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LGBT社員の心理的安全性を保つために私たちができることは?

投稿日:2017/09/23更新日:2023/07/19

前編につづき、グロービス社内で行われた勉強会「LGBTの方のインクルージョンについて」の内容をお伝えします。(後編)

LGBTの人たちが職場で抱える困難とは?


LGBTの人たちは具体的に何に困っているのか。LGBTに共通する課題としてカミングアウトしづらいとか、ハラスメントの問題がありますが、なかでもトランスジェンダーの人たちには特有の困難があります。生まれたときの性と自認する性が異なっていて、本当は皆さん、自認の性で生きたいし働きたい。それで性別も移行したいというなかで、「じゃあ、どちらの性別で働くのか」とか「自認する性別で働くことが可能なのか」といったことが大きな課題になります。

それが就職活動にも影響するわけですね。20代前半の頃は性別のことで悩んだり、性別移行中の人も多いので、そうすると「じゃあ、面接に着ていくスーツはどうするのか」と。そもそもエントリーシートにある性別欄の「男」「女」という項目を見て、自分はどちらの性別を申告すればいいのか悩んでしまったりします。戸籍上の性別を書くのか、自認の性別を書くのか。

ということで、たとえば最近はエントリーシートの性別欄にも「男」「女」だけでなく「その他( )」として自由に書ける項目を設ける、といった対応が企業側でも少しずつ広がっています。それによって男女どちらかということで困っていたトランスジェンダーの就活生が、「その他」を選べるかもしれないし、まずその時点で排除されにくくなります。とにかく、トランスジェンダーにとっては男女別の就活自体が大変だし、それで正社員に就くことも難しくなってしまったり、それが貧困にもつながったりしてしまう。

また、就職活動での差別もいろいろあります。最近はカミングアウトしたうえで就活に臨むトランスジェンダーの若者も増えていますが、たとえば「トランスジェンダーです」と言った瞬間「うちにはそういう人はいりませんから」と言われたり。それで面接を打ち切られてしまったり、性的、差別的なことを言われたりするわけですね。あるいは「体の手術はどうなってるの?」としつこく聞かれて嫌な思いをしたり。なので、今後はLGBTの人たちがカミングアウトして働くこと、もしくはカミングアウトしたうえで面接に来ることも考えて、やはり面接を担当する方はLGBTの基礎的な知識を絶対に持っておいたほうがいいです。

そのうえで、企業では具体的に今どんな取り組みが広がっているかというと、先ほど申し上げた約200社の大企業を見てみると、たとえば会社としてまずは「LGBTをサポートします」というメッセージを出したりしています。そのうえで就業規則や、社外に公開しているダイバーシティポリシー等のなかにLGBTに関する言葉を入れたりしています。

たとえば、性的指向や性同一性…、性自認のことですが、そういったことを理由に差別しないことを、野村グループさんは2012年というかなり早い時点でグループ倫理規定に明記しました。また、SOMPOホールディングスさんは昨年改定した「人間尊重ポリシー」で、それまで性別だけだったところに性的指向と性自認、さらに性表現という言葉を加えています。大企業で性表現という言葉まで入れるのはかなり先進的と言えます。

性表現で差別しないというのはどういうことか。たとえば、トランスジェンダーの社員が、働きながら性別を変更したいときはどうすればいいか。性別の変更って、すごく時間がかかるんです。たとえば3年越しや5年越しで少しずつ性別を変更されます。すると、その途中で見た目が中性的になったりして、差別を受けてしまうことが多いんですね。同性愛は言わなければ分かりづらいですが、トランスジェンダーは性別を変更する段階で、見た目の差別にさらされてしまうことがあります。

男性として働いていた人が少しずつ女性になっていくとき、たとえば少しずつ髪を伸ばしたり途中からスカートになったりしたとき、上司に理解がないとどうなるか。「そんな格好なら営業から外す」とか、ひどいときは解雇なんていう話になります。SOMPOさんのポリシーはそういうことをしないと言っているわけで、かなり踏み込んでいると思います。

また、企業でLGBTの取り組みが進んでいる背景には3年後に開催を控えた東京オリンピック・パラリンピックもあるんですね。ここでは2つの観点があります。1つはオリンピック憲章に「性的指向、好きになる性別で差別をしません」といった言葉が入っている点。これには、先ほどお話しした「同性愛プロパガンダ禁止法」がロシアで成立したあとにロシアのソチで冬季五輪が開催され、同法が主に西欧諸国から非難されたという背景があります。そのためソチ五輪後、2014年のうちに国際オリンピック委員会が憲章にLGBTに関する文言を追加したわけです。なので、たとえば昨年はパナソニックさんも福利厚生の対象を同性パートナーに拡大しましたが、「東京オリンピック・パラリンピックの最高位スポンサーであることが後押しになって」と報道されていました。

