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知識ゼロで飛び込んだAI業界での起業ーバオバブ社 相良美織氏インタビュー<後編>

投稿日:2022/11/16更新日:2022/11/17

「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2022」企業総合部門で1位に輝くバオバブ。高品質なAI学習データで世界中の大学や研究機関、企業から高い評価を受けている。創業者の相良美織氏はなんと商社の事務職出身とAI業界では異色の経歴を持つ。知識ゼロでAI業界に飛び込み、女性起業家として逆風の中を歩んできた彼女の軌跡を追った。(聞き手=田村菜津記 グロービス KIBOW社会投資、文=西川敦子)【KIBOW社会投資投資先企業インタビューシリーズ】(全2回後編、前編はこちら

知識ゼロで飛び込んだAI業界での起業―「失敗してもいいから挑戦する」

田村:今回、バオバブは「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2022」企業総合部門従業員規模100名以下の部で1位を受賞されました。創業者である相良さんに、これまでのご自身の歩みについてお教えいただきたいのですが。

相良: よく「リケジョなんですか」とか「コンピュータサイエンスを専攻していたんですか」と聞かれたりするんですけれども、そういったバックグラウンドは一切ありません。大学を卒業して、最初に入社したのは住友商事でした。それから外資系金融企業、みずほ証券などを経て資産運用会社の創業にかかわりました。

経済産業省からお声がけいただいたのは、会社の出資先のベンチャー企業で取締役を務めていたとき。「eコマースを海外展開するため、国産で自動翻訳エンジンをつくりたい。プロジェクトを立ち上げるので事務局をやってほしい」ということでした。

残念ながらその案件は立ち消えになってしまったのですが、かかわっていた大学や研究所、企業のみなさんから「プロジェクトを継続してほしい」と背中を押されまして。それでスピンアウトして、自分でバオバブを創業することにしたのです。もちろん、「面白そう!やりたい」という気持ちがあったのは事実ですが、起業したいとか、自動翻訳をやりたい、といった動機はもともとなかったんですよ。ところてんのように押し出されただけで(笑)。

田村:でも、創業にジョインしたり、そこからスピンアウトしたりという機会は、普通そうそうないですよね。チャンスがめぐってきたのはなぜだと思いますか。

相良:何人かの方から推薦があったと聞いています。もしかすると、昔からやっているスケッチブックプレゼンがみなさんの印象に残っていたのかもしれませんね。ノートパソコンでパワーポイント資料を見せるのではなく、手書きの紙芝居みたいなもので説明するのです。

スケッチブックを使ってのプレゼン。聞き手にとって親しみやすく、PCがなくてもどこでも事業内容を伝えられる。

田村:すてきなアイデアですね。とはいえ、推薦されても尻込みしてしまう女性は多いと思います。前向きな志向性はどうやって身につけられたのでしょう。

相良:正直、当初は「3カ月で潰れるかも」と思いました。自動翻訳の知識なんてゼロでしたから。でも、「潰れてもいいや」と。失うものもないですし。そもそも自分への期待値がそんなに高くないんですよね。失敗しても「どうしよう」「恥ずかしい」なんて思わない。子どもの頃から家族の注目は弟に集まっていて、私はそんなに期待されていなかったんですね。それで「失敗してもいいからチャレンジしよう」というマインドになったのかもしれません。

幼少期から培われた「働きづらい人々」へのシンパシー

田村:なるほど。それにしても、今、取り組んでおられる社会課題解決への意識はどのように培われてきたのでしょう。

相良:幼稚園、中学・高校はカトリック系だったので、ボランティア活動には日常的に参加する機会がありました。それで働きづらさや貧困問題に関心をもったのだと思います。

今でも思い出すのは通学途中、電車の窓から見ていた橋の下の小さな畑。ホームレスの人たちがそこで野菜を育てていたんです。「自分ももしも路上生活するようになったら、ああやって生きていこう」と考えたりしていました。雪が降ると、「今日はホームレスの人たちはどうしてるかな」と心配したり。

