「ManabieはEdTech2.0への挑戦」――教育DX界気鋭の経営者・本間拓也氏に聞く

グローバルで実績をあげ、コロナ禍を機に日本でも急成長しているEdTech企業、“Manabie”。その創業者は、全国2,900校に導入実績のあるスタディサプリと後に統合する、“Quipper”の創業メンバーである本間拓也氏だ。今回は注目のシリアルアントレプレナー・本間氏を招き、Manabieへ出資したVC、グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)の投資担当者・深川を交えて、その想いや取り組みを聞いた。(聞き手=小栗理紗子、文=渡辺清乃)

~「Manabie」のビジネス~

  1. 教育現場のDXサポート

    東南アジアや日本にて、オンラインでの授業実施や時間割作成、学生データ管理などの教務部分、更に施設・会計管理やPTA渉外情報などを含む校務部分を一元管理できるよう、現場に即したデジタル化を支援。対象は塾、また幼稚園~小中高大学といった教育機関。

  1. 東南アジアでオンライン教育事業を展開

    オンライン学習アプリ提供、オンライン&オフラインのハイブリッド型塾経営など。

志のもと、「EdTech 2.0」への挑戦

――まずManabie創業の背景をお聞かせください。

本間:「貧富の差を超え、誰もが学びにアクセスできる世界を創りたい」とEdTech業界に飛び込んだのが2011年のことです。初めに立ち上げに関わったQuipperはイギリスでの創業後、数百万人のユーザーを持つサービスに成長しました。その後同社をリクルートへ売却し、経験を踏まえて次なる課題解決のため、Manabieを創業しました。

――「次なる課題」とは?

本間:現場の負荷を軽減し、先生方のよさを真に発揮してもらうためのDXです。
前者は、e-learningのような教材や授業に用いるツールだけではありません。コロナ禍において、教育の現場でもデジタル化はかなり進みました。しかし、本当に必要とされているのは教務(授業にまつわる事務作業)から校務(学校経営・運営側の事務作業)までトータルでのデジタル化によって先生の工数を減らすことです。そしてデジタル化によってできた余白を活かし、現場の先生方が持つ独自のノウハウや考え方を取り込んだ新しい教育システムを創造すること。僕はこれを「教育機関のフルDX」と呼んでいます。

――今、教育現場において「教材」や「授業」のデジタル化はどの程度進んでいるのでしょうか。

本間:2019年から始まった「GIGAスクール構想」により、全ての小中学生にタブレットかパソコンが配られました。この動きは高校生にも拡がっていますし、コロナ禍を経てほとんどの教育機関がオンラインとオフラインのハイブリッドになりつつあります。

ただ、端末だけあっても効果的なICT活用・運用にはもうひと工夫必要です。現場で起こっていることを例に出すと、生徒の使うアプリがやたら増えてしまっている。動画はこれ、ライブ授業はこれ、と1つの授業で5~6個使うこともあるのだそうです。先生側は、加えて成績管理のシステム、学習計画作成のシステム……とさらに多くのツールを使う。しかもバラバラに保存されたデータを抽出して入力し直すなども必要で、手間ばかりが増えています。

だからこそ、今後は環境を整える段階と考えています。Manabieは授業にまつわるツールを一気通貫で提供し、更にそれら教務にまつわるシステム群の管理や、先生、教室、あるいは請求の管理まで、いわゆる校務と呼ばれる範囲の基幹システムもカバーしています。この校務側まですべてカバーしているというのがポイントです。これまで教材側や授業側がそれぞれに改革を進めようにも、教務側の20年程前に導入したままのERPシステムでは対応できなかった、という教育機関も多い状況への解決策になっているのです。

Manabieのライブ授業アプリ(教師側が使用したときの画面)

――Manabieの存在が、大きな社会問題となっている教育現場の疲弊を解決する糸口になりそうです。現場でのDX導入を実践する上で重視していることは何でしょうか。

深川:我々の出資前、ユーザーとなる塾の経営者の方々へのインタビュー調査を行ったところ、多くの方から「Manabieは機能に広さと深さがある」「Manabieは自社でも塾経営をしているから徹底した現場目線を持っている。だからManabieと一緒にやりたい」との声があがりました。教育に関わる方々は、ご自分の教え方や独自のスタイルがあります。生徒側も「この教科書がいい」より「この先生が面白い」という選び方が強い。となると、やはりシステムを一括で入れて一気に変えるようなことだけでは、持続的かつ拡張性のある変化は起こせないのではないでしょうか。

本間:我々が大切にしているのは、「教育の多様性」です。単なる知識の詰め込みだけでは「教育」にはなりません。現場の温度感や教え方の多様性などが活かされる仕組みが必要なのです。そのため、Manabieでは中長期の絵を一緒に描き、導入からその後のステップまで伴走します。教務部・教材部・校務部などバックオフィスの方々、経営陣などとそれぞれ週1で分科会を開き、フィードバックを受けながら改善を進めています。

