怒りと憤りと少しのワクワク感で起業!シリーズA成功の秘訣は「チームづくり」「プロダクト」「事業計画」〜マネーフォワード辻庸介社長

本記事は、G―STARTUPセミナー(登壇者:株式会社マネーフォワード代表取締役社長CEO・辻庸介氏)の内容を書き起こしたものです。

今野穣氏(以下、敬称略):今日はマネーフォワードの辻さんに来ていただきました。マネーフォワードは今、時価総額800億円ぐらいかと思いますが、まず辻さんに創業当時を振り返っていただき、シリーズAに向けたチーム作りや資金繰りなどのお話を伺いたいと思います。

辻庸介氏(以下、敬称略):よろしくお願いいたします。創業して7年の会社で、今、社員600名ほどの会社になっています。私はソニー、マネックスを経て、マネーフォワードを2012年に立ち上げました。創業当時は、週7日終電まで仕事というのがマストみたいな感じで、1回終電より1本前に帰ったら「辻さん、早退ですか?」って言われて(笑)。それで、さすがに7日働くのは体壊すよねっていうことで、日曜は定休日って決めて。その発想自体がすでにおかしいんですけど(笑)。それで5年後、マザーズに上場させていただきました。

私たちは、「すべての人の、お金のプラットフォームになる」というビジョンをすごく大事にしています。法人向けのクラウドサービスと個人向けのマネーフォワードMEという資産管理、あと金融機関様向けの開発をしているチームと新しいファイナンスを作るチームの4部門でやっています。

「怒り」と「憤り」と「少しばかりのワクワク感」でマネーフォワードを起業

今野:新卒でソニー、マネックスに行って、その間に留学してMBAを取って。当時としては珍しいバックグラウンドかと思いますが、どういうきっかけで起業されたんですか?

辻:アメリカに留学していた時に、日本がフェアに評価されていないっていう憤りみたいなものを感じました。だから、怒りと憤りと少しばかりのワクワク感で起業した、そんな感じです。

今野:最初にどんな分野で起業しようと思ったのですか?

辻:マネックスにいた時、個人のネット証券の取引は全部電話や対面だったんです。それがテクノロジーによって、一気に90%以上の方がWEBでの取引に移行したのを体験して、テクノロジーのすごさに感動して。だから、テクノロジーを使えば、さらに多くの方にもお金の課題を解決できるサービスを提供できるんじゃないかと思いました。

今野:最初に作ったプロダクトはどんなサービスだったのですか?

辻:「Moneybook」という大失敗したサービスです。Facebookのお金版のようなサービスで、匿名で登録すると参加者全員の取引が全部わかるんです。”全裸サービス“とも呼んでるんですけど、最高のアクセス数は33人っていうひどいサービスでして(笑)。

今野:33人(笑)。笑っちゃいけません。そこから時価総額800億円の会社ができたのですから。

辻:松本大さん(マネックスグループ株式会社代表執行役社長CEO)に「これ絶対やるべきです」と何度もプランを提案して。でも、ちょうど当時、リーマンショックのあとだったのでそれどころじゃなかったんですよ。私がマーケティング責任者だったこともあり、「それはいいけど、お前、今月の売上どうなんだ」みたいなこと言われて沈没するっていう。

今野:マネックスの社員の時にサービスを作ったのですか?

辻様:マネックスの中で作ろうとして、結局できなかったので独立しました。

今野:マーケットの特定ってどうやってしたのですか?

辻:まず、今だとマーケットの特定から考えたりするんですけど、私たちのプロダクトはカスタマーペインというか「こういうサービスが世の中にあったらいいよね」というところから始まりました。そもそもファウンダーの1人の瀧が、ロボアドを作りたかったんです。ただ、ロボアドのビジネスは、社会的意義があるし、市場が大きいのですが、とにかく時間がかかります。1000億円積んでもその内1%、10億円しか儲からない。そもそもユーザーベースがなかったら無理なので、それよりまずは現状把握できるサービスを作り、ユーザーベースを作った後、ロボアドを提供しようという話になりました。だから最初は「Moneybook」、その後、Moneybookをクローズさせて、家計簿アプリの「マネーフォワード」にピボットして、さらに昨年サービス名を変更して現在の「マネーフォワードME」になりました。

今野:最初のピボットには、どのぐらい時間をかけたんですか?登録者33人ですぐやめたの?

