ロシアとグルジアの間はまだ緊張したままだが、このロシア・グルジア戦争が他の周辺諸国に与えた影響もまた大きい。特に中央アジアに対する影響について、地政学的分析や予想を専門とするSTRATFORが、非常に興味深い分析をしている。
中央アジアの大国といえば今はカザフスタン。面積は最も広く資源も豊かだ。中央アジア5カ国の中では唯一、ロシアと中国に国境を接している。カザフスタンは資源が豊富にあるため(石油や天然ガスの埋蔵量は、残りの中央アジア4カ国を全部合わせた埋蔵量よりも多い)、ソ連が崩壊後、西側資本が大量に流れ込んで石油や天然ガスの開発を行ってきた。それだけではない。トルクメニスタンやウズベキスタンの資源をロシアや中国、あるいはヨーロッパに向けて輸送するためにはカザフスタンの領内を通過しなければならない。
ロシアの意向に反して行動するには相当の覚悟
カザフスタンの地政学的な位置から、ロシアは従来、カザフスタンを仲介役として扱ってきた。そしてカザフスタンもその役割を果たしてきたのだが、状況が変化しているという。その1つが冒頭に挙げたロシアとグルジアの戦争。この戦争で旧ソ連諸国に明らかになったことは、ロシアの意向に反して行動するには相当の覚悟がいるということだ。
このため中央アジア諸国はロシアとの関係を強化しようとしている。それは同時に、西側諸国との関係を少なくとも当面は薄めようとしている。カザフスタンが、カスピ海を横切ってアゼルバイジャンへの原油の出荷を差し止めているのもその表れだとSTRATFORは分析している。
さらに世界経済を覆っている金融危機の暗雲は、中央アジア、とりわけカザフスタンに大きな影響を与えている。カザフスタンは、輸出収入の70%を石油に依存し、また外国直接投資の76%は石油関連だ。金融危機のためにこうした資金が海外に流出し、かつ2008年7月には1バレル147ドルにまで高騰していた原油相場が今や50ドル前後となれば、カザフスタンの経済にも圧力がかかる。このため事実上の「終身大統領」となっているナザルバエフ大統領は、より内政を重視せざるを得なくなっているのだという。
カザフスタンが中央アジア地域の「盟主」的な役割を果たせなくなったことで、その空隙(くうげき)を埋めようとするのがウズベキスタンだ。ウズベキスタンは、ロシア、中国と国境を接しているカザフスタンと違って、こうした大国とは国境を接しておらず、他の中央アジア4カ国に取り囲まれている。これが歴史的にはウズベキスタンの相対的な独立性の起訴となっていた。
さらにこのあたりの人工的に国境線が引かれた地域に多い少数民族問題もウズベキスタンにはないのだという。むしろ周辺諸国にはウズベキスタン人が多い。しかも人口は2800万人ほどでカザフスタンの2倍近く、中央アジア諸国の中でも突出している。さらにエネルギー、食料は自給である。
このところの対ロ交渉で、ロシアが最も頻繁に訪問したのはウズベキスタンだ。さらにこの経済危機の中で、キルギスタンやタジキスタンが支援を求めたのは、カザフスタンではなく、ウズベキスタンだ。
「権力の空白」はいつまで続くのか
問題は、この中央アジアの盟主という「権力の空白」がいつまで続くのかということだ。長く続いてウズベキスタンの地位が固まれば固まるほど、カザフスタンが再び力をつけてきたときに、両国の対立が深まる恐れがある。もし中央アジアの情勢が不安定化すれば、ロシアはそこに介入するはずだ。そうなれば、カザフスタンに権益を持っている西側諸国や中国はどう動くのだろうか。
日本もエネルギー関連でカザフスタンとの関係を強めようとしてきた。2006年には小泉総理が総理として初めて訪問している。また2007年には当時の甘利経済産業大臣が訪問している。いわゆるODA(政府開発援助)では、2003年から2006年にかけて日本が第1位だった(2007年は米国が1位、ドイツが2位、日本は3位になっている)。
グルジア紛争は現サーカシビリ政権がどこまで維持できるかという問題に発展しているが、ここに中央アジア情勢が変数として加わると、世界のエネルギー情勢は大きく変化してくることも考えられる。とりわけロシアが領土的な復活も視野に影響力を強めてくれば、その波紋は決して小さくない。
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