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会議で集団浅慮になっていませんか?

投稿日:2017/04/15更新日:2019/04/09

『グロービスMBAクリティカル・シンキング コミュニケーション編』から「グループで意思決定するがゆえの浅慮を回避する」を紹介します。

よく、「3人寄れば文殊の知恵」と言われます。集合知により、自分一人では思いつかなかったような結論にたどり着き、そのダイナミズムに興奮した経験がある方も多いでしょう。一方で、集団で議論したがゆえに愚策にのめりこむことも少なくありません。その典型は第二次世界大戦前の日本国家です。冷静に考えればアメリカとの戦争は無謀以外の何物でもありませんでしたが、典型的な集団浅慮、リスキーシフトにより、開戦してしまったのです。こうした危険を防ぐために、通常のビジネスシーンであれば、会議で出された結果を一晩置いてもう一度検討するステップを踏むだけでも、結果は大きく異なるでしょう。集団で決めたということで安心するのではなく、集団で決めたがゆえにそこに落とし穴が潜んでいなかったかを冷静に見極めることも、クリティカル・シンキングの重要な応用なのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇ ◇ ◇

グループで意思決定するがゆえの浅慮を回避する

社会心理学の数多くの研究などから、グループによる意思決定、議論の際にしばしば見受けられる特徴として、次のようなことが知られている。

(1) グループシンク(集団浅慮)
(2) 社会的手抜き
(3) 沈黙の螺旋
(4) 一度意思表示してしまった場合の一貫性担保意欲

これらを理解しておくことも、生産的な会議を行うために必須である。

(1) グループシンク
集団の圧力により、その集団で考えていることが適切かどうかの判断能力が損なわれる状況である。たとえば、グループでの意思決定では極端な方向に触れやすい、という現象(リスキーシフトと呼ばれる)が発生する。

グループシンクは、集団凝集性(集団の構成員を集団にとどまらせようとするすべての力の総体)が高く、クローズドなリーダーシップの条件下で最も発生しやすい。ほかにも、高凝集性集団では意見の多様性が見られない傾向なども報告されている。

グループシンクという概念を世の中に発表したアーヴィング・ジャニスは、組織凝集性の高い集団では次のような8つの傾向が強くなり、結果としてグループシンクを招くとしている。ほかにもさまざまな理由があるかもしれないが、読者にも思い当たる節があるのではないだろうか。

●我々の集団は破綻することなどないといった幻想を持つようになる
●自分たちに不利と思われるような情報を割り引いて受け取ったり、適当に歪めてしまって、不利ではないように知らず知らずのうちに加工してしまう
●自分たちが下そうとしている集団決定が含んでいる、非倫理性や反道徳性などには目をつぶってしまう
●他の集団を客観的に見るのではなく、紋切り型の見方をしてしまう
●仲間の間で逸脱した意見を持っているメンバーに対して異議を唱えることは、忠実なメンバーに期待されていることに反することとして、これを変化させようとする圧力が発生する
●自分の疑念の重要性などを自分で最小化してしまい、見かけ上の集団的コンセンサスからの逸脱を個人が自発的に避けようとする傾向が生じる
●多数意見への同調などにより得られた見かけ上の満場一致によって、メンバー全員の間に自分たちは正しいのだという見せかけの自信が生まれる
●自分たちの決定の有効性や道徳性についての満足感を打ち壊すような批判や情報から、自分たちの集団を何とか守りたいという忠誠心が生まれる