深川:調査の中でもうひとつ印象的だったのは、「Manabie以外のツールでも、『●●(教科)が“できる”子供』は生まれるかもしれない。けれど『●●が“好きな”子供』は生まれにくい」というご意見です。学習効率を上げる環境と、「好き」「面白い」を生むのに必要な環境は違う。後者は、他の生徒や先生との触れ合いの中で発見したり生まれたりするのだ、と。

本間:手前味噌ですが、Quipperもスタディサプリも当時は相当最先端なサービスだったと思います。多くの方々に届いたのが証ですし、これからも発展していく分野でしょう。だからこそ、次のステップへの種をまいて育てる必要がある。

Manabieは、僕にとってのEdTech2.0なんです。教育を全世界に届け、効率や利便性などを上げた先にある、本当の意味での「デジタル化された新しい教育」の実現のためには、「教育」そのものに対して更に深く入り込んでいかねばならないと感じています。

想いは熱く、布陣は堅く

――さらなる理想形の実現にはかなりのパワーが必要そうですが、Manabieではどういった体制で立ち向かっているのでしょうか。

本間:もともとグローバル展開できる組織をつくることを重視しています。となると、グローバルの経営陣が肝です。僕は売上やビジネスを伸ばすことを担当し、それ以外を担当する強いコアメンバーを探しました。

たとえばコーポレートのヘッドのChristyとエンジニアリング領域のヘッドのTrieuは、会った瞬間に「絶対に採用するぞ」と決めていました。Christyは、Alibabaに数千億円で買収されたECプラットフォーム、LazadaでCFOを担っていた人物です。彼女は社会貢献性の高い事業に携わりたいと考えており、教育にも興味があるとのことだったので、1年かけて口説き落としました。
また、TrieuはNational University of Singaporeのコンピュータサイエンス学科を主席で卒業し、複数のテック企業でCTOの経験を積んできた人物です。彼はベトナム人なのですが当時シンガポール在住で、僕はインドネシア在住。彼を採用するためだけに、大量の資料を抱えて3、4回飛行機でシンガポールに向かい、ビジョンを語り……「三顧の礼」で頼み込み、Manabieにジョインしてもらいました。彼がいるからこそ今のエンジニアリング組織ができていると言っても過言ではありません。

深川:経営層をはじめ優秀な人材を集め、世界中のベストプラクティスを徹底研究しているのも強みですね。かつ研究の成果を実装できるEdTechカンパニーの中では抜きん出た開発体制を整えています。この体制だからこそ、プロダクトを磨き込み、徹底的にユーザーに寄り添うサービスを提供できており、信頼感に繋がっているのだと思います。

――Manabieの創業はベトナムですが、国家施策としてエンジニア育成に取り組んでいる東南アジアの国々は開発人材が豊富だと耳にします。                                                                                         

本間:プロダクト開発に関しては、グローバルでチームを組んでいます。約140名の内、100名がエンジニア、残りがプロダクトマネージャーとプロダクトデザイナー。国籍は東南アジア、たとえばフィリピン・ベトナム・インドネシアなどの人が120名ぐらいで、日本人が20名ぐらいです。日本側の体制は、フルタイムメンバーが約30名。パートタイム合わせると60~70名ぐらいでサポートしています。

結局、プロダクトが強くないと、グローバル展開も日本におけるヴァーティカル展開もできません。中国やアメリカでは1,000名単位のエンジニアでレベルの高いプロダクトをつくる企業も多々いますので、そのレベルを目指さねばと感じます。

一方、日本側のメンバーは、違うコンセプトで固めています。ひとつは教育にかなり入り込んだ人たちです。たとえば20年超の経験を通じ、教室長も教務部も、新規事業立ち上げもやりました、と塾経営に精通する人材も多く在籍しています。もうひとつは、バックオフィスやシステムの部分のスペシャリストで、大手のITコンサル出身者などです。両側のエキスパートが手を組むと良いソリューションが生まれるだろうという考えです。

――教育まわりの経験がない方も含めて優秀なメンバーが集まっていらっしゃるのですね。皆さんどんな点に魅力を感じてジョインされているのでしょうか。

本間:教育業界出身者はやはり教育への熱い想いを持っている方が多く、それ以外の方もソーシャルインパクトや向き合う課題の大きさ、そしてその課題に対してロングタームで見据えて徹底的に取り組んでいる我々の姿勢に魅力を感じてジョインしてくれています。

また逆にこちらからは「High Energy, High Intelligence, High Integrity」の3つの観点で採用を行っています。

深川:特にHigh Energyな方が多いと感じます。経験や能力ももちろん見ておられますが、想いやポテンシャルを大事にして採用し、かつその方々が活躍できるオンボーディングの仕組み化を徹底している。スタートアップでは稀だと感じます。

後編へ続く)

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