シニアマネジメント(経営層)として、高いレベルで成果を出すために、求められる知性とは何か。またその知性へ人々は到達することが出来るのか――本書はその、難解な問いに対して1つの解を導き出した書籍である。
人間の脳は生涯を通じて適応を続けることがわかっているが、著者によると大人として成長をする知性は大きく3つのレベルに分けられるという。
第1のレベルは「環境順応型知性」だ。「周囲の期待によって自己の役割を規定」し、「役割に忠実に従い行動すること」を大切にし、「他者の価値観などに順応することを目指す」知性である。
第2のレベルは「自己主導型知性」だ。「周囲からの期待や環境を客観的に見つつ、自己の決めた判断基準、規律によって役割を規定」し、「判断・選択・行動」をすることができる知性である。
そして、最も高次の第3のレベルは「自己変容型知性」だ。「自身の判断基準や規律を客観的に見つつ、その限界を知っている」ことや「矛盾や反対を受け入れ、統合し判断・選択・行動」をすることが出来る知性である。
そして著者は、この「知性のレベルの高さ」と「組織のポジション×仕事の能力」は相関していることを、明らかにしている。
私は現在、日系大手企業の人・組織に関するコンサルティングをさせていただいている。日常的に経営人材と触れる中で、より上位者かつ中長期的に成果を出しているシニアマネジメントは、第3のレベルへ到達している方が多いと実感する。すなわち、世の中をシステム・構造でとらえ、一定の法則を明らかにし、自他の考えや価値観をそのシステム内で相対的に位置づけ、相互の良いところを取り入れることができるのだ。またシステムの変化を敏感に読み解き、捉え直すことにも積極的である。
とはいえ、そのような知性に到達するには相当な労力が必要で、ほんの一握りの人材しか到達できないのではないか、という声も聞こえてきそうだ。残念ながら、本書には直接第3のレベルへ到達する手法は描かれてはいない。しかし、それぞれレベルを駆け上がるための共通の手法とその労力が詳細に描写されている。
また、本書には変革に成功した個人のみならず、組織の実例が多くかつ詳細に描かれている。例えば、変革を推進するための中核の手法として「免疫マップを作成し、組織、集団で議論」することを挙げている。これは、各リーダーが、「1. 自身の改善目標」とそれを阻害する典型的な「2. 阻害行動」、そして阻害行動の裏側にある「3. 裏の目的」、そしてそれを支える「4. 固定観念」を描き、なぜそのように考え、行動するのか、またどのようにしたら乗り越えることができるか議論するというものである。
ポイントは、このようにリーダーの「本音の感情と行動」をテーブルに乗せ、議論をする場を持つということだ。私の職場においても、年間の評価システムで360度評価を行い、自身を振り返り成長させる土台が整っているが、そこで変われる人変われない人さまざまなケースに直面した。変われる人は、痛みを伴うことを前提としながらも自身の感情と行動を本音でテーブルに乗せ自身に向き合っているからだと実感している。それゆえに、このような手法で変わるきっかけをつくることが重要だと心から感じている。
「うちの組織は誰もが指示待ちで進むべき方向に進まない」「強いリーダーに率いられていまは良いが、長くは続かないだろう」「何よりも自身が変わらないと組織が変わらない」等々。現在の自社組織と自身の行く末に不安がある方は、ぜひ本書を読み、より高次元の知性を持つ集団(強い組織)を目指してみてはどうだろうか。
『なぜ人と組織は変われないのか―ハーバード流自己変革の理論と実践』
ロバート・キーガン(著)リサ・ラスコウ・レイヒー(著)(池村千秋訳)英治出版
2700円