テック企業はコロナ禍の2年をアンラーニングし、中長期のチャンスをつかむべき時? ――VCディスカッション企画『Repeat Rhyme』#001 後編

『Repeat Rhyme』(リピートライム)は、アメリカのVC(ベンチャーキャピタル)事情やVC業界でトレンドになっているトピックを過去事例と照らしあわせながらディスカッションするポッドキャスト。初回は、2022年に入ってからのテック企業の株価下落の背景について読み解きます。後編では前編に続き、コロナ禍を経てのVC側の変化、そしてテック起業家にとっての今後の展望について語りました。

ファンドのLPからのプレッシャー

:僕らのLP(Limited Partner:有限責任組合員)は海外の大学や年金ですが、明らかに厳しくなりましたね。「なんでこの会社にこのバリュエーションで投資したの?」みたいな質問が増えてくると思います。

宮武:変にキャピタルコール(投資ファンドが投資資金の払い込みを投資家に要求すること)できないようになったかもしれませんね。

湯浅:リーマンショックの時にも同様のことがあったと聞いています。LPにキャピタルコールしようとしても断られるとか。

宮武:2000年代のドットコムバブルが崩壊した頃は、LPからお金を返せという要求が結構あったらしいですね。そういう時代がまたやってくるかどうかはわかりませんが。

湯浅VC側の状況も、もっと世に共有したいと思いますよね。いまのファンドはドライパウダーという投資余力はあっても、LPにキャピタルコールをかけづらい時代が過去にはあった。今回はどうなるかわかりませんが、可能性はあります。

また、VCは基本的にお金が手元にあるわけではなく、ドライパウダーがないと商売できないので、いまある分をいかに有効に使うかを常に考えているし、将来的に次のファンドの立ち上げ時期は非常に重要です。日本でも今年・来年で上場を見込んでいたのに延期し、さらに上場しても株価がつかないとなると「このタイミングで上場してリターンを確定、それをLPに返して、DPI(Distributed to Paid In:実現倍率)やTVPI(Total Value to Paid-In capital:投資倍率)といったいくつかの指標や実績をもとに次のファンドレイズしよう」などと考えていても、タイミングが悪いので今ある分を長く使おうとなってしまう。VC側も、ドライパウダー自体はあっても投資を絞らざるを得ない状況が、これからどんどん起きてくるかもしれません。

アメリカで投資できる$250Bの枠は実際どれだけ使われるか?

宮武:そこもだいぶ変化していますよね。この2年間の異常事態を受けて、たとえばVCが10億のファンドを立ち上げた場合にそれを新規案件として何年で使いきるかという期間(デプロイ期間)は、昔だと3~4年が普通でしたが、今は1~2年、あるいは1年以下のところも出てきています。アメリカは今、$250 billionぐらいのドライパウダーがあると言われていますが、その約半分がヘッジファンドやクロスオーバーファンドだとしましょう。それがゼロになった場合に、$100 billion分ぐらいのVCマネーがあると仮定すると、次の2~3年間でどれくらい使われると思いますか?

:難しいですね。半分の$50 billionでかなり楽観的だと思います。エムレ君が言うようにシナリオがあってもキャピタルコールをかけるのは、LPにとって負担になるし、上場株等いろいろと投資して一番傷んでいる人に「新規の投資をするのでお金をください」というのも結構負担になる。

宮武:次の2~3年間で$50 billionということを考えると、1年間で半分の$20 billionとか、そういうレベル感になると。つまり、かなり下がっていくということですよね。

:でも、それって昔でいう「普通」なんですよね。それだけこの数年はすごかった。マルチプルもそうだし、SPAC(特別買収目的会社)もあった。紙上のIRR(内部収益率)という話題もありましたが、要は上場株と違って未上場株は下がることはありません。また、大勢の参加者が市場にいて、皆で値付けをするのが上場株で、未上場株の場合は1人がラウンドリードすると言えば株価は上がります。だから、景気の良い時は市場でのリターンがすごく良くなる。それがこの2年間だったんです。できたばかりでユニコーンになったので新しいファンドレイズがほしいといった状態が続きましたが、それが止まるとすると怖いですよね。一番怖いのはスタートアップじゃなくてVCですよ。

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