それともう1つ。さらに大きな観点として、オリンピックには「調達コード」というものがあります。これはオリンピック・パラリンピックの組織委員会がモノやサービスを買うにあたり、調達先企業が各種項目に配慮しているかどうかを見るもの。たとえば環境配慮の項目や、児童労働をさせていないといった人権の項目があるんですが、そのなかにLGBT対応も含まれているんですね。これは今年3月に発表されました。ですから「オリンピック・パラリンピックでお仕事をしよう、儲けよう」と考える会社はLGBTにも対応せざるを得ないという背景があります。今後、2020年に向けて準備が進むなか、そうした企業対応はますます進む流れになっています。

制度を整えることから始める

ここでもう1つ、先進的な制度の改定をご紹介させてください。今年3月にキリンホールディングスが発表したものです。

たとえばトランスジェンダーの人たちが働きながら性別を変更するといっても、性別変更にはいろいろと濃淡があります。ホルモン治療だけという人もいるし、治療は一切せず服装等の見た目だけを変えるという人もいます。その1つに性別適合手術があるわけですが、これはかなり大変です。精神的にも大変だし、お金も数百万円ほどかかったりする一方で、保険が適用されないとか。

実は2004年、LGBT関連として唯一となる「性同一性障害特例法」という法律が施行されていて、そのなかで「性別適合手術をして体を変えるなど一定の要件を満たせば戸籍の性別を変更できますよ」ということになっているんですね。これに関してはかなり厳しい条件なので国際社会から非難されています。

この性別適合手術というのはすごく大きな手術で、時間も最低でも1ヶ月ほど必要だったりします。そこでキリンホールディングスは過去の有給休暇の積立を使える制度を発表しました。これ、かなり画期的な対応だと思います。この件ですごく大事だと思うのはキリン広報のメッセージ。これは東京新聞の記事ですが、「実際に取得する人がいるかどうかではなく、制度として整えることで多様な人材に活躍してもらいたいという会社の姿勢を示したい」と。こういうのが、ぐっとくるわけですね。

トランスジェンダーの人たちがカミングアウトしたいと思ったときのために、「こういうことがありますよ」という制度を整える。それが当事者へのメッセージになるし、LGBTの求職者に対するアピールにもなるわけで、その意味でもキリンのメッセージはすごくいいと思いました。

サービス面でも大きな動きを1つご紹介します。同性カップルは法的にはまだ婚姻ができないため、老後の不安がいろいろあります。たとえば財産を確実にパートナーへ残せないといった話があるわけです。また、今までは生命保険の死亡保険金についても同性パートナーを受取人に指定することができませんでした。しかし、「自治体が証明書を出すんだから」ということで、ライフネット生命保険が同性パートナーも保険金の受取人として指定できるようにしました。今はそれが保険業界全体の動きになっています。法律で決められていないところで、ただ業界の慣習で決まっていた受取人の範囲を、企業努力で変えていくことができている、と。今はそういう変化も起きています。

また、これもつい最近の話ですが、今までは同性カップルが家を買うとき、ペアローンさえ使えませんでした。それぞれにお金は持っていて、1人だと少し難しいけれども2人合わせれば買えるというとき、ペアローンが組めなかった。でも、同性で家族や夫婦という人たちに、今まで対応していなかったサービスで対応すれば、それだけマーケットが広がることにもなります。それを、みずほ銀行が最近はじめてかなり話題になりました。こういうことを大手が先にやるというのはなかなかないことなので、LGBTのコミュニティからは大きな歓迎の声が挙がっていました。

ハラスメントをどう防げばよいか?

ハラスメントの話もしていきたいと思います。職場でカミングアウトする人がほとんどいないのは、やはりLGBTに対するからかいの言葉や嫌がらせのようなことが日常的にあるという背景もあります。そこは法律の改正で今年1月から、マタハラが規定されたのと同じタイミングで、実はLGBTに関してもセクハラ指針のなかで規定されました。

そのなかで、「セクハラは異性間だけでなく同性間でも成立する」とか「セクハラの被害を受けた人の性的指向や性自認は関係がない」と。これらは「誰が被害を受けても、誰から被害を受けてもセクハラです」という当たり前の話ですね。ただ、セクハラ指針のなかにLGBTに関する項目が書き込まれたこと自体はインパクトがあると思います。それだけ働いているLGBTの人がいるんだよという前提に立っていることになりますから。

