奨学金プラットフォーム「ガクシ―」とは 起業への想い 前編

奨学金は毎年1.3兆円が流通するが、その手続きはほとんどが紙ベースで行われ、応募する学生と対応する現場の負担が大きい。また、ほとんどの奨学金は学校経由で告知されるが、民間の奨学金は一部の学校にしか告知されないといった情報の非対称性もある。奨学金のプラットフォーム「ガクシ―」を運営するSCHOL(スカラ)はDXでそうした課題の解決を狙う。CEOである松原良輔氏に話を聞いた。聞き手は、グロービス経営大学院教員で、SCHOLの社外取締役である許勢仁美。(全2回前編)後編はこちら

起業テーマは「日本のため」

許勢:SCHOL(スカラ)では、奨学金の情報をオープンにするということで、奨学金を一覧で検索できる「ガクシー」と、その裏側の提供者向けの管理システムという、いわばリクナビの奨学金版ともいえるサービスを提供されています。まず、どのような問題意識で、奨学金というマーケットで事業の立ち上げに当たられたのかというところをお話いただければと思います。

松原: 1社目の起業で海外にいる学生の採用支援を行っていたのですが、日本に比べ、海外では国の支援や奨学金を受けて圧倒的に学業に集中しやすい環境が整っていることを知りました。日本人として、将来の日本を担う若者を支援したいという想いから「奨学金」というテーマで起業することにしました。

HP:ガクシ―より

許勢:グロービス経営大学院にも起業したいという思いを持って学ばれている学生は多いのですが、起業に踏み切る時のエネルギーはどこから湧いてくるのでしょうか。

松原:1社目の起業は、この人は天才だと思える方に誘っていただいたのがきっかけでした。2社目の今回は、「日本のためになる事業をやりたい」という事業に対する興味の強さです。あとは、創業以前から壁打ちしていた現経営陣と事業をやりたいという想いも強かったですね。

一緒にやりたい人、社会課題の解決、あるいは富や名声など様々だと思いますが、一番強い興味のあるところに50%以上マッチすれば、踏み切るのかなと思います。

許勢:奨学金というドメインはどのように見つけたのでしょうか?

松原:はじめの1年間くらいは、事業として大きくなれれば、日本社会に貢献することになる事業をやろうと、「日本のため」をテーマに何ができるかをずっと検討していました。

その間、アイディアができる度にベンチャー・キャピタルにぶつけてきました。筋が良ければ、プロが投資してくれるはずだと考えていたので。そこで5個くらいビジネスプランが潰れています。それで行きついたところが奨学金マーケットの課題解決です。この課題解決なら「日本のため」という主旨にも沿いやすく、本格的に動き出しました。

その後、現経営陣が一緒に事業を動かせるようになったこの半年ほどで「ガクシ―」を立ち上げ、今は新たな社員や外部のパートナーさんも含めて事業も組織もどんどん大きくなってきました。

スキルと役割がマッチしたチーム

許勢:やはりチームがあったというか、一緒に取り組みたい人がいたというのも結構大きかったのでしょうか。

松原:チームのスキルと役割も大きいです。私自身が経営という立場で、足立が開発、大工原がマーケティングとプロダクトに強かったので、私自身はこの3人のスキルを統合したいという想いはありました。

許勢:お互いに補完関係のある専門性を持ったメンバーだということですね。

松原:人としての感性が似ているというのもあります。やりたいこと、進め方、仕事に対する考え方、生き方みたいな、そういったところの感性がまず似ている、と。そこからは個別のスキルになりますけど、それまでの仕事ぶりや実績を信頼もしていました。

許勢:お2人とは、前職で出会われていますから、仕事についてもよく知っているというのは大きいですね。意見が対立したとか、やっぱり一緒にできないなと思ったことはありませんか?

松原:意見が対立するのは、常にです。ただ、起業や事業の生み出しは本当に大変なので、「この事業をやり遂げる」という大きなゴールがブレない限りは諦めない。ここは最初に結構話しました。誰かが諦めたらそこはもう崩壊の時だと思うんですけど、諦めない以上、解決するために全力を尽くすという形でやっています。今のところ、これはもう無理だな、とまではいったことはないですね。

奨学金の現状と新しい潮流

許勢:海外と比べて日本は高等教育への補助が不足しているということですが、日本の現状を見ると、学生の2.7人に1人が貸与型の奨学金を利用しています。高等教育の無償化とセットで、低所得の家庭から優先的に学生への給付を行う給付型が徐々に拡大してきています。

松原:貸与型と違って給付型が広まるのはよいのですが、給付型も結局家計基準があり、その基準が世帯年収300万~350万円と低すぎます。大学の授業料が高騰しているのに、世帯年収は減少しているので、せめて450万円ぐらいの所得基準で、半分の人が選べるぐらいの幅がないと、マジョリティに対する支援にならないんです。

一方で、卒業後に返済する貸与型の利子付き奨学金は、幅広い層が借りることができますが、10年、15年と返済で苦しい方や、最近は返済ができない方も出てきて、次に回せる奨学金も不足するという社会問題になっています。

許勢:貸与型の問題は、高校生などまだ自分で適切な判断ができない、お金のリテラシーが足りない段階で借金を背負うことになってしまうことがあります。それでも昔は大学を卒業すれば安定した職に就いて返済できましたが、今はその職が続くかどうかわからないという先行きが見えない時代になっていることも問題です。

奨学金の明るい面に目を向けると、実は今、もうひとつの動きとして、政府の公的な機関がやっている奨学金の他に、民間や学校が奨学金を直接学生に給付するという制度が広まりつつあるんですよね。

松原:海外では、奨学金は採用やブランディング、節税対策など何らかリターンが得られる寄付の一手法としてメジャーですが、日本でも徐々にそういう活用の仕方が出てきています。

10年20年前の日本の起業ブームの際に、会社を創って大きくした方が、今40代50代になられている。その層は、「世の中のために」という感覚をお持ちで、代表的なのがメルカリ創業者でCEOの山田進太郎さんが私財30億円を投じて2021年7月につくられた山田進太郎D&I財団です。この流れが日本で今後増えていくのかなと思っています。

許勢:基金の立ち上げだとか、そこからの奨学金だとか、学校を立ち上げて奨学生という形で将来期待できる生徒を受け入れるということが、徐々に始まってきていますよね。

次回に続く

(文=GLOBIS知見録編集部 吉峰史佳)

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