本記事は、G1中国・四国2019「夢から現実へ~宇宙ビジネスの近未来~」の内容を書き起こしたものです。(全2回 前編、後編はこちら)
戸田拓夫氏(以下、敬称略):人はもう50年ほど前に月へ行っていますし、宇宙については最近もいろいろなニュースが出ていますが、関連ビジネス等は今どこまで進んでいるのか。今日はそんなお話を中心に、御三方にお話を伺っていきたいと思っています。まずは今までやっていらしたことや、その経緯を短くお話いただければ。では岡島さんから。
「人工流れ星」をエンタメ、データ収集に活用
岡島礼奈氏(以下、敬称略):我々は今、“人工流れ星”をつくっています。その1号機が今年1月に打ち上がりまして、実は2号機が今週(※)打ち上げ予定となっています。我々がやりたいのは、流れ星を見て皆に楽しんでもらうことと、その人工流れ星で中層大気のデータを取ること。厳密に言うと中間圏と呼ばれているところですね。今は気候変動が大きな問題となっていますが、最近の研究では、その影響が真っ先に出ているのは中間圏ではないかと言われています。ただ、今まではそこがなかなか研究されていませんでした。データを取るのが非常に難しいところで、研究に穴のある領域だったんですね。しかし、そこを我々の流れ星が通るということで、データを取って地球全体の大気モデルをつくり、気候変動の解明に役立てようと考えたりしています。
※本セッションは2019年11月23日開催
それで2号機が今週打ち上げ予定なのですが、ここに至るまでは本当に苦労しました。堀江さんをはじめ、宇宙やロケットの会社をやろうとしていらっしゃる方々には、ぜひ日本で頑張って欲しいなと思っています。今回は海外での打ち上げということで、手続きもいろいろと大変だったんですね。というわけで、日本でのロケット打ち上げが早く実現して欲しいし、月にも早く基地ができたら嬉しいなと思っています。
2021年に「月面着陸」を目指す
袴田武史氏(以下、敬称略):我々はもともと「Google Lunar Xprize」という月面での国際レースに「HAKUTO」というチームで参加していました。民間で月面探査をしようということで2009年に立ち上げた会社です。残念ながら「Google Lunar Xprize」自体が2018年に終わってしまったので、我々はその直前から次の事業を考えていて、現在は月面への輸送サービス展開と、将来的にはその先で月面における資源開発を目指しています。
月というと、皆さんにとっては宇宙のなかでもさらに遠いところで、あまりイメージが沸かないかもしれませんが、現実にはいろいろと動きはじめています。まず月に水が見つかったことが非常に大きなインパクトです。50年前、アポロが月に着陸したときもいろいろとサンプルを持ち帰ってきていて、当時から「月に水があるかもしれない」とは言われていたのですが、結局は痕跡も見当たらず、しばらく放置されていたんですね。ただ、10年ほど前に改めて本格的な観測がはじまり、昨年、NASAのレーダーが取得した観測データから水があったという証拠が出た、と。今は水の存在が確定しています。今後は月面に再度降りて水の存在を実際に確認することと、どこにどれほどの量があって、どれほど採取が可能なのかということを考えていく必要があります。
もちろん水は人間が飲むために必要ですが、それに加えて、水素と酸素に分けることでロケットの、宇宙船の燃料になります。それらをすべて地上から運ぶと高コストになるので、月で燃料や資源が採れることは非常に重要なんですね。それで2021年に最初の月面着陸を目指しています。これが「HAKUTO-R」というプログラムです。RはRebootのRです。Revengeじゃないです(会場笑)。「Google Lunar Xprize」のときは残念ながら行けなかったので、今回は我々独自で月面に行きましょう、と。それでいろいろな企業さんに支援をいただきながら今はプログラムを進めているところです。
「ロケット」の打ち上げコストを劇的に下げることをミッションに
堀江貴文氏(以下、敬称略):ロケットをつくっています。もう10年以上やっています。難しくていろいろ大変でしたが、とりあえずサブオービタルという、国際的に宇宙と見なされている高度100キロ以上の軌道は越えて、宇宙空間に到達するロケットづくりに成功しました。それで今は人工衛星を軌道投入したり、それこそ月に行ったりできるようなロケットを開発中です。
