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テック企業はコロナ禍の2年をアンラーニングし、中長期のチャンスをつかむべき時? ――VCディスカッション企画『Repeat Rhyme』#001 後編

投稿日:2022/10/26

『Repeat Rhyme』(リピートライム)は、アメリカのVC(ベンチャーキャピタル)事情やVC業界でトレンドになっているトピックを過去事例と照らしあわせながらディスカッションするポッドキャスト。初回は、2022年に入ってからのテック企業の株価下落の背景について読み解きます。後編では前編に続き、コロナ禍を経てのVC側の変化、そしてテック起業家にとっての今後の展望について語りました。

ファンドのLPからのプレッシャー

:僕らのLP(Limited Partner:有限責任組合員)は海外の大学や年金ですが、明らかに厳しくなりましたね。「なんでこの会社にこのバリュエーションで投資したの?」みたいな質問が増えてくると思います。

宮武:変にキャピタルコール(投資ファンドが投資資金の払い込みを投資家に要求すること)できないようになったかもしれませんね。

湯浅:リーマンショックの時にも同様のことがあったと聞いています。LPにキャピタルコールしようとしても断られるとか。

宮武:2000年代のドットコムバブルが崩壊した頃は、LPからお金を返せという要求が結構あったらしいですね。そういう時代がまたやってくるかどうかはわかりませんが。

湯浅VC側の状況も、もっと世に共有したいと思いますよね。いまのファンドはドライパウダーという投資余力はあっても、LPにキャピタルコールをかけづらい時代が過去にはあった。今回はどうなるかわかりませんが、可能性はあります。

また、VCは基本的にお金が手元にあるわけではなく、ドライパウダーがないと商売できないので、いまある分をいかに有効に使うかを常に考えているし、将来的に次のファンドの立ち上げ時期は非常に重要です。日本でも今年・来年で上場を見込んでいたのに延期し、さらに上場しても株価がつかないとなると「このタイミングで上場してリターンを確定、それをLPに返して、DPI(Distributed to Paid In:実現倍率)やTVPI(Total Value to Paid-In capital:投資倍率)といったいくつかの指標や実績をもとに次のファンドレイズしよう」などと考えていても、タイミングが悪いので今ある分を長く使おうとなってしまう。VC側も、ドライパウダー自体はあっても投資を絞らざるを得ない状況が、これからどんどん起きてくるかもしれません。

アメリカで投資できる$250Bの枠は実際どれだけ使われるか?

宮武:そこもだいぶ変化していますよね。この2年間の異常事態を受けて、たとえばVCが10億のファンドを立ち上げた場合にそれを新規案件として何年で使いきるかという期間(デプロイ期間)は、昔だと3~4年が普通でしたが、今は1~2年、あるいは1年以下のところも出てきています。アメリカは今、$250 billionぐらいのドライパウダーがあると言われていますが、その約半分がヘッジファンドやクロスオーバーファンドだとしましょう。それがゼロになった場合に、$100 billion分ぐらいのVCマネーがあると仮定すると、次の2~3年間でどれくらい使われると思いますか?

:難しいですね。半分の$50 billionでかなり楽観的だと思います。エムレ君が言うようにシナリオがあってもキャピタルコールをかけるのは、LPにとって負担になるし、上場株等いろいろと投資して一番傷んでいる人に「新規の投資をするのでお金をください」というのも結構負担になる。

宮武:次の2~3年間で$50 billionということを考えると、1年間で半分の$20 billionとか、そういうレベル感になると。つまり、かなり下がっていくということですよね。

:でも、それって昔でいう「普通」なんですよね。それだけこの数年はすごかった。マルチプルもそうだし、SPAC(特別買収目的会社)もあった。紙上のIRR(内部収益率)という話題もありましたが、要は上場株と違って未上場株は下がることはありません。また、大勢の参加者が市場にいて、皆で値付けをするのが上場株で、未上場株の場合は1人がラウンドリードすると言えば株価は上がります。だから、景気の良い時は市場でのリターンがすごく良くなる。それがこの2年間だったんです。できたばかりでユニコーンになったので新しいファンドレイズがほしいといった状態が続きましたが、それが止まるとすると怖いですよね。一番怖いのはスタートアップじゃなくてVCですよ。

過去の経験を捨て去るアンラーニングも必要

湯浅:アメリカは完全にその状況でしたね。PSR(Price to Sales Ratio:株価売上高倍率)100倍、レイターステージなのにその場でコミットする、デューデリをほぼしない、年に3回ファンドレイズしている……等々。日本は良くも悪くもそこまではヒートアップしなかった。調整局面は来ていますが、元々、アメリカほど調整幅は大きくなかったと思います。

宮武:過去14年ぐらい、BenchmarkのBill Gurleyが話していたことが、ブルマーケット(相場の上昇が続いている市場)として上がっていましたが、いまは40、50代の経営者でないとあの不況のタイミングを経験していない。つまり、ほとんどのVCが経験していないはずです。