田村:働きづらさを抱える人にずっとシンパシーを抱いてきたんですね。

相良:小さなことの積み重ねが今につながっているのだなと感じますね。親に言われた言葉も印象に残っています。就活のとき相談したら、「今まで美織は愛情も教育もたくさん受けてきたのだから、これからは社会に恩返ししていきなさい」と。

それから商社に入社するわけですが、当時の女性はほぼ全員事務職。新入社員研修では「4年目に夏季賞与をもらったら、結婚して寿退職するのが女の花道です」と言われたものです。働き続けたかったのに、結婚して退職していく人を大勢見てきました。ただ創業の時点では、就労機会に恵まれない人たちの役に立てるとは考えていませんでした。

パソコンからサイトにアクセスすれば、世界中どこにいても仕事できるというリモートワークのしくみは創業当初から導入していましたが、それはあくまで海外在住の方、地方大学の留学生に自動翻訳のデータをつくってもらうため。地理的な制約を取り除くための手段でした。

リモートワークのメリットに気づいたのは、東日本大震災の後。パートナーの赴任や国際結婚で海外に在住しているBaopartさんたちが帰国され、お会いする機会があったんです。そうしたらすごく感謝されたんですよ。「震災後、すぐ両親のもとに駆けつけたかったけれどパートナーに反対された。でも、バオバブの仕事でお金を稼いでいたから自分の意志で帰国できました。ありがとうございました」と。

そのときわかったんです。「ああ、リモートワークってそういうことなのか」と。場所も問わない、時間も問わない。家事や子育てを犠牲にしなくても仕事ができる。だからお金を稼げるし、社会とつながっているというプライドも持てる。大きな発見でしたね。

次世代の女性のため、逆風でも王道を歩み続ける

田村:女性起業家が増えれば、女性ならではの目線で社会課題も発見、解決されていくはず。時間的制約を超えて女性が自分らしく生きるためにも、起業家という生き方がもっと広がってもいいのではないでしょうか。もっと輝きたい女性たちのため、相良さんがどんなハードルと出遭い、どう乗り越えてきたかお聞かせください。

相良:バオバブを設立したのは、2010年7月2日です。本当は7月1日に起業する予定でした。じつは当日、公証役場へ定款を持っていったら、突き返されちゃったんですよ。「女の子の会社でしょ、どうせ大きくしようなんて思ってないでしょ。なんで監査役を立てるの」と。向かいの千疋屋でパフェを食べながら定款を書き直しました。悔しかったですね。「会社をつくるもう前にこれか」と。翌日、違う公証役場に新しい定款を持っていきました。

残念ながら性差別された経験はこのほかうんざりするほどあります。「パトロンは誰?」と面と向かって聞かれたことも。でも、「これで腐ったら次の世代にバトンが渡せない。くじけず王道を歩み続けるんだ」と自分に言い聞かせてここまでやってきました。

王道とは、「プロジェクトを成功に導く」というゴールから視点をそらさないこと。ですので差別されても感情的にならず、つねに冷静でロジカルな対応を心掛けています。「王道を行く」という決意を胸に秘めて歩き続ければ、次の世代の女性たちが、またはその次の世代の女性たちが、起業家やリーダーとして輝いてくれると信じています。

田村:ありがとうございます。あらためて相良さんのつくりたい世界とは。

相良: AIの社会実装は不可逆的で、マーケットは巨大化しています。アノテーションの市場規模もますます拡大するでしょう。そのアノテーションの仕事にマッチした適性をもつ発達障がいの方々や今まで働きづらかった方々にどんどん活躍していただく――この仕組みは、今とてもうまく回っていると思います。

バオバブの仕組みが世の中に広がったら嬉しい。そして5年後、10年後に、「アノテーションで時給1万円はもはや普通だよね」「最初はバオバブっていう会社が始めたらしいけど、今見るとしょぼいよね。今やそんな会社、そこらじゅうにあるよね」というようになっていたら、それこそ我々の目指す世界だと思います。「誰もがその人らしくいることが受け入れられ、人生の選択肢が開かれている社会の実現」こそ、バオバブのゴールなのですから。

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