我々は開発にあたって、ロケットの打ち上げコストを劇的に下げることをミッションにしています。高いコストをかけてロケットをつくるのは非常に簡単、と言うと語弊がありますが、技術的にはすでに確立しているのですね。何十年も打ち上げられているので。ただ、それぞれの電子部品や、一番難しいロケットエンジンで使われている部品の1つひとつがめちゃくちゃ高い。1点ものの、宇宙ロケットでしか使われないような技術を使っているものがたくさんあります。そこで、できるだけジェネリックな、普通に市販されているような品を使って、超低コストの使い捨てロケットをつくろうということを考えています。
皆さんはSpaceXのロケット等を見ていらっしゃるから再利用ロケットのほうに目が向きがちなんですが、再利用ロケットというのはあまり良くないコンセプトだと僕は考えています。その最大の失敗がスペースシャトルですけれども、まず再利用するので機体をたくさんつくることができません。スペースシャトルも6基しかつくられていないのですね。6基だけ、しかも1970年代の技術でつくられている。だから技術革新がまったく取り入れられず、モデルチェンジがなされていません。また、最もコストがかかるロケットエンジンが大量生産できない。つまり、職人さんがつくった1点もののようなエンジンが、しかも古い技術でつくられるということで、コストは安くならないんじゃないか、と。逆に、1回しか使えないロケットエンジンのほうが大量生産できていいのではないかという仮説のもと、今は使い捨ての超低コストなロケットエンジンをつくり、軌道投入等ができるよう開発をしています。それが2~3年ぐらいでできたらいいな、といったところですね。
ロケットベンチャーというのは日本ではあまり出てきていませんが、たとえばアメリカでは結構たくさん、何十社もできて何十社も潰れている状況です。そのなかで、まともに成功したのがSpaceXともう1社、Rocket Labという会社ぐらい。あとはまだまったく成功していません。皆、「打ち上げます」とは言っていますが、まったく打ち上がらない。ですから、そういうところで競争環境をつくることによって一層の低コスト化も考えていきたいと思っています。
戸田:堀江さんのロケットのコストを1/3にしようということで、今は当社でも部品をつくっています。皆さんはそれぞれのポジションで開発や事業をなさっていますが、連携を組むことで安くしたりするようなことは考えていないのですか?
政府は「宇宙産業」に重点投資すべき
堀江:連携とかよりも、僕がG1でお伝えしたいのは政治に対するメッセージなんです。逆に言うと、僕がG1でお話ししたいのは医療と宇宙のことだけです。なぜかというと、政治に働きかけないと我々の業界は活性化しないし、競争環境もまったくつくられないから。しかも、日本の政治にとって、それはやる価値があることだと僕は思っているんです。
まず、日本の自動車産業は崩壊します。自動運転とEVで崩壊します。EV化が第1の波ですね。部品点数が劇的に少なくなります。ギアボックスもドライブシャフトもデファレンシャルギアもすべて要らなくなりますから。もちろん一番部品点数の多いガソリンエンジンもすべて無くなるから、部品メーカー総崩れ、サプライチェーン大崩壊みたいなことが、もう10年以内に起きます。これはすごく大きな問題でしょう。で、第2の波が自動運転です。自動運転になると車を所有しなくてよくなります。ということは、極論すると必要な車は1/10になる。それで自動車の生産台数が劇的に減ります。ということで、日本における自動車部品やサプライチェーンの大崩壊が2段階で起きて、日本の産業構造が劇的に変わるし、日本のGDPも大幅に縮小する可能性があります。
それを代替する産業の1つとして宇宙産業がある。完全に代替することはできないと思いますが、1つの大きな代替産業になるのではないかと僕は仮定しているんです。なぜかというと、1つはやはり自動車産業等でつくられたサプライチェーンですよね。素材から工作機械から電子部品から、なんでも日本国内で100%、しかも品質の良いものが調達できるというのが1つ。人材も豊富というのが2つ目ですね。そして、宇宙に関して言うとロケットの打ち上げにすごく適しています。通常、ロケットは東か南か北に打ち上げますが、日本の場合は東と南が太平洋ですから漁業関係者以外は問題もあまりないということで、他国に比べてすごく打ち上げに適しています。
ということで、宇宙産業では日本が世界でもかなりの競争力を持てると言えます。ITでは中国やアメリカにやられていますが、ことロケットに関しては中国にもアメリカにも負けない競争力がある、と。だから政府はこの分野に重点投資をすべきだと僕は思っています。
自動車のサプライチェーンを宇宙産業に活用していく
