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アクセンチュア戦略コンサルタントが語る!社内の「デジタル変革」を成功に導く4つの観点とは?

投稿日:2019/12/12

本記事は、グロービス名古屋校で開催された特別セミナー「デジタル変革はなぜ失敗するのか〜失敗事例・成功事例にみる組織・人材・制度の要諦〜」の内容を要約したものです(前編)。

山路篤氏(以下、敬称略):今日は「デジタル変革」というキーワードを掲げています。おそらく皆さんの会社にも、特定事業内で立ち上げたデジタル事業室やデジタル推進室、あるいは各事業を横断する形でデジタル支援室といった組織があるかと思います。もしくは、いくつかある事業と横並びで立ち上げられたデジタル事業部があったりするかもしれません。我々が「そのような組織が必要です」といったお話をしていた3年ほど前には、既にそうした組織をつくっていた企業は多くありませんでした。しかし、この3年で、会場にいらしている皆さんの会社の多くもデジタル推進室やデジタル戦略室を立ち上げ、デジタルテクノロジーを使って何か新しいことをやろうという取り組みをはじめているのではないかなと思います。ただ、それで十分な成果を生んでいる企業はまだあまり多くないというのも現実なのかな、と。では、上手くいっている企業はどのようなやり方をしていて、なぜ上手くいっているのか。今日はそういった内容を皆さんと議論できればと思います。

今日のアジェンダとしては、まず「デジタル変革」のインパクトについてお話ししたいと思います。デジタルというと、今はGAFAやBATが時価総額ランキングのトップ10に入っていて大きく取り沙汰されていますし、彼らが消費者向けの新しいサービスでどんどん変化を起こしていることはよく理解できると思います。ただ、一般企業において「デジタルで成果が出る」というのは一体どういうことなのか。また、実際にはどんな効果が出るのか。そのあたりについて、まずは私が実際に経験したり、並走してやっているものを中心に、いくつか事例をご紹介したいと思います。そのうえで、そうした取り組みの成功と失敗が何によって分けられるのかというお話ができればと思います。

「AIによる音声認識」により顧客サービスの質を向上

まずは我々が手がけている、AIを利用して顧客体験を向上した事例についてお話しします。接客中の音声をAIが自動認識し、十分な精度・速度で、適切な情報をタブレット端末の画面などに提示することで、対面接客業務の効率化・高度化の実現をサポートしました。

(詳細はこちらの動画をご覧ください)

このAI POWERED コンシェルジュサービスを用いた事例は、顧客接点、つまりお客さま向けサービスの質を、デジタルを使って高めたという1つの例になります。

「アナリティクス」で物流サプライチェーンを効率化

続いてはサプライチェーンの高度化という事例です。とあるお客様より、「デジタルによって利益を出せるよう変革したい」というお話をいただきました。そこでまずはほぼ全ての物流拠点で、現地の従業員の方々が在庫数を決めるロジックを把握するべく、ヒアリングを行いました。すると大半の拠点において、お客様の予約分に加えて、「明日運びたい」と予約なしに資材を取りに来るお客様の分も見越して、過剰に在庫を確保していたことが分かりました。そのため、各フロントオフィスで担当者が判断するという状態をやめ、本社にある中央管理センターで、アナリティクスチームが過去の実績やトレンド等を加味可能なアルゴリズムを用いて適切な在庫数を算出し、「この拠点にはいくつ置く」と決め、実際にその数の資材を置くだけの形に切り替えました。

こうすることで過剰在庫を削減することができ、リース費用や資材の移動コストを削減でき、数十億円を超える利益創出につながりました。また同様の事象が起きていた家電量販店、アパレル、携帯キャリア、コンビニ等々、あらゆる業界で先ほど話にあがったアルゴリズムを適用し、大きな経営効果を生んでいます。

「クラウド」で企業の経営管理を明確化

もう1つは、経営管理の高度化という事例です。「今期の売上はどこまでいくか」「今期の利益の着地はどうなるか」といった、いわゆる予実管理の話です。一般的な形式としては、営業の方が自分のExcel等で売上の見通し情報をまとめており、それを毎月末に課長に提出するといったケースが多いでしょう。そして課のなかでそれらを取りまとめて、年度末の着地に向けて「自分の課ではこれくらい売れそうだ」ということを掴みます。ですがそこから先は、実際の数値をすぐにそのまま報告するのではなく、前年度の売上や、達成目標をどれだけ満たしているか、といった課や部が置かれている状況を勘案し、上長に見通しを報告しなければならないこともあるのではないでしょうか。

