グロービスで出会った3人は、今、実際のビジネスの場で共に歩みを進めていく同志となっています。グロービスで学んだことがどのように今に生きているのでしょうか。そして、3人にとってグロービスとは何だったのかをお聞きします。(全2回後編、前編はこちら)
石川彰吾 株式会社ソミックマネージメントホールディングス 取締役 経営推進部部長
大倉正幸 株式会社ソミック石川 執行役員 事業企画部部長
蒲地正英 税理士法人カマチ 代表(公認会計士・税理士)/グロービス経営大学院 教員
メカトロニクスが強みになる時代が来る
田久保:ソミック石川のビジネスの話をうかがいます。今、自動車会社、自動車関連企業は激変の時代を迎えています。そうした中で、御社はどういった経営をなさっていきますか。
大倉:直近の戦略は、結構シンプルで自信を取り戻すことだけだと思っています。短期のP/Lを見て「調子が悪くなった」と言う人もいますが、分析していくと実際そんなことはない。総体的に悪い状態ではないし、むしろ圧倒的シェアを持つジャイアント企業です。
ですので、今は自分たちの強みを再認識し、もう一度自信を取り戻し、後は優先順位をつけて、どれだけ自分たちのリソースを集中できるか、それだけで相当浮上できるというのが、私の仮説です。
田久保:内部留保はたくさんあるわけですしね。なぜ自信を無くしているのですか。
大倉:リーマンショックあたりから、10年ほど微減が続いてしまった結果、負け癖がついてしまった。普通に考えれば国内のシェアは50%を超えていて、グローバルでも20%を超えているわけで、産業全体で考えると、それほどのシェアを持っている事業というのはほとんどありません。ですが、小さな負けが続いたために、「我が社は競争力がない……」と自信を無くしてしまっているのです。
田久保:それ以外に、新しく取り組んでいこうとしているのはどんなところですか。
大倉:私は、ものづくり企業であること、メカトロニクスであることが強みになる時代がもう一度来るという仮説を持っています。今は、大きな流れとして、GAFAに代表されるようにハードとソフトが融合していくという方向に向かっていて、これができるところに付加価値が生まれていくということは間違いありません。
ここ最近、iPhoneが出たあたりからは、どちらかというとソフトウエア主導でインクルージョンが行われてきています。ところが最近は、シリコンバレーのベンチャーなどでも、ソフトウェアはあるのに「ハードウエアが追い付かず実現できない。どうしよう」と困っている会社が増えている。デンソーにいたからわかるのですが、事業の現場でも、意外とメカがボトルネックになることが多くなってきています。私はそこに大きなチャンスがあると思っていて、鍛造などを見直してみたら、すごいものに化けるのではないかと考えています。
田久保:なるほど。第三者から見て、そうしたところへの投資などの準備はできていますか。
蒲地:そうした準備をできるように、今、頑張って組織を変えているところです。ホールディングスをつくったのもそのためで、実際に機能し始めており、ようやくディスカッションできる状況になりました。
石川:これまでは、意思決定するのに半年、下手すると1年かかっていたのですが、今は1週間、2週間でできるようになりました。
田久保:独自の路線や外部とのコラボなどを進めていくうえで必要な、会社の体制および意思決定メカニズムの整備ができつつあるということですね。
大企業の重役が謙虚に学ぶ姿に感銘
田久保:御社は自動車産業上のポジショニングもいいし、主要事業である自動車の足回りというのは変化のスピードはそれほど速くない。だからこそ新しいイノベーションが起きにくいというか、チャレンジをしにくいところはある気がします。そのあたりはどう考えていらっしゃいますか。
石川:まだこれも途中段階なのですが、思いきりマインドセットを変えようと考えています。以前は、経営計画を立てるときも、今あるものの積み上げでしかやらなかった。それを今年度は、バックキャスティング(望ましい未来を定義したうえで計画を立てる方法)して、例えば「10年後に売上を今よりも何倍にするぞ」とか「利益を何倍にするぞ」といったゴールをボーンと設定してみたのです。
そうすると面白くて、「今のこのボールジョイント事業だけでできるのか」ということが自然と議論に出てくる。今後、自分たちの立ち位置をどうしていくのか。ボールジョイントは当然軸にはなるけれど、それに代わる事業の柱をどうやってつくっていくのか、今、議論を始めたところです。
田久保:大倉さんの論理的完璧なプレゼンで他の方々が「ロジックで戦っても勝てそうにない」と思っているなんてことはないですか(笑)。
大倉:そんなことはないですよ(笑)。ソミック石川の中では、基本的に絶対ニコニコしようと思っていますし、イラッとくることがあっても、トイレの個室に駆け込み、ちょっと落ち着いてから出てくるようにしています。
これもグロービス効果です。グロービスで出会って特にリスペクトしているのが、オンライン1期でご一緒した方です。私の父と同じ位の年齢でいらっしゃって大企業の重役をされているのですが、すごく謙虚に我々と机を並べて一緒にディスカッションなさる姿に衝撃を受けました。講師の先生方も私たちが暴論を吐いても怒ることはなく、誰かが言ったことを「いい」と思ったら率直に取り入れてくださる。単に優秀というだけでなく、人格的に成熟した方ばかりでした。
