イノベーションには熱量の高い場に出る勇気が必要 

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日本経済の中枢を担う経営者が集い、熱い議論を交わした「第6回 G1経営者会議」。前回に続き、第4部分科会「新しいイノベーションを生み出す空間づくり」の内容をお届します。(全3回)

大企業の社員こそが熱量の高い場へ出ていくべき

楠本:続いて梅澤さん。全体会では水野(弘道氏:年金積立金管理運用独立行政法人理事兼CIO)さんから「個人のコネクト力を高めよう」というお話もありました。あるいは、たとえばテスラの開発でも「俺たちまだできてないよね(笑)」なんていう風にして、できていないことを逆にみんなで楽しむような風土って大事だよね、と。これは、たとえば「100BANCH」や「DMM.make」のようにベンチャーを養成するという話でもあれば、オープンイノベーションのセッションで(パナソニックの)馬場さんがおっしゃっていた「大企業側で内部をバイタルにする」という話でもあるように思います。そのどちらを目指すにせよ、どうすれば個人をエンパワーメントできるとお考えでしょうか。

梅澤高明氏(以下、敬称略):御三方が素晴らしく面白い「場」をすでにつくってこられたなかで、私だけが「これからつくります」という(笑)、今日はその宣言をさせていただこうと思ってました。で、やろうと思っていることを一言でご説明すると、東京に最大規模の、スタートアップの集積を中心とした「イノベーション・キャンパス」、と我々が呼んでいるものをつくろうと考えています。

これ、実は先例がアメリカ東海岸のマサチューセッツ州にあります。ケンブリッジ・イノベーション・センター(以下、CIC)というMITキャンパスの隣にある企業で、ここがアメリカ東海岸のイノベーションにおける最大のハブになっているんですね。2年前に会ったとき、その彼らが「東京に出たい」と言ってくれていた。それで「こんな素晴らしい話はないな」と思って、それ以来僕も応援していました。おそらく2年後ぐらいになると思いますが、都心の好立地に相当大規模なキャンパスをつくろうと思っています。

そこに集めたいと思ってるのは、スタートアップ、そしてスタートアップとつながりたいと思っていらっしゃる大企業の事業開発やR&D部隊の方々。もちろんVCとアクセラレーターも。アメリカではすでに5カ所ほどそういう拠点ができていて、そのすべてがそれぞれの街でそういう集積拠点になっています。一昨年はロッテルダムにも進出していて、やはりそこでも都市最大の集積拠点になっています。ざっくり言えば、それと同じモデルを東京でもつくろうという話になります。

なぜ、私梅澤がそういうことをはじめているのか。私自身は大企業をクライアントとする経営コンサルタントですが、過去数年はイノベーションというテーマで新しい製品やサービスの開発等々、いろいろな苦労を企業の方々と一緒にさせていただいていました。そのなかでよく出ていたのが、「スタートアップともつながりながら、外のリソースを取り込んでイノベーションを起こそう」という話だったんですね。それで「我が社もオープンイノベーションの拠点をつくったほうがいいのかな」「CVC(Corporate Venture Capital)をつくったほうがいいのかな」みたいな話になる、と。

ただ、たとえば大企業が自社オフィスの一角に何かつくって、「イノベーションラボをつくりました。どうぞ皆さん来てください」「CVCつくりました。投資させてください」と言っても、そう簡単に物事は進まないじゃないですか。

大企業の方々と仕事をしていて思ったのは、そうやって自分たちのところに集めるんじゃなくて、自分から外に出ていく必要があるんじゃないのかなっていう点でした。そうして1番熱量が高く、いろんな人たちが集まって、なんだかよく分かんないことをやってるようなところに飛び込んで、世の中でこれから何が起こるのかを感じたり、新しい人のつながりをつくったり。あるいは「自社の事業にはたいして役に立たないけど、うちのリソースをここにぶっ込んであげたら、この会社は一気に飛躍できるかも」なんていう機会を見つけたり。そういう動きのなかで初めて、世の中でオープンイノベーションと言われるようなことがリアルになってくるんじゃないのかなと思っていました。

そうだとすれば、大企業のオフィス内にイノベーションラボをつくるんじゃなくて、みんなが集まるような場所をどかんとつくって、そこに私のクライアント企業をみんな引っ張り込みたいな、と。というのが現時点での野望です。

