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社員の幸せがあってファミリービジネスは成り立つ、理念経営の極意

投稿日:2019/06/04

前回に続き、グロービス経営大学院東京校で行われたセミナー「ファミリービジネスの課題と永続的な発展に求められるものとは何か~PwCが世界53カ国2,953名に実施した"ファミリービジネスサーベイ2018"から見えてきた現状と課題~」の内容をお届けします。(全2回)

時間をかけて理念を練り上げていく

田久保:では、会場の皆さまから質問を募りましょう。 会場:ファミリービジネス憲章や企業理念は、明確に意識したうえで言語化してきたのでしょうか。 黒澤:冊子『心の経営』は40年前から毎年作成していますが、きっかけは先ほどお話しした倫理研究所でのセミナーでした。当時から、そこで素晴らしい言葉や、経営において大切なお話を聞かせていただいていたんですね。そのなかから、うちの会社と比較して、「誰が見てもこちらのほうがいいよね」というものを皆で書き出したうえで、それを40年積み重ねてきたという感じです。そうした言葉が実績にもつながって今日に至っているということで、すごく大きな効果があったのかなと思っています。 田久保:状況に応じて変えることもあったんですか? 黒澤:ありました。基本的なところに大きな変化はありませんが、何か新しく良い言葉が見つかったときは、従来の表現を変えたりはしています。 田久保: 40年前というと会長がおいくつぐらいの頃ですか? 黒澤: 38歳の頃ですね。 田久保:逆に、20歳頃に経営を引き継いでからの18年ぐらいは、理念や憲章ベースでなく、ひたすら日々の事業に邁進していたということですね。理念に関していろいろ研究してみると、成功している会社が必ずしも創業当時から理念を持っているわけでもないことが分かります。ただ、成長に伴って支店ができたりして、毎日顔を合わせない人が増えると、言葉にしないと伝わらないことも増えてくる。そこで言語化したり冊子をつくったりする企業さんは多いと感じます。 会場:ファミリービジネスでM&Aを成功させる秘訣が何かあれば教えてください。 蒲地:デューデリジェンスをしっかり行って、会社のことをきちんと理解することが成功の秘訣だと思います。よく分からない会社を買って失敗するケースは多いので。しっかり理解すれば、ある程度はうまくいくと思いますし、逆に言うと、デューデリの結果として「合わないな」と事前に分かれば、買わないと思いますので。 もう1つは、覚悟を持って取り組むこと。非ファミリービジネスであれば失敗したら「売ってしまおう」「清算してしまおう」となるケースは多いと思います。でも、ファミリービジネスで成功するM&Aは、たとえば「社員は絶対に切らないで雇用し続ける」といった覚悟をしっかり持っていることが多いと思います。その覚悟があれば諦めないという前提で事業に取り組むと思いますし、強い思いによって成功に近づけるというのはあると思います。 田久保:私が社外取締役をやらせていただいている会社でもファミリービジネスのM&Aを行ったことはありますが、やっぱり、いろいろ違うんですよね。仕事の進め方も、評価制度も人事制度も、何もかも違う。そういうことを前提にして、それでも本当に長くお付き合いする覚悟を持って進めることができるかどうか。そこに尽きると感じます。デューデリですべて明らかにするのは前提中の前提として、あとは双方の経営者がどこまで覚悟を持ってやれるかという擦り合わせ。それがいいレベル感で合えば、なんとかなるのかなと思いました。 