あとは、ケースメソッドを大量にこなしたことも大きいです。いろんな局面でフラッシュバックします。イラッとした時も「あ、これは、どこかのケースで見た気がする。この後、破綻する企業のパターンだ」とか(笑)。それに気づくと「とりあえず今、言い返すのはやめよう」となります。
蒲地:彰吾さんも怒らない人になりましたよね。
石川:そうですね。今も、私利私欲で動こうとする人には怒りを感じることがありますが、我慢できるようになりました(笑)
大倉:今もあるといえばありますが、交代で起きてて、2人ともに怒ることはなくなっています。僕が思わず「うっ」ってなるときは彼がカームダウンして、その逆もあって、お互いですね。
地方の中小企業こそMBAが活きる
田久保:今後、ソミック石川が次なるフェーズに入ると、それを可能にする人材が必要になります。
石川:「新しいことできる人に、外から来ていただこう」とは思っていまして、採用活動は始めています。
大倉:といっても現状を否定する意思は全くありません。人事システムを「プランA」と「プランB」に分けて考えています。「A」はこれまで通り年功序列と終身雇用を前提とした人事システムを継続するという前提。「B」は「人材は基本的に流動化する」という前提に則り、ターゲット自体も分け、入ってきてからの役割も分けるというもの。現在は、この「A」と「B」が併存した状態で始めています。
田久保:とすると、そのうちオンラインMBAにソミックの従業員の方がいらっしゃるかもしれないですね(笑)。
石川:できればそれは増やしたいです。共通言語があるのは、本当にいいことだと思っています。大倉さんに来てもらってからは、グロービスで学んできた共通言語があるので、話の進みが速い。
大倉:私はソミック石川に来てから、フレームワークをすごく見直しています。前提条件を共有していない方と話すときには、言葉だと伝わらないことがあります。そうした時にはフレームワークがあると伝わりやすい。
田久保:フレームワークはコミュニケーションツールですよね。以前、あすか会議で星野リゾートの星野さんが講演にいらしたとき、壇上から「MBAを取ったら、コンサルではなく、地方や旅館に行った方がいい。誰もMBAなんて持っていないから、教科書どおりに本気でやればすぐに勝てるから」とおっしゃっていました。確かにMBAを学んだ人は、地方の中小企業に行くのが一番活躍のフィールドが広がるかもしれない。
蒲地:そうですね。大事なことは、経営者の中にそれを許容する、もしくは認めてくれる人がいるということです。そういったポジションをここ2年でつくったからこそ、今、うまくいっているのだと思います。
見える景色が変わった
田久保:石川さんは創業家一族ではありますが、今社長をなさっているのは、はとこにあたる方ですよね。将来は社長になられる?
石川:当社の場合、直系と別の柱とで交互にやってきています。バトンタッチの順番で言えば可能性があるのかもしれませんが、先のことはまだわかりません。
田久保:はとこということで気を遣うところはありますか?
石川:私が直系ではないからこそ横柄になってはいけない、というところはあります。
田久保:適度な距離がある分、冷静な関係がつくれるかもしれませんね。
蒲地:彰吾さんのお父様が横にいていいアドバイスをなさっていて、要所要所でいい相談相手になっていますよね。
石川:相談すると、父が最後に必ず「好きにすればいいから。辞めたければ辞めていい」と言うのです。そう言われると「辞めたいわけじゃない!」という気になります(笑)
田久保:最後に一言ずつ、「みなさんにとって、グロービスってどんな場だったか」をお聞かせください。
大倉:本当の自分をオープンにすることを許可してくれた場所です。報酬や地位がうんぬんではなく、今、自分が本当にやりたいことをやっていて、それが自分に合っていると感じています。毎日が本当に楽しいのです。そうなったのは、確実にグロービスのおかげです。
蒲地:ビジネススクールというのは、「競合に勝つためにどうするか」といったテーマを扱いますので、互いにギスギスしても仕方がない部分があると思うのですが、グロービスではそうなりません。隣の人と議論をする際にも、「隣の人に打ち勝とう」「議論で負かしてやろう」という戦闘モードにならず、「一緒にいいアイデアを出していこう」といった協働的な議論になっていき、それが、グロービスならではのいいネットワークにつながっているように思います。
また、受講生と講師との関係も近いですよね。受講生であっても、講師であっても、グロービスでいい関係でのつながりができるのからこそ、卒業後もいい関係が続いていく。その根底にあるのは「志」なのかもしれませんが、戦うのではなく、協働できる関係をつくれるところがグロービスの価値だと感じています。
石川:やはり「自分自身どうありたいのか」ということを徹底的に考えさせてもらった場所だったと思っています。しかも、1人ではなく、そこに一緒に学ぶ仲間と支えてくれる講師といろんなスタッフの方々がいて、その空気感がとてもいい。まさに、「一緒にいいものをつくっていこうぜ」という空気感です。自分自身がこの場で徹底的に考えられたことで、「こうしたいい場を、自分は、自分の職場や地域につくりたい」と心から思わせてくれた気がします。
田久保:頼りがいのある右腕、左腕も見つかりましたしね。ありがとうございます。
(文=井上佐保子)