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リクルート峰岸社長が語る「1兆円企業をつくるための5つの鍵」とは?

投稿日:2018/08/13更新日:2023/07/19

本記事は、G1ベンチャー2018の第1部全体会「1兆円企業をつくるための5つの鍵~世界で戦える日本発のインターネット企業になるためには?​」の内容を書き起こしたものです。動画版はこちら>>

1兆円の時価総額に対してコミットする

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峰岸:皆さん、おはようございます。リクルートの峰岸と申します。さて、「1兆円企業をつくるための5つの鍵」というテーマだったので、考えてみました。その1点目ですが、1兆円の時価総額ということを真剣に直視すること。そして、そこにしっかりコミットすることが大前提になると思います。

時価総額1兆円というのは本当に難易度の高いチャレンジングなテーマだと思います。アメリカのインターネット領域でも直近10年でIPO時に1兆円がついた企業は4社しかありません。FacebookやTwitterです。また、IPO時は1兆円がつかなかったけれども今は1兆円ついているという企業ですら5社しかありません。住宅関連のZillowやHRソリューションのWorkdayです。

これを日本市場に置き換えるとどうでしょうか。アメリカの人口は日本のおよそ3倍。しかも、アメリカ企業は西欧圏と親和性が高いので、そこまでターゲットに含めると人口は日本の8~10倍になるわけです。マーケットがそれほど大きくても、実際には先ほどお話ししたぐらいの数しか1兆円企業になっていないわけです。

ですから、そう簡単じゃないというのは間違いない。とりわけ、日本企業が日本のマーケットでビジネスを行うという話であれば、半端ではないターゲットだということを、まずしっかり直視しなければいけないと思います。

また、これは釈迦に説法かもしれませんが、資本市場から見て、どういったものから1兆円の時価総額がつくのかということも、しっかり考えなければいけないと思っています。たとえば既存の成熟した産業では、企業のEBITDAの10倍程度が時価総額とも言われます。あるいは、今インターネットで高い成長性をたたき出している企業であれば、売上のマルチプルで一般的には説明がつくということで、売上の10倍程度が時価総額になるという説明もできると思います。

そこで1兆円から逆算してみるとどうなるか。我々もその相関関係を調べてみたんですが、たとえばインターネット企業なら年率30%以上で成長し続けているというモメンタムがあり、かつ売上が1000億以上という企業。そういう企業に売上の10倍程度となるマルチプルがついて、時価総額1兆円になるという風に考えることができると思います。

ですから、売上1000億以上で年率成長率30%以上というのが、定量的には1つのメルクマールになるのかもしれません。1兆円の時価総額とはそういうことであるという理解をして、そこにコミットして実際に積み上げていくことが前提ではないかな、と。これが1点目になります。

イノベーティブなプロダクトやサービスをつくり続け、磨き続ける

続いて、2つ目は割と基本的な話でつまらないかもしれませんが、やはりイノベーティブなプロダクトやサービスをつくり続け、磨き続けること。時折、私は社内で「イノベーション、またはイノベーティブなプロダクトやサービスの定義とは何か」という話をします。それは数十%程度の変革ということでなく、これまでと桁が1つや2つ違う、圧倒的に高い生産性や利便性を提供できるプロダクトおよびサービス。あるいは圧倒的な安さやスピードを、そのプロダクトやサービスが生み出せるかどうか。そういうことを1つの尺度にしようと、ビジネスディベロップメントのミーティングでもよく話したりしています。

既存の勢力や慣習があるなかで、スタートアップの方々、または大企業のなかで事業を開発するようなセクションの方々が市場を変革しようとする場合、たとえば「価格が数十%安くなります」とか「数十%早くなります」程度ではインパクトに欠けてしまうと思うんですね。ですから、桁の違うプロダクトやサービスをつくることができるのかどうかということも、1つのメルクマールになると思います。

もちろんそれだけでも容易ではないんですが、さらに言えば、奇跡的にそうしたプロダクトを初期の段階でつくることができたとして、そのあとも継続的な投資を行って磨き込み続けることが1つの課題になるんですね。安易にマネタイズの方向へ進んでしまうケースがある。大企業なら経営陣から売上をあげるように言われたり、スタートアップなら資本市場やVCから「そろそろIPOに向けて形を整えるように」なんて言われたりするからかもしれません。