辻:リリースして2ヶ月ぐらいに、何とかしたいと思っていろんな人に聞きに行っていた時に、人工知能の第一人者である東大の松尾豊先生の研究室でプレゼンしたんですよ。6人中5人に「いや、いいサービスだけどちょっと怖いね」って言われて、1人が指差して笑いながら「俺、絶対使わねえ。こんな怖いの使う人いないでしょ」って言ったのですよ。そこで心がポキッと折れて、これはやっぱりダメだと思って諦めました。

今野:良くも悪くも見極めるには、ユーザーインタビューが大事ってことですかね。

辻:ユーザーインタビューをしていなかったんですよ。今だと『リーン・スタートアップ』の本とかあるじゃないですか。あれ読んでいたらもうちょっと早く成功できたかも知れません。

PMF(プロダクト・マーケット・フィット)は「水漏れするバケツ」のようなもの

今野:「Moneybook」をクローズしてから、すぐうまくいったんですか?

辻:クローズしてもなかなかうまくいきませんでした。結局、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)をどこに置くかだと思うんですよ。PMFって、僕のイメージではバケツです。バケツに残った水を継続中のユーザーと考えると、大抵、そのバケツには穴がたくさん開いていて、それを必死に防ぐわけです。

ただ、その継続率をずっと見ていて、「このサービス、きちんと継続している」と分析できた時に、いけるかもと確信しました。PMFをする前って、真っ暗闇の中を出口がわからず走っている恐怖があるじゃないですか。このままじゃダメなんじゃないか。こっちに走っているけど、実は出口はそっちじゃないか、余計遠ざかっているんじゃないかと。その恐怖の中で、ある程度の割合の人が継続して使ってくださるというのを発見した時と、半年後にマネタイズをすれば資金面も問題なさそうだと判明したとき、この2つがわかった時に希望が見えてきました。

今野:その継続率で見えてきたものとはどんな傾向なのですか?

辻:銀行口座をサービス内で連携した人は、3ヶ月後に20%ぐらい継続して使ってくれている傾向が見えてきました。時間と共に継続率は落ちていくんですけど20%ぐらいになると一定になるのです。これ、さっき言ったバケツに水が溜まっていく感覚で、これはひょっとしたらマネタイズできるかどうかわからないし、どれくらいユーザーが伸びるかわからないけど、いけるかもしれない、と。

今野:サービスを開始してから、その傾向がわかるまで3ヶ月ぐらいかかったわけじゃないですか。その間はどんなことをしたのですか?

辻:1日何十回と新しい機能をリリースしました。ユーザーがいないとリリースし放題なんですよ。誰にも迷惑がかからないから(笑)。もう1つ大きかったのが、当時はサービスがWEBベースだったのですが、メンバーの誰かが「これからスマホの時代じゃないか」みたいなことを言ったんです。当時、「OCN家計簿」と「Money Look」というサービスがありました。そのサービスと差別化するにはどうしたらいいかという話をしていたときに、「これからはスマホだ」と。今考えたら100%スマホなんですけど、当時はそんなことは誰も思っていなくて。でも全リソースをスマホに突っ込もうという意思決定をしました。ところが、創業当時のメンバーはみんなWEBの仕様しか書けないから、スマホの画面にたくさん機能を入れて書いていたのを覚えています。

今野:創業時のメンバーはどうやって集めたのですか?

辻:10人ぐらいまで全部知り合いじゃないですかね。創業メンバーの6人は、ソニーの同期で、あとはマネックスを辞めた人で一緒に働きたいエンジニアとか。あとは留学時代の友達とかですね。

今野:ファイナンスで外部資金の調達はいつ頃でしたか?

辻:2012年にマネーフォワードを創業して、その翌年の1月にエンジェルラウンドをして、1人あたり250万から300万円を10人ぐらいに出していただきました。大きいものとしてはジャフコさんにその年の11月に5億円出資していただきました。ジャフコさんにはご縁があって、私たちのサービスを使ってくれて「すごい!これはいい」って感動してくださって。あとは私たちのチームを見て「投資したい」と言ってくれて。

シリーズAを成功させた秘訣は「チームづくり」「プロダクト」「事業計画」

今野:いわゆるシリーズAを成功することができた秘訣というと、何かポイントがありますか?今からこれをやっておいた方が良いというものなど。

辻様:1つは「チームづくり」です。2つ目は当然「プロダクト」。3つ目はその「事業計画」。事業計画はつい年々成長するように書いてしまいますが、この成長する過程のいくつかのKPIは証明されていないとやっぱりいけなくて。大事な肝のKPIが2~3個、証明されていたら、例えば5億円を広告に突っ込んだらこう伸びますって言えるので。

今野:そのKPIを証明するには、時間との戦いもあるし、それをやるためには人を採用しないといけないじゃないですか。でも人を採用すると固定費が上がります。創業当時はどんなふうにマインドを持って経営されていたのですか?

