本記事では、グロービス社内で行われた勉強会「LGBTの方のインクルージョンについて」の内容をお伝えします。(前編)
LGBTに対する社会の認識が変わってきた
増原裕子氏(以下、敬称略): トロワ・クルールの増原裕子と申します。まずは自己紹介をさせてください。私は1977年生まれで今年40歳になります。大学院卒業後、海外の大使館で働いたり会計事務所で働いたりしたのち、最後はITベンチャーで働いていました。
私はLGBTの「L」、レズビアンの当事者ですが、2011年頃からフルタイムで働きながら自分がレズビアンであることを社会に向けて発信しはじめました。日本社会では今日お話しするような変化がいろいろと起きて、私個人としてもLGBTの活動の分量が次第に大きくなっていきました。そこで2年半前、それまで勤めていた会社を辞めて現在の仕事に専念しはじめました。今はLGBTについて企業や自治体に、あるいはマスメディアを通じて一般の人々に知っていただくことを仕事にして、本も出版させていただいています。
LGBTは、いろいろと誤解や偏見を持たれやすいテーマなんですよね。なので今日はまず、誤解を解くところから始めたいと思っています。そのうえで、企業の課題として働くLGBTがどんなことに困っているかを知っていただきたいと思います。また、日本の先進企業ではどんな対応が進んでいるか。そして一番大事なお話として、一緒に働くうえで個人として会社として、皆さまには何ができるのか。具体的なアクションを知っていただきたいと思います。
さて、私は4年半前に結婚式を挙げました。東京ディズニーリゾートで初となる同性結婚式で、ミッキーとミニーにも来てもらいました。同性結婚式でウェディングドレスが2人というとまだ珍しいかもしれません。ただ、それでも「この人たちは真面目な夫婦なんだな」「結婚式を挙げてるんだな」というのが写真からも伝わると思います。
それから4年半が経って、私も少し歳をとって、そして今日はこういう形でビジネスのお話をしているわけですね。でも、私がレズビアンだと知らない人が私の結婚指輪を見ると、私には旦那さんがいるんだなという風に、ほぼ自動的に思うと思います。でも、私には同性の妻がいます。私以外にも、見えづらいけれども、そういう同性カップルやトランスジェンダーの人たちがいることを伝えたくてこの写真をお見せしました。
2013年春というと、まだまだ日本のなかではLGBTの扱われ方が今とまったく違っていました。なので、まだ珍しい同性カップルの結婚式ということもあって、それとミッキー&ミニーの効果もあって、いろいろと新聞やテレビにも取りあげていただきました。
そんな風にして4年半が経った今、私の周囲にはLGBTの友人がたくさんいますけれども、同性カップルの結婚式は結構当たり前になってきました。少なくとも人生の選択肢のなかに入っています。真面目に付き合っているとなれば、「じゃあ、結婚式する? しない?」という風に。当事者の意識もずいぶん変わってきたんですね。
なぜダイバーシティ&インクルージョンが必要なのか?