それで、本質的または圧倒的にイノベーティブなサービスとして仕上がっていないにもかかわらず、ちょっとお金をいただこうといった力学が働いて、プロダクトのカスタマイズに入ってしまったりする。そういったことが安易なマネタイズとしてあるのかもしれません。もちろん適切なマネタイズはやったほうがいいと思うんですが、そんな風に流されやすくなってしまうこともあるわけですね。ですから、その意味でもイノベーティブなプロダクトやサービスをつくることにコミットするというのはかなり大変ではないかなと思います。一時的にできたとしても、それをやり続けることがすごく難しい。これが2点目になります。

本当の市場はどこか考える

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3つ目の鍵は、本当の市場はどこかというのを考えることだと思っています。そもそも、生み出していくプロダクトやサービスによって、その市場を本当に変革したいのかということが、プリミティブな問いとして重要になると考えています。個人としても企業としても、その市場を本当に変革したいのか。あるいは、私が、私たちが、その市場を本当に変革するべきなのかということに向き合わなければいけないと思っています。

そのうえで、たとえば「その市場は小さ過ぎないか?」とか、逆に「曖昧模糊として大き過ぎないか?」とか、あるいは「そこで勝ち目があるのか」と考えるわけですね。編み出したり生み出したりするプロダクトやサービスについて、変革すべき市場を常に探求し続け、そのうえで変化すべきは変化していく。そんな風にして市場の捉え方を変化させていくこともすごく重要ではないかなと思っています。

この点でリクルートグループのお話をすると、3つの事業から構成されています。1つは「HRテクノロジーSBU」。SBUは「Strategic Business Unit」です。で、2つ目が国内事業を中心とする「メディア&ソリューションSBU」。そして3つ目が「人材派遣SBU」です。それぞれのSBUで産業も時価総額の測り方も違うのですが、私たちは都度都度、この3つのSBUの時価総額を常にシミュレートしています。

たとえばメディア&ソリューションSBUというのは、20年ほど前はいわゆる情報誌、ペーパーメディア主体のビジネスでした。それで一時期は売上も飽和していたんですが、ここ数年はメディア&ソリューションSBUでも市場の捉え方を変えて、主に中小企業の方々に対する集客や採用、あるいは業務支援等々、経営サポート全般のアプリケーションを提供する事業と捉え直しています。それで売上のほうも現在は再び安定的な成長軌道に乗せることができました。

そんな風にして、本当の市場がどこにあるかを捉えるのはとても大切なことだと思います。HRテクノロジーのSBUも、「既存の採用広告市場をリプレイスしていく」といった位置づけではありません。今はリクルーティングプロセス全般を、あるいはさらに広くHR業務全般を、テクノロジーをベースにして圧倒的に効率化していくという市場の捉え方をしています。今HRビジネスの市場は全世界で数十兆円以上と言われていますから、そこをどうやって圧倒的に効率化していくかということで進めているわけですね。

長期的なグランドデザインを描く

そして4つ目。これも言ってしまえば簡単ですが、長期的なグランドデザインを描くということだと思います。IPO以降に時価総額1兆円となったアメリカ企業5社も、創業から1兆円企業となるまでに、平均でおよそ15年を要しているんですね。長いんです。3年や4年でできるようなものじゃない。それならば、市場の捉え方も、プロダクトのつくり方も、あるいは投資の仕方も、20年程度のスパンで捉える。そして、それをさらに3つほどの時間軸に分けたうえで同時並行的に差配していくことが、現実的にはすごく重要になると考えています。

ですから、現在はリクルートグループでも20年程度のスパンで世界のHR市場を捉え直しています。そのうえでテクノロジーを用いて圧倒的な効率化を実現したい。そこで3つぐらいの時間軸に分けています。まずは短期的にドライブするプロダクトの選定ですね。ここは一般の方からすれば、「コマーシャルをすごく出しているな」とか、「デリバリーを強化しているな」という風に映ると思います。