辻様:初めのうちは、創業メンバーの給料を0にするか20万円にするか30万円にするか、1時間ぐらい議論しました。自分たちが出資している間は0にしようしたのですが、あるメンバーが言いにくそうに「すいません。僕、貯金が50万円しかなくて、0だったら続けられないです」って言って、「じゃあ20万円」みたいな感じで決めました。創業メンバーはとにかくすごい抑えたんですよ。そうして抑えながら、ひたすらそのメンバーでまずKPIを出す。KPIを出したら資金を調達しようと考えていました。あとベンチャーはリソースが限られているので、追うKPIは1ヶ月に1つしか追わないことにしました。それだけは絶対何が何でも達成するみたいな感じです。

今野:今、他のベンチャーを見ていると、追いかけるべきはそのKPIじゃないんじゃないかなと思うことがあったりします。KPIをどうやって精緻化していったのですか?すぐにわかるものなんですか?

辻:今だとわかるようになりましたけど、当時は本当にわかりませんでした。大抵、ユーザー数とかを追うじゃないですか。でも、私はユーザー数だけじゃないと思うんですよ。PMF(プロダクト・マーケット・フィット)はユーザーが溜まるかどうかだと考えていました。だから私たちの場合だと、「銀行口座を3つ以上連携した人は溜まる確率が高い」ということがデータ分析で分かったので、すぐにKPIを「銀行口座を3つ以上連携するユーザー数」に設定して、まずはそれだけをやろうと。

今野:そこからシリーズAのあとにBtoBにいきましたが、タイミング含めて、どういう考えで実施したのですか?やりたいからやる、みたいな考えですか?

辻:最後はそれですよね。当時の状況をお伝えすると、個人向けも伸びていましたし、プレミアム課金も伸びていました。その時に、「この銀行やカードなどの入出金明細や利用履歴を取得するアカウントアグリケーションという技術を企業の会計にも組み込むことができれば、経理がもっと楽になるのでは」と思い付きました。ソニーの時、私は経理部だったんですよ。3年ぐらいひたすら手入力していて。その経験があったので、これは法人にも絶対使えるし、すごく楽になると思って、絶対やるべきだと思いました。ところが、当時メンバーは10人ぐらいなので、リソースにも限界がありました。そこで、じゃあ何が問題なのかと考えたら、結局、人とお金だねと。じゃあ、人とお金を私が引っ張ってくるからBtoBをやらせてほしいという話をしました。

今野:今でこそSaaSは一般的だけど、当時、そういう提供形態というかビジネスモデルづくりって何か参考にされたのですか?どこかベンチマークしていた会社がありますか?

辻:当時はなかったですね。こういうのを作ったら便利じゃないかというカスタマーペインから入っていたので。その後、いろいろ調べるとアメリカにIntuitという会社があるとか、ニュージーランドにXeroという会社があるとかわかってくるのですけど。当時はSaaSって言葉もなかったですし、フィンテックもなかったし、マーケットがこれだけ伸びるという数値もなかったし。たまたま今やっていて領域が大きくなってきたという感じです。

今野:チームづくりに関してですが、自分が経験しているマーケットで、その経験をしている人たちを仲間に入れるってすごく大事だなと思いますが、いかがでしょうか?

辻:マーケットを理解していないとカスタマーペインがわからないし、だいたいプロダクトづくりって地獄のような日々じゃないですか。だからもうパッションがないと続かないと思うのですよね。

「会社のカルチャー」こそ一番の差別化要因であり競争優位性である

今野:上場までのヒストリーで、これは話しておきたい象徴的な出来事があれば。

辻:今振り返って思うと、会社のカルチャーって一番の差別化要因だと思うのです。それが競争優位性になると思っていて。プロダクトは真似できますが、会社のカルチャーって真似できるものじゃないんですよね。その会社のカルチャーを作ることが経営者の役目だと思っています。

今野:会社のカルチャーってどうやって作るのですか?

辻:カルチャーってやっぱり人と会社のミッション、ビジョンとか、やりたいこととか、そこだと思うんですよね。

今野:ちなみにマネーフォワードさんのカルチャーを一言で言うと?

辻:一言で言うと「SP TRF(スーパーTRF)」。Speed, Pride, Teamwork, Respect, Funの5つです。これをすごく大事にしています。

今野:上場の判断はどういう判断でしたのですか?今わりと上場時期を引っ張る会社も出てきていたりしますが。

辻:将来的に、ソニーやトヨタみたいな世界に通用する会社を作りたくて。そういう企業にとっては上場って通過点じゃないですか。どうせやるならできるだけ早くやろう、みたいな。気持ち的にはそれが一番大きかったかもしれないです。

今野:競合ってどのぐらい気にしますか?

