本記事は、G1中国・四国2019「夢から現実へ~宇宙ビジネスの近未来~」の内容を書き起こしたものです。(全2回 後編)
堀江貴文氏(以下、敬称略):最近の宇宙業界における1番のビッグイシューというか、お金が集まっているのは、衛星コンステレーションでグローバルな通信網をつくるという話です。ソフトバンクが出資しているOneWebとか、SpaceX子会社のStarlinkとか、Amazonもつくると言っているし、あと2~3社あります。
現在グローバルの衛星通信網がどうなっているかというと、たとえば今は飛行機でインターネットが使えるようになったでしょ? あるいは南極とか、太平洋を航行する船上とか、エベレストの頂上とか、今はそういったところでも衛星携帯電話が使えます。これはインマルサットやイリジウムといった会社がやっていて、結構な売り上げになっている。イリジウムはChapter 11(連邦倒産法第11章)を申請して一度潰れたんですが、そのあと経営再建して今は売上も1500億くらいあるのかな。ただ、通信スピードはGSM程度。今の基準で言うと2Gですよね。
でも、低軌道でグローバルな衛星コンステレーションを構築して、何千基という通信衛星を飛ばすと、通信スピードが4Gぐらいになるんです。すると衛星インターネットでも4Gクラスの動画がバンバン再生できるようになります。そうなったら、おそらくグローバルで売上1兆円ぐらいの通信会社が4社か5社くらいは成立する。そのなかに1つぐらいは日本発の企業があってもいいんじゃないかと思っているのですよ。そういう、現実としてビジネスになるチャンスはたくさんあります。
もっと身近な例であれば、地球観測衛星を数十基飛ばして、たとえばイラン等々中東あたりを航行するタンカーの数や、どこの港にどれだけのタンカーが入港しているかといったことを見ていくんです。そうすると原油価格がだいたい予測できます。それを先物取引等でアービトラージするとか。そういうことはすでにビジネスになっていて、そういう会社はもう50億や100億の単位で資金調達できている。既存のロケットと衛星を使って採算が取れるから、それでお金が調達できているような状況です。その先はもっともっと大きなビジネスになります。ですから、政府に「投資しましょうね」ということを言っているわけで。
宇宙のインフラに支えられる世界がやってくる
袴田武史氏(以下、敬称略):今後は宇宙産業をきちんと計算していかなければいけないのだと思います。もし宇宙のインフラがなくなると、おそらくGDPは半減か、それ以上に減るんじゃないですかね。それほど、すでにバックボーンとして宇宙のインフラが機能しています。さらに今後も人間の生活が一層豊かになっていく過程で、今の通信のお話をはじめ、ますます宇宙のインフラに支えられるような世界がやってきます。そこで、すべては取れないと思いますが、一部のインフラをしっかり持っておく。これは、日本の経済成長を今後支えるためにも、日本が先進国としてグローバルでしっかりとパワーを保つためにも必要ではないかなと思います。
「日本」はロケット打ち上げの最適地である
堀江:そう。そのうえで、日本がロケット打ち上げの最適地であることを本当に強調しておきたいです。アメリカにも勝てるんですよ。アメリカは、静止軌道を周回する通信衛星や気象衛星、あるいは国際宇宙ステーション(ISS)へ載せるものは東側に打ち上げます。これはフロリダのケープ・カナベラルにあるケネディ宇宙センターから。一方、南側へ打ち上げるときは西海岸か、アラスカから打ち上げます。この場合、ロジスティックスが大変なんです。たとえばSpaceXの工場はLAにありますが、あのデカいロケットのどんがら(と呼ばれる筐体)をLAからフロリダまで運んでいるのです。「Starship」も、どこでつくっているのかは分かりませんが、あれも同様に搬送するのだと思います。
それが日本ではどうなるか。たとえば我々の基地は北海道の大樹町にありますが、工場から射場まで10分です。それで東にも南にも打ち上げられる。そんな射場、世界にないですよ。岡島さんのところが今度打ち上げるRocket Labの射場はニュージーランドにあるのですよね。
岡島礼奈氏(以下、敬称略):はい。北側のマヒアというところにあるのですが、直行便はもちろんありません。で、空港を乗り継いで、さらに最寄りの空港から羊がたくさんいるような土地の凸凹道を3時間かけて射場まで行かないといけない。そういう不便な場所です。
堀江:打ち上げたいと思ったら、そこまで衛星を持っていかなきゃいけないわけですよ。でも、衛星は精密部品だから凸凹道なんて本当に困るし。