楠本:なるほど。野望の発表になっちゃいました(会場笑)。

亀山:うちも混ぜてよ、そこに(会場笑)。そっちの方が格好よさそうだし、うちの赤字とかも飲み込んでよ。

梅澤:(笑)。素晴らしい。是非相談させてください。

楠本:ちなみに「イノベーションを起こすための場をすでに社内でつくっている」という方は会場にどれぐらいいらっしゃいますか?では、「これからつくろうかな」と考えていらっしゃる方はどうでしょう。「まだ計画はしてないけど、そういう場があったらいいな」と考えていらっしゃる方は、…ありがとうございます! 皆さま全員がお客さまです(会場笑)。

いずれにしても、アメリカのほうは個人や団体に垣根がないんでしょうね。「2020年までに40%が個人事業主になる」といった予測データも見たことがあります。だからWeWorkのようなネットワークで自立した人々がどんどんつながりながら、「事業を興していこうぜ」なんていう話になっていく。そのあたりが日本と違うのかもしれません。

梅澤:日本だとフリーランスもそうだし、副業もやっと広がりはじめた段階じゃないですか。それで「副業していいよ」と急に言われても何をやっていいか分からない人は多いと思うんだけど、「まぁ、将来起業するかもしれないし、ちょっと自分の好きなことの周辺を探索してみようかな」みたいな人たちはいる。それではじめた副業の時間もそういうところに集まっていけば、たぶん、あっという間にいろんなネットワークができる。そういう機能もあると思います。

ゆるくして、惹きつける

亀山:社内で施設をつくってもほとんどうまくいかないと思うんだよね。外部の人は敷居が高くて入りにくいから。みなさんから見たら若いやつって何考えてるのか分かんなかいと思うけど、彼らから見ると大人たちはすごく怖い存在。「とって喰われるんじゃないか」とか、「なんか騙されるんじゃないか」とか思ってる。俺がラフな格好になったり、「うちはゆるいよ」なんて言ったりするのは、そういう部分もあるから。真面目な会社でスーツを着た人間が近づいてくると、「俺たち何かうまいこと言われて株を取られちゃうんじゃないか?」とか、そんな風に思われるからね。

だから、今は社内でもなるべく、「金は出して口出さない」みたいな形にしてる。じゃあ、共通のコストはどこの部署が持つのか。うちは各事業部とは別の本社機能が、たとえばメディア広告費の半分は持つ。DMM全体のイメージを高めるためにCMを打って欲しいというのもあるから。で、それ以外は全部事業部側につくことになってるのね。で、その予算の範囲は好きにやらせる。

逆に「これをこういう風に使え」なんて言うとロクな結果にならないから。若いやつに教えてやるっていうのはすごく奢った話で、もうイノベーションに関しては教わるしかない。昔は自分たちで一生懸命いろんなことを考えてビジネスをはじめてきたけど、もう、いい年だから。新しいことが出てこないし、AIの話とかにもついていけない。だから、もう「教えてください。お金は出しますから」みたいな気持ちでやるのが、いいのかなっていう気はしてる。

楠本:ゆるくして、そして「来ていただく」と。

亀山:そうそう。昔は営業職のやつらもみんな俺のとこへお酌に来てたけど、ITのやつらは来ないから。だから俺のほうがビール持って「おつかれおつかれー」なんて言って回らないといけないわけよ(会場笑)。そこで「なんであいつらお酌に来ないんだ」って怒ってちゃダメ。スーツは着てこないし、ときどき変なサンダル履いてきたりするし。その辺はどこまで許すのかっていう話。人に会う部署なら、ある程度礼儀正しくはさせる。でもエンジニアみたいな人種になったら、もう風呂入ってなかろうが短パンで来ようが関係ない。

別に甘やかせって話じゃなくて、彼らには彼らの文化があって。そこで「いや人としては」とか「道で会ったら挨拶をしなきゃ」とか言ってもね。そういう教育もあるとは思うよ。うちのグループにもそういった会社もあるから。うちの物流センターに行けば、パートのおばちゃんはみんな「こんにちは」って挨拶してくれる。でも、IT部署に行ったら俺が通ろうがすれ違おうが、みんな歩きスマホで(会場笑)、こっちから「おーい、元気?」なんて声をかけたりしてるぐらいで。

