日本企業がデジタル変革を実現するために――NTTデータ副社長 山口 重樹氏インタビュー【前編】

DXを自社の経営課題として取り組みながらも、なかなか最適解を導き出せずに苦悩する経営者や組織は多い。こうしたなか、デジタル変革を進めるための組織のあり方をテーマとした書籍『デジタル変革と学習する組織』が2021年12月に刊行された。今回はその著者である株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 代表取締役副社長執行役員・山口 重樹氏に、同書のエッセンスを踏まえてデジタルの持つ可能性、また日本企業がデジタル変革を行うためのポイントや、組織変革のあり方について伺った。インタビュアーはグロービスのマネジング・ディレクターを務める西 恵一郎。(前後編、前編)

3冊の著書から見えてくる、デジタル変革の流れ 

西:山口様がこれまでに上梓された『デジタルエコノミーと経営の未来』、『信頼とデジタル 顧客価値をいかに再創造するか』、『デジタル変革と学習する組織』の3冊は、まさにIT業界とITが社会をどう変革してきたかを流れで示すシリーズだと感じました。この3冊の連続性をどのようにイメージしながらご執筆されたのかについて、まずお伺いしたいと思います。

山口:1冊目の『デジタルエコノミーと経営の未来』は神戸大学大学院経営学研究科の三品和広教授との共著で、デジタルがいかに経済原理を変えていくか、また経済、社会の中でITが果たす役割について書きました。

2冊目の『信頼とデジタル』も三品先生との共著ですが、デジタルを活用していかに顧客価値を変えていくべきか、企業経営やビジネスをデジタルがどう変えるかがテーマとなっています。

そして3冊目の『デジタル変革と学習する組織』は、現場に即して具体に落とし込んだ内容となっています。私たちのようなITベンダーと、お客様のビジネスとの関わり方は、ITが出始めた頃から長い目で見ると、段階的に進展してきたと思います。業務効率化を目的としたIT導入から、顧客への新しい価値提供を目的としたデジタル変革へという流れです。本書では、こうした流れを整理するとともに、大企業がデジタル変革をするために必要な組織やマネジメント、そして人材のあり方について書きました。

具体的なイメージを共有することが、転換のポイント

西:これまでNTTデータでは、新しい価値提供を目的とする数々の顧客のデジタル変革を支援しています。その知見を踏まえて、現在多くの企業が頭を悩ませているであろう「事業をデジタル化し変革する」という観点におけるポイントをまずお聞かせ下さい。

山口:デジタル化した事業をはじめ、まず新しい事業に取り組む際には具体的なイメージやビジョンを示すことが大切だと思います。例えばいま私は、デジタル化によってカスタマージャーニーやバリューチェーンがどう変わるかをお客様と一緒に考えたり、事例を共有したりしています。掛け声だけで新しいことに取り組むのは難しいからです。

また、デジタル化の成否を左右するポイントとは、いろいろな課題解決をソフトウェアで実現するのか、データで定義するのか、そしてそれらをどうつなぐのかだと思います。たとえば小売店であれば、カスタマージャーニーをデジタル化すると、これまでリアル店員との顧客接点が一時的に1度か2度だけだったものが、24時間つながれるように変化します。顧客といつでもつながることができる状態のことを「顧客接点のユビキタス化」といいますが、このようにカスタマージャーニーがユビキタスになるような、ある部分までの導入の糸口をつくれば、デジタルで何ができるかがイメージしやすくなるのではないかと思います。

西:そういうときに、ご著書にもあったデジタル技術を機能ごとに要素分解するCCAC(Convert Connect Algorithm Cognize)のフレームワークは汎用性が高く、読者も考えやすいですね。

山口:私たちの発想もこのフレームワークがないとうまくいきません。お客様にもぜひ使ってほしいですね。

また、ビジョンが共有され、将来像を考えることができると行動が変わってきます。たとえば保険会社の本当の顧客価値は保険を売ることではなく、安心安全な社会の実現です。こう考えると、まったく違うサービスや顧客価値が見えてきます。更にここでデジタルを業務改革的な「足し算」ではなく「掛け算」の発想で取り入れると考えることで、新たな事業が創出されるのではないでしょうか。

3つのデジタル変革の機会

西:具体的な事業像を描くにあたり活用できる知見として、ご著書ではデジタル変革が持つ新しい事業機会や、デジタル経済の可能性について、以下の3つに整理して書かれていらっしゃいます。

  1. あらゆるところに市場をつくりだす
  2. 不確実性をビジネスチャンスに変える
  3. 新たなサービス・製品の原材料となる

これらについて、改めてご説明いただけますでしょうか。

山口: UberやAirbnbなど、消費者と提供者がダイレクトにつながることが「1.あらゆるところに市場をつくりだす」にあたります。デジタルで今まで会社や組織を通して行ってきたことが、市場で個人と直接取引できるようになったのです。これを進めるには、相手を信用できるか、あるいは時間単位で売り切りできるかといったトランザクションコストを考えることが重要になります。いろいろな事象で、あらゆるところに市場をつくれるのがデジタルの力なのです。

西:今まではリアルでしかつながれなかった買い手と売り手が、デジタルで簡単につながることができるようになったということですね。「2.不確実性をビジネスチャンスに変える」についてはいかがでしょうか。

山口:AIやビッグデータは私たちの処理能力を拡張します。つまり、不確実性によって発生するロスを、予測して防ぐという価値が大きいのです。デジタルによる情報の可視化・予測が出来れば、精度の高いリスク回避ができます。

西:リスクを少しでも減らしたいということは誰もが望むことですから、これは大きなビジネスチャンスになりますね。「3.新たなサービス・製品の原材料となる」についてはいかがでしょうか。

山口:コネクテッドカー(IT端末としての機能を有する自動車)やエンベデッドソフトウェア(組み込みソフトウェア)などが挙げられます。現在、さまざまな製品のハードウェアは、ソフトウェアで制御されていますから、ソフトウェアをアップデートすれば、ハードウェアをつくり直さなくても新たな機能が追加できたり、パーソナライズできたりする。そういうとらえ方です。

西:以前自動車部品メーカーの方から、同社のソフトウェアのコード行数はある著名なSNSの構築に使われているコードの行数の十倍の桁数で構築されていると伺ったことがあります。

山口:デジタルにあまりなじみのない方にとっては、想像以上に大規模なソフトウェアが関わっているのだなと驚かれるかもしれません。

既に膨大なソフトウェアによってデジタル変革の多くの部分が実現され、新しいサービス・製品が生み出されています。デジタル経済においては、この原理が顕著に表れているのではないでしょうか。

後編へ続く)

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