学び合い続ける組織でデジタル変革を成功させる――NTTデータ副社長 山口 重樹氏インタビュー【後編】

デジタル変革と学習する組織』の著者、NTTデータ副社長の山口重樹氏へのインタビュー。後編では、顧客支援のみならず自社でもデジタル変革に取り組んできた観点に基づく、アジャイルビジネス組織への変革やあり方、更に1990年代にピーター・センゲ氏によって提唱された「学習する組織」をテーマに話が進んだ。インタビュアーは引き続きグロービスのマネジング・ディレクターを務める西 恵一郎が務める。(前後編、後編)

変革には、組織を分けての「両利きの経営」が重要

西前編で伺った「事業のデジタル変革」のためには、リアル中心からリアルとデジタルのハイブリッド組織に転換するという、「組織のデジタル変革」が必要だと思います。この困難なシフトは、実はNTTデータも業務効率化などバックエンドをつくるためにITを導入する組織から、ビジネスサイドでテクノロジーをリードする組織への転換において乗り越えてこられたことだと伺いました。改めて、自社の変革を進めていく上での要所についてお聞かせ下さい。

山口:おっしゃるように、バックで堅くQCD(品質、コスト、納期)を守って作り上げていく組織と、フロントで顧客をリードして新しい価値創造を行う組織とでは、カルチャーがだいぶ違います。

要所として注意したのは、組織をつくりかえる流れの中では、一つの組織の中で既存の取り組みを続けたまま新規の取り組みを行うとハレーションが起こりやすい点でした。同じ組織の中ではキャッシュの安定した既存の取り組みにリソースは割かれやすく、そうすると反対に新規事業はおろそかになってしまいがちなのです。そこで、「両利きの経営」とはよく言われますが、既存と新規で組織を分けることにしました。

西:御社の決済プラットフォーム「CAFIS」において、今までにない新たな顧客価値を創出する「Digital CAFIS」という取り組みを実践されていると伺っています。『デジタル変革と学習する組織』でも、実践例として記載がありましたが、こちらにもヒントがありそうです。

山口:Digital CAFISの立ち上げにあたっては著書で記載のように、まずその組織のミッションとKPIを決めました。というのも今すぐに収益につなげるのではなく、長期的に新たなサービスをいくらでつくり出すかを考える必要があるので、とくにKPIはきちんと決めておきたい。また、KPIにすることで「ミッションは今稼ぐことではなく、新たなサービスをいくら作り出すかである」と掲げることになり、ビジョンや将来像も明確になりますよね。

アジャイルビジネス組織のリーダーに必要な要素は「自分で考える」こと

西:前編で「新しい事業に取り組むためには、ビジョンや将来像の共有が重要である」とお話し頂きました。デジタル変革の先に日本企業が目指すべき将来像として、今後、ご著書にあるような全社改革の推進役として機能し得る、デジタルを併存させた価値創造型組織「アジャイルビジネス組織」があると思います。NTTデータでは、既存の組織からアジャイルビジネス組織へとどうやってシフトしてきたのでしょうか。

山口:前提として、既存の組織の良さは生かしながら、本当の目的は何かを考え、その目的を達成するための手段として新しい組織をつくろうと考えました。また同時に考えたのが、新しい領域では、人材にとって「既存のことをよく知っている」ということは価値にならないということ。誰のために何をするどんな組織なのか、という定義ができるかどうかが重要です。

西:そもそもなぜアジャイルビジネス組織にする必要があるのか、完成形のイメージや目的の理解なしに聞くとわかりにくいかもしれません。しかし、山口様がおっしゃるようにデジタル化によって顧客接点が増え、現場から様々な情報が取りやすくなるからこそ、トップダウンではなくボトムアップ型になっていくと解釈するとわかりやすいですね。

山口:仰る通りです。デジタルによって原理が変わるからアジャイルビジネス組織でも成果が出せるのであって、今までのようなデジタル化が進まない状態で進めても、いい成果は出ないのではと思います。

西:方向性は示すがトップダウンではない、アジャイルビジネス組織のリーダーは、メンバーがいかに上に情報や意見を上げてくれるようにするかがマネジメントのカギになると思います。NTTデータでは、そういったリーダーをどうやって育ててこられましたか。

山口:重要なのは複数の業務経験者であることだと考えています。複数の業務を経験した人は、ある時点で自分のもっている知識や経験をリセットする機会を経験しているはずなので、自分で考える癖がついているのです。1つの業務ばかりをずっとやっているようだと、なかなかそういう発想にはならないと思います。

