自らの限界を知ることで周囲を巻き込むリーダーになる――新興国の内視鏡普及に挑戦するオリンパス 山田貴陽氏 

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オリンパスは、2016年7月に「T-TEC(Thai-Training and Education Center)」と称するタイで初の内視鏡の医療トレーニングセンターを立ち上げた。このセンターはトレーニング施設に留まらない。東南アジアの医療の発展を目的とし、多くの関係者が集うことによって、知恵の集積と新たな価値を創造するプラットフォーム、即ち、持続的発展を可能とする基盤となる。この設立に深くかかわったオリンパス・アジアパシフィック(2018年3月インタビュー当時)にて、内視鏡ビジネスの拡大を牽引した山田貴陽氏に、成功の秘訣を伺った。新興国における最先端医療技術の普及には様々な壁が待ち受ける。その壁を乗り越えるべく多彩な関係者を巻き込み、どう前に突き動かして行ったのか。そしてその際に求められるリーダーシップとは何かに迫る。

ずばり成功の要件は何か?

= 「三方よしのタイミング」「持続可能な仕組み」「良きリーダーとの出会い」 =

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開腹手術が主流の東南アジアで、高い技量が求められる内視鏡を使った最先端技術を如何に現地の医師にとっても価値あるものと感じてもらえるか。その価値がどう患者さんや地域社会のメリットに結び付き、どうブレークスルーさせていくのか、という課題に向き合った。今振り返ると3つの成功要因があったと考える。

1つ目は、 三方よしのタイミングがそろったこと。安倍政権が国家戦略として 「日・ASEAN健康イニシアチブ」の推進を表明していた。タイもメディカル・ツーリズムを重要な国家施策としていた。医学界は先進医療の普及に興味を寄せ、当然、産業界もチャンスをうかがう。全ての関係者が 「時を得たり」 と機が熟し、産官学連携の土壌ができた。まさに三方よしのタイミングだ。

2つ目は、持続可能な循環を生み出せたこと。政府が予算を未来永劫出し続けることは難しい。一方、民間は民間で景気に左右されがちだ。従い、持続性を担保するために、NPOを現地の医師らによって立ち上げるサポートを行った。NPOを介すことで継続的にお金が回る仕組みが作りやすい。例えば、日本政府もサポートがしやすくなる。さらに、政府がサポートすることで、メコン地域での高度医療参入に二の足を踏みがちなメーカーや医療従事者の参画のハードルが下がる。こうして持続可能な循環を生み出したのだ。

3つ目として強調したいのは、このような連携を図る上で、突破力のある良きリーダーが各界にいたことだ。特に、当時のタイには、経産省、厚労省出身のリーダーが駐在されていたことが幸運だった。「良きリーダーとの出会い」がなければ、実現は困難であっただろう。理想の産官学を創ろうとトコトン語り合い、意見を戦わせたことが思い起こされる。

立ち上げの過程でどのような苦労やチャレンジがあったか?

= 「テクノロジー」は変わっても、「人の関係」は変わらない =

多くの関係者を巻き込むには、多くの人が参加しやすい立てつけにすることが大事だ。どうすれば人が動きやすくなるのかが、極めて重要であることに気付かされた。いくつか例を挙げよう。メコン各国のプライドの高い医師や医療関係者を巻き込むには、タイだけが主導する形にするのではなく、「地域共通の基盤を構築する」ことが有効だった。その一つの成功事例がMESDA(Mekong Endo-Surgery Development Association)と言える(参考:成長ドライバーとなる新興国でのビジネス拡大)。メーカーや日本が主導するのではなく、あくまで現地の医師団がイニシアチブを取っていることも重要だ。

次に、新しい技術の普及には、必ずしも現地が前向きとは限らない。ベテランの医師ほど、新しい医療技術の導入にはネガティブに動くことが多々ある。ある意味自己否定になってしまうからだ。そこで、ベテランの医師には、NPOの理事として、その次の世代の医師の技術向上を上位のポジションでサポートするようお願いした。これが功を奏した。

こうした関係者の期待や状況をきちんと理解して、適切な場を作り、やり方を考えることが、現場の営業の最前線にいる者の大切な役割だと考えている。テクノロジーが発展しても、結局は人が物事を動かすのだ。この理屈は、過去からそして未来においても不変の鉄則であろう。

活動を通して見えた日本企業の課題は何か?

