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冷戦時代の復活か?ロシアの経済成長が変える欧州のパワーバランス

投稿日:2008/08/20更新日:2019/04/09

前回のこのコラムは、プーチン首相がロシアの国内企業に圧力をかけているという話を書いた。大統領から首相になっても、プーチンの牙は健在であることが実証されたということである。そして今度は外交で北方の熊が牙を剥いている。

平和の祭典であるオリンピックが北京で開かれようとしている8月7日午後から8日未明にかけ、グルジアの南オセチア自治州において武力衝突が発生した。南オセチア自治州は、グルジアからの分離独立を要求し、平和維持軍としてロシア軍が駐留していた。分離独立派との衝突を繰り返していたグルジア軍が南オセチアに進攻したのである。ロシア軍にも死傷者が出たため、ロシア軍は報復行動に出て、グルジア軍とロシア軍が衝突するという事態になった。

この大規模な武力衝突の引き金を引いたのは誰かについてはまだ明らかではない。ワシントンポストによれば、グルジア側はロシア軍が南オセチアに進軍してきたことを受けてグルジア軍が出動したと主張し、またロシア側は、グルジア軍が州都ツヒンバリを攻撃してきたために南オセチアに進出したと主張している。

親ロシアである南オセチアをロシアは支援している。それはグルジアが親欧米の姿勢を取っていることと密接に関係している。1990年代は、ロシアにとってある意味で「失われた10年」だったと言えるかもしれない。1991年にソ連が崩壊した後、ロシアは経済的にも政治的にも混乱に陥った。1998年には通貨危機も経験している。その過程で、ソ連の「衛星国」と呼ばれた東欧諸国では次々に民主的政権が成立し、欧米との関係を深めていった。

経済的関係だけではない。ロシアにとって耐え難いのは、これらの旧ソ連圏の国が、次々にNATO(北大西洋条約)に取り込まれていったことだろう。さらに、ソ連の一部だった国でも親西欧政権が成立し、NATOはこれらの国にも加盟するよう働きかけている。これはロシアにとっては、安全保障上の脅威に映るはずだ。

米ソ冷戦時代は終わった。それはソ連が崩壊してアメリカの一極支配という形に変化したのだが、最近のロシアの経済力の強さが、再びロシアの「大国の野望」に火をつけている。1998年のどん底からロシア経済を押し上げたのは原油や天然ガスといった資源相場の高騰である。これによってロシアはプーチン大統領の時代に大幅に収支を改善し、事実上の無借金国となっている。

それだけではない。資源を中心に、ロシアは資本主義経済から「国家資本主義」とでも呼ぶべき危険な方向へと踏み出しているようだ。国営ガス会社ガスプロムや国営石油会社ロスノフチを支配するのは、プーチンの側近たちである。

ロシアとグルジアの軍事衝突はとりあえずEU(欧州連合)議長国であるフランスの取りなしで収まったが、ロシア軍が南オセチアの「実効支配」を強めていることは間違いない。そして南オセチアだけでなく、グルジアの西側でやはり分離独立を求めているアブハジア自治共和国でも、今後軍事衝突が起きる可能性がある。

欧米とくにヨーロッパの諸国にとっては、グルジアの状況が悪化することは、エネルギー(天然ガスや石油)安全保障に直結する大問題だ。グルジアにはカスピ海の油田から国会やトルコに抜けるパイプラインが通っているからである。ロシア軍もパイプラインを破壊しないよう「注意深く」爆撃したとされているが、グルジアに対するロシアの介入が強まれば、ヨーロッパはエネルギーでロシアに窒息させられるかもしれない。

こうした状況をどう打開すべきか。エコノミスト誌によれば、アメリカはすでにロシアとの共同軍事演習をキャンセルしたという。そして同誌は、アメリカや欧州諸国は、ロシアをOECD(経済協力開発機構)やWTO(世界貿易機関)などに加盟させるべきではないと主張している。

武力衝突が当面収まるとしても、グルジアやウクライナをめぐる欧米とロシアの対立はそう簡単に解けることはあるまい。プーチン首相の次の一手が注目される。

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  • 藤田 正美

    「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」

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