また、ここで大事なのは「ホモ」「オカマ」「レズ」といった、当事者として嫌がることが多いとされている言葉に関すること。文脈はもちろん大切で、差別的な文脈で使われているかということもポイントですが、「そういった言動はセクハラの背景になり得ます」「セクハラにつながります」と、指針にも書き込まれているわけですね。

たとえば「お前ってそっち系じゃないの?」とか「お前らレズなの?」といったからかいって、よくありますよね。それは言っている本人とすればなんの悪気もなかったり、たいした思いもないんですが、言われるほうは違います。また、カミングアウトしていない人にとっては他の人同士のそういう会話を横で聞いているだけでも凍りついてしまったりするし、「早くこの話題、終わらないかな」と思うわけです。そういう話を聞けば、やっぱりカミングアウトできないし、ストレスがかかります。だからこそ、そういう言葉にも気を付けていきましょうという話になります。

で、そうしたことが広義のセクハラと定義されたわけですけれども、特にこうしたLGBTに関するハラスメントの課題を見えるようにしようということで、LGBTコミュニティのなかから「SOGI(ソジ)ハラ」という新しい言葉が出てきました。

SOGIとは性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の組み合わせ。その2つに関わるハラスメントをSOGIハラと呼んでいます。SOGIという言葉自体は国連でもかなり前から使われている言葉ですが、それに「○○ハラ」という日本的な表現を掛け合わせて、「アルハラ」や「マタハラ」と同じように「SOGIハラ」と。LGBTの当事者がハラスメントに関して厳しい目を持つようになり、「SOGIハラのない環境をつくりましょう」と動き始めたということです。

逆に言えばこれまで我慢してきたわけですね。でも、もう我慢しなくていいんじゃないかな、と。SOGIハラは職場の生産性を低下させ、メンタルヘルスに悪影響を与え、離職リスクも増大させます。だから、当事者とすればカミングアウトしていようがしていまいが、日常的にホモネタやLGBTに対するからかいがあるような環境にはいたくなという意識が芽生えてきているわけです。

ですから、それを放置することは会社としてリスクになり得ます。また、そうした離職リスクに関して1つ注意していただきたいことがあります。レズビアンやゲイの人たちが離職する大きな理由の1つにSOGIハラがあったとして、「カミングアウトしていない人が辞める際にそのことを言ってくれますか?」と。実際には、本当の理由を言わないまま他の会社に行ってしまうことが多いわけです。すると会社の問題が潜在化したまま、次にLGBTの社員が入社した際にも同じことが起きて、再び離職につながってしまうわけです。

昨今の人手不足という現状を考えても、企業は良い人財を1人でも多く採りたいし、1人でも辞めさせたくないわけで、それならSOGIハラも絶対になくすべきです。実際、SOGIハラへの対応については行政も注目しています。港区の男女平等参画センターが制作している『OASIS』という冊子でも、「SOGIハラのない日常をすべての人に」というキャッチを表紙にして特集を組むほど、今注目されています。

SOGIハラについて聞いたときに「自社でも起きているかも」と思うかどうかについては、身近にLGBTの人がいる人といない人でかなり大きな開きがあります。そもそも身近にいない人は「身近にいる」と思っていないからハラスメントにも気づくわけがなく、その感度はすごく低いと言われています。なので、まずLGBTの課題とともに、何がハラスメントに当たるのかを知っていただくことが職場の課題になると思います。それによって、「悪気はないけれどもハラスメントで加害しているような人」を減らしていけるのだと思います。

当たり前の話ですが、あらゆるハラスメントがない職場は誰にとっても働きやすい。NPOの虹色ダイバーシティさんによる調査でも、SOGIハラのあるなしでは後者のほうが当事者の勤続意欲も高まるという結果が出ています。ハラスメントは離職につながりやすいわけですね。また、実は「非当事者」であっても、たとえばLGBTが身近にいる人にとっては、同じようにSOGIハラがないほうが勤続意欲も高まるという結果が出ています。

心理的安全性を保つにはどうすればよいか?


