるようなことをやっている話も聞くし、社員もそういうことを言ってきます。でも、まあ、そこは負けない程度に、(選ばれるかどうかの)クリティカルな分かれ目にならないよう働く環境は用意しつつ、とにかく働きがいを徹底的に磨いていく。そういう側に、僕らの場合はポジションを取ってやっていこうとしています。
岡島:そこは企業のコアコンピタンスのようなところとも深く関係する部分ですよね。今のお話に関して言えば、丸井グループも同じような形ではないかと思います。
青井:そうですね。すごく共感できます。
岡島:そういう意味では、今聴いてくださっている経営者の方々にとっても、今回のことは「我々の強みは何なのか」といったことを再度考える良い機会になっているように思います。多くの企業は新しい制度や福利厚生に厚みを加えたりするということをやりがちですが、そうした動きはサステナブルにはなかなか難しかったりもするので。また、私もどちらかというと“宗派”としては働きがいのほうですし、しかも、すべての制度は報酬にインクルードされるべきであり、個別の制度で払われるべきではないと考えていますので、その辺も含めて今のお話はすごく刺さりました。
それともう1つ、お二人には経営者としての働き方についても伺ってみたいと思っています。まず髙島さん。今回のコロナショックによって働き方を見直すということではないと思いますが、それでもいろいろなことを考える良いきっかけにはなったとは思います。また、今日いらしていただいているベンチャー企業経営者の方々も、起業年数が結構経ってきた方は多いと思うんですね。そうなると、もしかしたら今回のような有事は、逆に今までいなかったプレイヤーが破壊的イノベーターとしてやってきて、皆さまが挑戦される側になる可能性も結構あると思っています。そうした部分も含めて、経営者として何か考えていらっしゃることがあれば、ぜひ伺いたいと思っていました。
経営者が戦時にすべき2つのこと
髙島:挑戦されるほどの規模ではないと思っているので、それ自体はあまり気にしてはいません。ただ、僕らも起業してもうすぐ20年ということで、成長角度もだんだん予測がつく感じになってきました。で、それに満足できないわけですね。でも、戦うべき時間は平等じゃないというか、戦うべきときに戦わないと、無駄に足掻いている感じになったり、1人で空回りしたりすると思うんです。ですから、どちらかというと、こういう戦争状態を待っている感じはあったんですよ、自分としては。なんというか、戦時の経営は人を疲弊させますから、普段からやっていると誰もついてこなくなります。ですから、現在のような形で力を発揮できる環境になるのを待って、そのときが来たら一気に力を発揮しよう、と。
それと、この戦争のような局面は人を大きく成長させることもできると思っています。うちの会社には「ZSY」というチームがあるんですが…。
岡島:なんですかそれは?
髙島:「絶対(Z)すぐ(S)やる(Y)」チームです。
岡島:なるほど(笑)。
髙島:そのZSYチームにアサインされる人数は物事の大変さによって決まりますが、今は10~20人ほどいます。そのうえで、このチームは現在、普段の仕事からすべて離れて今回の危機対応だけにあたっています。今は僕の直属ということで20人ほどのチームですが、この人たちは一気に成長するすごく良い機会だと思います。
まとめると、こういうときの経営者の仕事は、一つは「一気に自分の力を発揮し切ること」。この期間、僕は本をまったく読んでいません。アウトプットだけ。インプットはまったくしていません。それで、とにかく力を発揮し切る。2つ目が、「そのあとコアになるメンバーを同時につくっていくこと」。それが今の経営者の役割かなと思っています。
岡島:そういうアドレナリンが出ている経営者のもとで、一緒にアドレナリンを出す経験というのは、めちゃくちゃ人を成長させると感じます。
髙島:そうですね。それをリモートでやっています。リモートでその熱を伝えるというのが初めてだったので、僕としては面白かったですね。
岡島:その点で何か工夫していたことはありますか?