岡島:それと輸出手続きも。いちいち税関を通したりして。
堀江:そうなんです。それが大樹町になると、実は滑走路まであります。かつて日本版スペースシャトルと言われていた「HOPE-X」とか、「成層圏プラットフォーム」と呼ばれる飛行船の実験をしたりしていた場所があって、滑走路が整備されているのですね。少し短いですけれども、それを1500mや2000mに延伸したら旅客機も普通に離発着できて、世界中から衛星をダイレクトに持ってくることも可能になります。実は北海道のほうがアメリカやヨーロッパに近いですからね。で、そのまま横にある工場でアセンブリをして、それを積んで射場から打ち上げる。そんな風にしたら、たぶん世界で最も利便性の高い射場になると、僕は思っています。そういうことも含めて大変なアドバンテージがあるのに、それを活かせていないのが、ちょっとね。鹿児島の方には申し訳ないのですが、「どうして種子島につくっちゃったんだろう」みたいな。北海道の方が便利ですね。
戸田拓夫氏(以下、敬称略):では、時間が迫ってきたので、これからやろうとしていることをそれぞれ2分ぐらいで伺いたいと思います。
岡島:我々は今週(※)いよいよ打ち上げを行いますが、現在の計算では2020年春以降に世界初の流れ星ができるかなと考えています。打ち上げてから少し時間がかかるのですね。というわけで、2020年は世界初の人工流れ星を皆さんの前でお見せすることができるかなというのがまず1つ。で、せっかくのG1中国・四国ということで申し上げると、実は私は鳥取出身なのですが、今回の人工衛星には鳥取県の「星空舞」というお米が、2つの流星源(流れ星の素となる粒)に搭載されています。というわけで、宇宙って意外と身近なんですということを皆さんにも知って欲しいし、ちゃんとお米が光るように祈っておいてください。
※本セッションは2019年11月23日開催
袴田:我々は、長期的なビジョンとしては人間が宇宙に生活圏を築けるような時代をつくりたいと考えています。具体的に言うと2040年くらいには、月で1000人ぐらいの人が働いているような世界をつくることができるのじゃないか、と。そのためには水資源が重要なので、それを採りにいこうと考えているわけですね。そこで輸送システムが重要となるということで、今は月面への着陸船を開発していて、2021年にその打ち上げを予定しています。
堀江:今は「ZERO」という軌道投入ロケットを開発しています。おそらく2~3年かかると思いますが、これが成功したら、あとは大型化するのはお金だけの問題です。成功すればお金は集まって、有人を含めて大きなロケットをつくることもできると思うので、そういうところをやっていきたいなと思いますね。あと、それに加えて北海道の大樹町で、僕らを中心にロケット産業を盛り上げていきたいということも考えています。ある意味では地域おこし的な側面もあります。
ちょうど今日ニュースになっていたと思いますが、企業版ふるさと納税が9割控除されるところまできました。菅官房長官が頑張ってやっているみたいです。菅さんがふるさと納税の制度をつくったらしくて大変な思い入れがあるそうですが、それで「今度は企業もきちんと使えるようにしたよ」とおっしゃっていました。うちは大樹町と業務提携をしていて、ロケットへの広告やペイロードで載せるといったこともふるさと納税を活用してできる仕組みになっています。よろしければ法人でも個人でも受け入れていますので、よろしくお願いします。
戸田:では、ここからは皆さんのご質問を受けたいと思います。
質問1)子どもたちに宇宙への興味・関心を持ってもらうため、どんな教育をすべきか?
堀江:教育に関して言うと、高校生や中学生でもロケットに興味があるならインターン等で現場に入ることができます。年齢はあまり関係がないし、勉強だってネットで、英語が読めるなら論文がいくらでも読めますよね。うちはインターンを結構受け入れているのです。合宿所もつくっていて、そこに東工大や東大の学生をはじめ、いろいろと宇宙に関わりたいという子たちが何十人も来ています。だから、受け入れ体制はあるからどんどん来て欲しいな、と。
袴田:教育に関して言うと、我々は「2040年には1000人が月で働く世界に」というビジョンを掲げていますが、そこで働くのが今の子どもたちだと思うのです。それなら、そうした世界が実現したら自分たちに何ができるかということを、彼らには考えられるようにして欲しいと思いますね。だから、たとえば「今できないから」ということで何かの考え方ややり方を否定したりしないで欲しいな、と。
質問2)宇宙産業では、JAXAから人材の移動はあるのでしょうか?宇宙ベンチャーから見た人材流動の状況とは?
