ラオックスの銀座本店が8月末で閉店しました。入居する建物のリース契約期間終了が理由とのことで、近いうちに近隣の「ラオックス 銀座EXITMELSA」に統合されるそうです。
「爆買い」を経て事業を拡大するラオックス
ラオックスといえば、元々は秋葉原のような場所に堂々店を構える、日本の代表的な家電量販店のひとつでした。それが業績不振により2009年に中国家電量販店に買収されたのですが、その際、業態を家電量販店から、主に中国人観光客を対象とした免税店へと衣替えを図りました。その後、折からの日本観光ブームが重なり訪日客が急増したことで、2015年には流行語となった「爆買い」の象徴的な店舗と見られるほど、業績は好調そのものでした。
ところが、2016年にラオックスを取り巻く環境が一変しました。中国政府が一部の消費財に高い輸入税を課す規制を設けたり、人民元が円高元安に触れたこと等により、中国人観光客の消費意欲が徐々に減退。今回の「銀座本店」閉店も、少なからずその影響を受けたものと見られます。通常ならここで事業展開に一息入れそうなところですが、ラオックスは逆に、積極的な事業の拡大に打って出ました。
さて、事業戦略の方向性について考える際に有用な概念として、「アンゾフのマトリクス」というものがあります。
アンゾフのマトリクスとは?
「アンゾフのマトリクス」とは、縦軸に「市場」、横軸に「製品」をとり、それぞれ「既存」と「新規」の2つに分け、2x2の4象限で事業拡大の可能性を検討するためのフレームワークです。このフレームワークを用いることで、以下のようなことが可能になります。
- 事業の拡大施策を網羅的に洗い出せる
- 自社の過去の事業拡大の傾向や強み・弱みを検討することが出来る
ラオックスの事業拡大を図で理解
少し前まで訪日客相手の免税店だったラオックスですが、「アンゾフのマトリクス」に照らし合わせてみると、なかなか果敢な挑戦が行われていることが見えてきます。近年、「市場」と「製品」の両面で事業拡大が行われています。
「市場」面では、訪日中国人観光客から、中国国内の中国人にまで対象を拡げました。しかも、リアルの店舗だけでなくインターネット通販にまで進出しました。ラオックスは中国資本ですので、全く未知の市場とは言わないまでも、観光客とは必ずしもニーズが一致しない可能性があるでしょう。
「製品」面は更に積極的な拡大が見られます。それまでの販売中心だった事業モデルから、婦人靴メーカーの買収を通じファッション関連商品の企画製造販売にまで手を拡げました。また、ショッピングモールを開設し、そのモール内に劇場を設け公演を始めるなど、ついにはエンターテイメント事業にまで乗り出しました。
そして報道によれば、今年3月に上海の高級ホテルに日本料理の高級店を出したそうです。これは、日本でなく中国国内、物販でなく飲食と、「アンゾフの事業拡大マトリクス」で見ると、「新規市場」x「新規製品」の象限に分類されるでしょう。一般的に最も成功リスクが高いとされるこの象限を中心に、ラオックスの事業拡大が今後どのような様相を呈するのか、注目したいですね。