MBAの真価は取得した学位ではなく、「社会の創造と変革」を目指した現場での活躍にある――。グロービス経営大学院では、年に1回、卒業生の努力・功績を顕彰するために「グロービス アルムナイ・アワード」を授与している(受賞者の一覧はこちら)。
今回は2022年「ソーシャル部門」の受賞者、日本障がい者サッカー連盟(JIFF)事務総長の山本康太氏にインタビュー。前編に続き、後編ではJIFFでこの先に志す「日本発サッカーモデルの海外展開」、そしてそれを支える実務で活きたMBAでの学びやグロービスの仲間との交流などについて聞いた。(前後編、後編)(インタビュアー:西村 美也子)
好きという気持ちから生まれる使命感が志に
西村:グロービス経営大学院での学びから何を得て、今どのように活用されていますか。
山本:グロービスの学びがスキルアップと自信に繋がり、どんな環境であっても走り抜けられる支えになりましたが、一番活きたことは「志」です。
志が自分の中でクリアになったのは、企業家リーダーシップの授業でシャクルトンのケース(アーネスト・シャクルトンのエンデュアランス号探検記)が取り上げられた回でした。そこで一緒にディスカッションしていたある方が「<好き>を続けるなかで生まれる使命感ってあるよね」と発言したんです。
私はサッカーがずっと好きで携わってきていて、また同時に「障がいの有無での環境の違い」について漠然とながらも考えていました。それらがその方の言葉でリンクしたんです。この経験から「パーソナルミッションとして、サッカーを通じて人と組織の可能性を広げていこう」と志が固まり、障がいの有無による垣根を取り払っていくために日本ブラインドサッカー協会に転職する決意に至りました。
西村:クラスメイトとの会話が自らの志に気づくきっかけになったのですね。そんな共に学ぶ仲間や同期との関係の中で、他に何か得たものはありますか。
山本:グロービスのコミュニティの中でも、一番大事にしているのは「互縁ネット」です。卒業してからも全く同じメンバーで3か月に1度会い続けるというのは、限られた時間の中で難しい面もありますが、とても大事にしてきたコミュニティですね。支えにもなりました。
西村:支えになったというと、特にどんな時に感じましたか?
山本:志を掲げて走り出したらそこにフルでコミットしたい気持ちがある一方、時には仕事以外のことが原因で集中しきれないことも起こります。それは自分にとってストレスでしたが、互縁ネットのメンバーに話すと、「仕事以外の悩みや仕事以外のことが走り出すきっかけになった」と返してくれたんです。サッカーの仕事にコミットしきれていない自分に納得できない、その生き方が恥ずかしいとさえ思ってしまっていたところ、自分の今のこの環境も、乗り越えながら進んでいくもの、それが当然なのだと思えるようになりました。
西村:皆さんそれぞれに立場がありながら、志に突き進もうという体験を共有した仲間だからこそ、困難も当然という感覚も素直に共有できるのかもしれませんね。
基礎こそが活きているMBAでの学び
西村:人的ネットワークに対して、MBAの学びの中で今に活きるものはありますか。
山本:先ほど組織運営の部分で苦労した面もあるとお話ししましたが、そういった人を動かすというところを考えた時に役立ったのは「パワーと影響力」の授業で学んだことです。基礎的なところですが、パーソナルパワー、リレーションパワー、ポジションパワーのどれなら相手が動くのか?を常に見極めながら行動する、という考えは、授業でのインプットがそのままアウトプットとして活かされています。
それから、フレームワークは日常から使っています。網羅的に今の状況を考え整理したり、そこから先の展開を考えたり、という場面に活用していますね。例えば先ほどお話しした企業研修事業も、「ブラインドサッカーって子どもの情操教育に使えるよね」という話自体は私が入職する前から出ており、これを横展開して大人向けに考えることで始まりました。アンゾフのマトリクスを書きながら会話をしたような記憶があります。
フレームワークを使って考えると、その方向に進んでいいかの確認作業にもなり、自信を持ってアクセルを踏めるようになると感じます。
加えて、常に頭の中に浮かんでいるのは、論理性、納得性、実現可能性プラス、組織であるからこその継続性、の4つがどんな施策を打つにも大切である、ということ。これは確か「マーケティング・経営戦略基礎」での学びですが、改めて考えると「〇〇基礎」といった科目で出てくることばかり(笑)
西村: 基本だからこそ活用の機会が多いのではないでしょうか。一番基礎的な「クリティカル・シンキング」や「マーケティング・経営戦略基礎」といった授業で最初に習ったことを一番使う、という話は卒業生の方々からよく聞きますね。
日本発の取り組みを、世界へ
西村:いま思い描いていらっしゃるビジョンをふまえ、JIFFでの今後の展開について教えてください。
山本:日本の障がい者サッカーの連携の取り組みは、世界的に見ても非常にユニークで価値あるものになりつつあります。この手法をグローバル、あるいはサッカー以外の競技に広めていくことに注力をしていきたいと思っています。
西村:既に国内外から評価を受け、注目を集めていると伺っています。
山本:JIFFは障がい種別ごとにある7つの障がい者サッカーの競技団体を統括する組織ですが、これをモデルにグローバルで立ち上がったのが「パラフットボール財団」(オランダ)で、各障がい者サッカーが加盟する国際連盟と連携しています。現在はJIFFからそちらに役員を派遣したり、定期的に情報交換の場を設けたりしています。そのほか、イングランドやオランダ、ベルギーなどのサッカー協会内にある障がい者サッカーを管轄する部署とも情報交換を始めており、国際サッカー連盟(FIFA)からは日本の取り組みは素晴らしいモデルの一つだと評価を頂いています。また、国内においてはバスケットボールはJIFFをモデルとして同様の組織が立ち上がり、ラグビーなど他競技からもご相談を頂いています。
私たちの取り組みが評価されたユニークな点は、組織構成、独自での資金調達の確立、一般のスポーツ団体であるJFAとの連携の3つです。展開を広げ持続可能にしていくには、やはり独自に必要な人材や資金を集めることが重要で、そうすることで意思決定に制限を受けることがなくなり、ビジョンと整合した事業の推進が可能になります。また、各統括団体の人材を内部に引き入れ活動を一緒に進められているか、人材を見極めて適切な場所に配置できるかが重要ですね。
西村:日本の取り組みがさらに世界中に広がり、なおかつ他のスポーツにも広まっていけばと思います。
山本:自組織だけが発展していくのではなく、好事例やノウハウはどんどん公開していこうという考えを持っています。障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会、共生社会をつくるといっても、やはり自分たちでできるところは限られている。だからこそ連携しながらグローバルに、競技の枠を超えて広めていくというところには注力をしていきたいです。
西村:本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。