髙島:いや、どちらかというと結構離脱していったので(笑)。ですから、無理させずに人を入れ替えて(笑)。やっぱり入社したての人だったりすると。
岡島:リモートだと心のマッサージがしにくいですからね。青井さんはいかがですか?
青井:僕の場合、「むしろ逆方向かな」なんて思いながら聴いていました。私も社長になって15年ほど経ちますが、少しずつ、自分にしかできないことだけをやるようになってきています。その意味で今回はどうだったかというと、たとえば執行役員はオンライン会議を毎朝やっていたりするんですが、そこで主にリーダーシップを取っているのは危機対応に強い専務です。で、僕のほうはというと、「青井はちゃんと参加しているのかな」なんていうぐらい存在感がなくて(笑)。
ただ、そのあいだずっと考えていたのは、家賃の話でした。それで、「これ、どうするんだっけ」という話になったとき、いろいろと議論に入っていったわけですね。「どうするのが一番良いと思う?」と聞けば、「できれば全額免除が一番いいと思う」と言うので、「では、それをなぜやらないの?」と聞くと、「いや、それをやったら株主に怒られるでしょ」と言う。ですから、「それなら株主は僕のほうでなんとかするから、それしか心配事がないのなら、そんなのすぐできるよ」と。そんな風に役割分担をしてやっていく感じでした。
この意思決定に関して嬉しかったのは、お取引先から前向きな反応があっただけではなくて、社員にすごく喜ばれた点です。たぶん、お取引先から感謝を伝えられただけではなく、たとえば友だちや家族からも前向きなコメントをもらったんだと思うんです。今はそれでモチベーションがすごく高まっていて、すごく大変だけど、「ここはお取引先と一緒に頑張って乗り切ります」と。そういう雰囲気になって、妙に元気が出たりしていました。ですから、そんな風にピンポイントでずっと見ながら、「ここは僕がやらないとできないな」というところだけズバッと入っていって、あとは引くという、そんなスタイルに最近はなってきています。
岡島:ありがとうございます。先ほどの「愛情」という話に絡めて言えば、丸井さんは「お客さま愛」が半端ない社員の方々が多いですけれども、今回はそこにステークホルダーへの愛のようなお話も加わっってきたのかなと感じました。では、それぞれ最後に1言ずつ、新しい働き方や組織づくりといったテーマについてメッセージかコメントをいただければと思います。
Withコロナはベンチャーにとってはチャンス
髙島:今はベンチャーにとって大きなチャンスだと思います。やはり大企業には平時のリーダーの方が多いですし、ベンチャーにとっては下剋上のチャンスだな、と。2年後や3年後、おそらく業界図は大きく変わるので、その主役になれるよう、ぜひ皆で力を合わせてやっていきたいと思っています。また、やはりこういうときは自分の頭で考えることが、あるいは「皆がやっているからやる」という風にならないことがすごく大事になるとも思っています。ですから、皆で一生懸命考えて、2年後や3年後、新しい日本を一緒に創っていきましょう。
青井:髙島さんがおっしゃる通りで、withコロナというのは大企業にとってピンチ、ベンチャーにとってはチャンスだと考えています。そうした時代における当社の方向性や戦略は、ベンチャーの皆さんと協業して、オープンイノベーションをきちんと形にできる企業になること。それが将来に向けた方向性だと、もう覚悟を決めています。ですから、ぜひ皆さんと一緒に新しいビジネスを創っていきたいと思っています。今後ともよろしくお願い致します。
岡島:ありがとうございます。丸井グループは今スタートアップに人を次々出していますよね。特に若手の方々を、たとえばFABRIC TOKYOさんやBASEさんに出したりしていますので、その辺がリアルなオープンイノベーションにつながっていけばいいなと思っています。今日お二人にお話しいただいた通り、ベンチャー企業にとっても、そして大企業にとっても、やっぱり2020年は「組織や働き方に関する分水嶺だったね。あのときが世の中を分けたよね」という年になるのではないかと思います。その意味でも、お二人からたくさんの元気をいただいたように思います。改めまして、本日はありがとうございました。