ここで、今日お伝えしたかったキーワードの1つとして「心理的安全性」のお話もしたいと思います。これは簡単に言うと、「チーム内で適切なコミュニケーションが取れているか」「自分をさらけ出せているか」といった話になります。「職場では仕事をするだけでしょ?」という考え方を越えて、やっぱり高いパフォーマンスを出すためにはチームのなかできちんとコミュニケーションが成立している必要がある、と。そのために互いで配慮し合うほうが生産性の向上にも寄与するという、これはグーグルの調査結果ですね。昨年発表されたこの心理的安全性という概念が、今すごく注目されています。

この心理的安全性と職場におけるLGBTの課題をつなげて考えてみると、どういうことになるか。私も長いあいだそうでしたが、多くの当事者はまずカミングアウトすらできると思えない状況にいます。そして、「職場でカミングアウトすると何か不利益につながるんじゃないか」「出世できなくなるんじゃないか」「辞めさせられるんじゃないか」といった恐れが、私にもありました。そもそも「職場で言っちゃいけないことだ」と思っていましたし、とにかくそうしたプレッシャーやストレスがかかっている状態だったんです。

だから、たとえば付き合っている同性のパートナー人がいても、その性別をすり替えていたわけですね。「彼氏いるの?」と普通に聞かれて、それで彼女がいる私は「彼氏、いますよ」とか、ウソをついていたんです。彼氏がいることにして、デートした話も彼氏とのデート話に、いちいちすり替えて話す。でも、日常的な会話のなかにも付き合っている人の話や結婚の話というのは入ってきたりするわけで、そのたびに小さなウソをつき続けなければいけないとなると、すごくストレスがかかる状態になってしまうんです。

トランスジェンダーの人も同じ。カミングアウトできていない状態で、生まれたときの性別のまま働いている人もたくさんいます。たとえば生まれたときは男性だったけれども本当は自分を女性だと思っているトランスジェンダー女性も、仕方がないから男性として働いていたりするわけですね。そこで「お前はなよなよしてる」「もっと男らしくしろ」という風に性別の規範を押し付けられて、二重ですごくつらい思いをすることになるわけです。

そして、心理的安全性に最も大きな悪影響を与えるのはやっぱりハラスメント。日常的にLGBTをからかったり、ネタにするような環境にいれば、当然ながらストレスがかかりますし、心理的安全性からはほど遠い状態になります。

ということで、LGBTが生きていくうえでの困難と関連させたうえで、心理的安全性を保つためにはどうすれば良いのか。制度もそうですが、やはり気持ちの部分が大事です。LGBTも当たり前に一緒に働いているわけで、そういう人たちを大切な人材として支えていけるカルチャーをつくっていくことが大事だと考えています。

今日からできる具体的な対応は?

最後に、皆さんが今日からできる具体的な対応をお話ししたいと思います。まず、言葉に関しては、当事者があまり聞きたくない言葉があるわけですね。絶対にダメというわけではないんですが、「ホモ」「オカマ」「おねえ」「レズ」「おなべ」といった言葉は、差別的な文脈で使われることが今までは多かった。なので、より良いコミュニケーションをLGBT当事者と築くため、またはポリティカル・コレクトネス上、避けたほうがベターな言葉だと考えていただければいいと思います。

おススメとしては、私が今日使っていたような、当事者にとってあまりネガティブな印象がない「同性愛者」「LGBT」「バイセクシュアル」といった言葉を使っていただくといいと思います。いずれにしても、言葉狩りをするためでなく、その言葉をどういった文脈や意図で使っているかということに、当事者はとても敏感だということを知ってください。

あと、カミングアウトを受けたときにどうするべきか。職場の仲間に限らず、お子さまがいる人、ご兄弟、あるいはすごく仲の良い友人から、カミングアウトされる機会も今後は増えると思います。そんな風にしてLGBTが少しずつ可視化されていくなかで、どういった心構えでカミングアウトを聞いてほしいか。まず、大抵は勇気を持って信頼した相手に打ち明けてくれることですから、「ありがとう」といった言葉をかけていただけたらと思います。

ただ、その辺は会話の雰囲気で。若い人がすごくあっけらかんと言ってきたとき、こちらばかり深刻になる必要もありませんし、会話の雰囲気に合わせていただければと思います。職場で言われるということは、もしかしたら何か困っていることがあるのかもしれないし、ハラスメントがあるのかもしれないし、ただ聞いてほしいだけかもしれませんし。いずれにせよ、そこで「ゲイだからこうなんでしょ?」というような決めつけは避けてください。

それともう1つ、大事なお話としてアウティングに注意してください。カミングアウトは「自分はこの人に言いたい」ということで当事者自ら伝えること。これに対してアウティングは、言われた人が本人の了解を得ないで他の人に言いふらしたり、ばらしてしまうことです。日本社会にはまだ根強く偏見や差別があります。人によっては激しい嫌悪感を持つ人がまだいるわけですね。