袴田:宇宙産業がどれほどのサイズかというイメージがないかもしれませんが、大きく捉えると今は世界で30兆円と言われています。それが2030~2040年代には100兆円になると言われていて、それ以上の数字を出している統計もあります。そんな風に、これから大きくなっていく。ただ、宇宙産業では、やはり宇宙でハードウェアが動かないと何もはじまりません。そのハードウェアをしっかりしたものづくりでつくることができるのは日本だと、私も思っています。堀江さんがおっしゃる通り、自動車のサプライチェーン等をきちんと活用していくというのは、世界の宇宙産業で日本が戦っていくためにすごく重要だと思います。
堀江:僕らはキャステムさんにもお手伝いいただいていますけれども、自動車産業等のサプライチェーンはコストカットや技術革新に大変な腐心をされていて、すごく高い技術力があるわけです。しかも、それほど高くない。そういうところは他の国と比べると、「おお、やっぱりすげーな」って、思いますよね。
袴田:我々は小型軽量実現をコンセプトに開発していますが、それを実現できるのは日本の町工場を含めた製造技術の高さだと思うんです。たとえば手先ほどの小さなギア。チタンですごく難加工ですが、内側をくり抜いて極限まで軽量化したりしているんですね。
戸田:堀江さんのロケットで使われているネジは、当社がすべてチタンで、すべて中空でつくらせてもらっています。
袴田:そういうのは海外でなかなかやらないですよね。
戸田:ロケットが1kg軽くなると1km高く打ち上げられるということで、我々は100kg減を担当します。
堀江:100kg軽減したら100km高く飛ばせる。今我々のロケットは高度120kmぐらいですが、200kmや300kmぐらいまで上げることができると、それこそ高層大気やオーロラの研究とか、いろいろな研究にも応用できる。そうすれば科学技術の予算で世界各国からオーダーが来るかなと思っています。だから、どうすれば政府が宇宙産業にもっと関心を持って、日本の主力産業として育てていこうという風に考えてくれるのか、テクニカルに議論したいと思うのですよね。岡島さんはどうですか?
ここできちんと勝っておかないと全滅する
岡島:宇宙開発の意義を我々がもっと指し示さないといけないのかなと思っています。本当に、宇宙界隈の関係者が持っている、「ここできちんと勝っておかないと全滅する」というような危機感が、まだまだ伝わりにくいのかなと思うところがあります。ほかの産業って、もう負けているじゃないですか。
堀江:ロボティクスに関して言えば日本のほうが技術者もまだ多いと思うんだけど、ITは絶対負けますね。
岡島:ですよね。そういうことが、また宇宙でも起こる、と。だから、月とかも早く行って取っておいた方がいいかもしれないし。
袴田:そうですね。資源保有権の話もあるし。我々も今グローバルでトップにいるので、世界を取れる可能性はすごく高いと思っています。
岡島:たしか惑星等の資源って、見つけたもの勝ちなんですよね。
堀江:まあ、具体的に持ってくることができなければいけないというか、使えないと意味がないから。そこはきちんと使えている国もないし、今はまだあまり関係ないですよね。
袴田:今はまだ法整備がされていませんから、基本は早いもの勝ちです。
堀江:それをできるようになった人たちがルールをつくっていくようなところがある。だから実際に使えないとね。月の土地を売っている会社もありますけれども、ああいう世界だから「どうせ使えないでしょ?」みたいな発想なので。
袴田:その土地と資源にアクセスできる能力を持つかどうかが一番重要だと思うので。だから我々は輸送サービスからはじめています。
堀江:まず、宇宙に対して政府がかけている予算が少な過ぎるんですよ。NASAの予算はJAXAの10倍くらい。それで、この部屋にも入りきらないほどめちゃくちゃでかい探査機を打ち上げるわけです。それほど違う。GDPや国家予算に対する比率からして日本は宇宙予算が少な過ぎるんです。
それともう1つ。防衛予算がろくに使えません。これもすごく大きい。アメリカは基礎科学の研究でDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)等の予算が使えます。何になるか分からないような、宇宙で使えるかもしれない技術みたいなものにDARPAが大変なお金を出してくれる。それが結構大きいのです。日本はそれもありません。
袴田:NASAと同じぐらいの予算を安全保障から宇宙関連に使っていますよね。