堀江:JAXAは「J-SPARC(ジェイ・スパーク)」という枠組みでベンチャーに門戸を開いています。それで我々も、ロケットエンジンの基礎研究をやっている角田宇宙センターというところと一緒にやっていたり。そもそもウチに小型ロケットをつくれと言ったのはJAXAの人なんです。SLATS等をやっている人に、「これから超小型衛星の時代が来て超小型ロケットへのニーズが高まるから、つくったほうがいいよ」と、15年ほど前に言われたから、僕らはそのビジネスからはじめているのです。現場における技術者の交流はすごくありますね。
袴田:JAXAについて言うと、我々のところでも2人、出身の方が関わっています。1人は完全に転職してくれていて、もう1人はJAXAからの紹介で来ていただいている状態ですね。ただ、まだまだ少ないし、もっと流動性はあっていいと思います。これは我々のような民間プロジェクトのメリットだと思うのですが、短期間でプロジェクトを回すので、1回来ていただいたのちにまた戻ってもいいと思っています。そうして速いスピードで開発するところを知ったうえで、また国のほうで開発をしていただいたらいいのかな、と。
戸田:どうすれば出てきてくれると思いますか?
堀江:やっぱり予算ですよ。たとえば角田宇宙センターは既存の組織で設備も超古いし、予算もそれほど潤沢ではないし。で、「LE-9」という、次世代のH3ロケットに載るメインエンジンの開発もそろそろ終わるから、ロケットエンジンの新規開発でやることがなくなるんですよね(笑)。それで予算も大きく減らされると思います。そういう風になると組織のリストラがはじまって、そこから人材が流出してくるのかなと思います。
袴田:まだまだコンサバな人が多いかなという風には思うので、そうした目に見える危機がないとあまり出てこないのかな、と。
堀江:ですから、大企業をはじめとした組織で、あまり飼い殺しみたいな感じにしないで欲しいんですよね。リストラというと皆すごくネガティブに感じるけれども、リストラというのは人材を流動させる1つの大きなチャンスだと僕は思っています。でも、大企業もマスコミもそれをネガティブに捉えるし、ネガティブに報道しちゃうし。「大規模リストラで悲惨な運命が待ち受けています」みたいな。でも、「いや、そんなことないよ」という風にしたいですよね。
袴田:あと、少し言い過ぎかもしれませんが、大企業側もベンチャーをうまく活用すればいいと思うのです。これから伸びるベンチャーに人材をどんどん送り込んで、それで最終的には一緒にビジネスをしたり、あるいは買収をしたり。
堀江:それともう1つ、自動車業界も。ガソリンエンジンって、終わるんですよ。電気自動車になるから。そうすると、たぶんガソリンエンジンをつくっている燃焼系のエンジニアが大量にいなくなる。で、そのなかでもF1やGTのような、特にエクストリームなエンジンをつくっているようなエンジニアの方々は、僕らとしてもすごく欲しい人材です。
袴田:あと、まだ宇宙に行くためにはそれなりにお金がかかるので、お金を貯めるというのが1つあるかな、と。で、初期はそれなりにリスクがあると思いますが、そのリスクを受け入れて果敢に手を挙げていくことかなと思います。
質問3):宇宙に行くためには何を準備しておけばいいのでしょうか?
堀江:宇宙に行きたいという話に関してですが、別に誰だっていけるし、訓練も本当は必要ないのですよ。あれは、基本的には不時着したときにサバイバルをしたりするような訓練です。逆に、宇宙旅行者が宇宙でやることは別にないのです。あるとすれば、うちに投資をするとか(会場笑)。そういうのがいいのかなって(笑)。
質問4):予算が少ないのは文部科学省の管轄だからといった背景があるのでしょうか?たとえば経産省のほうに移動したら変わったりするものなのでしょうか?
堀江:予算に関してですが、宇宙基本法ができて内閣府にコントロールタワーのようなところができました。ただ、その予算が内閣府にも経産省にもほとんどないのです。少しだけ経産省にもらっていますが、年間3000万円とかそのぐらい。だから予算は新しく作るしかありません。ただ、それをやると国民から「なんでそんなところに金を使っているんだ」と。「ホリエモンに行くだけだろ」とか、そういう揶揄をする人がいるから、そこを突き通して欲しいと思いますね。「そこに投資をすることで、日本は10年後に税収が大幅に増えます」と。増えることは確実だと思うので。
戸田:宇宙産業庁をつくれということですね。
堀江:宇宙基本法ができたから宇宙庁は一応できる筈なのですが、できないんですよ。
戸田:それはなぜですか?
