介護制度があっても機能しないのはなぜ?先進企業の実例に学ぶ 

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「ヒューマンキャピタル 2017」で開催された、日本CHO協会提供のオープンフォーラムの内容をお届けします。社員が仕事と介護を両立できるよう、企業としてはどういった取り組みをする必要があるのでしょうか?(全2回)

介護不安を抱える従業員に企業はどう向き合うのか[1]

林恭子氏(以下、敬称略): 皆様こんにちは。グロービス経営大学院の林でございます。さて、2015年だったと思いますが、安倍政権でいきなり「一億総活躍担当大臣」という聞いたこともない大臣のポストが誕生しました。そこから「働き方改革」ということが盛んにアピールされるようになり、新聞等のニュースでも見ない日がないほどになりました。その背後には皆さんご存知の通り、加速化する少子高齢化があるわけですね。

働く人の人口は、これからは増えません。逆に減っていく一方です。そして、そのなかでもボリュームゾーンである40代、それから50代の方たちが、これからは介護世代の真っ只中に入っていきます。ですから、そこで何もしないと我々は企業で中核として働いておられる重要な方々を失ってしまうという、大変シリアスな問題に面しています。

ということで、会場の皆様も大変高い意識を持って本セッションにお集まりいただいたのではないかと思います。私もグロービスの人事トップとしてこのお話には非常に大きな関心があり、ぜひ御三方にさまざまなお話を伺いたいと思っていました。

その前に1点、実は今回、私たちはたくさんの企業様にご協力をいただき、「仕事と介護の両立」に関するアンケートを取らせていただきました。議論の前にそのアンケート結果を概観したいと思います。

介護支援制度はある、しかし介護離職が起きているという現実

林: まず、「現在、仕事と介護を両立している社員が社内にいますか?」という問いに対して、「いる」とお答えになった企業様はトータルで63%。「よく分からない」という企業様は33%でした。ただ、「よく分からない」という場合、これからお調べになれば、ほぼ必ず「仕事と介護を両立している」という方が出てきます。「隠れ介護」のような方が必ずいらっしゃると思います。ですから、そうしたケースを含めると、もうほとんどの企業さんに仕事と介護を両立している方が在籍しているということだと思います。

続いて「介護を理由とした退職が発生しているか」という質問への回答を見てみると、「発生している」と、明確にお答えになった企業様は全部で63%。これが今後さらに増えていくということなんですね。今分かっているだけでも63%の企業様で介護離職が発生しているわけで、極めてシリアスな状況だと思います。

また、「従業員の仕事と介護の両立に関する実態を調査したことがあるか」との質問に対しては「実施したことがない」と「よく分からない」が合計で52%。過半数になります。この点については弊社もこれから調べるところですし、実はまだまだ、本当のところは企業のなかでも把握できていないというのが現状だと思います。

いずれにせよ、52%はずいぶん大きな数字という気もします。しかし、実は同様のアンケートを1年半ほど前にも実施していて、今回47%となった「実施したことがない」という回答は、1年半前は65%でした。ですから、この1年半のあいだだけでも「把握しよう」という取り組みをはじめた企業さんが増えているということです。

続いて、「直近2年で仕事と介護の両立に関する諸制度の導入や変更等を行ったか」という質問に対しては、「しました」とお答えになった企業様が70%。これに関しては、今年1月に育児・介護休業法の改正があり、それで介護支援の制度を変えなければいけないということがあったわけですね。恐らく、その取り組みを行っていたということで、ほとんどの企業様が「Yes」とお答えになったのだと思います。今はそうした法改正に伴う制度の改革を進めつつ、介護問題に対する認識も新たになってきている段階ではないでしょうか。

そして最後の質問は「仕事と介護の両立支援につなげるため、現時点でどのような施策を実施していますか?」。ここで回答が多かったのは今回の法改正に伴う施策です。たとえば介護休暇を半日単位で取れるようにするとか、通算で93日、それまでは1回しか取得できなかった介護休業を3分割して取ることができるようにするとか、そういう風に制度を変えた企業が多いということですね。

つまり現時点では「支援制度がない」「支援制度に関して何も手を付けていない」という企業様はもうほとんどない状態なのだと思います。むしろ今は、そのようにして設けた諸制度をどのように運用して、介護で苦しんでいる方を真にサポートできるのか、あるいは介護離職を食い止めることができるのかといった段階に来ているのだと思います。なので、今日はそうした点に関して、先進企業2社様、そして実際の介護現場に携わられてきた専門家の方に、さらに詳しく聞いていきたいと思います。

介護についてオープンでいられる組織風土をどうやって醸成していくか

林: まず伺いたいのは、弊社を含め「これから社内で実態調査を行いたい」という企業は多いものの、一体どこまで踏み込んで聞いていいものなのかという点です。育児や出産に比べて介護の話はプライベートな側面が強く、「聞かれた社員の方々も本当のところを話してくれないんじゃないか?」といった心配も、正直な心理としてはあります。

