男性育休と企業の競争力~個人を尊重する企業が社員から選ばれる時代に

法改正により、2022年から企業は育休取得対象となる男性社員に対して個別周知が義務づけられることになりました。グロービス経営大学院の卒業生であり、6ヵ月間の育休を経験した中村直敬さんへのインタビューです。育休中の過ごし方を聞いた前編に続き、後編では育休取得が仕事に与える影響と、企業にとってのメリットを聞きました。(聞き手=グロービス経営大学院 齋藤麻理子)(全2回、後編)※前編はこちら

2人で家事・育児をするからこそのメリット

齋藤:育休を取得してどんなメリットがあったと感じますか?

中村:産後から子どもと妻と一緒の時間を過ごすことで、私自身が、育児を仕事と同じように重要なプロジェクトと認識できるようになりました。こうしたこともあり、妻とはお互いの仕事と育児をうまく回すために、チームとしての協力関係ができたと思います。産後は、体力的にも精神的にも大変なので、いわゆる「つらい時期をともに乗り越えたパートナー」になるために、育休は絶好のチャンスでしたね。

また、家事のすき間時間に書籍などで業界に関する学びを深めたり、資格を取得するなど勉強などにも取り組みました。これも二馬力で家事・育児を行っていた副産物だと思います。ミドルにとって、実務からまとまって離れる期間は貴重なので、有意義に過ごせたと思います。

仕事面のメリットとしては、生産性をさらに意識するようになったと思います。思考投入を含めた労働時間に強力な制約が加わるので、労働時間当たりのアウトプットを意識し、自分なりの視点の持ち方を工夫するようになりました。育休中に学んだ生活視点も活きています。

もともと弊社は多様なキャリアを受け入れる職場環境なので、育児中の親の働き方についても、男性・女性の区別なく考慮してくれますし、長時間業務をしたからといって評価が高まることはありません。保育園のお迎えや夕食などもあるので定時に上がりますが、自分のワークスタイルについて、周りとコミュニケーションを取って協力を頂きつつ、しっかり自分の役割を果たすことが求められています。育休明けはさらにその方針に納得しながら働けている実感があります。

齋藤:良い環境ですね。ただ、日本の企業全てでその環境が整えられるのはまだ道のりが長いように思います。

中村:確かに弊社はまだ珍しいケースかもしれません。新卒で入社した企業は製造業でしたが、昭和的な価値観が残っていました。一人で環境を変えていくのはなかなか難しい場合もあると思いますね。

でも、これからは好むと好まざるとに関わらず、男性も育休が取れる環境を整えていかないと、企業の競争力に影響が出てくる可能性もあると思います。女性活躍の文脈でも、優秀な若手の採用・定着面においても必須となるのではないでしょうか。

齋藤:これからの日本にとってはまだ伸びしろのある分野ですよね。

中村:そう思います。また、男性育休を取得するメリットは、個人と組織の双方に大きいと思います。採用、定着の面だけではなく、チーム形成や人材育成の面でも学びがあると思います。

新生児が育っていくプロセスは本当に興味深いですし、子どもと向き合うことで、人間が持つ可能性の大きさや、周囲の人、環境の重要性を改めて実感できます。育児にしっかりコミットする人が多くなれば、ハラスメントなど尊厳を損なうような行動などなくなるのでは、と感じるくらいです。

齋藤:もっともっと育児を担う男性が増えることで、働く女性やこれからの若手の方々の生き方も変わっていきますよね。

パートナーと共にキャリアと家庭を築く

齋藤:中村さんの「価値観」についてもお伺いしたいと思います。お話を聞いていると、家事・育児にしてもキャリアにしても男女関係ないフラットな視点をお持ちだと思うのですが、もともとそういう考えだったのですか?それともきっかけがあったのでしょうか。

中村:母が専門職として働いていた影響は大きいかもしれません。ただ、母も子育てで仕事に15年近くブランクができました。キャリアに影響があったことを子どもの立場から見てもおかしいな、なぜ女性だけの問題にしているんだろう、と疑問に思っていました。

また、大学では経済学を専攻し、M字カーブ(※女性の年齢別の労働力率を示す指標)の存在を知りました。自分がつくる家庭ではこの凹みを起こしたくないと思いましたね。

義務教育の影響もあるかもしれないですね。我々の世代(30歳半ば)は家庭科の授業が男女ともに必須となり、子ども心に「料理をできるようになれば母親が助かるのか」と考えた記憶もあります。少し上の世代は男性が家庭科の授業を受けていないので、話が噛み合わないこともあるかもしれません。

役割分担や働き方などは、夫婦お互いが納得して充実した生活を送れているのであればいいですが、女性が不本意ながら受け入れているケースが多いのではないか、と肌感覚では思います。たとえば、結婚時に姓を変えるのはほとんど女性ですよね。家事も育児もどちらかが押し付けられるのではなく、両方で担って共に家庭とキャリアを築きたいと思っていますし、まずは自分で実践していきたいと考えています。

齋藤:確かにジェンダーギャップ指数が諸外国より低い日本での社会課題は様々ですよね。中村さんと私はグロービス経営大学院の同期でもあります。中村さんにとって育休取得は、グロービスで学んだ影響などありますか?

中村:育休への影響があるとすれば、多様性のあるコミュニティでの多くの人たちとの出会いやディスカッションをしたことです。また、お子さんがいながらも楽しそうに働き、キャリアを積まれている素敵な女性の存在も大きかった気がします。枠にとらわれず自分のやりたいことを実現できているロールモデルとしては、男性よりも女性の方が、私には魅力的に映ります。

3~6ヵ月かけて父親にトランジションする

齋藤:男性の育休取得に関して、これから取る人にアドバイスなどはありますか。

中村:個人的には3ヵ月以上の取得をお勧めします。男性の場合、育児よりも仕事を優先的なタスクだと認識して育休を取得したとしても育児の負担をパートナーに押し付けることになりがちです。育児・仕事いずれも同レベルで重要だと理解し、父親としてのトランジションを始めるためには、最低でも3ヵ月から半年程度かかるのではないでしょうか。

育休取得は手段、さらに言えばチャンスなので、ありたい家庭やキャリアを築くためにうまく使ってほしいです。ただ前提として、家事・育児のスキルが低いと、パートナーからすれば戦力外、頼むから早く復職して、という話になってしまいます(笑)。書籍や動画でイメージしたり、普段から家事を全て自分1人でこなしてスキルを高めるなどして、しっかりとあらかじめ準備することが大切です。また、育休に向けたToDoや、育休中のタスク分担なども、あらかじめパートナーとイメージを合わせておくと良いでしょう。

部下や同僚が育休を取得するとしたら、しっかりとサポートしたいと思いますし、引継ぎや業務の属人化をしない・させない対策なども重要だと思います。

齋藤:本日はお話ありがとうございました。

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