まず、今日のお話は、企業や職場におけるダイバーシティ&インクルージョンの話だということを知ってください。経産省は今年、「ダイバーシティ2.0」ということを打ち出しています。「ダイバーシティの本質を企業も追求していこう」という国からのメッセージですね。1人ひとりの違いを生かし、それを企業の競争力や強みに変えて、付加価値を生み出すというのがダイバーシティの本質です。
日本の企業はこれまで「ダイバーシティ1.0」の状態でした。たとえば「女性活躍」に代表されるような、カテゴリーごとの採用とか、カテゴリーごとの働きづらさ解消といった話ですね。今はほとんどの企業がそこで止まっていますが、女性のなかにも多様な人がいるわけです。カテゴリーにこだわらず、一人ひとりの違いを生かしていこう、その一人ひとりの違いの1つとしてLGBTに関することもある、という枠組みで捉えてください。
では、一人ひとりが自分の力を発揮するためにはどうするべきか。やっぱり働きづらさがあるとなかなかフルに力を発揮できません。だからこそ女性活躍の取り組みもあると思うんですが、LGBTについても残念ながらまだ1.0の状態です。LGBTであることによる特有の働きづらさがあるんですね。だから、それを解消していこうというお話を今日はしていきます。そのためのキーワードの1つとして、「心理的安全性」ということについてもお伝えします。
一方、ダイバーシティ経営ということでLGBT施策を行うメリットは何か。もちろん前提としてCSR的な人権の課題という側面もありますが、大きく3つのメリットがあると言われています。採用面のメリット、生産性の向上、そして離職の防止です。
働きやすい環境をつくることによって、LGBTの人たちの働きがいがさらに向上します。そんな風にして、いろいろな施策を組み合わせることで企業価値が向上するとどうなるか。社員にも、これからその会社に入りたいと考える人たちにも、投資家や取引先にも、そしてお客様にもファンが増えます。いいことだらけなんですね。逆に、やらなければそうしたメリットを手放すことになります。そして、他の企業がそうした施策をどんどん進めるなかで競争力を失ってしまうということにもなります。
また、今日は主に社内・職場におけるダイバーシティの話をしますが、そのほかにも、たとえば消費者向けビジネスでは消費者としてのLGBTをきちんと考慮した商品・サービスをつくる動きもあります。そうしたマーケット対応も含めてLGBT対応と呼ばれます。
1つ事例をご紹介します。たとえば、ある大手金融のグループはLGBTのコミュニティを2010年代に入ってから継続的にサポートしています。そして今は「LGBTファイナンス」というグループ名で、国内企業も外資系企業も含めていくつもの大きな金融機関が、毎年GWに行われるLGBTのパレードでLGBTコミュニティのサポートを大々的に表明しています。このパレードは今年も2日間で10万人を集めたかなり大きなイベントですが、その金融機関のグループはイベント会場にブースを出したりもしています。
なぜ、名だたる金融企業がそうしたメッセージを出し続けているのか、その問いを頭の片隅に持ちながら、今日の話を聞いてみてください。
LGBTの基礎知識
はじめに、LGBTの基礎知識に関して簡単にお話ししたいと思います。LGBTとはレズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)など、性的マイノリティの総称ですが、皆さんの身近にカミングアウトした人はいますか? 家族や友だち、あるいは職場の同僚等でそういう人がいる方は手を挙げてみてください。ご自身が、という方もいらっしゃるかもしれません。…はい、半分ぐらいの方が手を挙げましたね。いつもより多いですが、まだ半分の方は身近にそういう方がいないということですね。
まずLGB、レズビアンとゲイとバイセクシュアルは、世の中では好きになる性別は異性という前提がありますが、それ以外の人たち。そしてトランスジェンダーは、出生時の性別と、育つなかで自分が思う性別が一致していない人たちのことを言います。「性同一性障害」という言葉を聞いたことがある方はいらっしゃいますか? …ほぼ皆さん手が挙がっていますね。これはトランスジェンダーの人たちのなかでも、特に医療サポートを必要とする人たち、つまりホルモン注射や性別適合手術といったことを必要とする人たちに対する診断名です。ですからトランスジェンダーのほうが広い概念と考えてください。
ただ、ここで大事なのはLGBTのどれがどうといった話ではなくて、性には多様性があるという点です。L/G/B/Tという代表的な4つのセクシュアリティ以外にも、たとえば中間的な性別であるXジェンダーですとか…、今日はその一つひとつの説明は省略させていただきますが、本当はいろいろな性のあり方があります。
