自閉スペクトラム症の主人公が活躍する「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」の描き方が、“世界基準”といえる理由
2020年代仕様の若手女性弁護士ドラマ
Netflixで2022年6月から配信されたドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌(以降、「ウ・ヨンウ」』。自閉スペクトラム症[1]で、傑出した能力を持つ新人弁護士のヨンウが仕事に取り組みながら、周囲との関わりの中で成長していく、韓国発のヒューマンドラマだ。各話ごとに発生する事件とその顛末を縦糸として、親子関係、キャリア、恋愛などを横糸としてドラマは進んでいく。
珍しい設定では決してない。よくあるドラマだろう、との先入観で見はじめたものの、その認識はすぐに改められた。本作の根底にある価値観は、今の「世界」の変化を見据えて、2020年代仕様に「アップデート」されているからだ。
過去のこの手の物語と本作のどこが違うのか。この違いへの理解は、変化する時代に適応を模索する多くのビジネスパーソンにとっても重要だろう。
本作は、マイノリティや障がい[2]を、エンターテイメントのアトラクションとして消費することへの問題性について自覚的な目線を持って作られている。ここが大きなポイントだ。
エンターテイメントとマイノリティ・障がい
20世紀に成立した映画やドラマにおいて「マイノリティ・障がい者」の扱いは変遷を遂げてきた。昔はしばしば「見せ物」的に、時には恐怖の対象として扱われた[3]。一方で、近年では、マイノリティや障がい者が善玉としての主人公になるのも珍しくない。
しかし、欧米では、こうした作劇はマイノリティをマジョリティ側が都合よく「消費」しているだけではないのか、敬意に欠ける行為ではないか、との見方が近年とみに高まっている[4]実態を理解しておくと良い。属性による抑圧やバリアを取り除いて行こうとするリベラル化の潮流のなかで、ある種の反省が起こっているのだ。人種や社会的性差に無自覚なマジョリティに自省を迫る流れとも共通している。
2022年にアカデミー賞の最高栄誉である作品賞を受賞した『Coda あいのうた」も聴覚障がいに絡んで、マイノリティを主人公にした映画であった。この映画が高く評価された背景の一つに、聴覚障害の人々に敬意を表し、実際に聾唖の役者を起用した点がある。『Coda あいのうた』にはリメイク元となった映画(『エール』2014年・フランス)があるのだが、そちらの作品では、聾唖者の役を健聴者の役者が演じた。これは、当時から批判を受けていたそうである。2010年代から2020年代の間にも「進歩」があったと思われる。