グロービス経営大学院教員が2023年の注目トピックを取り上げるシリーズ。今回は「国際情勢」編です。ウクライナ情勢や世界経済の変動、続くコロナ禍からの正常化への動きなど、VUCA時代にある現在。ビジネスリーダーには世界次元で事象を捉え、当事者として考える力が求められます。そこで「グローバル・パースペクティブ」や「異文化マネジメント」の講座を担当する教員2名に、2023年の国際情勢を読み解く観点について解説してもらいました。
スーパーパワーに次ぐ勢力がどう動くか?
高橋 亨
国際情勢を語るに今ほど難しい時代はないだろう。しかしその中で、注目したい2023年のキーワードを挙げるとすると「スーパーパワーに次ぐ勢力がどう動くか?」だ。
2022年は、二大スーパーパワーである米の中間選挙と中国の共産党大会が行われた。米も中国も、現政権が予想よりも大勝ちはしなかったが、予想よりも大負けもしなかったというのが評価だろう。引き続き2大スーパーパワーの動きは大事だが、それに次ぐ勢力がどう動くのか?が国際情勢を見る上では大事なポイントになる。その観点で、2023年に注目すべき国として、サウジアラビア、インド、そして、わが国日本の3国を挙げたい。
サウジアラビア
アメリカ、ロシアに次いで3大産油国の地位を築くサウジアラビア。サルマーン国王が主導してきた国内の改革、また親日派でも知られるムハンマド皇太子による、資源価格の高騰を追い風にした産油国からイノベーションハブに向かう国の再構築、女性の社会進出の積極的な推進などで、俄かに注目を浴びている。
2022年末には、中国とも戦略的パートナーシップを締結し、より積極的な立ち位置を取りに行っているように見える。ロシア情勢が長引く中で、引き続き資源供給者としての存在感から、サウジの動向が世界に与える影響は大きくなりそうだ。
インド
インドは、QUAD(中国の一帯一路に対抗する日米豪印戦略対話の枠組み)の一角をなす重要国であり、人口という意味では世界最大の民主主義国家であるが、歴史的には、旧ソ連との関係が深い時期も長く、ウクライナ後もロシアの非友好国とはなっていない。西側諸国とは一線を画すスタンスを取っているように見える。
特に東南アジア、南アジア諸国の国際戦略は歴史的にも、一つの大国に近寄りすぎることなく、常にもう一つの大国をバランサーとして持ち、したたかに生き抜くというやり方をする。今後のインドもそれに近い動き方をして来るとすると、インドの立ち位置の取り方は国際情勢のバランスに影響を及ぼす可能性があり、要ウォッチであろう。
日本
何と言っても、2023年5月に、日本では7年ぶりに、しかも「広島」でG7が開催される。ここで議長国としてどうリーダーシップを発揮し、世界に対してどんなメッセージをだせるのか?は注目したい。
月並みだが、唯一の戦争による核被爆国である日本が、広島という舞台をどう活かすことができるのか?平和憲法を持つ日本が戦乱に満ちた世界に影響を及ぼすことに期待を寄せたい。それには、ミドルパワーとしてのポジションを取るドイツやフランスとの連携も鍵になるだろう。
米中が張り合い、そこにロシアが絡む世界においては、如何に、スーパーパワーに続く国がリーダーシップを発揮できるのか? が問われる。その意味で、洋の東西の接点となってきた日本が果たす役割は決して小さくないはずである。そういう意識を日本政府も世界市民として日本国民も持って行きたいと切に思う。
G20と「グローバルサウス」
河尻 陽一郎
2022年末、サッカーワールドカップがカタールで開催された。今大会の最大のニュースのひとつは、モロッコのベスト4進出だろう。アフリカ勢初のベスト4進出である。
アフリカについて、先日別のニュースが報道された(*1)。昨年12月米国は、首都ワシントンで米アフリカ首脳会議を開催した。それにあわせ、米国バイデン大統領が、アフリカ連合(AU)※1が主要20カ国・地域(G20※2)に加わることに支持を表明するという。中国の習近平国家主席も、11月にインドネシアで開かれたG20サミットでAUの正式参加に支持を表明した。