楠本:千晶さんはどうですか? 亀山会長がおっしゃる「ゆるさ」って、クリエイティブな場づくりではすごく大事だと思います。千晶さんも割と雰囲気的に「ゆるキャラ」してらっしゃるじゃないですか(笑)。その辺「お上手だな」と思ったりしていて…、何の話をしてるのか(会場笑)。何が言いたいかというと、ロフトワークさんの空間づくりでも少しゆるさを演出したりするところはあるのかな、と。「100BANCH」もそうですが、その辺、大企業でのイノベーションとも関連させつつ、どういう風に生んでいくのかっていうのを伺いたいと思います。

林:一応ね、「ゆるキャラ」のフリをしてるだけなんです(笑)。根はしたたかなんです。

亀山:したたかだよね。(壇上での議論も)メモを取ったりしてるし(会場笑)。

林:最初から真面目にやると向こうも構えてくるから。「いや、もうほんと、楽しいだけでいいじゃないですかー」って言っておきながら、したたかに仕組みを入れて、「気が付いたらうまくいってた」みたいなのが好きで。

楠本:知ってる。

亀山:俺もしたたかなんだよ(会場笑)。 ゆるそうに見せてるけど実は計算高かったりする(笑)。

林:「儲かってませんよー」なんてフリをしておきながら?

亀山:「儲かってます」とは言うけど(笑)、そういう話をしても「まぁ、しょうがねぇか」ってなるようにね。「上場してないし、あんな性格だから許してやるか」なんてなるよう、ラクな感じに。これはこれでいろいろ苦労してんだよ(笑)。

林:たとえば「100BANCH」だと、まず「パナソニック」と「35歳以下でヘンテコなことばかりする100のプロジェクト」っていう、この2つがすごく離れてるんですよ。それで先日パナソニックの津賀社長に、「この活動を御社の事業に、どんな風に結びつけたらいいと思いますか?」って聞いてみたら、「距離が離れ過ぎていて結びつけられない、だから結びつけるな」と。「ここは雀荘でいい」っておっしゃってましたよね? 楠本さんもそのとき一緒にいたんですけれども。

「雀荘だったら社員にも“週3日、毎回3時間行け”とか言うものでもないだろう」って。それよりさっさと仕事を終わらせて雀荘に行きたくなって、そこで面白い人間と会って、いいアイディアが出て「よっしゃ」ってなればいい。「それが仕事につながることもあるし、つながらないこともあると思うけど、そういう雀荘の面白さっていうのは絶対にあったほうがいい」みたいなことをおっしゃっていましたよね?

楠本:ですね。戦略的に「こことここをつなげよう」みたいな姿勢が見えれば見えるほど、そうならないという。だからそれを偶発的に起こす。御二方はご自身について「したたか」とおっしゃっていますが、つまりは予期をしつつ予測や計画を立てつつ、でも起こること自体は「偶発的に」という、そういう場をつくるということですよね。逆に「はい、コネクトしてください」というところにクリエイティブは生まれないんじゃないかと、津賀社長はおっしゃりたかったんじゃないかなと思います。

林:私のほうは何を仕込むかというと、たとえば「100BANCH」では100のプロジェクトを採択するんですけど、そのプロセスをすごくしたたかに設計しました。要は、せっかく場所をつくっても「弊社の事業部門部長がプロジェクトを採択します」なんて言ったら絶対に新しいものは入らないんですよ。だから採択する側には各領域のエキスパートを、年代的にも20代から60代まで、全年代の方に入っていただきました。しかもその人たちの合議ではなくて、1人が「これいいね」ということで採択したら、その時点で採択になるというというルールを…、たいして考えてないような感じで「そんな感じでやりましょうねー」って。

楠本:したたかですねー(会場笑)。

林:この仕組みは「100BANCH」が成功している1番の理由だと私は思っています。なぜか。誰か1人が「採択する」と言えば実際に採択になるというプロセスだと、全20名いるメンター同士で「目利き力」勝負になるんです。だからプレゼンを見るにしても、そのプレゼンターの可能性をどれだけ見出せるかっていう勝負になる。それでメンターがすごくやる気になるんです。

先日も、「シイタケの汁でサンフランシスコにお店を展開する」っていうプロジェクトがあって、それに対して誰かが「それいいね!」って言ったら、「いや、俺だっていいと思ってた」「自分も」みたいな感じになって(笑)。普通、「シイタケの汁でサンフランシスコにお店を展開」なんて言っても、ここにいらっしゃる皆さんは採択しないと思うんですよ。でも、昨日の審査会では5人ぐらいが「自分もいいと思ってた」なんて言って。

