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変革の難所:経営が悪いのになぜ自分が変わらないといけないの?

投稿日:2017/10/26更新日:2019/04/09

前回、企業変革の最初の難所である「なぜ“今”自組織が変わらなければならないのか」について解説した。それは腹落ちしたとしても、次に直面するのは「なぜ自分自身が変わる必要があるのか」という壁である。今回は、それを克服するための武器のひとつとして、「好意」というカチッサーをいかに応用できるか考えてみたい。

ある調剤薬局チェーンのケース:会社の危機は経営陣の責任なのでは?

コンビニ業界で大きな成果をあげたB氏は、その手腕を買われ、転換を迫られる調剤薬局チェーンの事業部長にヘッドハントされた。B氏は在宅医療分野などへの新規事業を次々と打ち立てたが、配下の部下はB氏の戦略をなかなか実行しようとしなかった。

外部環境の変化をトップが説く機会が増えたことによって、従業員は会社が早晩直面することになるであろう厳しい状況についての理解は示しはじめていた。しかし、「なぜ自分たちの行動を変える必要があるのか」「これは経営の問題だ」「われわれはプロの薬剤師としてやるべきことをやっている」という声がB氏の耳にも入ってきた。特に新機軸を打ち出すB氏へのメンバーからの不満は大きかった。「コンビニのよそ者が医療のことなんかわかるわけがない。利益至上主義で人として信頼できない」と。

さてみなさんがこのB氏ならどうやってこの状況を打開するだろうか?

企業変革の難所2:なぜ「自分自身」から行動を変える必要があるのか?

このように、徐々に足元の業績が悪化しはじめ、自分たちの仕事のやり方も変えなければならなくなってくるのでないかといった不安は、たいてい会社の上位者(最後は経営者)への不満となる。ましてや外から招かれた新たな上司に対しては、自分たちを脅かす存在ではないかという不安から抵抗が強くなる。こうして「自分自身から行動を変える必要がある」と自分に矢が向きにくい。被害者意識が先行してしまうのだ。

しかし、顧客動向や競合状況の変化は常に現場で起きている。経営レベルだけがいくら頑張っても実行するのは現場なので、双方の意識が乖離していたら結果は出ない。そこには経営と現場、上司と部下とが補完しあいながら目的に向かっていくための信頼関係がより強く望まれるのである。

では信頼関係醸成のためには具体的にどうしたらよいのか?「好意を持つ相手ほど賛同したくなる」という「好意」のカチッサーを活用するのが一つの手だ。仮に、みなさんが部下との信頼関係を再構築したい上司の立場であったとして考えてみよう。

あえて自らの弱い部分を見せてみる

好意や信頼感の醸成には、まずは普段から部下に対してしっかり向き合う努力をしていることが大前提である。しかし、上司が自ら意識している以上に、ポジションパワーが部下との壁になってしまっている。それにより本音のコミュニケーションが阻害され、上司に不満があっても言えない。結果、不満がくすぶり上司を信頼できない状態となる。

それを乗り越える手段の1つとして、あえて自らの欠点に触れた方が誠実で信頼できるというイメージをもたれる可能性もある(*1)。上司が自分をさらけ出し、あえて弱い部分を見せることは、自らの権威を失墜させることにもなりかねないと躊躇しがちになるが、実際はその逆の効果を生む可能性があるのだ(*2)。

こうして徐々に部下の上司との距離感が縮まってくると、上司が求める現場の正しい事実(特に悪い情報)なども上がってくるようになる。上司への信頼感が高まり、悪い情報を上げても責められないという安心感が生まれるからだ。

ちなみに冒頭のケースのB氏は、若手メンバーに音頭をとってもらい、部門内で親睦を深めるイベントを開催することを決めた。そして自ら2週間練習を重ね、なんとかできるようになった一芸を披露した。しかしミスを連発。それでも額に汗して真剣に取り組むB氏に、徐々にメンバーは心を開いていった。親睦会の締めのスピーチでは、自分の親の壮絶な介護経験を吐露し、自分がこの会社に転職してきた理由も今の新規事業を立ち上げた理由もそこにあることを初めて語り、メンバーの涙を誘った。

権威主義にもとづく「集団思考」の呪縛からの解放

「好意」というカチッサーを利用して上司と部下との距離を縮め信頼関係を構築することは、組織内でよく存在するネガティブな権威主義を変革することにもつながる。つまり、集団思考の罠への防御策としての効果だ。集団思考の罠とは、組織内で上長の考えが集団の考え方を規定して、メンバー個々が自ら思考したり意見を言ったりしなくなってしまう状態を言う(*3)。

変化の激しい時代ゆえ、上司の過去の成功体験は使えない可能性がある。かつ変化は上司から一番遠い現場で起こっているからこそ、集団思考に陥らないように配慮する必要がある。そのため、上司は自分の考えを述べる前に必ずメンバー一人ひとりの意見を聞くといった対策も必要だろう。

人は他人に協力要請しても応じてもらえないのではないかと低く見積もる

こうして上司・部下間での信頼関係が構築され、部下の自責意識も高まってきたとしても、部下1人では成しえないことも多い。すなわち上司の支援を得ることも必要だということだ。しかし、実験によると、「人は他人に協力要請しても応じてもらえないのではないかと低く見積もる傾向がある」(*4)。部下が協力を必要としているときでも、本人は黙っている場合がある。上司は必要あらば喜んで手を貸すことを、普段からしっかり伝えておく必要もあるのだ。

 

(*1)Williams, K. D. M. Bourgeois and R. T. Croyle (1993). “The effects of stealing thunder in criminal and civil trials”, Law and Human Behaviour, 17:597-609
(*2)エドガー・H・シャイン「問いかける技術」英治出版 (2014)
(*3)Janis. I. L. (1983). Groupthink: Psychological Studies of Policy Decisions and Fiascoes (2nd edn). Boston, MA: Houghton Miffin.
(*4)Bohns, V. K., & Flynn, F. J. (2010). “Why didn’t you just ask? ”: Understanding the discomfort of help-seeking. Journal of Experimental Social Psychology, 46(2), 402-409

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