コロナ禍によるリモートワークの急増に伴い、1人ひとりのビジネスパーソンの学びの手法もオンライン化の需要がますます高まっている。普遍的なビジネス知見をオンラインで学べる定額制動画学習サービス「グロービス学び放題」も、ハイペースで利用者が急増中。サービスの事業責任者を務める鳥潟幸志に効果的なオンライン学習の見極め方やモチベーション維持の方法、企業としてできる個人のサポート体制について聞いた。
不安が顕在化し「ジョブセキュリティ」のために学ぶ人が増加
―コロナ禍によってオンライン学習は非常に成長しました。
鳥潟:在宅ワークの定着により空き時間が増え、学ぶ時間が増えました。ただ「時間ができた」のは表面的な理由です。本質的には、これまで感じていた不安やモヤモヤがコロナ禍により顕在化し、これからの社会環境の変化についていくために学ばなければならないと考える方が増えたのではないでしょうか。企業側からすると、自粛期間中は休業などで仕事が減り、その時間に社員に学んでほしいという意図もあったようです。
私が担当するオンライン型の学習サービス「グロービス学び放題」では、有効会員数(実際に利用しているユーザー数)が、2月から3月にかけて約1.3倍へと増えており、4月以降もハイペースで増え続けており、緊急事態宣言が解かれた5月末以降も増加しています。また、一人あたりの学習時間は、2月と4月で比べると約1.5倍に増加しました。
今までは、通勤時間や就寝前などに少し時間をとっていたのが、リモートワークで在宅時間が増えた中で、学習時間が全体的に増えています。人によっては、在宅で仕事中にタブレットで動画を流しっぱなしにすることもあるようです。
―多数あるオンライン学習の中から、自分の力となる役立つコンテンツをどのように選べばいいのでしょうか。
鳥潟:「コンテンツの見極め」は非常に重要です。大量のコンテンツがある中で、今の自分にあったものを正確に判断し、ピンポイントで取捨選択していかなければ時間の無駄になります。
意味のある学習機会にするには、「学ぶ目的」の設定が最大のポイントです。短期的もしくは中長期的に見たときに、自分にどんなスキルが必要なのかを考え、実効性のある学びになるようコンテンツを選んでいくこと。
オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授は、2030年に仕事で最も必要となる力として「戦略的学習力」をトップに挙げています。あらゆる仕事がAIに代替されていく時代に働き続けるために必要なのは、学ぶべきスキルの見極めと、どうしたらそれを学べるのかというコンテンツの見極めです。
その意味では、漠然とした不安で開始する自己啓発的なものより、自身の仕事に直結する実践的な学習の方が効果的だと言えます。
―「グロービス学び放題」で、うまく活用されている事例があれば教えてください。
鳥潟:プレゼンが苦手で上司からいつも指摘されるという方がいました。その方は、役員プレゼンの前に動画で学び、ポイントを押さえて練習されて本番に臨んだところ、非常に褒められた、と。
学習成果をリアルに感じられたことで、「次は会議でのファシリテーションを学ぼう」といったように新たな目標を設定され、どんどん学びの幅を広げられ、今は社内でステップアップされマネジャーとして非常に活躍されています。このように短期的な目標を設定して、学びを仕事と有機的につなげられる方がうまく活用されています。
オンライン学習を続ける3つのコツ
―自身のモチベーション管理も、自主性が重要なオンライン学習の課題の1つだと思います。続けていくコツはありますか。
鳥潟:大きく3つあります。
1つめは、前述の「学ぶ目的を明確に設定する」ということ。もし中期的なキャリア目標が曖昧な場合は、まずは自分の仕事に身近なところから学び始めると良いと思います。そちらの方が短期的に学習の成果が出て、モチベーションも維持しやすいです。
2つめは、隙間時間を使って手軽に学ぶということ。毎日1~2時間机に向かおうとするとハードルが高くなりますが、「グロービス学び放題」の動画は、1本あたり平均3分程度です。そのため、「今日は10分間で3本だけ見よう」といったように、自分のペースで続けられます。
3つめは、一緒に学ぶコミュニティーを持つこと。「グロービス学び放題」でも、数ヶ月前よりSlack上にコミュニティーを作っており、1000名以上の方が参加しています。学んだ内容をシェアしたり、Zoomで自主勉強会を開催したり、あらゆる形で活用されています。一人で淡々と学んでいくより、同じように学ぶ意識のある方同士で刺激をし合っていけるのは大きな励みになるはずです。
ちなみに、このコミュニティーがきっかけで、グロービス経営大学院へと進む方も増えています。学ぶことで「もっと学びたい」という気持ちになったり、「大学院でも通用するのか」と挑戦したくなるようです。グロービス経営大学院の在学生や卒業生が「グロービス学び放題」を利用しているケースもあり、コミュニティーの中で交流することで、さらなる学びの活性化が起こっています。
―「グロービス学び放題」は、個人会員だけでなく法人会員も増えているようですね。
鳥潟:4月以降、社内の全組織に一斉導入されるケースが増えています。また、「グロービス学び放題フレッシャーズ」という新卒内定者向けに展開しているサービスもあるのですが、こちらも爆発的に伸びている状況です。
従来型の集合研修の実施が難しくなり、さらに、OJT形式で実施していた指導も、リモートワークの中でやりづらくなっています。これらの背景から、純粋に「学びの機会の提供」の一環として、多くの企業で導入されるようになりました。
業種や職種によっては顧客接点が持ちづらい今、学ぶ時間に充てようという動きもあります。時間を持て余してしまうとモチベーションも下がってしまうので、時間的に余裕のある時期だからこそ新たなインプットをしようという発想です。
―リモートワークの中で、企業が個人の学びを支えていくために有効な手立てはありますか。
鳥潟:まずは「学びの機会の提供」というのが第一歩ですが、それだけで終わらず、全員が充分に使いこなすためのサポートは必要だと考えています。例えば、効率的に学ぶための順番を提案する、職種別人気コースランキングの情報提供をするといったような「学習体験の設計」は、人事部で行えるといいですね。
グロービス学び放題を福利厚生として全社員分導入いただいている企業の中には、全員が予め動画を見て、そのあとZoomで議論をするといった「学び合い」をリードしている企業もあります。個人が動画を見て終わりにするのではなく、「自社でどう応用するか」まで学びを深めていくのは、興味深い使い方です。これらは、人事部主導で実施するケースもあれば、経営陣からの発信を受けて若手が実践するという場合もあります。議論を通じて自分に足りないことを各自が自覚して、主体的に動画で学べるのも定額で見放題のグロービス学び放題の良さです。
こんな時代だからこそ、柔軟にアイデアを出しながら、より良い活用方法がブラッシュアップされていくのだと思います。自分が変わることで周りも変わり、身近なところから変化が広がっていく体験は面白いものです。学びは最高のエンターテイメントだという意識で、個々が楽しみながら、前向きな社会の循環につながればと願っています。