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「デジタル変革」はスモールサクセスから!成功と失敗、その要因とは?〜アクセンチュア山路×グロービス田久保

投稿日:2019/12/13

本記事は、グロービス名古屋校で開催された特別セミナー「デジタル変革はなぜ失敗するのか〜失敗事例・成功事例にみる組織・人材・制度の要諦〜」の内容を要約したものです(後編)。

「デジタル人材のエンゲージメント」で特に大切なものとは?

田久保:大変興味深く感じたのがデジタル人材のエンゲージメントに関するお話でした。今は世界中で人材の取り合いになっていますし、先日シリコンバレーにいる方から聞いたお話では、今はもう半年以上同じ会社にいると「なんとなく停滞気味」みたいなことを仲間に言われてしまうほどのサイクルで動いている、と。もう就職するというよりもプロジェクトにコミットするということが、たまたま就職の形になっているくらいの勢いでくるくる回っているといった話を伺いました。現時点でそうなっている、あるいは、さらにそうした傾向が強まるのであれば、魅力的な場をつくるといっても限界があるような気がします。その辺も踏まえつつ、今日挙げていただいた5つのエンゲージメント「Work」「Rewards」「Opportunity」「Organization」「People」のなかでは特に何が肝になると思いますか?

山路:肝になるのは「Opportunity」だと思います。能力を発揮できて、その人が成長できると思える環境をつくってあげることが根幹だと思います。また、今日挙げた5つは自社の社員のためのものではありますが、そういったベースがないと、外の人材とのコラボレーションもうまくいきません。ですから、自社だけで抱えるという思想ではなくて、外にいる人も含めて優秀な人材の力を使いたい場合の必須事項という風になると思います。

田久保:最近は米西海岸の会社等がVisionやPurpose等々、仕事の意味付けや原点回帰のような話をよくしていると感じます。

山路:ともするとデジタル人材には、企業の業績よりも仕事の意味付けやビジョンに魅力を感じる人が多いのかもしれません。

田久保:なるほど。では、この辺で会場から集まった質問にお答えいただきたいと思います。

Q1)「デジタル変革」で前に進める会社と進めない会社の一番大きな違いは何か?

山路:成果目標の設定が特に大切というお話をしましたが、それを経営者のコミットメントにしている会社はなにがしかの成果が出ていると感じます。号令だけでもダメですし、成果目標があっても、デジタル事業推進室内での目標にしかなっていないようなケースだと、全社的に動かないので成果も出ません。そのあたりの連関が一番重要だと思います。

田久保:コミットメントという言葉にも定義の問題があるということですかね。「やる」と言っているトップは多いと思いますが、一番大事なKPIになっていないまま、2月頃になって「あれどうなった?」と聞いてくるようなものであれば、それはコミットメントとは呼べないのかもしれませんね。

Q2)これまでと違う異能人材をアクセンチュアではどのように採用しているのか?

山路:結構いろいろなところから来てくださっています。まず、新卒でも博士として何かやっていた方ですとか、大学院でプログラミングをしながらロボットを動かしていた方ですとか、そうしたアカデミアからの採用はすごく多いですね。

Q3)デジタル導入に向けて、社員のデジタル知識はどれほどのレベルで教育していくべきか?

山路:部門によりますね。エクスペリエンスのほうにいってデザインをやったりユーザージャーニーを描いて、そこからペインポイントを見つけたりする人もいれば、とにかくプログラムやアルゴリズムをつくる人もいれば。

田久保:山路さんのところのメンバーの方はいかがですか?

山路:デジタルのプロジェクトをやるとき、我々の場合は戦略から入ったとしても、データ・サイエンティストのようなデジタル側の人と一緒に働くことがあります。そうして一緒に働くなかで、たとえば「今はどんなテクノロジーが使い物になってきているのか」といったことも肌感覚として分かるようになっていきますので。そんな風にコラボレーションしながら学んでいく形ですね。

田久保:先ほどのお話にもありましたが、アクセンチュアさんはインタラクションが生まれるようなコンビネーションで進めていくから、なにかこう、自動的に回るような教育システムがうまく組み込まれている感じになるのですかね。

山路:そうですね。あるいは、戦略をやっていた人がデジタルのほうに行って、「業務に詳しいデジタルの人」になっていくようなこともあったり、その逆もあったり。そんな風にして、なんとなく入り混じりながら。

Q4「デジタル変革」の成功と失敗、共通する要因とは?