ただ、それとは別に、5~10年をかけないとものにならないプロダクトもあります。さらには10~20年かけて、本当に変革したい市場を見据えて実直にPoC(Proof  of  Concept)というか実験を続けながら、本当に小さなチームでつくろうとしているものもあります。今はそんな風にして3つぐらいの時間軸に分けて取り組んでいたりします。

たぶん「市場を変革したい」と思って10~20年かけてやっているものは、このデジタルテクノロジーの時代にあって、おそらく最初の10年ぐらいは小さく波を打つような変化しかしないんですよね。ただ、そのあと急激な上昇カーブを描いて、世の中や市場を圧倒的に変革するようなプロダクトをつくることができるんじゃないかな、と。そういう期待も抱きながら、今は3つの時間軸で同時並行的に、いろいろと塩梅を見て配分しながら進めている状況になります。

変化し続ける組織をつくり続ける

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そして5つ目。最後になりますが、やはり最も重要なのは常に変化し続ける組織をつくり続けること。これに尽きると思います。真剣に1兆円企業になろうとするなら、先ほど申しあげた通り普通に考えると20年ほどかかるわけですから、少なくともその20年をしっかり見据えること。そのうえで、どうやって常に変化していくべきか、自問自答していく必要があります。

これをリクルートグループになぞらえるとどうなるか。約20年前、リクルートグループはM&Aすらしたことがありませんでした。基本的にはすべて自前開発。また、10年ほど前までは海外の売上もほぼゼロです。私がCEOになったのは2012年ですが、当時の海外売上比率は3~4%でした。それが今年は50%弱になりました。全体の売上は2兆円前後で、その半分ぐらいが海外売上ですね。そして海外の従業員数もおよそ2万人にまで増えています。

ですからこの6年ほどで、もう会社としてまるっきり変わってしまった感じがします。約20年前は、人材派遣分野以外ですと基本的には情報誌のビジネスをやっていました。それが今はもちろんスマートデバイス中心のビジネスになっていますし、10年前と比べると経営陣も全員入れ替わっています。また、明後日には株主総会がありますけれども、今年からは取締役にも外国の方をお招きする予定です。当社「Indeed」の創業者であり、長らくチェアマンを勤めていた方が我々のボードメンバーとなります。

そんな風に、私たちのような歴史のある大きな企業ですら、やれば常に変化できます。とにかく、1兆円企業を目指すスタートアップの皆さまにとっても、一定の規模になった企業の経営者の皆さまにとっても、一定のところまで成長したその先がすごく大事になるわけですね。

たとえばスタートアップの時期に5年程度かけてつくったプロダクトやサービスがたまたま当たったら、あるいは軌道に乗ったら、もうその段階で次の20年を考えて準備しておく必要があるのだと思います。長期的に見据えて、たとえばグローバルに打って出ていったり、M&Aで補完したりしていくことに備え、今から経営人材の増強または入替を行っていく必要がある。

あるいは資本の抜本的な施策を本気で考えていく。それで現在の資本家にいろいろ言われたとしても、「20年を見据えるなら、この資本の構成が一番いいんだ」と。そういうことを自分たちのなかでしっかり自問自答して、最適な準備をしていく。そうしたさまざまな準備が初期5~10年のタイミングでなされていなければ、20年後に1兆円の時価総額を実現するというのも大変難しくなるじゃないないかなという風に、私自身は思っています。

実際、私たちも大きな資本施策の変革を行いました。2014年のIPOです。グローバルでNo.1を目指すというビジョンを設定したので、それを達成する資本施策上の手段としてIPOを選択しました。それで当時1.8兆円だった時価総額が現在は5兆円程度になっています。

そんな風にしてやっていけば日本企業だって常に変革できます。小さな企業でも中堅企業でも大企業でも、やろうと思えばどんどん変革できるんじゃないかなと思っています。ということで、5つ目の「常に変化し続ける組織をつくり続ける」というのが最も重要なことかと考えております。大変長くなってしまいましたが、以上になります。ありがとうございました(会場拍手)

執筆:山本 兼司

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