湯浅:耳が痛いです。

宮武:Bill Gurleyはアンラーニングが必要だとも言っています。つまり、過去の2年間のスタンダードやデューデリの仕方をゼロから勉強し直す必要がある。これはスタートアップだけではなく、VC側も同じだと思います。
ただ同時に、原さんが言うように今の状況はチャンスでもある。ネガティブな話ばかりでなく、このタイミングだからこそのポジティブな要素についてご意見をいただきたいと思います。

このタイミングだからこそのポジティブ要素は

:今までスタートアップに集まってきたお金の多くは採用と広告に使われています。BtoBでもSMB向けは広告をたくさん出しました。つまり、顧客獲得単価が高騰したんです。しかし、いまはそこを抑える企業が増えた。その結果、例えばSnapでは広告売上の業績を見直すことで株価が落ちています。反面、お金があって効率的であれば、いい会社は伸びるチャンスだと思うんです。繰り返しになりますが、テック業界全体としては、テクノロジーはさらに便利になりどんどんユーザーが増えていくので、業績は伸び続けます。だから、そこの心配は全くしていません。たとえ不景気であっても、将来的にテクノロジーが伸びていくことに疑いはありません。

湯浅:原君の言う通り、資金調達には苦労しても、採用も広告も今よりもやりやすくなっていきそうだよね。

宮武:たしかに。しかもアメリカの場合、これからレイオフが起きると思いますが、一方で起業家が生まれるタイミングともいえるので。

新しい起業家の誕生に期待したいですよね。1980年代にIntelが潰れそうなタイミングでDellが出てきたし、Googleもドットコムバブルのピークにスタートしています。Facebookも2004年だし、いまのAirbnbやUberも同じ。やはりスタートアップにはタイミングがある。まず競争が少ないというこのチャンスにリードを伸ばすマインドセットを持つべきかもしれません

湯浅:同感です。新しい起業家もそうだし、今のスタートアップも、キャッシュフローが回っている、もしくはキャッシュポジションが潤沢なのであれば、いい風が吹くと思います。私が担当している先ではキャッシュポジションが40~50カ月あるという会社もあります。こういう会社は採用においてもいいタイミングだし、攻めていけばM&Aやアクハイア(買収による人材獲得)も含めチャンスが出てくるかもしれない。ディフェンスよりむしろオフェンスのほうにマインドセットを向けていったほうがいいのかもしれません。

おわりに:起業家へのアドバイス

宮武:では最後に、お二人から起業家に対して、もしくは投資先に対して何かあれば、一言お願いいたします。

:会社の業績と、業績をもとにした評価のマルチプルは全く別で、景気と同じようにサイクルがあると思います。それは誰にもコントロールできませんが、これから20年、30年と経営していくのなら、何回も経験するわけです。今は下がる局面ですが、またいつか戻ってくると考えればいいのです。業績は必ず伸び続けるから、今のシチュエーションに合わせて足腰強く経営をしていけば、チャンスは大きい。だから心配せずに、ただしここ2年の記憶は全部なくして。

宮武:2019年に戻りましょう。

:2019年に戻って「そろそろ景気悪くなるかな?」という感覚がいいのかもしれないですね。

湯浅:こと日本においては、DXやテック化の分野はまだまだ伸びしろがたくさんある。原君の言うとおり、市場に関しては一時的な調整局面はあっても中長期のトレンドは変わっていないし、むしろチャンスです。これからは、資金調達を除いてはやりやすい環境になると思うので、だからこそ資金調達をしっかりするとか、キャッシュフローをしっかり回せるようにしたい。逆にそれさえしっかり気を付ければ、事業を伸ばしていくという意味ではいい時代になったと思います。不況を経験したことがあまりないテック業界において僕らVCも起業家も、それを乗り越えてより強くなっていけるといいですね。

宮武:不況が来るかはわかりませんが、VCとしてはコンサバに見ないといけない部分もあります。投資先が不況によりなくなってしまうのが最悪のパターンですが、だからといってバーをゼロにして、グロースしないという選択もない。いろいろと予想されるシナリオプランニングにおいて常にモニタリングをして、Aに行くのか、Bに行くのか、はたまたCに行くのかを常に会社として考えないといけないと思います。『Repeat Rhyme』初回としては、ちょっと暗い話になりましたが。

:でも、タイトルに合っていますよ。歴史は繰り返さないけれどもRhymeすると。まさに景気サイクルも似ているようで全部少しずつ違う。やっぱりRhymeするんだなと。

宮武:それは非常に重要なポイントです。2000年や2008年と今を比べる人は多く、確かに似ている部分もありますが、あくまでも違うものなので。過去に学べることは学びたいものですね。今回はありがとうございました。それでは、また次回お会いしましょう。

動画はこちら

https://youtu.be/J7L6bEP3hbw

ポッドキャスト版はこちら

https://open.spotify.com/show/0Vu1Df4CInCOSDtHkrxP89?si=61ac75f2399f4bf3

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