堀江:そう。だから日本の20倍ですよ。GDP比で考えても日本のこの状況はさすがにおかしい。たぶんJAXAの年間予算って20年ほど変わっていないのですよね。それで文科省の人たちからは「他の社会保障費等がどんどん増えていったなかで宇宙予算を減らされないように頑張ってきたのです」みたいな感じになっている。減らされないように必死という状態で、少し後ろ向きなんですよ。でも、これは日本の将来に必要な投資です。「1兆円投資したら10兆円の税収になって返ってくるほどのポテンシャルがあるのです」といったことを言っていかなければいけないと思っています。
岡島:あと、宇宙開発自体が地球の継続的な利用というか、「地球をより住みやすいところにしていくことにつながる」ということも強調したいと思っています。我々は 中間圏近傍の研究を気候変動への対策に役立てようと考えています。さらに言うと、人間が宇宙空間で生活するというほどの極限状態はほかにないので、そこでできることが、たとえば砂漠の緑化や水を綺麗にして再利用したりするといった話にも結びついてくる。だから、地球をきちんと綺麗にしていくという話にもつながっていくわけですね。
堀江:宇宙船内はサステイナブルじゃないといけなくて、余計なことは一切できない。そういうところの技術開発も進んでいきますよね。
袴田:宇宙には何もないから1から考えてないといけない。地上にはすでにインフラも法律もあって、やれることが制約されていますから、本当の最適解を最初から導入することがなかなかできません。でも、宇宙では今考えられる最適解をいきなり実現しようと思えばできます。ですから、そこで実証された技術や考え方を地上に降ろしていけば、社会導入もすごくスムーズに進むのではないかな、と。
宇宙産業は解決しなければいけない「社会課題」
戸田:なぜ、そこまでして宇宙なのかな、と。魅力は何なのかなと思います。
堀江:違うのです。魅力という話じゃない。解決しなきゃいけない社会課題だと僕は思っているんです。「魅力」みたいな、なんというか、テレビ等が好きそうなミーハーな話じゃなくて、現実的に、社会的に、もっと推進していく雰囲気をつくりたい。
もったいないんですよ、日本として。たとえばJAXAが最近「SLATS(Super Low Altitude Test Satellite)」という衛星を打ち上げました。これはすごい衛星で、150kmぐらいまで高度を下げることができます。150kmにもなれば大気が結構濃いんですね。それで何ができるか。たとえばその高度から地球を撮影すると、めちゃくちゃに解像度が上がります。では、その高度から今手に入れることのできる最高のレンズを使って地球を撮影して、そのデータをディープラーニングにかけたらどうなるか。顔ではなくて(上から見た)頭の形等で、その人が誰でどこにいるのかがおそらく分かる。で、それをFacebookやGoogleのデータベースと突き合わせて、「この人は今ここを歩いています」といったことを示すとか。それぐらいのことが実現できるんです。良いことか悪いことかは別として、それをやりたい会社とか、安全保障目的であってもやりたいという人たちは大勢いると思うんです。
今「SLATS」の成果はあまりアピールされていませんが、各国のミリタリー系の人たちはめちゃくちゃ注目していると思います。そんな衛星をJAXAはひょいって打ち上げているんですよ。あれほど予算は少ないのに。「SLATS」のような衛星を何百機も何千機も宇宙に飛ばしたらどうなるか。衛星コンステレーションというシステムにして、リアルタイムに地球を撮影して誰がどこを歩いているのか、分析できるようなシステムをつることだってできます。そういうことをやっていけば、宇宙におけるビジネスの覇権を握ることができるわけです。でも、それをぜんぜんやろうとしない。チャンスがあるのにやらない。「もったいないな」と。
一方で、僕たちは民間でお金を集めて頑張ってつくっていますけれども、限界があります。ITなんて、政府が何もしなくたって民間でお金はいくらでも集まるんですよ。だから、宇宙とか、そういうお金が集まりにくいところにどんどん投資をすべきだと思うんですね。今日はそれしか言いたくないです(会場笑)。
「宇宙は夢物語」と思っている部分を変えたい
袴田:会場の皆さんは日本のリーダーとして集まっていらっしゃると思います。そうしたG1のような場で宇宙のことも取り上げていただいて、リーダーである方々の認識を変えていく必要があると僕は思っています。それがないと政治も動かないし国民もついてこないと思うので。