では、このようなグループで思考を重ねるときに生じる弊害を、どのようにコントロールすることが可能なのか。ジャニスは次のような防止策を提案している。

●集団のリーダーは、各メンバーが批判者としての役割を果たすように鼓舞する
●集団の中心的人物は、最初から自分の好みや期待を述べることを控えて公平な姿勢をとり、数多くの選択肢の探索を行うように部下を鼓舞する
●集団の外部に別のリーダーを持つ立案・評価グループを設置する
●集団が最終結論に達する前に、各メンバーが同僚とその集団の原案について討議し、それを集団にフィードバックする期間を設ける
●外部から専門家を招いて、手段の中核的メンバーの見解に挑戦させてみる
●集団がとるべき選択肢を評価するとき、多数意見に挑戦するDevil’s advocate役を設けて活躍させてみる
●敵対する集団が存在する時には、その集団からのすべての警告信号を調査するための十分な時間を設け、その敵対集団の持つ意図に関するさまざまなシナリオを書いておく
●集団を2~3個の下位集団に分けて異なる司会者の下に別々の会合を持ち、下位集団の意見を持ち寄って検討を重ねる
●最善の策と思われるものについての予備的合意に達した後、集団は第二の合意を得るための会合を開き、各メンバーにいまだ残している疑念をできるだけ率直に表明するように鼓舞する

(2) 社会的手抜き
参加人数が増えれば増えるほど、個々人の責任感が薄れて、手抜きをしてしまう現象が発生することが知られている。これは当人たちの自覚はなくとも、ほぼ普遍的に見られる。社会的手抜きの発生理由として、以下のことが挙げられる。

●課題遂行に対する圧力が分散され、メンバーが自己に求められる努力量を小さく認知する
●集団に対して何らかの要請がなされると、メンバーの関与の度合いが弱まる。1人だけに言われる場合のほうが、集団で言われる場合よりも、生理的な興奮や覚醒の度合いがより強まる
●個人の努力がどれほど集団の成果に結び付いているか識別しづらくなり、努力しても正当な評価を受けにくく、怠けても責任を回避できると認知する
●自分は最小の努力しか払わずに集団の成果の恩恵にあずかろうとする、フリーライダー効果が発生する
●グループで作業を行う場合は、インタラクションなど、1人で作業を行う場合とは異なる要素が絡んでくるため、集中力を維持するのが困難になる。それが、作業に対する努力や集中力を弱める原因となる

これらを回避するためには、次のような打ち手が有効である。

●メンバー各自の成績・努力を簡単に確認できるようにする(例:発言回数をカウントする、議事録を公開するなど)
●メンバー各人に自分の貢献度を評価する機会を与える(または基準を与える)
●課題を魅力のあるものにし、精神的覚醒が強まるように仕組む
●集団凝集性を強める

(3) 沈黙の螺旋
人は孤立を恐れる傾向がある。そのため、議論の流れが自分の意見と違う方向に流れると、あえて反論を出して孤立するより、沈黙という行動をとりがちだ。周りの人間との関係を重視する人ほどその傾向が強い。その結果、当初優勢だった意見が、実際の意見の分布以上に加速度的に増幅されて、その会議における合意になってしまうことがある。これが、世論形成に関してノエル・ノイマンが提唱した「沈黙の螺旋」仮説である。ここでのポイントは、実際の意見の分布はそれほど変わらないにもかかわらず、最終的な結論が大きくぶれてしまうということだ。

これを避けるには、たとえばファシリテーターが参加者に万遍なく発言を求めるなど、沈黙の同調圧力を軽減することが有効だ。

(4) 一度意思表示してしまった場合の一貫性担保意欲
人前で一度コミットしてしまったことを正当化したがる、言い換えれば、一貫性を保っていると他人に見られたがる傾向は、人間が持つ1つの特性である。これにより一度下した意思決定に引きずられ、それにこだわる人が現れ、その意見にみんなが引きずられるということがある。

一貫性を担保する、または担保したがるということ自体は、ビジネスを行っていくうえで絶対的に悪いことではない。しかし、環境変化に伴って方向性を変えなければならない場合には、まずは前提条件が変化していることを参加者全員で共有し、特定個人の一貫性が崩れているのではないことを明示するなどの工夫が必要だ。
 

『グロービスMBAクリティカル・シンキング コミュニケーション編』
グロービス経営大学院  (著)
2800円(税込3024円)

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