では、そういう人たちはどれほどいるのか。電通さんによる約7万人を対象にした調査「LGBT調査2015」では、「あなたは異性愛者ですか?」「自分の性別に違和感はありませんか?」といった質問に対し、「異性愛者じゃない」「自分の性別に違和感がある」と答えた人たちは13人に1人、7.6%という数字が出ています。
13人に1人がどれぐらいの数字かというと、「佐藤」「鈴木」「高橋」「田中」という日本の4大名字の合計が5%ぐらい。それより多いんですね。皆さんは4大名字の人たちに、これまでの人生で絶対にたくさん会ってますよね?本当はそれぐらい見えていてもおかしくないんです。でも、見えていない。それは言えてないということです。
じゃあ、なぜ言えないのか。私は今でこそ、こういうことを仕事にしてる、まだ少し珍しい人間です。ただ、私自身は女の子が好きだということに10歳で気がついて、それからずっと悶々と悩んで、誰にも言えませんでした。それで大学を卒業する頃になって、7年間ずっと友人だった女の子にやっと初めてちゃんとカミングアウトできました。いかに抑圧が強いかということです。そこが見えていないこと自体が、課題の本質だと考えてください。
ここで、性別を男女だけで考えるとなかなかLGBTのことを説明しづらいので、性の多様性について考えるうえで便利な考え方として、4つの切り口で考えてみたいと思います。1つは体の性。生まれたときの性別ですね。次が、自分のことをどう思っているか。これは「心の性」「性自認」と言ったりします。そして好きになる性別。「性的指向」と言います。あとは「表現する性別」。この4つで考えると、たとえば私はレズビアンで、女性として女性が好きな人ということです。一方、ゲイの方は男性として男性が好きな人。一方、異性愛は好きになる性別が異性ということで、そこの違いです。
ではトランスジェンダーはどうか。たとえば男性で生まれたけれども自分のことを女性だと考えている人は、同性愛か異性愛かバイセクシュアルかという話とは問題が違うのも明らかになると思います。同性愛と性同一障害は混同されがちなんですね。私自身、10歳のときに女の子が好きだと気がついたとき、「あれ、私は男の子になりたいんだっけ?」「男の子にならなきゃいけないんだっけ?」とか、いろいろ混乱しました。なぜなら異性愛しかないと思っていたから。
で、トランスジェンダーの人が好きになる性別はというと、資料では「?」にしています。トランスジェンダーだから異性愛というわけではないし、それはまた別の話なので。トランスジェンダーのなかには異性愛の人が多いかもしれませんが、同性愛もバイセクシャルの人もいるということです。
また、性表現については、これも資料では「人それぞれ」とざっくり書きました。女性でも男性でも、髪型や服装をどうするか、また、お化粧するかしないかは人それぞれ。トランスジェンダーの人が一人称をどうするかですとか、そういったことまで含めて「ふるまう性別」というのは、本当に人それぞれなんじゃないかなと思います。
また、(スライドでは)青と赤の男女のアイコンを使っていますが、これも便宜的なもの。性自認や性的指向はグラデーションだと考えてください。オーディオのイコライザーのような感じで捉えていただければいいと思います。性別には男女しかないということを前提とした規範、つまり「女らしさ」「男らしさ」の押し付けに苦しむ人も、「性はもともと多様なんだ」と。そういうことを知っていただくことがプラスになるのかなと思います。
LGBTに対する誤解
LGBTについてはいろいろ誤解がありますが、「それって趣味なんでしょ?」「セックスの話なんでしょ?」「ベッドの話なんでしょ?」というのが一番の大きな誤解なのかな、と。セクシュアリティというのは肌の色や目の色と同じようなもので、基本的に生まれつき持っているもの。私も気がついたら好きな女の子がいたんですね。なので選んでなっているわけではないんです。誰にも教わっていないから、本人の意思で選んだり変えたりもできません。そういう元々持っているものなのに、社会では差別や偏見があったりするし、使える制度もなかったりします。それでもどうしてもベッドの話というのなら、それは異性愛だってベッドの話なんですよね。同性愛と異性愛はフラットで、同じ次元の話だと思ってください。
では、社会のなかでどんなことに困っているか。私たちは社会常識に囲まれていますが、アインシュタインは「常識とは18歳までに身に付けた偏見のコレクションである」と言っています。とにかく偏見というものに囲まれている。偏見自体が悪いというわけではなくて、なんの根拠もなく偏った見方をすることが偏見なんですよね。