会場:企業理念の浸透度や理解度といったものは、社員の方々の人事評価基準の1つにもなっているのでしょうか。 黒澤:査定や評価については現場の人たちにそれぞれ行っていただいて、それを上にあげていただくという形になります。 田久保:ちなみに、グロービスには「グロービス・ウェイ」という、僕らが守りたいと考えている理念のようなものがあります。その項目自体がそのまま360度評価の項目にもなっているんですね。たとえば、評価の1つである“コミュニケーション・ウェイ”といったものが6点満点で「3」だったとすると、「あなたはグロービス・ウェイのコミュニケーション・ウェイについて3点」と評価しているメンバーがいる、と。そういうことがダイレクトに返ってくる。理解度チェックという方法もありますが、そんな風に理念の浸透すら行動評価にすると、従業員にとっては相当なインパクトになると思います。 もちろん評価制度に「正解」というものはありませんが、グロービスは試行錯誤のなかでそんなやり方をしています。まあ、僕なんかは毎年何十人もの人から360度のフィードバックをもらうんですが、もらってから1週間ぐらいはブルーですよね(会場笑)。「こんな評価もあるのか」って。ただ、それは僕にとって、すごく大きな意味のあるフィードバックであることも間違いないんです。 会場:家族経営では、「血のつながっていない相手ならどれほどラクだろうか」と思うようなことも多々あるのかなと思います。そうした難しさに直面したとき、社外で相談できるメンター的な方はいらしたのでしょうか。 黒澤:兄弟でも何も起こらないというのはあり得ません。それでもやっぱりファミリービジネスですから、兄弟で力を合わせなければいけない。ですから、基本的には公平な形にするということに注意していました。所得も常に同じぐらいにしていましたし。また、どうしても自分だけで説得等ができなかったときは、第三者の立場にいるような他分野の友人にも相談したりして、ときには一緒に話をしてもらいながら進めたりしていました。 田久保:30~40代の頃、辛いことがあったときはどうでしたか? 黒澤: 40代の頃、バブルが弾けて当社のメインバンクが倒産してしまったことがありました。定期預金から何から何までなくなって、社員のボーナスも半額ぐらいになってしまった時期があります。当時は資金繰りに四苦八苦していたんですが、その姿を子どもたちが見ていたんですね。それで、息子が「お父さんがお金に困らないように」ということで自ら公認会計士の資格を取り、監査法人でのキャリアを経てうちに入ってくれたんです。父親の背中を見て、「何か父の代わりにできることを」と考えてくれたんだと思いますし、それは本当に嬉しかったですね。 田久保:息子さんには、「将来の経営を」といったお話は以前からなさっていたんでしょうか。 黒澤:おそらく「ゆくゆくは自分たちがやらなくてはいけないな」と感じていたのかなと思います。ただ、実際に承継の形をつくっていったのは15~20年前になります。 会場:これまでに上場を考えたことはなかったのでしょうか。 黒澤:したいと思ったことはあります。公開すればお金が集まって無借金になるという発想で(笑)。実際にその機運が高まったことはあったんですが、1つ問題がありまして。あるとき、銀行に「金利が上がると価値が何倍にもなります」という金融商品を勧められたことがあり、お付き合いで買いました。ところが、当時はそれをやると上場できなくなってしまうということに息子が気づいて、「止めるべきだ」と。最終的には銀行と交渉して罰金を払って手放しました。それ以降、もう借り入れは2度と行わず、前向きな投資だけを長期的にやっていこうと思いました。