なので、カミングアウトされた人が悪気なく他の人にも言ってしまったことが、そういう人の耳に触れると、それがいじめにつながったり、出世に響いてしまったりと、いろいろなリスクがあります。ですから今の日本の社会状況ではアウティングに注意してください。もしカミングアウトされたら「これは誰に話しているの?」という風に確認したうえで、当事者が了承した人以外には言わないことを約束してあげることが大事です。

ally(アライ)としてリーダーシップを発揮しよう

今日はいろいろな課題を知っていただきました。そのうえで皆さんに何ができるかというと、LGBTの人たちに「カミングアウトしてください」と強制することではないんです。そうではなくて、LGBTのことを理解して支える「ally(アライ)」になろうというアプローチです。

多くの職場でLGBTの社員はほとんどカミングアウトできていません。だから存在も見えなければ、その人たちが実際には何に困っているかもまったく見えてない状態です。だからこそ「私はLGBTの味方だよ」と、allyであることをまず見えるようにしていく。たとえば、allyのステッカーをPCに貼ったりして可視化することが大事です。そうすることでカミングアウトしやすい雰囲気が自然とできれば、実際のカミングアウトも少しずつ増えるかもしれない。

当事者が会社として見えてきたら、人事部のほうで「どんな制度がいいと思いますか?」「どうなればこの職場がもっと良くなると思いますか?」と、その人といろいろ相談しつつ、具体的な施策が打てるようにもなると思います。それで会社の施策がさらに進めば、またさらにallyが見えるようになるわけですね。こういった面で各社がどんな対応を取っているかというと、たとえば野村グループさんはパンフレットをつくったりしていますし、NTTさんも「ALLY」というステッカーをつくったりしています。

ゴールドマン・サックスさんもallyを示す紙のコーンのようなものを配っていて、それをデスク周りに置く人が増えています。そういう職場だと、まだカミングアウトできていない人も、たとえばそのデスクの近くを通りかかったとき、「あ、ちょっと嬉しいな。安心できるな」となります。それで「何か困ったらこの人に相談できるかも」「いつかこの人にカミングアウトしたいな」と、少しずつ心理的安全性が高まる、と。一気に変わるものではなくても、「少しずつ安心を与えていこう」という、そういうallyのアプローチが今は注目されています。

あるバイセクシュアルの若い人は、面接官がそういう研修を受けてステッカーを貼っていたのが好印象で、それが入社する決め手の1つになったと教えてくれました。ただし、まだロシア等の国では要注意です。先ほどの権利マップ上で赤かった国はまだまだ人権状況的に危ないですし、サポートしたいという意味でそうしたステッカーを貼っているだけなのに、何かトラブルになる可能性もあります。日本以外で使うときはちょっと気をつけてください。

そのうえで今日からできることについて改めてお話しすると、常に、見えてないけどいるかもしれないという前提が一番重要になると考えています。そう考えることで、たとえば言葉遣いに対する配慮も生まれるわけです。たとえば「彼氏」「彼女」という言い方ではなくて「付き合ってる人」という風にして、相手の性別を勝手に決めつけないことができます。

自分から「彼氏がいます」「彼女がいます」と言っている人なら「彼氏」「彼女」という言葉でいいと思います。でも、結婚の話題を振っても濁す人が仮にいたとたら、その人には同性パートナーがいるかもしれない。そういう人に、しつこく「相手はいるの? いないの?」「紹介しようか?」みたいな話をするのは良くないし、配慮がないと思います。

あと、飲みの席に限らず、たとえばホモネタみたいな話になったりすることは結構あると思います。でも、当事者はそこで「止めてください」となかなか言えないんですよね。「嫌だな」と思っていても、それを言ってしまうとカミングアウトにつながってしまうかもしれないので。だから、そこは周囲の方々がallyとして「今はそういうことは言わないほうがいいですよ」「SOGIハラとかセクハラになるみたいですよ」と、少しずつ、そういうことを言う人たちに教えてあげる。それも今からできる大事なアクションの1つだと思います。

最後になりますが、企業に期待しているのは、まずはLGBT対応が企業経営の重要課題だと考えていただくことです。人権の課題というベースに加えて、企業の採用活動やリテンションを考えるうえでも大変重要になることを知っていただくというのが、スタートだと思います。

すべてのLGBTがすぐ全面的にオープンにできるか、したいかというと、そんなことはありません。ただ、カミングアウトしてもしなくても安心して働ける職場はつくっていけると思いますし、カミングアウトしやすい雰囲気づくりをお願いしたいと思います。セクハラやSOGIハラといった、あらゆるハラスメントのない職場をつくることで、誰にとっても働きやすい職場ができると思っています。皆さんのallyとしてのリーダーシップを期待しています。(会場拍手)。
≫[前編]「なぜ企業はLGBT施策をする必要があるのか

執筆:山本 兼司

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