たとえばLGBTという言葉が日本社会で一般的に使われだしたのはここ数年で、私が子どもの頃は「ホモ」とか「オカマ」とか、そういった言葉がテレビでも日常的に使われていましたし、それで笑われたりからかわれたりもしていました。そういうなかで自分の性のあり方に気がついたとき、受け止めてくれる人がいない。皆さん、子どものときに気がつくことが多いんです。特にトランスジェンダーはすごく早い段階で気がついたりします。小学校にあがる際、「ランドセルの色が嫌だ」「あのお洋服が嫌だ」なんていう風に気づく人も多いんですね。そんなときに、それを受け止めてあげられる人がいない。
親もどうしていいのか分からないし、本人も「おかしいことなんだ。変なことなんだ。自分は異常なんだ」と思ってしまいがちです。そうなると自己肯定感が育ちにくいし、大切なことを人にも話せなくなる。それで学校生活からドロップアウトする。いじめられて不登校になってしまったりします。そういう環境で、きちんと社会人になることが難しい人たちが悲しいことに一定割合います。そういうこともあって、たとえばゲイやバイセクシュアルの男性は、そうでない人に比べて自殺を考える率が数倍高いといったデータもあります。そんな風に、実はいろいろな社会課題の裏にLGBTの問題があるかもしれないということです。
LGBTに対する国内の動き
そういう状況で日本社会の動きを見てみると、2年前、渋谷区と世田谷区が自治体としては初めて「同性カップルは結婚に相当する関係」と公的に認め、「パートナーシップ証明書」などの公的書類を出すという取り組みをはじめました。これ、(渋谷区で)私と私のパートナーが交付第1号です。この書類は当人たちにとっては婚姻届のような重みがあります。
今まで、基本的には社会制度のなかに組み込まれていなかった私たちです。でも透明人間みたいな存在じゃなくて、「ちゃんといるんだよ」というのを前提とした制度があることは、やっぱりすごく嬉しいです。今ではこうした取り組みが2017年9月現在までに6つの自治体に広がりました。そうして2年間ほどで、およそ120組が同性パートナーシップの公的書類を取得しています。
これが2年前にはじまったことで、企業のほうでも「あ、そろそろ本当にやらなきゃいけないな」という流れが生まれてきました。というのも、これを受けて「同性パートナーがいて結婚に相当する関係と自治体に認められているので、福利厚生を認めてください」と言われることは、企業としても自然に想定できますので。また、世の中のさまざまな商品やサービスに関しても「夫婦割や家族向けサービスで私たちも対象にしてください」という動きがあるだろう、と。それで企業側の動きもこの2年ぐらいで急加速してきました。
本当に最近の話ですが、そんな風にして潜在的な社会課題が見えるようになってきました。社会のなかでも自治体のなかでも課題になっていったし、企業としても経営課題になると捉えられるようになってきたわけですね。
さて、ここで世界における同性愛者の権利を地図で見てみると、世界の状況は2極化していると言えます。欧米等、地図上で緑に塗られた国々は同性婚などができるよう法的に保障されています。そうした国がすでに50カ国近くにおよんでいる一方で、赤く塗られたアフリカや中東イスラムの国に関しては同性愛というだけで罪になったりします。13の国と地域では、それだけで死刑になるんですね。
こういうことがあるので、グローバルにビジネスを展開する企業は海外赴任する社員を選ぶ際も注意が必要になります。たとえば同性愛者の人権が守られていない国に同性愛者を派遣しても大丈夫かといったことを考えなければいけなくなるわけですね。
日本はこの地図で黄色に塗られています。同性愛について特に法律で規定されておらず、守られているわけでもないし、犯罪だと言われているわけでもない、と。ただ、G7の国のなかで緑になっていないのは日本だけ。今は自治体の動きが少しずつ広がってきたというところです。すでにお隣の台湾では司法判断で2年以内に同性婚の実現が決まりましたし、アジアのなかでも日本は少しずつ遅れつつあるということになります。
それとロシアの話もしておきたいんですが、ロシアは同地図でオレンジ。ロシアだけ少し特殊で、「同性愛プロパガンダ禁止法」という法律があります。未成年に同性愛の話や情報を伝えると罰せられる厳しい法律です。私が今ここでしているようなお話をロシアですると、捕まってしまう可能性があるわけですね。この背景にはいろいろな誤解や偏見があります。子どもに同性愛の話をすると同性愛者になるとか“伝染る”とか、敎育によって同性愛になるものだという偏見からこの法律ができていて、世界各国からかなり批判されています。
職場におけるLGBTに関する取り組み