社員とのコミュニケーションで意識すべきこと

会場:社員の方々のモチベーションを高める秘訣があれば教えてください。 黒澤:経営の三大使命の1つに「社員の幸せ」を掲げていますし、とにかく社員の皆さんに幸せだと感じてもらえるようなことを、皆さんの提案のなかから地道に拾いあげて積み重ねてきました。たとえば今回も4月に施行される働き方改革関連法案に先んじて、今年から有給消化を年5日増やすよう徹底することにしました。 まずは6月26日。当社の創立記念日なんですが、この日を休みにしたうえで有給に振り替えます。次は8月の13~15日。もともと夏休みであることのほうが多かったんですけれども、完全に休みとしました。それから12月27日。昨年までは28日が仕事納めだったところを1日早めました。こうして休みを5日間増やしたんですが、この結果どうなるか。社員の人たち1人ひとりにも、それで生産性に悪影響が出ないよう一緒に考えていただくということで、モチベーションも高まってくるのではないかなと思います。 また、GLTD(団体長期障害所得補償保険)も10年前から導入しています。社員の人たちが病気や怪我で長期間働けなくなった場合、会社で所得の50%を補償するというものです。これに加えて個人でも30%ほど積み増ししていますから、およそ80%、将来にわたって補償できる形になります。こうした制度を採用している企業は日本だとまだ10%前後に留まると聞いていますが、当社ではそういう取り組みもさせていただいています。 会場:これまで社内にいなかった専門性を持つ人材や、異なるタイプの人材を外部から招いて成功したご経験、あるいはうまくいかなかった経験があれば教えてください。 黒澤:外部から幹部的な人材に入ってもらったことはあります。たとえば当社は借入と売上が同じぐらいになった時期があって、銀行の支店長の方が派遣されたんですね。ただ、その方はどうしても当社と合わなかった。最終的には会社を去られたんですが、結局は「良かったなあ」と(会場笑)。 会場:会社には親族でなくとも優秀な方はたくさんいらっしゃると思います。そうした方々と一緒にうまく会社を回していく秘訣等が何かあれば教えてください。 黒澤:役員に関しては皆が身内というわけではありません。ファミリーでなくとも、成果を出して皆に認められているような方が半分ほど取締役になっています。ですから今後はグループ化して、それぞれの人たちが代表権を持ってやれるようにしたいと考えていますし、そういう形のほうが多くなるのではないかなと思います。 会場:若い後継者が、年上の幹部の方々とのコミュニケーションで困るケースが多いと感じていますが、何か気をつけている点があれば教えてください。 黒澤:今はちょうどいい具合で世代交代の時期に入っていますから、私たちの年代は皆いなくなっていきます。で、今は幹部人材についてもジュニアたちと世代的にも気の合うような人材が育ってきていますし、タイミング的にもすごく良かったなと思います。 田久保:たとえば、ご家族でない取締役の皆さまとお話をするとき、何か気をつけていることはありますか? 黒澤:当社は誰に対しても公明正大にやっていますので。決算書も見せますし、特に対応等が違っていたりすることはないですね。 田久保:ありがとうございます。本会場にはこれから経営を担っていこうとする方々がたくさん集まっています。そんな皆さまが、これからどんな風に学び、どんな風に経営者になっていけばいいか、最後にコメントをいただければと思います。 黒澤:特別なことは申し上げられないんですが、とにかく目に入ったもので「これはいいな」と思ったことは積極的にどんどん挑戦していくことが大切ですし、それによって人生が少しずつ拓けていくと思っています。これからまた新しい時代が来ると思いますが、前向きな人生のなかで人間力を高めることに力を注いでいって欲しいと願っています。 蒲地:本日は価値観についていろいろなお話をさせていただきました。実際、価値観は大事にしたほうがいいですし、うまく活用していくべきというのはその通りだと思います。ただ、無理をしてつくるものでもないと思うんですね。湧き出てくるものであり、自分たち自身に嘘をついてまでつくるようなものではない。ですから、無理矢理つくるのでなく、皆さまが大事にしているものは何かを見つめ直していただいたうえで、それを価値観、経営理念、ビジョン、あるいはファミリービジネス憲章等に昇華させて欲しいと思います。そういったことが長期的には成功の秘訣になると思います。 田久保:長寿企業の研究等をさせていただくなか、特にファミリービジネスを営んでいらっしゃる方々のお話を伺っていると、経営者の皆さまが担っている責任の重みというものを強く感じます。従業員の方々、そのご家族、さらには顧客や仕入先等々、さまざまな方々にさまざまな形で責任を負っているというその厳然たる事実に、どれほどしっかり向き合って経営をしていくのか。 経営の「経」という字には、「縦につなぐ」という意味があるそうです。縦につなぐ営みをするのが経営である、と。ですから「次の世代につながることをするのが経営である」という意味を込めて、福沢諭吉が「Management」という言葉を「経営」という表現に訳したという話があるんですね。その意味で、縦につなぐこと、あるいはゴーイングコンサーンで永続させることの意味や責任を我々一人ひとりがきちんと考え、次の世代もしくはお客さまのために、今後も真剣に会社の発展を目指していく。そんな風にできたら、未来も少し明るくなっていくのかなという気が致しました。本日はありがとうございました(会場拍手)。

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