辻:全く気にしないと言ったら嘘になりますけど、あんまり気にしないですね。マネックス証券の時、ネット証券って凄まじい戦いだったんですよ。SBI証券、楽天証券、松井証券などとの競争が激烈だったときに、私はマーケティングの責任者だったのですけど、反射的に競合他社がやることに対して、同じようなことをやっちゃうんですよ。そうするとだいたい10個施策をやって8個ははずれるんです。だから他社がやっているから自分たちもやろうっていう意思決定は、結局現場をめちゃくちゃ疲労させることになるので、あんまり競合を見ないようにしています。

今野:それはありますね。上から言われて他人事でやり始めてミスったときのダメージの方が大きいですよね。辻さんはシリーズA前後ってご自身、どんな時間の使い方をしていましたか?

辻:シリーズA前後ですか。もうプロダクトだけですよね。仕様書を書いたり、ウェブディレクターみたいなこともやっていましたね。

今野:オペレーションから外れて、組織の方を見るようになったのはいつ頃ですか?

辻:今は新規事業が中心ですがBtoBサービスのボードミーティングとかにも出て意見を言っています。

今野:抱えている既存事業を手放して、組織を大きくしてことに注力したのはどんなきっかけでしたか?

辻:いつも帰る時に、何か1つ考え事をしていました。例えば、今の成長スピードをもっと早くできる可能性があるんじゃないか、とか。じゃあそうなっていないボトルネックはヒト・モノ・カネのどれなんだと。結局、ヒト・モノ・カネじゃないですか、ビジネスって。だから、そのボトルネックをはずしにいくのが社長の仕事だと思っています。ですので、当時カネがボトルネックだったらお金を調達しにいくし、ヒトだったら優秀な人材を調達しにいくし、そんなことをやっているうちに考えが組織全体にシフトしていきました。

創業当時から変わらないのは「ユーザーフォーカス」

今野:創業時から考えていたことで、今もまったく変わってないこととかありますか?

辻:変わっていないことは、やっぱりユーザーフォーカスです。サービスがユーザーさんに伝わらないと何の価値もない、もう消えていくだけなので。成長しているアマゾンだってそうだし、やっぱりカスタマーファーストの文化を作っているっていうのがすごく大事で、そこは今も徹底的にやろうとしています。

今野:逆に変えて良かったことってありますか?あの時はこんな肩張っていたけど、実はそこを気にしなくていいよみたいな。

辻:創業当時は焦っているから、メンバーに対して怒り狂っていましたよね。もうすごく感じ悪かったです。

今野:それは今、後輩の起業家たちにアドバイスするとしたら怒るなと?

辻:それがピュアに、サービスを伸ばすための適切なアドバイスだったらいいけど、ただの感情の発露であればメンバーのモチベーションは下がりますよね。自分が社長として解決しないといけないのに、それができずに焦って怒りをぶつけるとか、そういうのはよくないですよね。うちのメンバーはよく耐えてくれたと思いますよ。

今野:そこから、どういうタイミングで変わったんですか?今、辻さんが怒っているところ見たことないですけど。

辻:創業当時、退職していく人に対して、心のどこかで裏切り者みたいに思っていたんです。この船は沈むかもしれない、先に逃げるのか、みたいな。でも今だから思えるのかもしれないですけど、その人だってわざわざ創業間もない会社に入ってくれて、何割かでも貢献してくれて。でも、彼の人生・彼女の人生があって船を降りていくので。そこで怒ったところで戻って来ないし、怒ったところで悪い評判が立つし。そこはもう笑顔で「頑張れよ!」みたいなことを言えるようになったのが、たぶん社員が100人ぐらいになってからじゃないですかね。当時は言えなかったですね。

今野:初期の頃は、社長の成長がある種、会社の成長を規定すると言う話があると思いますが、辻さんはご自身の成長をどう促進させていきましたか?

辻:自分の周りにいる人を見て、その6人の平均値が自分だ、みたいな話があるので、先輩経営者の方に積極的に会いに行ったり、とにかく聞きまくるみたいなことはやっていましたね。

今野:今日の参加者の皆さんはユニコーンを目指す起業家なのですけど、その方々に向けてのメッセージがあれば、ぜひ共有いただければと思います。

辻:やっぱり「社長の器」が「会社の器」だと思うんですよね。だから社長の器を大きくしないことには会社は成長しないし、自分より優秀な人ってなかなか来てくれないじゃないですか。結局、人がリスクのあるベンチャーにジョインするのって、ワクワクしたいとか、世の中良くしたいとかエモーションだと思うんですよ。私が最近思うのは、社長がどれだけワクワクできる大きな絵を描けるかとか、目の前の小さなミッションじゃなくて、世の中変えてやるぐらいのことを言えば言うほど、みんなワクワクしてくれると思います。それを描けるのは経営者だけだと思うので、ミッションは何なのか、自分が本当に変えたい世界は何なのかを自問自答してみてください。

RELATED CONTENTS