また、若い頃に重責を担って仕事をした経験がある人や、自分で意思決定をしなければいけない立場に置かれた人は、自分で考えて新しいことができるようになると感じます。チャレンジする力も、そこで生まれるようです。

仮説を立てて、考える癖をつける

西:組織づくりには、ピーター・ゼンゲ氏が提唱する「学習する組織*」の5つの示唆のひとつ、自己のビジョンを目指し、それを達成するために自分自身を変革する「自己マスタリー」が必要だと思います。つまり、リーダーシップとビジョンをもって、そもそも私たちは何のために働いてるのか、どう成長したいのかを主体的に、自律的に考えられる状態です。デジタルの活用によって改革を加速しつつ、前提としてどのような組織づくりをすれば、自己マスタリーの浸透した状態がつくれるとお考えでしょうか。

*学習する組織:環境に適応し変化する能力を継続的に開発する組織のこと。その実現には、「共有ビジョンの構築」「チーム学習」「自己マスタリー(自己実現と自己研鑽)」「メンタルモデルの克服」「システム思考」が必要であるとされている。

山口:キャリアを含めて主体的に考えられるように、チャンスを与えることが大切ではないでしょうか。方向性はトップが示さなければいけませんが、ある部分は任せるのです。ただし、任せるにあたっては、部下が仮説をつくり、それを上司と共有するという形にしていくことが必要です。部下に「仮説を考えさせる」というプロセス抜きに部下に任せてはいけません。この仮説をつくる力が、自分で主体的に判断できる人材の育成につながります。

部下が仮説の案を持ってきたときには、成功のポイントはどこにあると考えているのかを聞いて、必要に応じて修正してもらうなど、マネジャーと部下の間でコミュニケーションを取りながらの作業にしていく必要があると思います。ただ結果を求めるだけではなく、仮説を立ててもらい、それをきちんと議論していくのが、自律した人材をつくるポイントだと私は思っています。

西:もう一つのポイントは、自分の状況を理解したうえで学習し合う、刺激し合う状態だと思います。山口様は、この状態にしていくためには、どうようにすればいいとお感じですか。

山口:学び合うには、自分の経験をストーリーとして話し合うことが重要だと思います。ストーリーをつくる力は、最近では「ナラティブ」と言われたりしますが、論理的に考える力や、仮説をつくる力につながります。ただの自慢話ではなく、「あの仮説がうまくいったからこういう結果になったんだね」と振り返って話し合うことが、学び合いの第一歩だと思います。

システム思考で日本企業がめざすべきものは

西:「学習する組織」から得られるもう一つの示唆は、「システム思考」です。組織の一人ひとりが、どれだけシステマティックに動いているのかを意識できるか。個人と組織が独立しながらも、相互に高め合っている状態であれば、システムで動いているといえるのではないでしょうか。

山口:仰る通りで、全体のつながりを理解しながら個人が動くということが、一番重要なんですよね。これまでは階層別の分断の強い組織だったのが、デジタル化によって個人がいて、リーダーがいて、会社がある中で、いかにフラットな状態で物事を動かしていけるかになってきました。日本企業が目指すべきところはまずこの点を理解することではないでしょうか。

ピーター・センゲ氏の話も出ましたが、1990年に提唱された「学習する組織」の考え方は、2019年に米国の経済団体である「ビジネス・ラウンドテーブル」が発表したステークホルダー資本主義に反映されています。これまでのように株主の利益を第一にするのではなく、顧客、従業員、取引先といったステークホルダーの利益に配慮するという流れに戻ってきているのです。

そう考えると、これまでの日本における顧客重視、従業員重視の経営は、世の先を行っていたのではないかと思います。「何のために仕事をしているか」をきちんと考えていくことが重要ですね。

また、やはり若い人が事象だけではなく原理も学ぶ機会をつくっていく必要があると思います。次々と新しく出てくるバズワードを表面的に理解するだけでは、自分の思考が深まらず流行を追うだけになってしまいます。新しい概念に対する深い思考を可能にするために、社会人が原理原則を学ぶことは大変重要なことだと思います。

西:デジタル変革を含め、新しい組織づくりにも学びが重要なのですね。デジタルによって加速する「学習する組織」によって、日本の変革が進めばと思います。本日はありがとうございました。

RELATED CONTENTS