最近はすっかり紙メディアの影が薄い。不況で広告が減っているから、新聞も雑誌もページ数が減って薄くなったというだけではない。米国では2008年12月、ロサンゼルス・タイムズやシカゴ・トリビューンの親会社であるザ・トリビューンが、日本で言う民事再生法にあたる連邦破産法11条の適用を申請した。ロサンゼルス・タイムズ紙とシカゴ・トリビューン紙は、各々74万部、54万部の部数を誇る全米有力紙である。
また2009年に入ってからは、フィラデルフィア・インクワイアラー紙がやはり連邦破産法11条を申請した。またニューヨーク・タイムズ紙は株価が6セントに急落する中で、この四半期は無配にするとしている。2008年第4四半期は何と48%の減益、そしてWebサイトの広告収入も初めて減ったという。そのため同紙は、メキシコの大富豪、カルロス・スリム・ヘル氏から2億5000万ドル(約244億:1ドル=97円)の資金提供を受けた。
部数が減るから広告も減るという“負のスパイラル”
紙メディアが苦しんでいるのはおそらく世界中の傾向だが、このニューヨーク・タイムズ紙の報道で気になったのは同社のWebサイトの広告収入が減ったということだろう。もちろん全体的な不況という現時点での特殊要因はあるとしても、インターネットの方が広告メディアとして紙よりも優れているという「常識」に疑問符が付いたと言えなくもないからである。
筆者自身は大学を卒業して以来、週刊東洋経済、ニューズウィークと、紙メディアでジャーナリスト生活を送ってきた。しかしニューズウィーク日本版で編集長をしていた最後のころは、紙メディアを取り巻く環境はどんどん厳しくなっていた。1番の問題は広告収入が頭打ちになり、そして減ってきたことである。それと同時に部数も頭打ちか減少傾向になった。部数が減るから広告も減るという“負のスパイラル”になっていった。
もちろんそれは内容的に読者の興味を引かなくなったという面もあったと思う。編集者としてそれなりに努力はしても、読者の興味を引き寄せることはできなかったのは筆者の能力不足と言うほかない。
とはいえ、その当時から「ニュースはテレビやインターネットで知ることができる。なぜ雑誌を読む必要があるのか」という声をよく聞いた。インターネット先進国であった米国でその話を持ち出すと、ニューズウィークの幹部は「米国ではニュースジャンキー(ニュース中毒者)という言葉がある。ニュースを見たり聞いたりする人はさらに新聞や雑誌で読みたがるものだ」と解説してくれた。
彼らには、ニュースは速報だけでは分からない、深く知るためには新聞や雑誌が必要だという「確信」があったのだろう。確かに、ニュースを供給する人々自身はニュースジャンキーである。ニュースを聞けば、それはなぜ?誰が?そしてどうなるのか?と疑問が湧いてくる。その疑問に答えを出そうとすると、さまざまなものを読まなければならない。こうなるとテレビはあまり役に立たない。インターネットで検索して、元データに当たるといった作業が役に立つ。
インターネットと言っても、いわゆるニュース検索などはあまり役に立つとは言えない。それは基本的に新聞の焼き直しである場合が多いからである。筆者にとっては、英語情報も含めた元データに当たることができる手段としてのインターネットは非常に価値がある。
インターネットの多くの情報源は新聞
しかしこうして考えてくると、メディアとして新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、インターネットという分類そのものに一考の余地があるかもしれない。例えばインターネットの元ネタは新聞であることが多い。つまり新聞がつぶれて元ネタを書く人がいなくなったらインターネットのニュースも消えるのである。韓国で一般読者が身の回りの出来事を書いて、それでニュースサイトを構成するというWebサイトがあった。日本でも「オーマイニュース」というプロジェクトがあったが、うまく機能しなかったようだ。結局、ニュースの発信元の信憑性(しんぴょうせい)や記事の不慣れがあって、とてもWebサイトとして構成できなかったのだろうと想像する。
このあたりをどう考えるか、次回ではそこを取り上げてみたい。
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