withコロナ時代の新しい「働き方」「組織」とは〜青井浩×髙島宏平×岡島悦子

本記事は、2020年6月14日に開催されたG1ベンチャー2020「withコロナ時代における新たな組織と働き方」の内容を書き起こしたものです(全2回 前編)

岡島悦子氏(以下、敬称略):今は多くの会社が三密回避ということで、リモートワーク等オンラインでの仕事にシフトしてきました。その結果、働き方や組織の変化、あるいは個人や組織の価値観がかなり顕在化してきたと感じます。また、私は丸井グループほか上場企業5社で役員をやっていますが、「オフィスってなんだっけ」「組織ってなんだっけ」「会社ってなんだっけ」「働くってなんだっけ」と、働き方や組織の再定義についてもすごく議論されるようになってきました。

場合によっては、それでオフィスを半分ほど返してしまったり、人件費も変動化できる部分はしてしまったりして、スリムにして柔軟に対応できるようにしようといった話も出てきています。今日はそうした定義のお話も含めて御二方にじっくり伺いたいと思います。まずはコロナの影響で組織と働き方にどのような変化があったかについて、青井さんからお願い致します。

「働き方改革」の積み重ねにより、すぐにリモートワークへ移行

青井浩氏(以下、敬称略):私どもは店舗が中心のビジネスをしていますけれども、約2ヶ月間休業しなければいけませんでした。一部食品とEコマースは営業していましたが、全店が2ヶ月近く、ずっと休まなければいけないという、今まで考えたこともないことが起きたわけですね。当社は90年近い歴史がありますけれども、そのなかで1ヶ月以上お店を開けることができなかったのは、戦争中以外はありません。それほど、本当に未曾有のできごとでした。

ただ一方では、ここ10年ほどで小売からクレジットカードを中心としたフィンテックのほうへ事業構造がシフトしてきたなか、オフィス勤務というか、本社勤務の人員が増えてきていました。そういう方々が今2,200名ほどいますが、こちらについては去年から「オリンピック前にリモートワークにしていこう」と準備をしていました。それが間に合ったので、一気にリモートワークへ変わったということがあります。

ご想像の通り、当社はお店を基盤としたビジネスをやってきましたから、すごくアナログだったわけですね。ですから、「場」をベースとしたコミュニケーションや仕事のやり方が当たり前だった状態から、いきなりデジタルのリモートワークになったことで社員だけでなく役員にも大きな戸惑いはありました。でも、やってみたら意外とできるし、「便利だね」という部分もあった。それで、当初はリモートワークへの移行には1~2年ほどかかるのではないかと考えていましたが、2ヶ月ぐらいでできるようになりました。その辺の大きな変化はありましたね。

岡島:ダイバーシティ&インクルージョンも含め、働き方改革をこれまで10年ほどかけて進めてこられた背景があった、と。「自律・分散・強調」といったインターネット的な分散型の働き方をする下地は、かなりできていたということですよね。

青井:そうですね。働き方改革はかなり前から進めていました。一番力を入れて徹底していたのが残業の削減です。自称「日本一残業の少ない会社」ということで、今は平均残業時間も年間13時間ぐらいになります。時間で仕事をするのではなく、「価値を生み出すのが仕事だよね」「会社で長い時間を使うことが仕事ではないよね」という考え方で進めてきました。

ただ、無駄な残業がなくなって働く時間の自由が結構できた一方で、場所についてはまだすごく大きな制約がありました。そもそも電車に乗って通勤すること自体が大きなストレスになりますし、無駄もかなりあります。ですから、いろいろな場所で、その人のライフスタイルに応じて働けるような働き方を実現したいということで、2年ほど前から社内プロジェクトを有志で進めてきました。そうした動きが、おかげさまで、という言い方をしてしまって良いのか分かりませんが、コロナ禍のなかで一気に進んだということだと思います。

岡島:権限移譲がなされて、意思決定もかなりスピーディーにできるところがあったし、そのうえで、先ほどおっしゃっていた事業ポートフォリオの組み換えもあったということですね。それと、今回もう1つ特徴的だったのが家賃免除の話ではないかと思います。コロナ禍の対応という意味で、こちらについてもお話を伺いたいと思っています。

コロナが「パートナーシップとは何か」を考え直すきっかけに

青井:今回のコロナ危機のなかで我々が最も強く意識したのは、ステークホルダーとの関わりです。普段はお客さま・社員・株主を主に意識していましたが、今回ステークホルダーのなかで最も厳しい状況に置かれているのは誰だろうと考えてみると、やはりテナントさんを中心としたお取引先だろう、と。緊急事態宣言で突然休業を余儀なくされていたわけですね。私たちの“館”が丸ごと休業するということで、「私はやります」「私はやりたくない」といった選択権がないまま、ご協力いただく形で一斉に休まれていた、と。しかも、4月のGW前ぐらいの段階では休業がいつまで続くのか、終わりも見えない状況でした。