楠本:ドラフト会議みたいな感じになっちゃうわけですね。

林:そう。「うちが取りたい」「いやうちが」となるんです。だから大企業とやる場合でも、そういう風に決める仕組みとセットで場を運用しないとだめだな、って。それが「100BANCH」ではすごくうまくいっていると思います。

“よそ者”の方が良さがわかる

楠本:WILLERさんの場合、北は北海道から南は九州まで、日本中のバス会社さんにアプリケーションを入れていらっしゃいます。バス会社さんには結構古い体質のところもあると思うんですが、そのあたり、どんな風にして普及させてこられたんでしょうか。

村瀬:実際、全部つなげるのは非常に難しかった。それで「何が必要なんだろう」って考えたとき、最後の最後はインバウンドの話を出しました。それまでも、いろんなことをやっていたんです。先ほどお話しした通り、できるだけ垣根をつくらず現地に入り込んでいくみたいなことからはじめて。ただ、「最後は何か共通の課題をつくらないと無理だな」と思って、「インバウンドについては皆さん一緒にやったほうがいいですよね」と。その言葉を出した時点で、それまで全然まとまらなかったものが1つの目標に向けてまとまったっていうのはすごく大きかったと思います。

楠本:インバウンドは共通の目標にしやすいですね、地方では特に。

村瀬:たぶんインバウンドじゃなくても良かったんですが、一緒に目指せるものをつくるというのは大事だと思います。それで、また冒頭のお話と同じような流れになってしまうんですが、結果的には「共通の社会課題を解決する」っていうところに持っていきました。それで非常に分かりやすくなったと思います。

楠本:地方というと、ロフトワークさんも飛騨で事業をやってらっしゃいますよね。「儲からないだろう」と言われながら。そこのしたたかな戦略というのは…。

林:あれはしたたかじゃないんです。林業は最難関領域で「今まで千晶ちゃんがやってきたこともすべて失うリスクがあるよ」って、すごく優秀なコンサルタントの方にも言われて。それでも林業をやったんです。そうしたら、結果的には年間200人の建築家やデザイナーの方々が国内外から来てくださって。皆さん、お金を払って飛騨に来てまで、「日本の木造建築や技術を見たい」って言ってくださるんです。それで今年2年目なんですけれども、なんとトントンにできそうなんですよ!

ちょうど先週も、TwitterやGoogleやFacebookの人などグローバルなメンバーが現地に集まってディスカッションしていたんですけれども、「自分の良さも地域の良さも企業の価値も、自分が1番分からない」っていう話になりました。でも、知らない人に「あなたのここが素敵」って言われると、「あ、私のそこが素敵だったの?」ってなる。

結局、「よそ者」とされる方々に何もかも委ねちゃうわけでもなく、自分たちだけでやるわけでもなく、外部から見つけてもらう機会をどれだけつくるか。実際、人間ってそういう風に育っているのでは、なんて思ったりして。同じような人間ばかりで「ここがいいんだ」って思っていても、その外側から見ると「いいところもっと別のところにあるんだよ?」となる。そういうことがオープンイノベーションなのかなと思ったりしました。

楠本:ルイ・ヴィトンが日本の伝統工芸をいち早く取り入れたりしていたのはすごく象徴的で。そういう意味では、CICは黒船なのかもしれませんけれども、「うまく使っちゃおうよ」ということでしょうかね。

梅澤:どういう人たちを集めたらいいかというのは、集めてみないと分からないから、もうどこかしら関係しそうな人は全員集めよう、と(笑)。あと、先ほど千晶さんから、FaBCafeについて「2店舗目からは世界につげなきゃ」というお話がありましたけれども、CICを持ってくるもう1つのメリットはまさにそれ。すでに世界にいくつか拠点があって、海外でスタートアップをした人たちのなかで「日本でも事業をやってみようかな」と思う人がいたら、必ずそこへ着地することになります。だから放っておいても世界との情報交換ができる場になる。そういう機能も担いたいと思っています。

楠本:「DMM PLANETS」もグローバル展開を図って、ゆくゆくはディズニーランドを超えるエンターテイメント施設に。

亀山:内緒らしいから言わない(笑)。なんか企ててはいるみたい。ただ、「DMM.make」もインドに出すとか言ってるけど、多分これも儲かんないし。だから(梅澤氏を見て)やっぱりそっちに入れてもらえないかな(笑)。俺もちょっと困ってんだよね(会場笑)。
 

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