では、それに対してアクセンチュアはどうしているか。グローバルでおよそ48万人のアクセンチュア従業員がそれぞれ持っている案件別の「パイプライン情報」を、クラウド上のすべて同じ仕組みに登録します。これを常にリアルタイムで更新していくことによって、社長でも事業部長でも担当責任者でも、誰もが事実として登録された同じ情報をリアルタイムに見ることができるようになります。いつでも見通しを確認できるため、すでにある情報をベースに、今後に向けた議論も直接できることから、いわゆる「経営会議」的な社内ミーティングも減ります。会議のための資料を作成する必要もなくなり、必要なときに必要な人が集まり、今後の方針を検討するという形にシフトしていきます。

ここまでの話を踏まえて、GAFAではない企業において、デジタルによってどのようなインパクトが実際に生まれるのかについてまとめました。

まず技術に関しては、これまでに紹介した3つの事例だけを見ても、音声認識、自然言語処理、Analytics、さらに裏では自動でデータ取得を行うRPA(Robotic Process Automation)やクラウドが存在しています。そして、これらのさまざまなデジタル技術をうまく組み合わせることで、顧客サービスの大幅な向上といったインパクトを生むことが可能です。あるいは物流のサプライチェーンを大きく変え、各拠点で人間が個別にやっていたことをすべて中央管理することができるようになったり、アクセンチュアの例のように精度の高い数字を経営管理で使えるようにもなります。

これは、インパクトを起こせる領域が「顧客サービス」「物流・SCM」「経営管理」の3つだけというお話ではありません。大切なのは、技術は日々発展し進歩してきているので、会社ごとの経営課題をきちんと特定して、そこにフォーカスした技術をうまく使いこなすことです。そうすれば、あらゆる領域で効果・成果を刈り取ることのできる状態になってきていると思います。

デジタル変革を成功に導く4つの観点

ここからは、うまくいっている場合といっていない場合では何が違うのかというお話をしたいと思います。結論から申し上げますと、大きくは4つの観点があると考えています。

1)「目的設定」:定量的な成果目標を設定

まず、一番大事なのは「目的設定」。適切で具体的な目的をきちんと設定しているかどうか。先ほど申し上げた例はどれも、「AIで何ができるか考えてみよう」でなく、「全世界の予実を1日ですべて把握できるようにする」など、定量的かつ具体的な成果の目標がありました。ただ、そのようにして正しい目標を設定しても、うまくいく場合といかない場合があるということで、さらに3つの観点を提示します。

2)「構築のアプローチ」:Small Startで効果を検証しながら拡大

まず大事なのは「構築のアプローチ」です。大事なのは実際に現場で効果が出ることをスモールに検証すること。そして検証できたら順次拡大していくアプローチですね。どういうものを目指すのかという目標はきちんと定義しますが、そこで準備を繰り返して、最後にどかんとリリースするのではないということです。新しい技術ですし、「こうすれば必ずうまくいく」という話があるわけではないので、少し試してみて、それでうまくいったら広げるというアプローチが極めて大切です。

3)「推進体制」:成果創出を担う業務部門が主体で推進

ITまたはデジタル部門が主体で進めると、どんな風に大きな仕組みをつくるのかといった話に陥りがちです。仕組みをつくることでなく効果を出すことが目的ですから、あくまでも成果創出を担う、もしくはその成果を享受する実際の事業部門や業務部門が主体になることが重要です。

まずは事業上の定量的な成果目標を設定すること。その次に、成果創出を担う事業部や業務部門が旗を振ることです。そうすると、必然的に「まず3つの拠点でやってみよう」「まず接客カウンター1箇所でやってみよう」という風にスモールに検証する方向で進み、どのAIを使うかといった話も「効果を出すために適切なAIを使いましょう」となり、仕組みづくりもスムーズに進んでゆきます。

4)「技術選定」:得手不得手を踏まえ、是々非々で組み合わせ

ツールに関しては得手不得手を踏まえて是々非々で組み合わせていきます。AI POWERED コンシェルジュの例でも分かる通り、AIにもさまざまな種類があります。音声認識、画像認識、自然言語処理、あるいはロジックを高度化するシミュレーションのようなところに使う機械学習もあって、それぞれに得手不得手があります。そのため、「業務や組織をどういった構造に変えていくのか」という点と、そうしたツールを並列で試してみることが重要なのではないでしょうか。

ボトルネックは「人材」「組織」「社内の制度」

ただ、これら4点が分かっていても、「人材」や「組織」、あるいは「社内の制度」がボトルネックになり、改革が実現できないというケースも存在します。まずは「人材」に関して。デジタルといっても様々な技術があり、仕事の進めかたについても、業務の構造を変えることとセットで進めることが多く、多くの機能が必要になります。そこでどんな人材が必要になるか。たとえばアクセンチュア社内には、営業でもない製造でもない、データサイエンティストやインダストリーX.0アーキテクトといった、さまざまな専門性をもった人材が所属しています。