では、続いて後半は職場の話に入りたいと思います。今は主に大企業でLGBTに関する取り組みがいろいろはじまっています。中小企業を合わせると日本には400万社近い企業がありますけれども、そのなかで、私のなんとなくの印象では200社ぐらいの大企業がLGBTに関する取り組みを行っていると感じています。それが日経新聞等で報じられたりするので「いろいろと動いているのかな」と、なんとなく思いがちですが、実際にはまだまだこれからという段階にあります。
経団連もいよいよ注目しはじめて、今年5月に「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」というもののなかで、LGBTの取り組みに関する提言とともに会員企業へのアンケート結果を公表しました。それを見ると、まず回答企業数が233社とまだまだ少なく、回答率すら悪いわけです。ただ、それでも「LGBTに関して、何らかの取り組みを実施しているか」という質問には42.1%が「すでに実施」と答えています。そして「検討中」が34.3%とのことで、少なからず進んでいく方向にはあるということですね。
それから、もう1つの大きな動きとして、LGBTにとっての働きやすさを見えるようにする指標も去年策定されました。「PRIDE指標」というもので、ネットでも冊子をダウンロードできます。これに、企業がLGBTの取り組みを進めるようになった背景等も書かれています。また、「PRIDE指標」ではLGBTの取り組みについて複数のチェック項目が設けられていて、それにすべて該当する場合は「ゴールド」企業として表彰される制度になっています。その運用初年度となる昨年度も、名だたる大企業…、外資系もありますが、野村證券や日本航空といった国内大手もかなりの数が受賞しました。(「シルバー」「ブロンズ」を含めて)およそ80の企業や団体が受賞しています。
こうした動きを受けて、LGBTの当事者側も急速に意識が変わりつつあります。これまで、ほとんどのLGBTには職場でカミングアウトして働くという発想すらありませんでした。私も今年で40歳ですが、自分の仕事人生を振り返ってみても最初の頃にそんな発想はまったくありませんでした。仲の良い同僚には知ってもらおうということで少し話をしていましたが、自分のセクシュアリティを完全にオープンにできるとは思っていませんでした。
でも、今はカミングアウトする人が周りでもロールモデルとして少しずつ見えてきています。当事者の間でも「PRIDE指標」のようなものに注目するようになってきました。そういうこともあって、「競合する同業他社に遅れをとらないように」ということで、他の企業でもLGBTの取り組みが次々スタートし、動きが広がっているという状況です。
なぜ、今これほど取り組みが進んでいるのかというと、職場でLGBTが抱える困難が明らかになってきたということがあります。昨年、連合さんが発表した「LGBTに関する職場意識調査」の結果によると、たとえばLGBに限った質問ですが、一緒に働く人が同性愛者・バイセクシュアルだったら35%が「嫌だ」と。3人に1人が抵抗感を持つとの結果が出ています。これは平均した数字で、その内訳としては女性よりも男性、さらには若い人たちよりも年配の男性のほうが抵抗感を持ちやすいという傾向が出ています。一緒に働くだけなのに嫌だと思われてしまうような、そういった空気があること自体、働くうえで大きな困難になっているということですね。
福利厚生制度をはじめとした各種制度を整える会社が増えていることにはのちほど触れますが、制度を整えても、やっぱり理解が広がっていないと。たとえば男性社員の育休と同じように、それを使うカルチャーがなければ制度も意味がないものになってしまいます。ですから理解を広げていくことがすごく重要です。
また、カミングアウトに関して言うと、やはり友人や家族に比べて職場では自分のセクシュアリティを伝えている比率は低いと、博報堂DYホールディングス、LGBT総合研究所「職場や学校など環境に関する意識行動実態」(2016)の結果にも出ています。友人や家族に対するカミングアウトの割合も(前者13.0%、後者10.4%と)まだまだ低い状態ですね。日本のLGBT比率はだいたい13人に1人なので、たとえば300人ほど企業だと20人ぐらいがLGBTである可能性があるわけです。でも職場でのカミングアウトは4.3%なので、実際にカミングアウトしているのは20人のうちの1人ぐらい。つまり300人の職場で1人ぐらいということですね。それだと、「うちの職場にはいないよね」という話になってしまいます。
※[後編]「LGBTの心理的安全性を保つために私たちができることは?」は、23日に公開予定
執筆:山本 兼司