山路:号令倒れではなくて、体制としても経営者としても本気のイニシアティブになっているかどうかが一番の骨格だと思います。ただ、それができていて、きちんとチームをつくっていたとしても、なぜかAIエンジン選定が主論点になってしまっていたり、手順を間違えてうまくいっていない例もそれなりにあると感じます。

田久保:グロービスの受講生とお話をしていると、「社長に『とりあえずAIを使って何かやれ』って言われて困っているのですよね」みたいな話をよく聞きます。目的がなく、ツールオリエンテッドというか、AIという言葉に踊らされているような。ですから、強い思いはあったとしても、正しいコミットメントではないといった話はありそうですよね。逆に言うと、成功しているところは正しいコミットメントがあるということですかね。

山路:そうですね、正しいコミットメントがなければ成功するのはなかなか厳しいかと思います。

田久保:一方、トップは本当にやりたいと思っていても、若干下のクラスの方が、社内の抵抗勢力になって動かなくなるケースもある気がします。

山路:特に事業のサービス化ではそうしたことが起きやすいと感じます。社長が「とにかく新しいサービスをやっていかないと生きていけないのだ」というメッセージを出していたとしても、多くの事業部や現場では「何台売るか」「何個売るか」がKPIになっています。そこで、商品の買い替え頻度を減らすサービスや、製品を売ったときにプラスαとなる付加価値としてのサービスを売るといった話を持ち出しても、今まで何十年もやってきたKPIとは関連がなく、優先順位がどんどん下がっていきます。それで、経営と現場というか、経営とミドルとのギャップが起きているケースは非常に多いと思います。

Q5)「デジタル変革」で落ちこぼれる社員のモチベーション低下のリスクはないのか?

山路:新しい技術やそれによって新しくできることを受け入れて変わる方向へ進む方と、変わるのが面倒だから拒絶するような方向へ進む方に分かれるように感じますね。

田久保:私は経済同友会でいろいろ議論をさせていただくこともあるのですが、70を過ぎた経営者の方でも、各種のデジタルデバイスやツールをめちゃめちゃ使いこなしている方がいるのですよね。「僕はSlackなのだよね」なんて言う70代後半ぐらいの方もいて。でも、一方では40代半ばなのに、「そういうのは、もう俺はいい」みたいに言う人もいて。

山路:そうですね、世代の問題ではないように思います。

田久保:ですよね。「人生長くなっちゃったし、仕方がないからミーハーになるしかないな」と。それで、とりあえず出てきたら触ってみたり使ってみたり。そういうミーハーシップはすごく大事だと思います。ですから、皆さまもミーハーシップを発揮して、とりあえずいろいろ使ってみて、やってみる。それで嫌ならすぐ止める。最近はまずフリーミアムで配っているものがほとんどだと思いますし、若い人たちに混じって「どんなことをやってるの?」なんて聞いてみたり、娘さんや息子さんがいらしたら入っているアプリを比べてみたり、いろいろやってみると学びがあるかもしれません。

では、お時間が迫ってきましたので最後に山路さんからメッセージをいただきたいと思います。

山路:経営を直接的に変えるとなると難しいと思いますが、今日お話ししたようなスモールサクセスを自分の身の回りでつくってしまうというお話であれば、取り組みようはあるのではないかなと考えています。ですから、まずは自分の身の回りで、ほんの少しだけ「空気を読まずに」やってみることが大切です。その成果が100倍に見えるようにして経営に持っていく。そんな風に取り組んでいけば、早く物事を動かしていけるようにもなると思います。また、そこから結果として経営も変わっていくことがあると思いますので。そういうアプローチを積極的にとっていく方が増えていくと、成功事例も増えていく気がします。

田久保:ありがとうございます。スモールサクセスの話はグロービスの授業でもよく出てきます。やはり「いきなりホームランを打とうと思ってもなかなか難しいから」というのは、デジタルの世界でも普遍的に通じるお話だと感じました。最後に大きな拍手をお願い致します。どうもありがとうございました(会場拍手)。

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