変革の難所:他部門が悪いのになぜ自分が変わらないといけないの? 

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企業変革の難所「なぜ自分自身が変わる必要があるのか?」を克服するために、前回は「好意」というカチッサーの活用について紹介した。今回はもう1つの手段として「返報性」について考えてみたい。

ある素材メーカーのケース:悪いのは他部門では?

某素材メーカーの営業課長C氏は、顧客ニーズの多様化やめまぐるしい変化に加え、顧客からの納期短縮の要求が益々強くなっていることに頭を痛めていた。工場に対して、納期のスピードアップをはじめ迅速な顧客対応を常にお願いしてきたが、工場側はオペレーション変更による生産性の低下、コスト増を嫌がりなかなか首を縦に振らなかった。そればかりか、営業が安易に値下げして受注してきてしまうことによる粗利低下に対しても工場は大きな不満をもっていた。一方、C氏は、市場の競争激化に加え、工場サイドが柔軟に対応してくれないから値下げ圧力を受け入れざるをえなくなるのだと強い不満を持っていた。

さて、競争環境が変化する中、どこの企業にでも起こっているこうした部門間対立を、みなさんはどのようなアプローチで解決していくだろうか?

企業変革の難所3:なぜ他部門ではなく「自分自身」から行動を変える必要があるのか?

市場環境の変化は通常、組織内の仕事のやりかた(プロセス)の変更を強いられる。自部門内でもしかり、厄介なのは、変化に対応するには部門を超えて仕事のプロセスを見直さないと、変化している顧客に満足してもらえる価値提供はできない。そこで組織内の対立が生まれる。「他部門が仕事のやりかたを変えてくれないから顧客が離れていく。悪いのは自分たちではなく他部門だ」という他責意識が蔓延してくる。この意識は、お互いがお互いに対して持っているということだ。ではどうしたらよいか?

自分が苦手だと思う対立している相手に対しては、意識して相手の好ましい点を探したり、自分との類似点を相手と確認しながらコミュニケーションすると、相手との距離も縮まりやすくなる。

その上で、相手のために自らの仕事のやり方を見直すなど先に行動することにより、恩恵を受けた相手は行動で返したくなる「返報性」というカチッサーを利用するのだ。

関係の悪化している他部門の人に対してはこちらもネガティブな感情を持ち、あまりコミュニケーション機会を持ちたくないと思うのが人間である。そこをあえて苦手な他部門の人が喜ぶようなことを自ら先にやってあげるのだ。そうするとこちらに悪感情を持っていたであろう相手も、こちらにポジティブな何かを返さなくてはならないという気持ちが働く。

「返報性」をより機能させるには?「返報性」には賞味期限がある

「返報性」をより有効に機能させるには、いくつかの条件があることが示されている。
1) 相手にとって重要なもの(こと)をやってあげること
2) 自分が何らかの代償を払って先にやってあげていることを示すこと(あるいは自分の心遣いを感じさせる工夫があること)(*1)
3) 相手の想定を超える意外性のあること(*2)

時間の経過とともに「自分のためにやってくれた」という行為の記憶と恩恵の気持ちが相手から薄らいでいくことも証明されている(*3)。すなわち「返報性」には賞味期限があるので、相手から返ってくるかという観点からは、特に2を強調しておくことは大事である。

「返報性」による組織内の協働スパイラルの創造

組織に変革が求められる状況においては、従来までとは異なる仕事の連携、関係性が必要となる。したがって、「返報性」というのは、組織内でメンバー同士の協働をスパイラル状に促進する上で潤滑油となる大事な心のメカニズムになるだろう。たとえば、中には組織内の人々に直接感謝の気持ちを伝えあう「感謝カード」などを施策にとりいれて、協働を大事にする組織文化醸成に取り組んでいる企業もある。

冒頭ケースのC氏は、製造課長との打ち合わせで工場を訪れる際には、必ずライン現場にお土産をもって顔を出し、一人ひとりに直接感謝の言葉をかけることを続けている。「無理な対応をしてくれて助かった」という顧客の感謝の声は、現場で汗をかいているメンバーにとって何よりも力になると信じているからだ。


(*1)Raghubir. P. (2004), “Free gift with purchase : promoting or discounting the brand?”, Journal of Consumer Psychology, 14:181-6.
(*2)Strohmetz, D. B., Rind, B., Fisher, R., & Lynn, M. (2002). Sweetening the till: The use of candy to increase restaurant tipping. Journal of Applied Social Psychology, 32(2), 300-309.
Heilman, C. M., Nakamoto, K., & Rao, A. G. (2002). Pleasant surprise: Consumer response to unexpected in-store coupons. Journal of Marketing Research, 242-252.
(*3)Flynn. F. J. (2003), “What have you done for me lately? Temporal adjustments to favour evaluations”, Organisational Behaviour and Human Decision Processes, 91:38-50.

 

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