岡島:そこが一番つらいですよね。先が分からないという。

青井:そうなんです。で、そのなかでも固定費は出ていきますから、資金繰りに追われて大変厳しい状況に置かれていたわけですね。そういうお取引先やテナントさんに対し、我々は何ができて、何をするべきなのか。この点は役員のあいだでも相当議論を行いました。それで出した答えが期間中の家賃全額免除です。我々が今回改めて気づいたのは、お取引先さまとのパートナーシップですね。「取引の契約はどうなっているのか」とか、「こういう場合、家賃契約では全額請求できるのか」とか、そういう話ではなくて。今回のことは、もう少し中長期のパートナーシップについて、真剣に向き合って考える1つの大きなきっかけになりました。

岡島:「サステナブルが云々」といったきれいごとではなく、ともにやっていく共同体というか。資金繰り等々大変なところが多いなか、敷金も一時期お返しするといった対応も含め、文字通りパートナーとして、ステークホルダーとのあり方を見直していったということですね。

青井:4月の半ば頃でしたか、テレビでフリーランサーの方がすごく厳しい状況に置かれているというドキュメンタリーを見たことがあります。スポーツクラブでヨガのインストラクターをやっているフリーランサーの方だったんですが、突然収入が完全に途絶えてしまったわけですね。で、その女性は、「スポーツクラブは自分にとって大切なパートナーだと思っていた。同様に、スポーツクラブも自分のことをすごく大事なパートナーだと思ってくれているのではないかと思っていた」と言うんです。でも、現実にはスパッと切られてしまった。「これって一体どういうことだったんだろう」といった話をなさっていて、それがすごく染みたんですよね。

たしかに、家賃に関して言えば契約上は全額請求していいことになっていますが、多くの方々は減免をなさるということで、では、その幅は30%なのか50%なのか。それを考えるにあたって、どこに目安なり基準があるのかというと、どこにもないんです。結局、そこでどういうパートナーシップをつくっていきたいかという議論になったとき、「これは不可抗力なんだから、『テナントさんも収入がないなら我々もゼロだ』という以外にないのでは」というのが結論でした。そういうことをきちんとお伝えすることによって、中長期で、ある意味では今までなかった気づきに基づいてパートナーシップを互いに築いていくというスタートをきることができたと感じています。

岡島:新しい組織というとき、自社だけでなくステークホルダーを含めるようになってきたと感じます。特に、丸井グループは「共創」や「サステナブル経営」といったことをずっと掲げていらっしゃるわけですが、それが一層リアルな事例になって出てきたということかと思いました。

青井:そうですね。「組織」というと少し内向きというイメージがあると思います。でも、そこにステークホルダーの視点が入ってくると、結構外向きに開かれた感じになっていって、エコシステムといった話に広がると思うんですね。ですから、「ステークホルダーとの関係を見直すことで、エコシステムへの働きかけを行っていこう」と。エコシステムが豊かになることが、回り回って自社に利益や幸せとして還ってくる。そうした動きを、今回のコロナ危機をきっかけにして前へ進めていけたらと思っています。

岡島:ありがとうございます。では続いて髙島さん。今回のコロナ危機にあたって、組織や働き方についてどのようなことを考え、行っていかれたのでしょうか。

完全トップダウンの「戦時の経営体制」へ移行

髙島宏平氏(以下、敬称略):まずは青井さんとだいぶ違う視点のお話をしたいと思っています。僕らが何をやっていたかというと、今は物流等で1200人ほどの方を自社雇用していて、そちらはもちろん止めるわけにいかないのでフル稼働でした。場合によっては、その方々の15%ぐらいが休校の影響で働き続けられなくなったので、本社の社員が物流センターに行って、なんとかして物流を止めないようにするといったことをしていました。で、本社のほうは全体の10~15%ぐらいを出社の上限にしていたというのは、おそらく皆さんと同じだと思います。

そこで、働き方というか、組織について考えると、「戦時の経営」と「平時の経営」で違いがあると思っています。それで今回は明らかに「戦時」だと宣言したんですが、基本的にベンチャーの経営者は戦時が得意なんですよね。平時はあまり得意じゃない。

岡島:アドレナリンが出る人が多いですからね(笑)。

髙島:そうなんですよ。ただ、戦時の経営というのはブラック企業的になってしまうじゃないですか。で、それは立ち上げ時の仲間内だけの話であればまだしも上場あるいはその準備をしたりしてくるなかでは問題になってきます。でも、こういう危機が起きるとブラック的な働き方に大義が出てくるというか。自分たちの得意な戦い方に持ち込んだほうがいいですし、僕は戦時のほうが得意なので、「戦時の経営体制にしよう」と。それで、青井さんのお話とは逆なんですが、権限をまったく委譲せず、すべての権限も情報も集約していきました。それで2月からは毎日ミーティングをしていますが、すごく細かいことまでトップダウンで意思決定していくというやり方にしていました。

また、現在の会社には、かつての「大地を守る会」と「らでぃっしゅぼーや」という、僕の「戦争時代」の働き方を知らない人たちのほうが多いわけですね。ですから「戦争ってこういう風にやるものなんだ」と、(合併で)一緒になった人たちに見せていくことにも意味があると思いました。ですから、「大地」や「らでぃっしゅ」等、普段は権限委譲していたところも含めて、完全に情報を集約して戦うというやり方を今までしていました。