G20にAUが加わることは何を意味するのか
まず、ロシアのウクライナ侵攻や中国の影響力拡大に対抗したいという米国の思惑が見える。一方であるのが、ロシア、中国と、アフリカの間での関係だ。
アフリカ諸国のロシアによるウクライナ侵攻に対する反応は記憶に新しい。2022年2~3月に開かれた国連総会緊急特別会合、ロシアを非難する決議の採決において、アフリカの多くの国が「棄権」や「不参加」を選択した(*2)。ロシアとの軍事的な結びつきも指摘されるが、その背景には植民地支配の記憶に由来する人々の反西欧感情が存在するとも考えられる。
加えて、中国は直近12年連続でアフリカ最大の貿易相手国となっている。「一帯一路」構想の一環として、インフラ建設の資金提供のみならず、技術移転にも積極的だ。そんな中国もAUのG20入りを後押ししている。
米国や中国はなぜG20に注目しているのか
2022年11月にインドネシアでG20首脳会議が開催された。今回、これまで継続していた参加諸国の合意に基づく首脳宣言が、ウクライナ問題のために合意に至らないのではないかと懸念された。しかし、最終的に決裂は回避され、合意に達した。
こうした動きに対して、国連同様に国際協調の機能不全を懸念する声もある。もちろん首脳宣言が合意に至ったからと言って、ウクライナ問題が解決できるわけではない。しかし、国連安保理などの国際機関がなかなか動けない中、主要関係国、その首脳級を集めた多国間による外交の場が存在することには意義がある。米国と中国もその多国間外交の場で影響力を行使する一つの手段として、AUの加入を後押ししていると考えられる。
存在感を増す「グローバルサウス」
そして、今回のG20首脳宣言の合意に奔走したのは開催国のインドネシアだった。インドネシアや南アフリカなどの新興国を「グローバルサウス」(*3)と呼ぶ考え方がある。経済的に豊かな「グローバルノース」に対比され、資本主義やグローバリゼーションでマイナスの影響を受ける国々の連帯を意図している。今回のウクライナ問題において見られるように、AU諸国をはじめとする「グローバルサウス」の国々は、欧米やロシアと距離をとりながら、独自の立場を維持している。そして、G20という多国間外交の場に、そんな「グローバルサウス」の存在感が垣間見えつつある。
2023年は、今回の首脳合意に同じく奔走したと言われるモディ首相のインドでG20が開催される予定だ(*4)。次回のG20に向けて、「グローバルノース」とは異なる立場をとる「グローバルサウス」の国々の動向に注目したい。
<注釈/参考>
※1:アフリカ連合(AU)は、アフリカ55の国・地域が加盟する世界最大級の地域機関で、アフリカの政治的・経済的統合の実現と紛争の予防・解決に向けた取組強化のために,2002年に前身のアフリカ統一機構(OAU)(1963年設立)から発展改組されて発足したもの。(参照:アフリカ連合(AU)|外務省)
※2:G20は、G7(フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、欧州連合(EU)(G7の議長国順))に加え、アルゼンチン、豪州、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ(アルファベット順)の首脳が参加する枠組である。2008年のリーマン・ショックによる世界経済の危機に対処するための会議として発足したもの。(参照:G20に関する基礎的なQ&A|外務省)
出所
*1:アフリカ連合G20入り支持 バイデン氏、来週表明へ|産経新聞(2022/12/10)
*2:アフリカの半分、ロシア非難に加わらず どれだけ深い関係が?|朝日新聞GLOBE+
*3:What/Where is the Global South?|University of Virginia
*4: G20首脳宣言に見る「綱渡り」の国際協調主義|東洋経済ONLINE