ただ各事業部やデジタル推進室内で、そのような人材を一気に揃えることは非常に困難です。また特定のIT部門の下にデジタル室のようなものをつくり、事業部ごとにデジタルをやっていこうとしてあちこちでスタートする形になると、今ご紹介したような人材を集めることは難しいでしょう。

そこで、どのような組織にすることで、会社としてデジタル改革のためのケイパビリティをつくっていくのかが、次の大事なポイントになります。

デジタル人材の「エンゲージメント」5つの要素

デジタル人材のエンゲージメントをいくつかの要素に分解してみると、主に「Work」「Rewards」「Opportunity」「Organization」「People」の5つに分けられます。

そのなかで「Work」を例にとってみると、必要なのは専門領域の追求にフォーカスできる環境です。周囲からの視線を気にせずに、「このアルゴリズムを磨き込みたい」、「誰もが使いたがるワクワクするようなインターフェースを作りこみたい」といったことに集中できる環境をきちんと提供することが、非常に大切です。

「Rewards」についても同様です。データサイエンティストやエクスペリエンス・デザイナーといった方々のモチベーションの源泉は「業績を上げたい」といった話ではなく、「誰にもできないことをやりたい」「誰もできないことをやれるようになりたい」といった内容であることが多いです。そうなると、報酬も「あなたのアルゴリズムは○百億円稼いだから、この額になります」といった業績に連動したものでなく、専門技術が熟達したのかどうかといった部分をしっかり見定め、報酬に反映していく必要があります。また、企業のブランド的にも、デジタル技術で優位性があったり、面白いことをやれるといった土台がないと、デジタル人材を集めることは難しいでしょう。

デジタル人材は、従来型の人材とは異なる評価軸を持っていることを認識したうえで、彼らを惹きつける職場環境や人事制度、場合によっては評価・報酬の制度に見直していく必要があるのです。ですから“箱”をつくるだけではなく、今お話ししたような人たちが必要ということをきちんと認識し、デジタル人材が気持ちよく働けるような制度や環境を提供することが不可欠でしょう。

「デジタル・ソリューション事業」の事例

ここからは「デジタルを使った新しいサービスとセットで自社製品を売りたい」「新しい事業を立ち上げるところでデジタルを使いたい」といった事例をご紹介します。売りもの、あるいは売りかたをデジタルで変えたいというお話で、先ほどまでのお話と少し毛色が違ってきます。デジタルを使ったソリューションを売るというお話ですね。

ここではとある、タイヤメーカーの例をご紹介します。タイヤに関しては世界有数のシェアを誇る企業で、OEMへのタイヤ納入と、輸送会社や個人への交換用タイヤ納入が大きなビジネスになっています。こちらも先ほどと同様のアナロジーですね。タイヤ製造は6~7兆円の市場がある一方、その先の輸送会社ではおよそ250兆円に相当するオペレーションがあります。そこでなんらかの価値を直接提供することができたら、それを新しいレベニューのソースにできるのではないかという発想です。

そこで目をつけたのは、末端の輸送会社ではタイヤが最大寿命の45%しか使われずに交換されている点でした。また、247兆円という輸送市場を分解してみると、3割以上の76兆円が燃料費を占めていました。ですから、そこに何か貢献できれば巨大な価値を生み出すことができる。ただ、寿命の45%で交換していたといっても、まだ新しいタイヤを捨てていたわけではありません。空気圧等を適切にコントロールしない状態で走っていたため寿命が短くなっていたのですね。適切なメンテナンスをせずタイヤを使うことで寿命を縮めていたことが分かりました。ですから、本来の寿命まで使えるようなサービス、つまり予防的な補修メンテナンスを行うことでタイヤを長寿命化させるサービスを、センサー等をつけることで実現していきました。

また、タイヤにセンサーが付いていると、ドライバーがどんな運転をしているかが分かります。そこで、たとえば「このドライバーは燃費的にマイナスとなる急ブレーキや急アクセルを踏みやすい」といった燃費悪化の傾向を掴み、それも配送業者とドライバーにフィードバックしていきました。それによって、燃費を少し良くする、あるいは燃費が良くなるドライブができるようなサービスをつくっていきました。そうして6~7兆円ではない運送会社側のマーケットにリーチしていったという事例になります。

「デジタル・ソリューション事業」立ち上げの難しさ

有名な事例ですから、お聞きになった方はいるかもしれませんし、こんな風にして「自社の先の先にいるお客さまを見ていこう」「バリューチェーン全体のなかでどこに価値が出せるのか考えていこう」といったことも、よく聞く話だと思います。しかし、実際にそれが難しいのはなぜか。1つには、デジタル・ソリューションを売り物にしようとすると、オペレーションのデジタル化だけでなく、さらに別の機能やケイパビリティも求められるためです。それがなかなか実装できないというのが1つの難しさになります。