そうした、なんというか…、気遅れするような心理というもの自体が介護問題の顕在化を阻んでいるような気もします。ですから、そうした心理を打開するためにも企業の組織風土をさらに開かれたものにして、介護についても明るく口にできるような文化を醸成していくことが重要ではないかと思っていました。

介護に関して先進的な取り組みをしていらっしゃる全日空さんと花王さんは、そうした点で具体的にはどういったお取り組みをなさっているのでしょう。また、どれぐらい取り組んでいくことで文化は醸成されていくものなのでしょうか。併せて、多くの企業を見ていらっしゃる継枝さんにもこの課題についてアドバイスをいただきたいと思います。

宇佐美香苗氏(以下、敬称略): 前段で座間さんから「花王ウェイ」というお話がありました。当社にも「ANA’s Way」というグループ行動指針があります。これは「あんしん、あったか、あかるく元気」という考え方をベースに「安全、お客様視点、社会への責任、チームスピリット、努力と挑戦」という5つの持つべき心構えや、取るべき行動を表したものです。当社ではその「ANA’s Way」について、全グループ社員が1日かけて学ぶという機会を4年前から設けています。今年度中に3万9000名のグループ社員全員がこの研修を受講する計画です。
 
そのなかの「チームスピリット」というのが、まさに「本音で話そう。オープンに議論しよう。」という内容で、お互いを高め合うことを目指しています。業務のなかでそれができるようになれば、プライベートなことも話しやすくなるのではないかなと感じています。

そのうえで2015年に「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)宣言」を行いました。こちらのほうは「違いを活かそう。個性を強みに」という価値を経営戦略にも掲げ推進しています。そうした考え方を通して「皆と同じじゃなくてもいいんだ。自分は介護しているということを言ってもいいんだ」という雰囲気になり、話しやすい風土になっていくのではないかなと感じています。ただ、発信する側だけでなくきちんと受け入れる側がいなければD&Iではありませんから、双方が関わり合って風土を変えていこうという意識が必要だと思います。

座間美都子氏(以下、敬称略): 私どもも同じように、企業理念のなかで個の尊重ということで「自由闊達にやっていこう」ということを謳っています。ただ、「そもそも会社というのは、ある程度は働く前提を整えたうえで来るところ」というような考え方をする社員が多く、プライベートを仕事に持ち込むことについて、どうしても遠慮してしまうところが社内にはあるかもしれません。
 
ですから介護に関して言えば、最近は手を変え品を変えながら、とにかくいろいろなことをしているという状況です。また、やはり人事からの働きかけだけだと、「会社にとって都合の良いことを言ってるんじゃないか?」という風に思われるところもあるかなと思いまして、社内セミナーなどは専門家に関与していただいています。それからニュースレター等でも情報を出しながら、いろいろな形で制度を紹介していく一方、マネージャー研修なども行っています。そんな風にして、さまざまなことを毎年繰り返している状態ですね。
 
あと、弊社では「仕事と家庭の両立支援ガイドブック」というものをつくっていますが、その分冊という形で、介護に特化した「介護ハンドブック」もつくりました。社外で何か相談をする際も持参・参照できるようなハンドブックを用意したという点は、会社の姿勢として社員に分かってもらえた部分ではないかなと思っています。
 
そのうえで、どのぐらいやれば文化が醸成されていくか。難しい質問ですが、手応えという意味では、実際困っていた社員に「あ、こういう部分でも会社はサポートしてくれるんだ」という風に思ってもらえたところが大きかったのかな、と。ただ、「本当に会社が本気なのかどうか」という部分は社員も見ていたと思いますし、そのあたり、徐々に徐々に進めてきたことが少しずつ浸透してきたというのが実際のところだと思います。

継枝綾子氏(以下、敬称略): 御二方がお話ししてくださった通りで、たとえなかなか結果や成果が出なかったとしても諦めず、手を変え品を変え、仕事と介護の両立支援を継続している企業さんが結果として上手に対応していると思います。

介護に関しては、たとえば育児からの復職率や女性管理職比率といった数字で表しやすい指標がなかなかないのですが、そこで諦めないこと。たとえば人事部に相談する回数が増えてきたとか、そうした部分で結果を見ていただければと思います。

林: 何か1つの施策を進めたらがらっと変わるものではなく、しつこく地道にやり続けるしかない、と。そのうえで従業員の方々の動きに何か変化があれば、それも継続的にお伝えしていったりするというところでしょうか。また、企業の本気度をきちんと示していくことが大事というお話もありました。その意味では、ダイバーシティ推進等と同様、トップ層からも継続的にメッセージを発信していただくことが大事なのかもしれません。

※後半は8/3(木)掲載予定

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