堀江:政治、じゃないですか。僕たちが悪かった面もあるんですよ。政治家に対して僕らがまったく働きかけをしてこなかったからというのは1つあると思っています。だから僕も今はG1に参加して政治家に働きかけよう、と。どんどんレクチャーをして「大事なんです!」って言っていけばね。先日、とある政府のすごく偉い人と話をしていたら軽減税率の話になったのです。で、新聞は軽減税率の対象だけど書籍は対象外でしょ。それで「なんでなんですか?」と聞いたら、「いや、書籍の業界団体はぜんぜん陳情してこないのだよね」みたいな。「え、そんなことなんだ!」と思って。だから、もう、うるさいぐらい言ったほうがいいのかなと思いました。
袴田:予算についてですが、堀江さんと同じで、考え方を変えないと予算は増えていかないと思います。それともう1つ重要なのは予算の使い方ですね。民間のサービス調達を進めていくことも重要だと思います。
堀江:サービス調達というのは、要はJAXAが行っているような発注やり方を変えるということですね。たとえばベンチャー企業は金がないから前払いをしてもらわないとお金が回らないんです。そういう風に変えるという。
袴田:特に今までは技術開発に対してお金を出していたんですが、サービスを買うという形にする。すでにNASAはそういう風にしています。SpaceXもそうしたサービスを売るというところで大きな契約を取って成長しているというのがありますから。
戸田:では、皆さん最後にメッセージをお願いします。
岡島:我々も宇宙産業を盛り上げていくために教育はすごく大切になると思っています。我田引水的な話になりますが、たぶん流れ星を肉眼で見たら、皆、絶対宇宙に興味を持ってくれると思うんです。実際、宇宙開発の世界ではアポロを見て宇宙に興味持ったというような方も大勢いらっしゃいます。なので、壇上の我々3社は宇宙ベンチャーのなかでもかなりメディア露出が多いほうだと思うんですが、我々が大活躍していけば、自ずと皆が「宇宙って面白い」と思ってくれて、宇宙産業に入ってくれるのではないかなと思っています。
袴田:これから宇宙産業は確実に大きくなります。ただ、そうなるとしても政府の力はある程度必要なので、政府が力強く後押ししてくれるような流れを、皆さんも一緒につくっていただきたいと思っています。また、皆さんにも宇宙産業に参加をしていただいて、ぜひ一緒に、より良い地球にしていくとともに、宇宙産業を大きくしていきましょう。
堀江:僕も同様です。とにかく政府に対する働きかけということで、皆さんもうるさいぐらい言っていただけると、日本の産業構造の変革にも耐えられるし、税収アップにもつながると思います。
何より、これは子どもたちの話にも関わってくるし僕自身にとってもそうなのですが、ただ儲けるだけの仕事をやっていてもつまらないわけですよ。そうじゃなくて、夢がある、と言うとアレだけれども、とにかくワクワクするようなことをしたい。ロケットの打ち上げってワクワクするんですよ。なぜだろうと僕は思うんだけど、地球という小さな星に張り付いて生きている状態からもっと広い世界へ打って出ていくというのは、人間の本能に訴えかける部分があると思うのですよね。だからロケットの打ち上げを見ると皆感動するんだと思います。
そんな風にして見果てぬフロンティアに挑戦していくことは人間のアイデンティティの1つなんだと僕は考えています。だから、そこを刺激してあげることによって全体の雰囲気が良くなるというか。皆が前を向いて進んでいくような雰囲気をつくることもできると思うのですね。それで、産業育成による景気の高揚に加えて、気持ちの高揚がさらに景気を良くする、と。そういう部分でもすごく効いてくるんじゃないかなと思っています。だから、「宇宙は2度おいしい」ということを、ぜひ皆さんに理解していただけると嬉しいです。
戸田:今年7月に行われた堀江さんのロケット発射の際は指令室に入らせていただきました。それで何度もシミュレーションをしていたのですが、最初はのほほんとしていたのが、だんだん呼吸困難になっていったというか(会場笑)。「失敗したらどうしよう」とか「本当に上手くいくのか」とか。そういう緊張感のある場に、本当は子どもたちにも参加させたいのですが、そういう空気はネット中継を通して感じたりできるときもあります。そのうえで、皆さんが宇宙開発のさまざまなベンチャーをあらゆる形で支援し、押し上げていくというのは日本の未来にとっても非常に大事ではないかなと考えています。今回はそんなことを、この1時間で感じていただけたのかなと思いました。今後も益々ご活躍いただけるだろう御三方に拍手をお願い致します。今日はありがとうございました(会場拍手)。
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執筆:山本 兼司