= 「匠の医療」から「多くの人が学べる医療」への意識転換 =

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日本の先進医療の水準は素晴らしいものがある。しかし、あえて問題点を指摘すると、その強みがグローバル展開の邪魔をする。日本の医療技術は他の技術と同様に、匠すぎるのだ。なかなかまねすることが難しく、また、医師もアーティストとしてのこだわりを持つ。こうしたマインドが日本の技術の高度化に貢献したのは間違いないが、医療の普及のし易さという観点では、拘りの強さが反比例的に邪魔をする。医療においても他の産業界が抱えているのと同様に、「いかに標準化するか」ということが課題となる。

実は、この問題点は、多くの日本の医師も分かっており、何とかしなければという機運もある。では、どうすればこの問題は解決するのだろうか。ここでもやはり「場づくりが鍵」であると考える。日本の医師と現地の医師が議論する場を創り、議論の場から技術的に折り合える点を模索するプロセスが有効だ。そして、議論したことを実験してみる場を作ることだ。エキスパート同士を引き合わせ、新たな価値を創造する。これも現地でしかできない大事な仕事だ。

新たな価値を創造するために必要なことは何か?

=自分の限界を知ることが人を巻き込む武器になる =

若いころは何でも自分でやり切りたいという意識が強すぎて、逆に壁にぶち当たることが多く、自分の思い通りにならないことも多かった。しかし、徐々に経験を重ねることで自分の限界を前向きに受け入れられるようになった。自分の限界を知ることで、逆に自分の価値を認識できるようになり、そうすると周囲の力を借りるのもスムーズになった。周囲を巻き込むための「自己認識の重要性」を学んだ。まずは己を知ることが重要なのだ。

振り返ると、自分は国内営業からキャリアをスタートさせた。その後、徐々に海外との接点を持つようになった際に、「なぜ国内で活躍している先生が、海外ではそのレベルまで活躍できないのだろうか? 日本の先生はもっともっとできるはずだ」という問題意識が生まれた。その後、自分はもっと広い世界を見ようと、勉強もしたし、外も見た。さらに、製薬会社に出向する機会を得たのも大きかった。同じ医療の世界を違う角度から見ることができたのだ。そして、タイや香港を拠点に今度は現地から医療を見る機会を得た。常に違う世界に触れ続けることで自己認識が高まり、自身のやるべきことが定まり、周囲を巻き込む力も増したのだ。

日本のビジネスパーソンへのメッセージをお願いしたい

= 管理型のマネジメントからパートナーシップを取れる人材たれ!=

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タイを始めたとした新興国地域のビジネスパーソンを見ていると、非常にビジネスセンスの高い人たちが沢山出てきている。若手社員の成長も目覚ましい。こうした状況の中で今後ビジネスを行うには、日本でやってきたことを現地で実現するための管理型の人材はもう不要だ海外の優秀な人材といかにパートナーシップを組めるかが問われる。

そのためには、狭い世界で仕事をしているのではなく、異なる環境に身を置いて、己をよく知ることが良きパートナーとして活躍する上での必須条件となるだろう。こうした意識を持って、臆せずチャンレンジするビジネスパーソンが1人でも多く増えることを願っている。自分もさらに大きな舞台でチャレンジをしていくつもりだ。

【ポイント】
・多くの関係者を巻き込んで事業を行うには、タイミングと参加しやすい立てつけを作ることが鍵
・そのためには、どんなにテクノロジーが進化しても、人間理解が常に求められる
・周囲を巻き込むリーダーは、己の限界を知り、己の価値と周囲に求める価値を明確に定義する

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