自分が変えたいと最も強く思うのは、皆さんが「宇宙は夢物語」と思っている部分です。「宇宙って、すごいですね。夢みたいですね」って。そういう声がすごくショックなんですね。だから、「それを変えなければ」って。G1では平将明さんや小泉進次郎さんとも議論をさせていただいていますが、そこで小泉さんは、「もう宇宙って夢じゃないのですね。ビジネスとして動きはじめたのですね」とおっしゃっていました。そういう感覚で、日本として産業として、これから宇宙が重要になるという認識を皆さんに持っていただきたいと思っています。
堀江:皆、宇宙開発が役に立っていることを意外と知らないんですよ。それでめちゃくちゃ助かっていることは何かというと、たとえばスマホにGPSの受信機がついていますよね。これによって何が変わったか。皆、「自分の位置が分かるようになった」って言うのですが、それより時計が正確になったことのほうがすごいと思っています。GPSって時計なんですよ。GPSの衛星にめちゃくちゃ正確な原子時計等が乗っていて、これが時間を電波で発信している。GPS受信機は時間を受信する機器なんです。ただ、人工衛星は超高速で軌道上を周回しているから、地上で静止している私たちより時間が遅く進んでいて、そこに時間のズレが生まれるのですね。
昔は時計って結構ズレていたじゃないですか。腕時計は定期的に時間を合わせなきゃいけなかった。でも、GPSを受信すると常に時間をキャリブレーションできる。これ、実はすごいことで。インターネット初期は、GPSのアンテナみたいなものをUNIXのサーバーにくっつけて、タイムサーバーのデーモンプロセスを立ち上げたりしていました。それが今は皆のスマホのなかにすべて入っている。だから、電波時計なんて今はあまり意味がない。GPSさえあれば時計は正確になるから。これも宇宙開発のおかげです。
こういうことが実はほかにも数多くあるんです。でも、そういうことが、まだロケットがぜんぜん打ち上がらなかったり高価だったりして気軽に利用できない。これが気軽に利用できるようになったら、とんでもないことを考える人たちがたくさん出てくるだろうなと思います。(戸田氏を指して)宇宙から紙飛行機を飛ばしたいという人がいたり。
戸田:先日、堀江さんのロケットに積んでもらっていました。
堀江:またお願いします(会場笑)。紙飛行機って、実はすごいと思うのですよ。ロケットのカプセルが地球に落ちてくるイメージというと、火の玉みたいものが落ちてくる姿を皆さん想像すると思います。でも、紙飛行機はふわふわ落ちてくる。それで、おそらくいろいろなことができるようになりますよね。
戸田:そもそも「燃えてしまう」と、皆思い込んでいるのです。でも驚くなかれ、紙飛行機は紙だから燃えないのです。空気が濃くなるに従って自分にブレーキをかけてふわふわ飛ぶようになる。だから燃えないのです。そういうことをやりたいのです。そうしたら、また次に何かつながるじゃないですか。子どもたちがもっと宇宙に夢を持つような空気とか、そういうものがどんどん出てくる呼び水効果ということで。
袴田:宇宙が気軽に使えないことが今は制約になっていますけれども、もっと面白いことをいろいろ試したらいいと思うのです。そのすべてが成功するわけではないにせよ、なかには実現していく素晴らしいアイデアもあると思うのです。流れ星もそうですよね。今までそんなことを考える人はいなかった。
岡島:あと、先ほどGPSのお話が出てきましたけれども、同じことは基礎科学でも言えると思っています。今は、なにかこう、いろいろな産業が工学系のテクノロジーに寄り過ぎているようにも感じていて。でも、宇宙をはじめとして、「何の役に立つか分からないけれど、ちょっとやってみよう」ということがないと。アインシュタインだってGPSに使われると思って相対論を考えたわけではないですよね。でも、それがないと今のスマホもなかった。ですから、遊び、と言ってはアインシュタインに失礼かもしれないけれど、何かの役に立てるという目標を設定しないでやってきたことが、実は社会をドラスティックに、イノベーティブに変えていった、と。
私としては、工学でリニアにやっていくところからイノベーションは起きないと思っています。一方で、何の役に立つか分からないけれども、とりあえずやってみたらこんなことに使えたという、そのジャンプは、課題解決だけをやっていても絶対に生まれないと思っているのですね。テクノロジーおよびサイエンス全般に対して、皆さんにはそうした理解をして欲しいと考えています。「これは何の役に立つんだろう」ではなくて、すぐ役に立たないところも目を向けて欲しいなと、元天文学科としては思います。(後編に続く)
執筆:山本 兼司