そのうえで、withコロナの時代はどういう時代かというと、おそらく、いつまた戦争が起きてもいいようにするという、膠着戦みたいなものだと思っています。afterコロナ時代の前の、このwithコロナ時代が結構長い。戦争が起きるか起きないか、よく分からないわけです。ですから、何か突然起きたことにもすぐに対応できるような働き方や組織づくりをしていくというのが、今はいいのかなと思っています。

岡島:「機敏な動きができるように」ということだと思います。それができているということは、たとえば平時、「何か有事になったらトップダウンで決めるよ」ということが、もともと皆のなかで認知されていたりしたのでしょうか?私も戦時のときはトップダウンしかないと思っています。不確実な状況のなか、何が正しいかという正確性は求められないというか、求めても仕方がないと思うので、ある意味では誰かが独裁的にやらざるを得ない、と。ただ、多くの企業では、「有事には独裁にするよ」ということも決まっておらず、その点が難しいなと思っています。

「戦時」のベンチャー経営者は「拙速」であることが重要

髙島:独裁はパフォーマンスを問われるんですよね。「(戦時には)誰かが独裁したほうがいいよね」というのは、皆、ある程度は分かっていると思います。ただ、誰がそれをするのがいいのかという話になると、皆の命もかかっているような状況ですから、とにかくパフォーマンスを見せるしかない。ですから大変な緊張感がありますよね。この数カ月間は、「この人に任せておいて良かった」という結果を残さなければいけない期間だったので、すごい緊張感がありました。

その意味では拙速であることが非常に重要だし、それが完全に是となる時期だと思っています。先日ある企業の方から「現在70個のサービスを進めている」といったお話を聞いたのですが、そのうち、まともなサービスはそれほど多くないと思うんです。ただ、拙速であることが大切なんですね。球をたくさん打つなかで、本当に伝わるものもあれば、それ自体はいまいちだけれども学びがあって次の球に活かせるものもある。だから、とにかく打席数を増やして拙速にやりまくって、最終的に生き残る確率を高めるという点で、パフォーマンスが問われる期間だと思います。

岡島:緊張感はありますが、不確実性が高い戦時は、皆が「誰かに決めて欲しい」と思う傾向があるので、そこでパフォーマンスを見せるというのは正解ですよね。

髙島:それがプレッシャーに感じるのならベンチャー経営は辞めたほうがいいです。むしろ、それが気持ちよくてやっているのだと思うんですよね。

岡島:G1ベンチャーに集まっている経営者の方は皆そうだと思います。青井さんはそのあたり、どのようにお考えですか?

青井:すごく面白いです。髙島さんは戦時が得意というか、戦時になれば燃えるタイプということで、「どういう戦いをするのか見せてやろう」といった感じだったと思うんですね。結局、そういう風にして得意な人が得意技を発揮すればいいのかなと思っています。たとえば僕の場合、危機のときのオペレーション管理は結構苦手です。でも、幸いにして、僕の同僚役員には危機下のオペレーション管理にめちゃくちゃ強い「守りの◯◯」みたいな人がいて、めちゃくちゃ活躍してくれる。それが本当に心強くて、僕の場合は「じゃあ、そこは任せたから安心だね」といった感じでした。

一方で僕のほうは、どちらかというと戦略ですとか、先ほどお話ししたパートナーシップの話のような中長期のことを、この機会にじっくり考えることができました。たとえば、「契約関係ってどういうことなんだっけ」と。何がフェアな契約関係なのかとか、何が中長期的に価値を生むのかとか、そういうことを集中して考えることができた。ですから、その人の持ち味というか、得意不得意が思い切り発揮されるという意味で、すごく面白い局面なのかなと思います。その意味では、僕も平時より危機のときのほうが燃えるというか、楽しく感じます。今回のことをきっかけに、「あ、こいつ、やるな」といった話も含めて、チームとして久々に一体感が出たようにも感じましたので。

岡島:髙島さんは、コロナの影響下でほかに何か感じたことはありますか?

髙島:古い言葉だとブルーワーカーと言われていた方々の重要性が格段に高まっていると感じました。たとえば、うちは1200人ぐらいが直接雇用で、500人ぐらいが外注の方になります。そういう人たちに出社を拒否されたりすると、もう何もできません。ですから、そうした方々のモチベーションを高めるというか、不安を払拭し、働きやすく頑張りやすい環境をつくるということが、今は強く問われているのだと思います。

また、それは金銭的な部分でも明らかに変わってきていると感じます。もしかしたら、中途半端なジェネラリストになるよりは、そうした仕事のほうが給与も高い時代になるだろうな、と。逆に言えば、中途半端なジェネラリストの価値の低さみたいなものも今回見えてしまったところがあると感じています。ですから、どういった仕事に価値があるのかという概念が、改めて変わっていく部分はありそうだなと思いますね。(後編に続く)

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