また、自社のオペレーション改革を成功させるためにも、まずは「スモールにやりましょう」というお話を先ほどさせていただいたわけですが、他社であればより一層難易度は高まるでしょう。先ほどの例は、運送会社におけるタイヤの交換頻度を減らす、あるいは燃費を高めるといった、「顧客の顧客」におけるオペレーション改善のお話でしたが、そうするとなおさら上手くいくかどうかが、なかなか見えにくいでしょう。

それともう1つ、一番大きな難しさは本業とコンフリクトする場合があるという点です。たとえばタイヤの寿命を伸ばして長く使っていただくと、タイヤの売上は減るわけです。何かの成果を生もうとすると、一見すると本業の売上や利益とコンフリクトする場合があります。ただ実際には付加価値が生まれているわけで、そうなれば競合に比べて自社のサービスを採用していただきやすくなったり、競合メーカーのタイヤではなく、そのメーカーのタイヤを買おうというお客さんも増える、といったことが想定されます。しかし一見すると直接的にはコンフリクトしてしまっている部分があるため、実際に「タイヤをいくつ売るか」というビジネスをしている事業部からは、なかなかこういったアイディアを出しづらいでしょう。デジタル・ソリューションをビジネスにしていこうとすると、オペレーション改善に加えて、そうした難しさも出てくるのかなと思います。

「デジタル・ソリューション事業」創出のために必要なもの

では、こうした事業を創出するために何が求められるか。まず、これはお客様が効果を享受し、その上で幾ばくかが自社にいただけるようなビジネスモデルを考え、構築することです。先ほどの例にもあった、運送会社における効果を訴求して、そのなかの幾ばくかが自社に入るようなビジネスモデルですね。ただ実際、百発百中で効果を出せる会社は存在しないため、「うまくいかないこともあるさ」という前提で、仕組みをつくっていくことが大切になります。そうなると、いわゆるアイディエーションが重要です。そこで、アイディアを少し試してみたり、技術的にそれが可能どうかをエンジニアと一緒に机の上で検証してみるなど、まずはそうした一歩を踏み出してみることが大切です。

その上で、エンジニアが「これを解決できる技術は今のところ世の中にない」と言ったり、実際に特定のお客さまと一緒にやってみて効果が生まれない場合にはそこで止めるなどの、チェックポイントをつくっておきます。あわせて、うまくいかないものがたくさん出ることを前提にして、プロセスや社内の風土も変えていかなければならないでしょう。必ずうまくいくと分かるものだけをやるのではない風土に変えていくことも重要だと思います。

それと、先ほどお話ししたコンフリクトの問題を解決するには、「ディスラプション事業」という言いかたをしていますが、コンフリクトするかもしれないものを含めて、とにかく制度も人材もKPIもまったく違うものを作ることが重要です。そのうえで、次第に「ディスラプション事業」側が大きくなっていく仕組みをつくらないと、デジタル変革の実現は難しいでしょう。

経営者、業務、デジタル、ITの「四位一体」体制で推進すべき

では、最後にまとめさせていただきます。デジタル改革が、GAFAでなくとも大きな効果を本当に生むことができるのかといえば、私はできると考えています。大きな効果を生むことが可能ですし、先ほどいくつかご紹介した通り、その成果を享受する企業も徐々に増えてきているのが現実だと思います。

ただ、成功するのはなかなか簡単ではありません。明確な成果目標を設定して、経営者と業務とデジタル、そして既存のITによる“四位一体”と言えるような正しい体制でしっかり推進していく必要があります。デジタル推進室を立ち上げて終わりではないし、IT部門でやっておけばいいという話でもありません。特に日本企業では、経営につながる成果目標をきちんと設定することと、デジタルの取り組みに経営トップおよび効果を生むべき事業部門・業務部門がしっかり参画することも重要です。むしろそちら側が主導する状態にしていくことが不可欠でしょう。

また、そうした要件を満たすためには従来の組織制度を変革する必要もあります。既存事業や業務組織と融合させたようなデジタル推進組織のありかたも重要ですね。そのうえで、デジタルを担うのは先ほどお話ししたような従来と少し異なる人材となるため、そうした人材を惹きつけるような環境や制度も併せて必要になります。

結論としては、デジタル改革できちんと成果を創出するためには、組織・人材・制度まで含めた変革を同時に推進することが不可欠だと考えています。デジタル推進室をつくってそこに任せておけばいいという話にせず、経営陣も一緒になって陣頭指揮をとりながら、組織・制度・人材まで変えていくこと。そして事業部門や業務部門が旗を振ってデジタル部門とともに成果を出していく。このような全社の変革として推進することが、成果を出せるかどうかの分水嶺になるのではないかと考えています。(後編に続く)

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